小西 真絢|Konishi Maya
日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医/巣鴨千石皮ふ科 院長
東京都文京区(千石・巣鴨エリア)で生まれ育った。2017年、地元に「巣鴨千石皮ふ科」を開院。アトピー性皮膚炎・蕁麻疹・多汗症などの皮膚疾患に幅広く対応している。アトピー性皮膚炎に対しては生物学的製剤・JAK阻害薬などの新しい治療薬を積極的に使用している。アトピー性皮膚炎ほか、皮膚科領域の疾患の治験に多数参加。オンライン診療にも力を入れ、全国各地の患者さんに対応している。

2018年、アトピー性皮膚炎の治療環境が大きく変わりました。それまで主流だったステロイドの塗り薬と作用の仕組みがまったく異なる薬が登場したのです。
それ以降も新しいタイプの治療薬が続々登場し、長年、十分な改善を得られなかった患者にも、大きな効果が期待できるようになりました。しかし、その変化はまだ多くの患者に届いていません。
東京・豊島区の「巣鴨千石皮ふ科」院長の小西真絢医師は、そのことを切実な問題として受け止めています。新薬をいち早くクリニックに取り入れ、全国の患者に届け続ける小西医師の素顔に迫りました。
本記事のポイント
- ステロイド以外の新しいアトピー性皮膚炎治療(生物学的製剤・JAK阻害薬)の仕組み
- 導入ハードルの高い新薬をあえて「保険診療」で提供する理由
- 全国の重症患者を救うオンライン診療の活用法
母の「つらそうな姿」が、医師への道を開いた

小西院長が医師を目指したきっかけは、家庭の日常にありました。
「母が専業主婦でずっと家にいたんですが、手がひどく荒れていて。胃も痛かったりして、なんかつらそうだなと。できることはないかなと思ったのが始まりです」
医学部で何科を専攻するかを考えた時、自身の肌のかゆみや母の手荒れの記憶が浮かんだといいます。「消去法の部分もありました(笑)」と謙遜しますが、その根っこには「身近な人の皮膚の悩みをなんとかしたい」という気持ちが確かにありました。
生まれ育った街に、クリニックを

2017年、小西院長は東京のJR山手線「巣鴨駅」から歩いて3分の場所に「巣鴨千石皮ふ科」を開院しました。
「いつか開業できたら」という思いはありましたが、背中を押したのは、MBA(Master of Business Administration:経営学修士)を取得した夫からの「一緒にやらないか」という言葉でした。
開業地に迷いはありませんでした。
「自分が生まれ育った場所なので、地域に少しでも貢献できればという思いがありました。祖父が町内会の会長をやっていたり、101歳まで生きた祖母も地域の活動にとても熱心だったので、自分もそういう形で地域に関わりたくて」
開業当初は初期投資を極力抑え、医師としての丁寧さを武器に一から地域の患者と向き合うことを選びました。患者の傾向を分析していくと、当初予想していた高齢者ではなく、子ども連れのファミリー世代が中心だとわかりました。その声を丁寧に汲み取りながら、クリニックを育ててきました。
現在は、アトピー性皮膚炎をはじめ、蕁麻疹・多汗症・湿疹・ニキビなど幅広い皮膚疾患を診ています。「皮膚科は守備範囲がとても広い診療科です。地域のかかりつけ皮膚科として、日常的な皮膚のトラブルから治療が難しいとされてきた慢性疾患まで、幅広く対応していきたいという思いがあります」と話します。
2019年、転換点が訪れた:「こんなに求められるものはなかった」

開業から2年後の2019年、小西院長のクリニックに大きな転換点が訪れました。
前年2018年に、アトピー性皮膚炎に対して日本で初めて承認された「生物学的製剤(※1)」を、クリニックでも使い始めたのです。
症状を根本からブロックする新薬のアプローチ
生物学的製剤とは、生物がつくるタンパク質を応用して作られた薬です。病気の原因となる物質を狙い撃ちするため、従来の薬で改善が難しかった症状にも効果が期待できます。
アトピー性皮膚炎の場合、「サイトカイン」と呼ばれるタンパク質が過剰に産生されることで、「炎症」「かゆみ」「皮膚のバリア機能異常」が生じ、これら3つの要素が互いに影響しあって症状を悪化させていることがわかっています。生物学的製剤は、このサイトカインの働きを直接ブロックすることで、根本から改善を促します。「炎症を鎮める」従来のステロイド外用薬とは根本的に異なるアプローチです。
2020年以降は、細胞内の酵素(JAK)の働きを阻害して炎症を抑える「JAK阻害薬(※2)」も使えるようになり、内服薬・外用薬を含む治療の選択肢がさらに広がっています。

当時、発売されたばかりの新薬(生物学的製剤)をアトピー性皮膚炎に対して扱うクリニックは東京でもほとんどありませんでした。そのため患者の間で口コミが広まり、問い合わせが殺到。今とは違いスタッフがまだ2人しかいない中、電話がパンクし、留守電やホームページの問い合わせフォームで対応するしかない状況になりました。スタッフからは「もうやめましょう」という声も上がりましたが、小西院長はやめませんでした。
「アトピー性皮膚炎はそれまで、ステロイドを塗るしかない、嫌でも塗るしかない、という状況が長く続いていました。暗い顔で来院される患者さんも少なくなかったのです。ところが、新薬の登場以降、治療を重ねるにつれて、患者さんが明るい表情になっていく。こんなに求められるものはなかなかないと感じました。患者さんに喜んでいただけるなら、という思いがあったんです」
保険診療で患者さんを治したい:新薬を選んだ理由

生物学的製剤やJAK阻害薬は、クリニックが導入するには相応のハードルがあります。生物学的製剤は注射薬であり、冷蔵で保管しなければなりません。
薬の値段も高い。保管や在庫の管理は複雑で、また患者への自己注射の指導も必要になります。
こうした手間を敬遠して、扱わないクリニックは少なくありません。
それでも踏み出せたのは、一貫した信念があったからです。
「開業当初から、保険診療でしっかり患者さんを良くしてあげたいというのがベースにあります。美容よりは、皮膚の病気の治療に力を入れたいんです。アトピー性皮膚炎に関しては、保険が使えて、従来の薬では難しかった「病気の原因物質」にアプローチできる薬が出てきた。大変でもやろう、と」
スタッフと一丸で築き上げた「丁寧な説明フロー」
在庫管理は、一定量を常時確保して補充し続ける方式を編み出しました。看護師や事務スタッフと相談しながら、患者への説明フローも徹底的に見直しました。生物学的製剤を導入するにあたっての必要事項を全て書き出し、誰がどの部分を担当するかを色分けして整理。1つの説明に何分かかるかを、ストップウォッチで測定したこともありました。試行錯誤の末、医師が「診断と提案」に集中できるようスタッフとの役割を細かく分担しました。
「体制を築いてから生物学的製剤の導入を開始したわけではない。徐々に患者さんが増えるに従い見えてきた課題を、ひとつひとつ解決していったんです。結果、患者さんにとって満足度の高い診察を実現できるフローが出来上がったと思っています」
症状の「見える化」で、治療を続けるモチベーションを
症状をスコア化して毎回記録・可視化し、改善の経過を患者と共有する仕組みも整えました。「あまり良くなっていない気がする」と言っていた患者が、スコアを確認すると着実に改善していた、というケースも少なくありません。
「よくなったかどうかを目に見える形で示すと、患者さんのモチベーションも上がる。アトピー性皮膚炎の治療は続けることがとても大事なので、それができる工夫を積み重ねています」
アトピー性皮膚炎をはじめ、皮膚科領域の病気に関連する臨床試験(治験)にも積極的に参加しています。「治験では通常の診療では得にくい実践的な知識が身につく。自分が経験したことは患者さんへの説明に自信と説得力を与えてくれる」と話します。
子どもの今を治すことが、未来を守る:アレルギーマーチを防ぐために

近年、生物学的製剤などを含むアトピー性皮膚炎の新薬が子どもにも使えるようになってきました。小西院長は子どものアトピー性皮膚炎の治療にも力を入れています。
その背景に重要な概念があります。「アレルギーマーチ」です。乳幼児期のアトピー性皮膚炎が引き金となって、食物アレルギー・喘息・アレルギー性鼻炎などが次々と連鎖して発症していく現象を指します。乳幼児期にアトピー性皮膚炎の治療に取り組むことで、アレルギーの連鎖を起こしにくくなる可能性があるとされています(※3)。
「アレルギーマーチについては積極的にお伝えしています。軽い症状でも「一応来ました」という方もいれば、知らずにひどくなってから来る方もいる。赤ちゃんのうちから治療に取り組むことが、お子さんの将来を守ることにもつながります」
生物学的製剤は、注射薬です。子どもへの治療では、注射を嫌がるハードルをどう乗り越えるかが課題となります。小西院長は患者とのやりとりの中で、その乗り越え方を学んできました。「プールで嫌な思いをしたのを見返したい」「好きな洋服が着たい」── 子ども自身が具体的な目標を持てると、注射の怖さよりも「治りたい」という気持ちが勝るといいます。
「なぜ嫌なのかを聞いて、その子に合った続けられる方法を一緒に探していきます。無理に押し付けず、その子自身が動機を持てるようにすることが大事なんです」
多くの自治体では高校生まで医療費の助成が受けられるため、費用面での不安が少なく治療を続けやすい環境があります。費用的なハードルが低い分、新薬を試しやすい状況にある子どもこそ、早期治療に踏み出す意義は大きいです。
全国の患者に届けるために:オンライン診療という選択肢
2019年の生物学的製剤の導入を機に、小西院長はオンライン診療も開始しました。2020年のコロナ禍で初診からのオンライン診療が解禁されると、問い合わせは一気に全国へと広がりました。現在、月の診療のうち約4割がオンラインで行われています。
地方在住で「近くで新薬を扱う医師がいない」「新しい薬を使いたいと主治医に言いにくい」という患者からの問い合わせも多いです。オンラインで小西院長の診察を受けたのをきっかけに、3か月に1回、飛行機に乗って来院を続けている患者もいます。
「重症のアトピー性皮膚炎に悩む患者さんは全国各地にいます。また、仕事や家事、育児が忙しくてクリニックへ足を運ぶ時間を作れないという患者さんもいます。オンライン診療はそういった方の大きな助けになっていると考えています」
「治療を途切れさせない」ための環境づくり

慢性疾患であるアトピー性皮膚炎では、治療を続けることが成果に直結します。「忙しいという理由だけで治療が途切れてしまうのは、患者さんにとってもったいない」と小西院長は言います。通院の時間的負担を減らすことで継続しやすくなるメリットは大きいです。
オンライン診療のシステムは夫(医療法人理事)が自作し、患者の予約から処方の流れを効率化しています。患者の負担を減らすため、システム利用料も設けていません。
「オンラインはあくまで一つのツールです。ただ、続けられる環境を整えておくことが、患者さんの治療の質を守ることにつながると思っています」
「本当の『普通』を、知ってほしい」: 患者へのメッセージ

アトピー性皮膚炎は症状をコントロールしながら付き合っていく病気であり、現時点では「かゆみや症状をできるだけ出にくい状態に保つ」ことが治療のゴールとなります。小西院長は、適切な治療によって生活が変わっていく患者の姿を日々の診療の中で実感しているといいます。
小西院長がとくに心にかけているのが、長年アトピー性皮膚炎と付き合ってきた患者が「かゆいのが普通」と思い込んでいることです。
「小さい頃からずっと症状があると、それが普通になってしまって、本当の普通を知らない方がいるんです。我慢できてしまっているだけで、実はとても辛い状態かもしれない。アトピー性皮膚炎は治らない病気と思っている患者さんが、まだたくさんいらっしゃいます。アトピー性皮膚炎の治療は大きく変わったということを、知っていただきたいと思っています」
かゆくない生活があるということを、体感してほしい──。小西院長が発信を続ける理由は、そのシンプルな思いにあります。
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クリニック情報

巣鴨千石皮ふ科
医師紹介
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小西 真絢
巣鴨千石皮ふ科の院長は、「日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医」の資格を有する、皮膚疾患治療の専門家です。専門医としての深い医学的知見とこれまでの診療経験を活かし、赤ちゃんからご高齢の方まで、あらゆるライフステージの患者さまに対して客観的根拠(エビデンス)に基づいた適切な医療を提供しています。