目次
はじめに
男性にも更年期障害があることをご存知でしょうか?
だれしもが40歳を超えた辺りから疲れが残りやすくなったり、集中力や意欲が湧かなくなったり、ぐっすり眠れなくなったりといった不調が出てくるかと思いますが、その中には、男性ホルモンの低下が関係する男性更年期障害が隠れているかもしれません。
仕事やプライベートに影響を与えるばかりか、脳卒中や心筋梗塞といった重大病のリスクを高めることも明らかになっている男性更年期障害について、専門医が詳しく解説します。
男性にも更年期障害がある

疲れやすい、やる気が湧かない、若い頃はこうではなかったのに……。中高年の男性で、病気ではないのになんとなく不調を感じている場合、それはもしかしたら男性更年期障害かもしれません。
男性更年期障害、あるいはLOH症候群と呼ばれる不調は40歳以上から起こりやすくなり、50歳代、60歳代でも可能性があります。女性の更年期障害は45〜55歳あたりにピークを迎えると言われますが、男性更年期障害はもっと幅広い年代で見られます。
男性更年期障害(LOH症候群)とは?
男性更年期障害(LOH症候群)は、男性ホルモンの一種であるテストステロンが年齢とともに低下することで起こります。LOH症候群の「LOH」は「Late–Onset Hypogonadism」の頭文字になります。
男性ホルモンのテストステロンには主に3つの働きがあります。
- 筋肉や骨を強くする。内臓脂肪をつきにくくし動脈硬化を抑制する
- 制欲を高める。精子を作る。性機能を維持する
- 判断力、記憶力、決断力などを高める。前向きな気持ち、チャレンジ精神などバイタリティの維持、向上
男性ホルモンのテストステロンは思春期から急激に分泌が多くなり、20歳代を超えた辺りから緩やかに減っていきます。
男性ホルモンの減少のカーブの程度は一様ではなく、40歳過ぎから減少スピードが加速する人、60歳代で減少のカーブがややきつめに転じる人、80歳を超えてもある程度の分泌量を保っている人など個人差があります。
症状が現れる時期、症状の内容・レベルはいずれも人それぞれで、「ただの疲労」「歳のせい」と考えてしまいがちです。しかし最近、男性更年期障害は生活習慣病や重大病の発症にも関係していることが明らかになっています。
また、男性更年期障害だと思っていたら、別の病気の可能性もあります。早いタイミングで医療機関を受診することが大事です。
男性更年期障害のセルフチェック法
男性ホルモンの低下によって、精神面、肉体面にさまざまな不調が現れます。病気ではないのに「なんとなく不調」「若い時と違って◎◎◎」ということが見られれば、男性更年期障害によるものかもしれません。
男性更年期で代表的な不調
- 疲れやすくなった
- 元気が出ない
- やる気がわかない
- 体力や運動能力の低下
- 性欲の減退
- ED(勃起不全)
- 太りやすくなった
- ほてりや発汗がある
- ちょっとしたことでもイライラする
- 楽しみが減った。もの悲しさがある
例えば、土日にしっかり休んだのに月曜日の朝から疲れ気味で仕事へのやる気が湧かない。集中できず、うっかりミスを度々起こす。妻や子供のちょっとした言動にもイラッとし、怒鳴りつけてしまう……。
以前なら考えられなかったことの繰り返しで、自己嫌悪に陥ってしまうこともあるでしょう。
男性更年期障害はこじらせると、仕事やプライベート、人間関係に影響を与えます。何より本人の生活の質(QOL)が低下します。
さらには、男性更年期障害は糖尿病、高脂血症、高血圧といった生活習慣病とも関連し、動脈硬化を進行し、脳卒中や心筋梗塞のリスクを高めるとされています。「なんとなく不調」を見過ごさないことが重要です。
男性更年期障害だと思ったら

疲れやすい、やる気が湧かない、若い頃はこうではなかったのに……。
中高年の男性で、病気ではないのになんとなく不調を感じている場合、それはもしかしたら男性更年期障害かもしれません。
男性更年期障害、あるいはLOH症候群と呼ばれる不調は40歳以上から起こりやすくなり、50歳代、60歳代でも可能性があります。女性の更年期障害は45〜55歳あたりにピークを迎えると言われますが、男性更年期障害はもっと幅広い年代で見られます。
①泌尿器専門クリニック、またはメンズヘルス外来への受診を
男性更年期障害を疑ったら、まずは泌尿器専門クリニックを受診しましょう。
最近は、メンズヘルス外来として男性更年期障害や性機能の問題など男性特有の健康問題を扱う専門外来を開設している医療機関もあります。問診と血液検査が行われます。
問診
「AMSスコア」といった問診票を使われます。
【AMS(Aging Male‘s Symptoms)スコア】 「総合的に調子が思わしくない」「イライラする」「憂うつな気分」「ひげの伸びが遅くなった」といった17項目の質問に答えます。症状の重さに応じて1〜5で回答し、合計点数で重症度を4段階で評価します。 AMSスコアはインターネットでも見つけられますのでセルフチェックとしても使えます。 |
血液検査
血液中のテストステロンの値を測ります。遊離型テストステロンが8.5pg/ml以上〜11.8pg/ml未満の場合「男性ホルモンが低下状態」、8.5pg/ml未満の場合、「男性ホルモンが明らかに低い」となります。
男性更年期障害を調べる血液検査は、午前中に受けましょう。血液中のテストステロンの値は夕方になると低くなるので、正しい診断ができない場合があります。午前8時から11時に測定することが推奨されています。
うつ病との鑑別診断が必要
更年期障害の症状は、うつ病と重なるものが多くあります。
女性では45〜55歳の更年期を過ぎ、閉経を迎えると症状が落ち着く傾向にありますが、男性では40歳代以降、どの年代でも更年期障害が起こり得るので、男性更年期障害か、うつ病か、見分けがよりつきにくいのです。
泌尿器科の専門医が男性更年期障害を疑い患者さんを診る場合は、念頭にうつ病の可能性も置き、鑑別診断をするようにしています。
②治療
質問票や血液結果などを総合的に判断し、男性ホルモンであるテストステロンを補充する治療(注射、クリーム、飲み薬)が検討されます。
副作用として、血液が濃くなる多血症や造精機能障害などがあるため、投与の適応、可否について担当医と相談する必要があります。ホルモンの補充療法のほか、症状に応じて、抗うつ薬、睡眠薬、漢方薬などの薬を処方することもあります。
③生活習慣を見直す
男性更年期障害は薬の治療に加え、生活習慣の見直しが非常に重要です。特にカギとなるのが、食事、睡眠、運動です。
食事
男性ホルモンのテストステロンの分泌を促す栄養素として、亜鉛やビタミンDがあります。これらが豊富な食品を意識して取るようにしましょう。亜鉛は牡蠣、ほうれん草、牛肉、豚レバーなどに、ビタミンDは野菜類やキノコ類に多く含まれています。
睡眠
男性ホルモンの分泌を保つ上で、睡眠は非常に重要です。睡眠不足になるとテストステロンが低下すると言われています。
運動
適度な運動は、男性更年期障害の予防にも、対策にもなります。
筋力トレーニングは筋肉量を増やし、男性ホルモンの分泌を促します。下半身に筋肉が集まっているので、スクワットやランジといった下半身を鍛えるトレーニングを中心に取り入れるといいでしょう。 有酸素運動も併せて行うことをお勧めします。
男性ホルモンの分泌の低下で体脂肪がつきやすくなるため、肥満や生活習慣病のリスクが高まります。
ジョギングやウオーキングなどはその予防になりますし、ホルモンバランスの乱れも整えます。適度な有酸素運動はストレス解消にもつながり、男性更年期障害の症状を軽減します。
まとめ
2022年に厚生労働省が「更年期症状・障害に関する意識調査(※1)」を報告しています。
それによると「男性にも更年期にまつわる不調があること」について「知らない」と回答した割合は、40歳台、50歳台で47.4%、38.8%。男性更年期障害は、まだまだ認知度が低いといえます。
認知度が低いということは、更年期障害による体の不調を認めても、男性更年期障害を知らないため、年齢のせいや他の病気が原因と考えてしまっている方が多くいる可能性があるといえるかもしれません。
男性更年期障害は加齢が主な原因ですが、ストレス、食生活の乱れ、睡眠不足、運動不足など二次的な影響でも症状が悪化してしまいます。早い段階で専門家の診断、改善のためのアドバイス、治療を受けることが、速やかな症状改善につながります。