日本人が歯を失う最大の原因は虫歯ではなく歯周病です。(※1)自覚症状がほとんどないまま進行するため、気づかないうちに口の健康が脅かされているかもしれません。さらに歯周病は、糖尿病や心疾患など全身の病気のリスクを高めることもわかっています。
実は歯周病予防には毎日の食事が関係します。食事の栄養バランスを整えることは、歯茎の健康維持や、歯を支える骨を丈夫に保つ助けとなります。この記事では、歯周病予防に有効な食べ物から、逆にリスクを高めてしまう食品まで、栄養面から解説します。
歯周病や歯肉炎とは?
歯周病は、お口の中にいる細菌が引き起こす感染症です。進行度によって、大きく2つの段階に分けられます。
歯周病の段階と特徴は以下のとおりです。
| 歯周病の段階 | 特徴 |
| 歯肉炎 | ・歯の表面についた歯垢(プラーク)の中で細菌が増え、歯茎に炎症が起こる・歯磨きのときに出血する・歯茎が赤く腫れる |
| 歯周炎 | ・炎症が歯茎の奥の骨にまで広がった状態・歯がぐらついたり、膿が出たりする・歯が抜けることもある |
歯周病は、口の中だけの問題ではありません。歯周病菌が血管を通って全身に広がることで、糖尿病や心筋梗塞などのリスクを高めることがわかっています。
全身の健康を保つためにも、口のケアは大切なのです。
歯周病予防に効果的な4つの栄養素とおすすめ食品
歯周病の予防というと、多くの方が毎日の歯磨きを思い浮かべるでしょう。もちろん歯磨きは基本ですが、それだけでは不十分です。実は、毎日の食事が歯周病に強い口内環境を作るうえで重要なのです。
栄養バランスの取れた食事は、歯茎や歯を支える骨を健康に保ちます。ここでは、歯周病予防に特に役立つ4つの栄養素と、それらを効率よく摂れる食品を紹介します。
- 歯茎のコラーゲン生成を促すビタミンC(パプリカ・ブロッコリーなど)
- 骨と歯を強くするカルシウム・ビタミンD(乳製品・小魚・きのこ類など)
- 歯ぐきの健康をサポートする抗酸化成分(緑黄色野菜・ベリー類など)
- 口内環境を整える食物繊維・発酵食品(海藻・納豆・ヨーグルトなど)
歯茎のコラーゲン生成を促すビタミンC(パプリカ・ブロッコリーなど)
歯茎の健康を維持するために、ビタミンCは重要な栄養素です。歯茎の大部分はコラーゲンというタンパク質の線維でできています。ビタミンCは、このコラーゲンの生成を助ける役割があります。
もしビタミンCが不足すると、歯茎の組織がもろくなってしまいます。その結果、歯磨きなどのわずかな刺激で出血しやすくなります。また、歯周病菌に対する歯茎の抵抗力も弱まるため、炎症が起こりやすくなります。
さらに、ビタミンCには強力な抗酸化作用があります。歯周病による炎症が起こると、体内で活性酸素という物質が増加します。この活性酸素は歯茎の細胞を傷つけ、炎症をさらに悪化させます。ビタミンCは活性酸素の働きを抑え、歯茎の腫れや赤みを和らげる効果が期待できます。
ビタミンCは体内に貯蔵できないため、毎日継続して摂取することが大切です。
ビタミンCが豊富な食品は以下のとおりです。
| 種類 | 食品 |
| 野菜 | 赤パプリカ、ブロッコリー、ピーマン、小松菜、芽キャベツなど |
| 果物 | キウイフルーツ、いちご、柑橘類(レモン、オレンジ)、アセロラ、グアバなど |
ビタミンCは水に溶けやすく、熱に弱い性質を持っています。生で食べられるサラダや果物のほか、加熱時間を短くできる炒め物、スープなどで摂るのが効率的です。
骨と歯を強くするカルシウム・ビタミンD(乳製品・小魚・きのこ類など)
歯周病が進行すると、歯を支えている顎の骨(歯槽骨)が溶かされることで歯を失います。この大切な骨を丈夫に保つために、カルシウムとビタミンDをセットで摂ることが重要になります。
カルシウムは、骨や歯を作る主成分となるミネラルです。しかし、カルシウムを単体で摂取しても、体内への吸収効率はあまり良くありません。そこで重要な役割を果たすのがビタミンDです。ビタミンDは、腸でカルシウムが吸収されるのを助ける働きを持っています。
歯を支える土台である歯槽骨を強化し、歯周病の進行に負けない強い口内環境を作ることができるのです。
カルシウムとビタミンDが豊富な食品は以下のとおりです。
| 栄養素 | 食品 |
| カルシウム | 牛乳、チーズ、ヨーグルト、しらす、豆腐、小松菜 |
| ビタミンD | 鮭、さんま、うなぎ、きのこ類(干ししいたけ、きくらげ) |
ビタミンDは食事から摂るだけでなく、日光を浴びることでも体内で作られます。1日15分程度の散歩をするなど、適度に日光を浴びる習慣も骨の健康維持に必要です。
歯ぐきの健康をサポートする抗酸化成分(緑黄色野菜・ベリー類など)
歯周病は、歯周病菌が原因で歯茎に起こる慢性的な炎症です。この炎症を抑えるために役立つのが、抗酸化成分です。体内で過剰に発生した活性酸素は、細胞を傷つけ、歯茎の炎症を悪化させる原因となります。
抗酸化成分は、この活性酸素の働きを抑え、細胞のダメージを防ぎます。バランスの取れた食事で抗酸化成分を補うことが大切です。
代表的な抗酸化成分と食品は以下のとおりです。
| 抗酸化成分 | 食品 |
| β-カロテン(ビタミンA) | にんじん、かぼちゃ、ほうれん草、モロヘイヤなど |
| ビタミンE | アーモンドなどのナッツ類、アボカド、うなぎ、きくらげなど |
| ポリフェノール | ブルーベリー、緑茶(カテキン)、大豆(イソフラボン)など |
これらの栄養素はそれぞれ異なる働きを持っています。特定の食品に偏らず、様々な色の野菜や果物を食卓に取り入れ、多様な抗酸化成分をバランス良く摂取しましょう。
口内環境を整える食物繊維・発酵食品(海藻・納豆・ヨーグルトなど)
食物繊維と発酵食品も口内環境を整えるために重要な役割を果たします。
食物繊維が豊富な根菜やきのこ類を食べると、噛み応えがあるため自然と噛む回数が増えます。よく噛むことで、唾液の分泌が促されます。唾液の作用として、食べかすを洗い流す自浄作用、細菌の増殖を抑える抗菌作用があり、歯周病予防のシステムとして機能します。
次にヨーグルトや納豆などの発酵食品は、腸内環境を整えます。腸は体最大の免疫器官であり、腸内環境が整うと体全体の免疫力が高まります。
このような理由から、食物繊維と発酵食品は間接的に歯周病を予防するといえます。
代表的な食品は以下のとおりです。
| 種類 | 食品 |
| 食物繊維 | ごぼうなどの根菜類、きのこ類、海藻類、玄米など |
| 発酵食品 | ヨーグルト(無糖が望ましい)、納豆、味噌、キムチなど |
日常で気をつけたい歯周病リスクを高める食べ物と対策
歯周病を予防するためには、歯に良い栄養素を積極的に摂ることが大切です。それと同時に、リスクを高める食べ物や食習慣を避けることも同じくらい重要です。
何気ない食生活が、口の中で歯周病菌が繁殖しやすい環境を作り出しているかもしれません。ここで日々の食事で特に気をつけたい点と、具体的な対策を解説します。
- 糖分の多いお菓子・清涼飲料水はプラーク形成の原因に
- 酸性の強い食品・飲料(柑橘類・炭酸飲料など)による歯の溶解リスク
- 唾液分泌を促す「よく噛む」習慣と噛み応えのある食材選び
- 外食・コンビニ食でもできる歯にやさしいメニュー選び
糖分の多いお菓子・清涼飲料水はプラーク形成の原因に
ケーキやジュースなどに含まれる糖分は、虫歯菌の栄養源です。虫歯菌は糖分を利用してグルカンというネバネバした物質を作り出し、歯の表面に強力につきます。これが歯垢(プラーク)です。プラークは細菌が住みやすい環境であるため、そこに歯周病菌も定着し、増殖していきます。プラークの中で歯周病菌が増殖すると、歯茎に炎症を引き起こす毒素を出し始めます。
特に、時間をかけて少しずつ飲食するのは最も避けたい習慣です。口の中が常に糖分にさらされ、酸性の状態が長く続くため、細菌が活動しやすくなります。
糖分を摂る際には、時間を決めて食べる、食べた後は歯磨きやうがいなどのケアを行うことが大切です。
酸性の強い食品・飲料(柑橘類・炭酸飲料など)による歯の溶解リスク
酸性が強い食品や飲料は、歯の表面を覆う硬いエナメル質を溶かす「酸蝕(さんしょく)」を引き起こすリスクがあります。歯の表面が溶けて弱くなると、歯周病菌の攻撃を受けやすくなるだけでなく、冷たいものがしみる知覚過敏の原因にもなります。
特に注意したいのは、糖分も多く含む炭酸飲料やスポーツドリンクです。これらはプラークの形成を助ける糖分と、歯を溶かす酸の2つのリスクがあります。
酸から歯を守るための工夫として、ストローなどを使い、飲み物が直接前歯に触れないようにする、歯磨きは30分ほど時間を空けて行う、などが挙げられます。
唾液分泌を促す「よく噛む」習慣と噛み応えのある食材選び
私たちの唾液には、以下のような口の健康を守るための機能が備わっています。
- 自浄作用:食べかすや細菌を洗い流す
- 抗菌作用:細菌の増殖を抑える
- 緩衝作用:食後の酸性の口内環境を中和する
この唾液の分泌を促す最も簡単で有効な方法が、よく噛むことです。逆に、あまり噛まずに飲み込むような早食いの習慣は唾液の分泌を減らし、歯周病菌が繁殖しやすい環境を作ってしまいます。
噛み応えのある食材を選ぶ、野菜を大きめに切る、1口30回噛むことを意識するなどが重要です。
外食・コンビニ食でもできる歯にやさしいメニュー選び
外食やコンビニ食でメニューを選ぶポイントは、菓子パンやカップ麺・ラーメンなどの糖質や脂質に偏った単品メニューを避け、栄養バランスを意識することです。
外食・コンビニでのメニュー選びの例は以下のとおりです。
| おすすめのメニュー・組み合わせ | 避けたいメニュー | |
| コンビニ | ・鮭や昆布などが入ったおにぎり・全粒粉パンのサンドイッチ・海藻サラダ、野菜スティック・ゆで卵、サラダチキン・無糖ヨーグルト、納豆巻き | ・菓子パン、揚げ物・カップ麺・糖分の多いジュース |
| 外食 | ・焼き魚定食、生姜焼き定食など・野菜炒めやサラダを追加する・具だくさんの味噌汁やスープ | ・丼もの単品・ラーメン+チャーハンセット・クリーム系のパスタ |
歯と全身を守るために知っておきたいこと
ここまで歯周病予防に役立つ栄養素や食材を見てきましたが、大切なのは、それらを日々の生活に取り入れる習慣です。歯周病は、口の中だけの問題ではなく、からだ全体の健康にも関わる病気です。
毎日の食事のとり方を見直すだけで、口とからだの両方を守ることにつながります。ここでは、歯と全身を守るために知っておきたいことを3つご紹介します。
- 食事パターンと歯周病予防の関係
- 歯周病と糖尿病・心疾患のつながりと食事の重要性
- 年代別(子ども・妊婦・高齢者)に合わせた食事の工夫
食事パターンと歯周病予防の関係
歯周病を予防するためには、いつ、どのように食べるかという食事のパターンも重要になります。食事のリズムが乱れたり、間食が多かったりすると、口の中の環境は悪化しやすいです。
私たちの口の中は通常、唾液の働きで中性に保たれています。しかし食事をすると、食べ物に含まれる糖分を虫歯菌が分解して酸を作り出すため、口内は酸性に傾きます。時間を決めて食事を摂れば、唾液が酸を中和し、口の中を清潔に保つ時間が十分に確保できます。
しかし間食が多くなると、口の中が酸性に傾く時間が長くなり、虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすくなります。
お口の健康を守るためには、1日3食なるべく同じ時間帯に食事を摂る、間食の回数と時間を決める、寝る前の飲食は避けるなどを意識しましょう。
規則正しい食事パターンは、口の健康だけでなく、全身の健康リズムを整えるうえでの基本となります。
歯周病と糖尿病・心疾患のつながりと食事の重要性
歯周病は口の生活習慣病とも呼ばれ、特に糖尿病や心疾患(狭心症・心筋梗塞など)といった全身の病気と関わっていることが明らかになっています。
歯周病によって歯茎に炎症が起こると、そこから歯周病菌や菌が出す毒性物質が血管内に侵入します。そして血液の流れに乗って全身を巡り、様々な悪影響を及ぼすのです。
特に糖尿病や心疾患がある場合、歯周病がこれらの病気を悪化させるとともに、歯周病そのものの治りを遅らせるリスクがあります。
口のケアと合わせて、全身の健康を考えた食生活が重要になります。血糖値の急上昇を抑える食物繊維を多く摂ったり、血管の健康のために塩分や脂質を控えたりする食事は、糖尿病や心疾患だけでなく歯周病の予防にもつながるのです。
年代別(子ども・妊婦・高齢者)に合わせた食事の工夫
歯周病のリスクや口の状態で注意すべき点は、ライフステージによっても異なります。それぞれの年代に合わせた食事の工夫で、より具体的に予防しましょう。
| 年代 | 特徴と注意すること |
| 子ども | ・歯や顎の骨が作られる時期・カルシウムやビタミンDを意識的に摂る・噛む習慣をつけるために根菜類を取り入れる・お菓子やジュースをだらだら与えない |
| 妊婦 | ・女性ホルモンの影響で歯周病菌が増えやすい・ビタミンCを積極的に摂る・つわりで食べられない時は栄養のあるものを少しずつ摂る |
| 高齢者 | ・噛む力が弱くなっても、栄養が偏らないように注意する・食材を細かく刻んだり、柔らかく煮込んだりする・無理のない範囲では噛み応えのある食材を取り入れる |
まとめ
歯周病予防は、歯磨きという外側からのケアも大切ですが、歯茎や骨を丈夫にする毎日の食事による内側からのケアも重要です。ビタミンCやカルシウムが豊富な食材を選んだり、よく噛んで唾液の分泌を促したりすることは、簡単に始められる習慣です。
バランスの取れた食事は、口の健康を守るだけでなく、糖尿病や心疾患といった全身の病気のリスクを減らすことにもつながります。まずは今日の食事から、1つでも意識してみてください。
参考文献
- 東京土建国保組合健康増進課.「国保の保健師・管理栄養士の健康だより」
