健康診断で「血糖値が高い」「HbA1cが基準値を超えている」と言われ、不安がよぎる方は多いのではないでしょうか。
糖尿病は自覚症状が少なく、気づかないうちに進行することもあるため、異常値をどう受け止めれば良いか迷ってしまいます。糖尿病ではなく予備軍の段階であっても、心筋梗塞や脳卒中など、命に関わる病気の動脈硬化性疾患による発症リスクが約2.8倍に高まると報告されています。(※1)
この記事では、健康診断で指摘されやすい各検査値の意味、糖尿病が疑われたときの受診の目安、生活改善のポイントも解説します。正しい知識を持つことで、焦りや不安に振り回されず、自分の体と向き合う第一歩が踏み出せます。
健康診断で糖尿病が疑われる主なサイン
健康診断で血糖値やHbA1cの異常を指摘された場合、症状がなくても注意が必要です。糖尿病は初期の自覚症状が乏しく、健診での異常が早期発見のきっかけになります。
ここでは、糖尿病が疑われるサインや、なりやすい体質・生活習慣を解説します。
糖尿病の初期症状
糖尿病の初期症状は、自覚しにくいものの早期発見につながる重要なサインです。血糖値が高い状態が続くと、体にさまざまな不調が現れ始めます。
以下の症状が当てはまらないか確認してみましょう。
- 口渇・多飲/多尿・夜間頻尿:高血糖により水分を欲し、余分な糖を尿で排出される
- 食べているのに体重が減少する(重度の場合):糖をうまく使えず、筋肉や脂肪がエネルギーとして分解されている
- 強い疲労感・だるさ:細胞に糖が届かず、慢性的なエネルギー不足になる
- かすみ目・視力低下:高血糖が水晶体の水分バランスを乱し、ピントが合わせにくい。また網膜症による目の症状
- 手足のしびれ・傷が治りにくい:神経や血管の障害と免疫力の低下による影響
- 風邪をひきやすい:高血糖による免疫細胞(リンパ球機能)の低下など
なんとなくの不調が続く場合、または健康診断で血糖値やHbA1cに異常があった場合は、内科・糖尿病内科で再検査を受けましょう。
糖尿病になりやすい体質・生活習慣
糖尿病になりやすい人には、共通する体質や生活習慣があります。以下のポイントを参考に、ご自身に当てはまる項目がないか確認してみましょう。
【ご自身の体質や過去の病歴】
- 家族や親戚に糖尿病の方がいる
- 年齢が40歳以上である
- 肥満気味である(特にお腹周りに脂肪がつく内臓脂肪型肥満)
- 血圧が高い、または脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い)を指摘されたことがある
- 妊娠中に血糖値が高くなった(妊娠糖尿病)経験がある
【日々の生活習慣】
- 食べ過ぎることが多く、早食いの癖がある
- 甘いジュースやお菓子、果物をよく口にする
- 野菜不足で、炭水化物や脂っこい食事に偏りがち
- 運動する習慣がほとんどない
- 定期的に多くのアルコールを飲む
- 強いストレスを日常的に感じている
- 睡眠時間が不足している、または質が悪い
- 夜勤や交代制勤務で生活リズムが不規則である
当てはまる項目が多いほど、糖尿病を発症する可能性は高まります。体質は変えられなくても、生活習慣は今日から見直せるため、できることから1つずつ改善していくことが大切です。
異常値の見方と判断基準
健康診断の結果で血糖値やHbA1cが高いと指摘されたとき、その数値が示す意味を理解しておくことが大切です。主な異常値の見方と判断の基準について、以下の観点で解説します。
- 空腹時血糖値と食後血糖値の基準範囲
- HbA1c(ヘモグロビンA1c)でわかる血糖コントロール
- 糖尿病・予備群と診断される基準
- 高血糖を放置するリスク
空腹時血糖値と食後血糖値の基準範囲
空腹時血糖値と食後血糖値の基準を知ることは、現在の血糖状態を判断するための基本です。
健康診断で測定される血糖値は、血液中のブドウ糖の量を示し、特に「空腹時血糖値」が重要な指標になります。これは10時間以上食事をとらずに測定した値で、血糖コントロールの状態を把握する際の土台となります。
空腹時血糖値と随時血糖値の基準は以下のとおりです。
| 検査の種類 | 正常値 | 境界型(糖尿病予備群) | 糖尿病型 |
| 空腹時血糖値 | 100〜109mg/dL | 110~125mg/dL | 126mg/dL以上 |
| 随時血糖値 | — | — | 200mg/dL以上 |
随時血糖値とは、食事の時間とは関係なく測定した血糖値のことです。血糖値は、自分の体調でさまざまな影響を受けるため、一度の検査で診断されることはありません。異常値が出た場合でも、再検査で状態を確認することが重要です。
HbA1c(ヘモグロビンA1c)でわかる血糖コントロール
HbA1cは、過去1〜2か月の血糖状態を反映する指標で、血糖コントロールが適切かどうかを判断するために重要です。ヘモグロビンにどれだけブドウ糖が結合しているかを割合で示すため、検査前数日だけ生活を改善しても数値は大きく変わりません。
普段の生活習慣がそのまま反映される指標といえます。HbA1c(NGSP値)の判定の目安を以下の表でまとめています。(※2)
| HbA1c(NGSP値) | 判定の目安 |
| 5.6%未満 | 正常値 |
| 5.6~6.4% | 糖尿病の可能性を否定できない(特定保健指導の対象) |
| 6.5%以上 | 糖尿病型【要注意】 |
HbA1cが6.5%以上の場合、糖尿病が強く疑われます。ただし、鉄欠乏性貧血や腎臓の病気、肝硬変などがあると、実際の血糖状態と数値がずれることがあります。そのため、ほかの検査結果と合わせて総合的に判断することが必要です。
糖尿病・予備群と診断される基準
糖尿病の診断は、一度の検査だけで決まるわけではありません。血糖値とHbA1cの数値を組み合わせたり、日を改めて再検査を行ったりして、慎重に判断されます。
以下のいずれかに当てはまると「糖尿病型」と判定されます。(※2)
- 空腹時血糖値が126mg/dL以上
- ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)の2時間後の血糖値が200mg/dL以上
- 随時血糖値が200mg/dL以上
- HbA1cが6.5%以上
別の日に再度検査して、再び「糖尿病型」が確認された場合に、糖尿病と正式に診断されます。
高血糖を放置するリスク
高血糖を放置すると、血管が傷つき、全身にさまざまなトラブルが起こりやすくなります。血管が傷むことで動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中などの命に関わる病気の発症リスクが高まります。
糖尿病特有の合併症にも注意が必要です。細い血管が障害されると、網膜症(視力低下・失明)、腎症(浮腫など)、神経障害(しびれ、麻痺、足の皮膚の感染症、たちくらみなど)が進行します。太い血管が損傷すると、心筋梗塞・狭心症・脳梗塞のリスクが上昇します。
歯周病の悪化や感染症の重症化、脳血管性認知症などの認知機能低下、などにもつながる可能性があります。早めに受診し、生活を整えることで、これらの合併症は予防・進行抑制が十分に可能です。
受診の目安と診断の流れ
健康診断で糖尿病の可能性を指摘された場合、その一度の結果だけで判断するのではなく、医療機関での再検査が必要です。ここでは、受診を考えるタイミングと、診断が確定するまでの一般的な流れを解説します。
血糖値やHbA1cが基準を超えたら受診を検討
血糖値やHbA1cが基準を超えていた場合は、自覚症状がなくても医療機関の受診を検討することが重要です。これらの数値は、体が早めの対応を求めているサインと捉える必要があります。
受診を考える目安となる数値は以下の3つです。(※2)
| 項目 | 受診を検討する数値 |
| 空腹時血糖値 | 126mg/dL以上 |
| HbA1c | 6.5%以上 |
| 随時血糖値 | 200mg/dL以上 |
血糖の異常は、目・腎臓・神経だけでなく全身の血管に負担をかけ、さまざまな病気のリスクを高めます。健診で指摘があった場合は放置せず、早めの受診が自分の健康を守る第一歩です。
まずは内科または糖尿病内科に相談
健康診断で異常を指摘されたら、まずは内科または糖尿病内科で相談することが大切です。早めの受診によって、現在の状態を正確に把握でき、必要な検査や生活改善の方向性が明確になります。
受診の際は、健康診断の結果を持参し、どの項目がどの程度高かったのかを医師に伝えましょう。のどの渇きや頻尿、体重の変化、疲れやすさなど、気になる症状がいつから続いているのかも話しておくと診察がスムーズです。
家族に糖尿病の方がいるかどうか、普段の食事や運動、睡眠、飲酒や喫煙の習慣、服用中の薬も共有しましょう。クリニックによっては、管理栄養士や看護師が生活改善のサポートを行ってくれる場合もあります。
不安を抱え込まず、まずは専門家に相談してみてください。
ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で詳しく調べる
より詳しく血糖の状態を確認したい場合には、「75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)」という検査を行います。健康診断だけでは判断が難しいケースや、空腹時は正常でも食後に血糖値が大きく上がる「隠れ糖尿病」を見つけるのに役立ちます。
この検査は、特に空腹時の血糖値は正常に近くても、食後に血糖値が急上昇する「隠れ糖尿病」を見つけるのに役立ちます。
検査では、前日の夜9時頃から絶食します(水やお茶は飲んでも構いません)。当日の朝、朝食をとらずに医療機関へ行き、空腹の状態で一度目の採血をします。
75gのブドウ糖が入った甘い液体を飲みます。飲んだ後、30分後、1時間後、2時間後などに複数回採血し、血糖値の変動を詳細に調べます。
この検査によって、食後の血糖値を下げる働きであるインスリンが正常に機能しているかどうかを詳しく確認できます。
受診前に知っておきたいこと
健康診断で糖尿病の疑いを指摘されると、検査内容だけでなく費用や準備についても不安を感じる方が多いはずです。あらかじめ必要な情報を知っておくことで、落ち着いて受診に臨むことができます。
ここでは、再検査や精密検査の費用の目安と、受診前に準備しておきたいものを解説します。
再検査・精密検査にかかる費用と保険適用
再検査や精密検査は、健康診断と異なり医療機関での受診となるため、原則として健康保険が適用されます。費用は行う検査の種類によって変わりますが、大まかな目安を知っておくと受診前の不安が軽減されます。
主な検査と費用の目安は、以下の表のとおりです。
| 検査内容 | 費用の目安(3割負担の場合) |
| 初診料+基本的な血液・尿検査+詳細な検査項目(インスリンなど) | 3,000~5,000円程度 |
| ブドウ糖負荷試験(75gOGTT) | 4,000~6,000円程度 |
基本的な再検査では、血糖値やHbA1cを確認する血液検査、尿検査などが行われます。食後の血糖変動を詳しく調べる必要がある場合は、ブドウ糖負荷試験が追加されます。
医療機関によって、費用は多少前後する場合があるため、気になる場合は事前に問い合わせておくと安心です。
受診前に準備しておきたいもの
受診前に必要なものを準備しておくと、診察がスムーズに進み、医師もあなたの状態をより正確に把握できます。家を出る前に、次の項目を確認しておきましょう。
【受診時に持参したいもの】
- 健診結果票(過去の分もあれば)
- 健康保険証・各種医療証
- お薬手帳(処方薬・市販薬・サプリの情報を含む)
- 自宅での記録(血圧・体重・血糖などがあれば)
- 質問メモ(不安な点や確認したいこと)
以下のような気になる症状がある場合は重要な情報になります。
- めまいや立ちくらみがある
- 手足のしびれや痛みが続いている
- 足裏の感覚が鈍い、違和感がある
これらは高血糖による神経障害のサインの可能性があります。合併症の早期発見や転倒予防のためにも、気になることはすべて医師に伝えることが大切です。
糖尿病と診断されたあとの生活改善
糖尿病と診断されても、生活を大きく変えなければいけないわけではありません。大切なのは、無理のない範囲でできることから始め、日々の習慣を少しずつ整えていくことです。
診断後の生活改善で、特に取り入れたいポイントは以下の3つです。
①食事のとり方を見直す(順番・バランス・継続)
②運動を日常に取り入れる(有酸素運動と筋トレ)
③医師の指示で薬物療法を始める
食事のとり方を見直す(順番・バランス・継続)
食事のとり方を見直すことは、糖尿病の治療で効果が期待できる基本のステップです。厳しい制限をするのではなく、普段の食べ方を少し工夫するだけでも血糖の上がり方は大きく変わります。
まずは次の3つを意識すると続けやすくなります。
【食事のポイント】
- 食べる順番:①野菜・きのこ・海藻→②肉・魚・卵・大豆→③ご飯・パン・麺
- 献立の組み方:毎食「主食+主菜+副菜」をそろえる
- 無理なく続ける工夫:最初の一口を野菜にする、主食は小盛りにする、海藻や大豆製品を常備するなど
食物繊維を先に食べると糖の吸収が緩やかになり、食後の血糖上昇を抑えやすくなります。次に、具体的な食材選びや調理の工夫も役立ちます。
【血糖値を上げにくい食材・調理の選び方】
| 項目 | 工夫の例 |
| 主食の選び方 | 白米は玄米・もち麦へ、食パンは全粒粉パンへ |
| 間食の選び方 | スナックの代わりにナッツ、無糖ヨーグルト、チーズ、とり肉などのタンパク質 |
| 調理法の工夫 | 揚げ物より蒸す・茹でる・焼く調理で油を控える |
| 外食の工夫 | 特に夕食はは野菜から食べ、主食は小盛りにする。食事量の見直し。 |
こうした小さな工夫の積み重ねが大事です。
運動を日常に取り入れる(有酸素運動と筋トレ)
有酸素運動は、ウォーキングや軽いジョギング、水泳、サイクリングといった無理のないものを、食後30〜60分のタイミングで取り入れると血糖の上昇を抑えやすくなります。少し息が弾む程度の強さで、週150分ほどを目安に続けると効果が出やすくなります。
筋力トレーニングは、自宅でできるスクワットや腕立て、ヒップリフトなどで十分です。週2〜3回、8〜12回を2〜3セット行うと、筋肉が糖を取り込みやすくなり、血糖管理に役立ちます。
平日は食後に30分ほど歩き、週に数日はその後に軽い筋トレを加えると、両方の効果を取り入れやすくなります。また、階段を使う、少し遠回りして歩く、テレビのCM中に足踏みをする、30分に一度立ち上がるなど、日常生活のなかで動く時間を増やす工夫も効果的です。
医師の指示で薬物療法を始める
食事や運動を続けても血糖値がなかなか下がらない場合は、医師の判断で薬を使った治療を始めます。飲み薬には、インスリンの働きを助けるもの、食後の血糖値の上がり方を緩やかにするもの、糖を尿として排出するものなどがあります。
それでも血糖値が安定しない場合や、インスリンを出す力が弱くなっている場合には、インスリン注射を使うこともあります。どの薬を使う場合でも大切なのは、自己判断でやめたり減らしたりせず、医師の指示通りに続けることです。
最終的には肥満を解消することにより、糖尿病のコントロールをおさることが重要であります。
心配なことや副作用があれば、遠慮なく医師や薬剤師に相談しましょう。
まとめ
血糖値やHbA1cの異常は、症状がなくても体が発している大切なサインです。放置してしまうと、気づかないうちに合併症が進むことがあります。
まずは健康診断で気づけたこと自体が大きな一歩です。この結果は、ご自身の体と向き合い、これからの健康を守るチャンスと捉えることができます。不安があれば一人で抱え込まず、まずは医療機関に相談してみてください。
早めに適切な対応を始めることで、合併症の予防につながり、将来の生活をより安心して過ごせるようになります。気になることがあれば、かかりつけ医に相談しましょう。
参考文献
- Guo Z., Wu S., Zheng M., Xia P., Li Q., He Q., Song Z. Association of impaired fasting glucose with cardiometabolic multimorbidity: The Kailuan study J Diabetes Investig, 2025, 16(1), p.129‑136
- 糖尿病情報センター:「糖尿病診療ガイドライン2024」
- Choi J.-Y., Lee H.-Y., Lee J.-H., Hong Y., Park S.K., Ryu D.R., Lee J.H., Hwang S., Kim K.H., Lee S.H., Kim S.-Y., Park J.-H., Kim S.-H., Kim H.-L., Choi J.H., Kim C.-H., Cho M.-C., Kim K.-I. Characteristics According to Frailty Status Among Older Korean Patients With Hypertension J Korean Med Sci, 2024, 39(10), p.e84
