「血圧の数字が高い」と言われても、「体調は悪くないし大丈夫」と思ってしまう方は少なくありません。
高血圧は、自覚症状がほとんどないまま進行する「サイレントキラー」と呼ばれる病気です。多くの方で自覚症状が乏しいまま進行しやすく、気づかないうちに血管のダメージが進み重症な疾患を起こす怖い病気でもあります。気づかないうちに脳や心臓、腎臓へ大きな負担をかける可能性があります。
この記事では、高血圧で起こりやすい症状のチェックポイント、放置した場合のリスク、疑われたときの対処法までわかりやすく解説します。「今の自分の体に何が起きているのか」を知ることで、将来の病気を防ぎ、安心して暮らすための第一歩を踏み出せます。
高血圧の症状セルフチェック
高血圧は自覚症状が乏しい一方で、日常のちょっとした変化にサインが隠れていることがあります。高血圧の症状の主なセルフチェックポイントは以下の4つです。
①頭痛・めまい・肩こりなどの頭部や頸部の不調
②動悸・息切れなど心肺系の異変
③顔や足のむくみが現れるタイミング
④自覚しにくい「サイレントキラー」症状に注意
①頭痛・めまい・肩こりなどの頭部や頸部の不調
高血圧では、頭痛・めまい・肩こりなどの頭部や頸部の不調が初期サインとして現れることがあります。血圧が高い状態が続くと脳の血管に負担がかかり、日常生活でこうした症状が出やすくなります。
どのような変化が注意すべきサインなのか、主なチェックポイントは以下のとおりです。
| 症状 | 状態の例 |
| 頭痛 | ・朝起きた直後に、後頭部が重だるく感じる ・拍動に合わせて痛みが増減するような頭痛 |
| めまい・ふらつき | ・立ち上がり時にふらつく ・視界が暗くなる |
| 肩こり | 首から肩にかけて慢性的なこりや重だるさが続く |
これらの症状は一見よくある不調に見えますが、血圧上昇のサインとして現れることがあります。突然の激しい頭痛や手足のしびれなどを伴う場合は、脳出血などの緊急性が高い状態の可能性があるため、すぐに救急外来受診、あるいは救急車を呼んでください。
②動悸・息切れなど心肺系の異変
動悸や息切れは、高血圧で心臓に負担がかかっているサインとして現れやすい症状です。血圧が高いほど心臓は強い力で血液を送り出す必要があり、結果として心臓の働きに異常が出ることがあります。
どのような症状が注意すべき心肺系の異変なのか、チェックポイントを以下にまとめました。
| 症状 | 状態の例 |
| 動悸 | 何もしていないのに心臓の鼓動が強く感じられる、脈が乱れる |
| 息切れ | 階段や少し歩くだけで息が切れる |
| 胸の圧迫感・痛み | 胸が締め付けられる、重苦しい感じが続く |
こうした症状は、心不全や狭心症など重大な疾患のサインの可能性があります。特に、安静時の心拍数が80回/分(運動後でない、発熱がない場合)を超える場合は注意が必要です。放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。
③顔や足のむくみが現れるタイミング
顔や足のむくみは、高血圧によって心臓や腎臓に負担がかかっているサインとして現れることがあります。一時的な疲れや水分量だけではなく、むくみが続くことで身体の内部に異常が起きている可能性があります。
むくみが出やすい時間帯や特徴は、次のとおりです。
| 時間帯 | 状態 |
| 朝 | 顔やまぶたがパンパンに腫れぼったい |
| 夕方 | ・夕方になると足がパンパンになる ・靴下を脱ぐとゴムの跡がくっきりと残る |
これらの症状は、腎臓の機能低下や心臓への負担増加による可能性があります。むくみが数日続く場合は医師への相談をおすすめします。
④自覚しにくい「サイレントキラー」症状に注意
高血圧の恐ろしい点は、症状がないために、気づかないうちに血管の動脈硬化が進むことです。この特徴から、高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれています。体がゆっくりと高い血圧に慣れるため、不調として感じにくくなるのです。
日本では高血圧の管理が不十分なことが原因で、年間約17万人以上が命を落としているという報告もあります。(※1)
高血圧の症状チェックリスト
次の項目に1つでも当てはまる場合は、高血圧の可能性があり、複数当てはまる場合は特に注意が必要です。
【症状チェックリスト】
- 朝起きたとき、後頭部が重い・頭痛がする
- 立ち上がりでふらつく・めまいが起こる
- 肩こりが慢性的に続いている
- 安静時でも動悸を感じる、脈が乱れる
- 少し歩いただけで息切れする
- 胸が締め付けられるように苦しいことがある
- 朝、顔やまぶたがむくんでいることが多い
- 夕方、足がパンパンにむくむ/靴下の跡が深く残る
- 全く症状がないのに血圧が高いと言われたことがある
- なんとなく疲れやすく、集中力が落ちてきた
これらの症状は、高血圧の初期サインとして現れることがあります。気になる項目が続く場合は、早めに血圧を測り、医療機関に相談しましょう。
高血圧を放置した場合のリスク
高血圧を放置すると、症状がなくても体の中では確実に血管のダメージが進行していきます。気づかないうちに重大な病気を引き起こすこともあるため、どんなリスクがあるのかを理解しておくことが大切です。
ここでは、高血圧が招く主な合併症と、症状がないまま進行する危険性を解説します。
合併症のリスク(脳梗塞・心筋梗塞など)
高血圧の放置は、血管にかかる負担が増え続け、脳や心臓、腎臓などの重大な合併症を引き起こす可能性を高めます。症状がなくても血管は傷ついているため、気づいたときには重症化していることも少なくありません。
代表的な合併症リスクは以下のとおりです。
- 脳の血管:脳梗塞や脳出血などの脳卒中
- 心臓の血管:狭心症、心筋梗塞、心不全
- 腎臓の血管:腎硬化症や腎不全
- その他:大動脈瘤、高血圧性網膜症による視力低下
これらは、血圧が高い状態が続くことで動脈硬化が進行した結果起こるものです。糖尿病や脂質異常症をあわせ持つ場合、血管の損傷が加速し、合併症の発症リスクは高まる可能性があります。
自覚症状がないまま進行する危険性
高血圧は、合併症が起きる前まで、自覚症状がないまま進行します。体が高血圧の状態に慣れてしまうため、頭痛やめまいなどのサインが現れないこともあります。
症状がないために、自覚がなく健康だと思い込み、医療機関の受診や治療を先延ばしにしてしまうと、血管のダメージは進行します。高血圧の管理は、単に血圧の数値を下げるだけが目的ではなく、脳卒中や心筋梗塞などの病気を防ぐことにつながります。
高血圧の主な原因
ご自身の血圧がなぜ高いのか、その原因を知ることは、適切な対策を立てるために重要です。高血圧を引き起こす主な原因は以下の3つです。
- 食生活・運動不足など生活習慣の乱れ
- 加齢・遺伝・体質の影響
- 女性特有のホルモン変化
食生活・運動不足など生活習慣の乱れ
毎日の生活習慣の積み重ねは、私たちの血圧に大きな影響を与えます。以下のような習慣は、血圧を上げる直接的な原因となりやすいため、日頃から意識することが大切です。
- 塩分の過剰摂取
- 肥満(特に内臓脂肪型)
- 運動不足
- 過度な飲酒
- 喫煙
- 精神的ストレス
これらの生活習慣が複数重なることで、高血圧のリスクはさらに大きくなります。
加齢・遺伝・体質の影響
加齢や遺伝などの体質的な要因は、高血圧の大きな原因になります。年齢を重ねると血管の弾力が徐々に失われ、硬くなることで血液を送り出す際により強い圧力が必要になります。この血管の変化は誰にでも起こるもので、高血圧が増える理由の一つです。
家族が高血圧の場合、ご自身も高血圧になりやすい傾向があります。血圧の調整に関わるホルモンの働きや、塩分を体外に排出しにくい体質が遺伝することがあるためです。
体質による影響は、本人の自覚症状とは関係なく進むため、生活習慣に問題がなくても血圧が高くなることがあります。
女性特有のホルモン変化
女性ホルモンのエストロゲンには、血管を広げてしなやかさを保ち、血圧を上がりにくくする大切な働きがあります。しかし、閉経前後の更年期になると、このエストロゲンの分泌量が急激に減少します。結果、血管の柔軟性が失われ、血圧のコントロールが難しくなり、血圧が上昇しやすくなります。
妊娠中は、お腹の赤ちゃんに栄養や酸素を届けるため、母体に大きな変化が起こります。に妊娠20週以降に初めて高血圧を認める場合を妊娠高血圧症候群と呼び、出産後も高血圧のリスク要因となります。
これは、胎盤から放出される「エクソソーム」と呼ばれる物質が、母体の血管に影響して血圧を上げる仕組みに関係すると考えられているためです。研究によって、そのメカニズムが徐々に明らかになりつつあります。(※2)
高血圧が疑われたときの対策
高血圧が疑われた段階で適切な対策を始めれば、病気を防ぐことができます。高血圧が疑われたときの対策として、以下の4つを解説します。
①自宅で血圧を測定する習慣をつける
②早めに医療機関を受診する
③食事・運動で生活習慣を改善する
④医師の指導に基づいて薬物治療を開始する
①自宅で血圧を測定する習慣をつける
高血圧の管理では、正確な血圧を知ることが大切です。病院で測る血圧だけでは、日常の血圧の状態を正確に把握するのは難しい場合があります。そのため、自宅で血圧を測定し、記録する習慣が重要になります。
家庭でできる血圧測定のポイントは以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
| タイミング | 起床後1時間以内の安静時と、就寝前のリラックスした時間帯に測定 |
| 測定前 | ・椅子に座って1〜2分安静にしてから測定する ・測定前の喫煙や飲酒、カフェイン摂取は避ける |
| 測定方法 | ・腕帯(カフ)を心臓の高さに合わせて巻き、リラックスした状態で測定する ・2回測定してその平均値を記録する |
| 記録 | 測定した日時と血圧値、脈拍数を血圧手帳やスマートフォンのアプリに記録する |
血圧は常に変動しています。毎日決まった条件で測定を続けることで、信頼性の高いデータを得ることができ、医師が治療方針を決める際の重要な情報となります。
②早めに医療機関を受診する
家庭で測った血圧が高い状態が続く場合や、頭痛や息切れ、めまいなどの症状が気になる場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。医師の診断を受けることで、原因に応じた適切な治療や生活管理が進めやすくなります。
受診の際には、自宅で記録した血圧データ(血圧手帳や測定アプリの画面)を持参してください。これらの情報があると、血圧の変動をより正確に把握でき、診断や治療方針の決定に役立ちます。
③食事・運動で生活習慣を改善する
高血圧治療に大切なのは生活習慣の改善です。薬物治療と並行して、食事と運動の習慣を見直すことが血圧コントロールに必要です。
食事と運動のポイントを以下にまとめました。
【食事】
- 塩分摂取は1日6g未満とする(※3)
- 塩分の高いハムや加工食品を控える
- 腎機能に問題がない方はカリウムが多い食物を摂取する(ほうれん草やアボカドなど)
【運動】
- ウォーキングや軽いジョギングなどを行う
- 時間は毎日合計30分以上を目安とする(1日1万歩が目標)
生活習慣の改善は、ご自身の努力だけでなく、ご家族の協力が大きな力になります。
④医師の指導に基づいて薬物治療を開始する
薬物治療の目的は、血圧を安定した状態にコントロールすることで、血管や心臓への負担を減らし、脳卒中や心筋梗塞を予防することです。薬にはさまざまな種類があり、作用も異なります。
一人ひとりの体の状態や合併症に合わせて、薬の調整をします。効果が不十分な場合は、作用の異なる薬を少量ずつ組み合わせることもあります。
大切なのは、医師の指示通りに毎日決まった時間に薬を飲み続けることです。自己判断で薬をやめたり量を減らしたりすると、血圧が急激に上昇して危険な状態を招くことがあります。気になる症状が出た場合は、すぐに主治医に相談してください。
まとめ
ご自身の体に目を向け、サインに気づくことができれば高血圧による身体への悪影響を防ぐことができます。まずは、症状の有無にかかわらず家庭で血圧を測る習慣を持つことです。血圧が高い場合や気になる症状があれば放置せず、早めに医療機関へ相談してください。
その一歩が、脳卒中や心筋梗塞などの病気を防ぎ、健康を守ることにつながります。
参考文献
- 日本高血圧学会:「日本高血圧学会からの提言」
- Matsubara K, Matsubara Y, Uchikura Y, Sugiyama T.Pathophysiology of Preeclampsia: The Role of Exosomes.Int J Mol Sci,2021,22(5),2572.
- 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」
