朝の吐き気が起こる主な原因
朝、目が覚めたときに感じる吐き気は、とてもつらく不安なものですよね。その原因は一つではなく、実にさまざまです。
前日の食事や睡眠といった生活習慣から、消化器や脳の病気、さらには心の問題まで、多くの可能性が考えられます。
原因によって対処法も変わってきますので、まずはご自身の身体に何が起きているのかを知ることが大切です。
ここでは、朝の吐き気を引き起こす可能性のある主な原因について、一つひとつ詳しく解説していきます。ご自身の症状と照らし合わせながら、原因を探る手がかりにしてください。
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸などが胃から食道へ逆流することで、食道の粘膜に炎症が起きる病気です。
健康な人でも胃酸の逆流は起こりますが、通常はごく短時間で胃へ戻るため問題にはなりません。しかし、逆流が頻繁に起こったり、長時間続いたりすると炎症につながります。
特に朝方に吐き気を感じやすいのは、夜、横になって眠っている間に胃酸が食道へと流れやすくなるためです。
逆流性食道炎では吐き気のほかに、以下のような症状がみられることがあります。
- 胸やけ
- 呑酸(どんさん)
- 喉の違和感やイガイガ感
- げっぷがよく出る
- 胸の痛み
- 長引く咳
以前は高齢の方に多い病気でしたが、食生活の欧米化や肥満、ストレスなどの影響で、最近では若い世代にも増えています。(※1)
慢性的に続く胃の不調(機能性ディスペプシア)
機能性ディスペプシアとは、胃カメラなどの検査で異常がないのにもかかわらず、吐き気や胃もたれ、みぞおちの痛みなどの症状が慢性的に続く疾患です。原因としては、ピロリ菌感染の関与、胃の運動機能異常に加え、脳と腸の情報伝達の乱れ(脳腸相関)(※2)や、ストレスへの過敏な反応が関与していると考えられています。
朝の吐き気も、この機能性ディスペプシアの代表的な症状の一つです。その他には、みぞおちの痛みや焼けるような感じ、少し食べただけで満足になる(早期満腹感)などの症状が現れます。
ストレスや不安、不規則な生活習慣によって悪化することがあります。
胃の不調(胃もたれ・胃腸炎)
朝の吐き気の原因として多いのが、胃の消化機能の低下による「胃もたれ」と、胃や腸に炎症が起こる「胃腸炎」です。
胃もたれは、前日の食べ過ぎや脂っこい食事、夜遅い時間の食事などによって胃に負担がかかり、消化が追いつかないことで起こります。食べ物が長時間胃の中にとどまることで、翌朝に胃の重さやムカムカとした吐き気を感じることがあります。
また、飲酒や強いストレスなどをきっかけに胃の粘膜に炎症が生じる「急性胃炎」でも、下痢を伴わず、吐き気や胃部不快感が前面に出ることがあります。
一方、胃腸炎はウイルスや細菌などの感染によって胃や腸に炎症が起こる病気で、吐き気や嘔吐が先行し、その後に下痢や腹痛、発熱を伴うことが多いのが特徴です。前日の食事内容に関係なく、朝起きた直後から強い吐き気を感じる場合もあります。
吐き気が続く場合や、強い腹痛や発熱を伴う、水分が取れない、症状が数日以上改善しない場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
低血糖
低血糖とは、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が基準値よりも低くなってしまう状態のことです。
ブドウ糖は脳や身体を動かすための重要なエネルギー源なので、これが不足すると様々な症状が現れます。健康な人でも、前日の夕食時間が早すぎたり、アルコールを摂取していたりすると、寝ている間に血糖値が下がりすぎることがあります(夜間低血糖)。この状態で血糖値がさらに下がりすぎると、吐き気を引き起こすことがあります。
低血糖による吐き気には、以下のような症状を伴うことが多いのが特徴です。
- 強い空腹感
- 冷や汗
- 動悸
- 手や指の震え
- 顔面蒼白
- ふらつき、めまい
健康な人でも、食事を長時間抜いたり、極端なダイエットをしたりすると低血糖になることがあります。
また、糖尿病の治療でインスリン注射やお薬を使っている方は、食事の量や時間がずれることで低血糖を起こしやすくなるため特に注意が必要です。もし、このような症状が朝食前に強く出る場合は、低血糖の可能性を考えましょう。
脱水・低血圧
朝の吐き気は、体内の水分不足、つまり「脱水」が原因で起こることもあります。
人は眠っている間にも、呼吸や皮膚から汗として、気づかないうちに多くの水分を失っています(不感蒸泄:ふかんじょうせつ)。特に夏場や、暖房の効いた部屋で寝ている場合は、思った以上に水分が奪われているのです。
体内の水分が不足すると、血液の全体量が減少し、血圧が下がりやすくなります。その結果、脳への血流が十分でなくなり、めまいや立ちくらみとともに吐き気を感じることがあります。
また、もともと血圧が低い「低血圧」の方や、起き上がったときに血圧が急に下がる「起立性低血圧」の方も、朝に吐き気を感じやすい傾向があります。これは、寝ている状態から急に起き上がることで、脳への血液の供給が一時的に追いつかなくなるために起こります。
睡眠不足・自律神経の乱れ
私たちの身体は、「自律神経」によって内臓の働きや体温、呼吸などが無意識のうちにコントロールされています。
自律神経には、身体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の2種類があり、この2つがバランスを取りながら働いています。
しかし、強いストレスや睡眠不足、不規則な生活が続くと、このバランスが崩れてしまいます。特に朝は、リラックスモードの副交感神経から活動モードの交感神経へと切り替わる重要な時間帯です。
この切り替えがうまくいかないと、胃腸の働きも乱れ、吐き気や食欲不振、胃もたれといった症状につながります。
朝の吐き気は、身体からの「少し休んで」というサインかもしれません。まずは十分な睡眠をとり、リラックスできる時間を作ることが大切です。
妊娠初期のつわりや更年期障害など女性特有の疾患
女性の場合、ホルモンバランスの変化が朝の吐き気に大きく関係していることがあります。
代表的なものが、妊娠初期にみられる「つわり」です。特に朝の空腹時に症状が強く出ることが多いため、「モーニングシックネス」とも呼ばれます。
また、40代後半から50代にかけて迎える更年期も、吐き気の原因となりえます。閉経に伴い女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少することで、ホルモンバランスが乱れ、自律神経の働きにも影響が及びます。その結果、ほてりやのぼせ、動悸といった症状とともに、吐き気やめまいなどが現れることがあります。
脳の疾患
朝の吐き気の多くは消化器の不調などが原因ですが、まれに脳の病気が関係していることもあります。
消化器のトラブルと見分けがつきにくい場合もあるため、「いつもと違う症状がないか」を確認することが大切です。
くも膜下出血や脳出血、脳腫瘍、髄膜炎などでは、頭蓋骨の中の圧力が高まることで吐き気や嘔吐が起こることがあります。この場合、吐き気だけでなく、次のような症状が一緒にみられることがあります。
- 突然の激しい頭痛
- 意識障害
- 麻痺やしびれ
- 言語障害
- 視覚異常
- 高熱や首の後ろの硬直(特に髄膜炎)
特に「ハンマーで殴られたような突然の激しい頭痛」や「麻痺」を伴う場合は、一刻を争う緊急事態です。迷わず救急車を呼んでください。
症状が急に強く出た場合や悪化しているときは、脳神経外科など画像検査が可能な医療機関や救急相談窓口を利用しましょう。
耳の疾患
「ぐるぐる回るような、激しいめまい」とともに吐き気が起こる場合、耳の病気が原因かもしれません。
耳の奥にある「内耳(ないじ)」には、体のバランスを保つための重要な器官(三半規管や耳石器)があります。この部分に何らかの異常が起こると、脳が平衡感覚を正しく認識できなくなり、強いめまいとそれに伴う吐き気・嘔吐が生じます。
朝、ベッドから起き上がろうとした時に症状が出やすいのが特徴です。
代表的な病気には頭を特定の方向に動かしたときに、数十秒から1分程度の回転性のめまいが起こる良性発作性頭位めまい症や、難聴や耳鳴りなども伴うメニエール病などがあります。
これらの症状がある場合は、耳鼻咽喉科での診察が必要です。
精神的な疾患
ストレスが胃腸に影響を与えることはよく知られていますが、そのストレスが長期間続いたり、強いものであったりすると、精神的な疾患につながり、その症状の一つとして吐き気が現れることがあります。
特に、うつ病や不安障害、パニック障害などでは、身体的な症状(身体愁訴)が出やすいことが知られています。脳がストレスを感じると、自律神経のバランスが崩れ、胃酸の分泌が過剰になったり、胃の動きが悪くなったりして吐き気を引き起こすのです。
吐き気以外にも以下のような症状が出ることがあります。
- 気分の落ち込みが続く
- 今まで楽しめていたことに興味が持てない
- 常に不安で落ち着かない
- 突然の動悸や息苦しさに襲われる(パニック発作)
- 不眠や過眠
- 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
これらは「心の問題」だけではなく、脳や自律神経の働きの変化によって身体症状として現れる病気であり、適切な治療によって改善が期待できます。
薬の副作用
現在服用しているお薬が、朝の吐き気の原因となっている可能性もあります。吐き気は、多くの薬でみられる比較的頻度の高い副作用の一つです。薬が胃の粘膜を直接刺激したり、脳の嘔吐中枢に作用したりすることで吐き気が起こります。
【吐き気の副作用が出やすい薬の例】
- 抗生物質
- 痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)
- 一部の血圧の薬や心臓の薬
- 抗がん剤
- パーキンソン病の治療薬
- 経口避妊薬(ピル)
- 鉄剤(貧血治療薬)
もし、新しい薬を飲み始めてから吐き気が起こるようになった場合、薬の副作用が疑われます。
ただし、「副作用かもしれない」と自己判断で薬の服用を中止するのは大変危険です。必ず、その薬を処方した医師や、かかりつけの薬剤師に相談してください。薬の種類を変更したり、吐き気止めを一緒に処方したりすることで、症状を和らげることができる場合があります。
朝の吐き気、何科に行けばいい?受診先と治療を解説
ここまでに述べたとおり、朝の吐き気の原因はさまざまです。そのため、症状に合わせて受診すべき診療科を選ぶことが大事となります。ここでは、ご自身の症状と照らし合わせながら、どの専門医に相談すべきか、一緒に確認していきましょう。
消化器内科を受診するケース
胃や食道、腸の不調は、朝の吐き気の原因としてよくみられます。吐き気に加えて次の症状がある場合は、消化器内科の受診を検討しましょう。
- 胸やけ・呑酸(酸っぱいものが上がる感じ)
- 胃もたれ・食欲不振
- みぞおちの痛み
- 喉のつかえ感
- 便が黒っぽい(出血の可能性)
原因としては、逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、胃腸炎、胃潰瘍などが考えられます。消化器内科では問診に加え、必要に応じて胃カメラで確認し、胃酸を抑える薬や胃腸の動きを整える薬で治療します。
脳神経外科を受診するケース
朝の吐き気で最も注意したいのは、脳の病気です。今までにない症状が突然出た場合は、命に関わる可能性があります。
次の症状を伴う場合は緊急性が高いため、すぐに脳神経外科を受診するか、救急車を呼びましょう。
- 突然の激しい頭痛
- 手足の麻痺・しびれ
- ろれつが回らない、言葉が出ない
- 視界の異常(物が二重に見える、視野が欠けるなど)
- ふらつき、まっすぐ歩けない
こうした場合、脳神経外科ではCTやMRIを使って脳の状態を確認し、必要に応じて治療を行います。
症状が重なっているときや急に悪化したときは、医療機関や救急相談窓口を早めに利用することで、安心につながることも多いでしょう。
耳鼻咽喉科を受診するケース
「めまい」と「吐き気」が同時に起こるときは、耳の奥にあるバランス感覚の器官(内耳)のトラブルが原因のことがあります。内耳の異常で体の傾きや回転を正しく感じ取れなくなると、強いめまいに伴って吐き気が出やすくなります。
回転するようなめまいがある、耳鳴りがする、耳が詰まった感じが続く、音が聞こえにくいといった症状が一緒にみられる場合は、耳鼻咽喉科の受診を検討しましょう。原因としてはメニエール病や、頭を動かしたときに起こる良性発作性頭位めまい症などが代表的です。
耳鼻咽喉科では眼振や聴力検査などで原因を確認し、めまいや吐き気を抑える薬を使った治療が行われます。病気によっては、頭の位置を動かして耳石を戻すリハビリのような治療を行うこともあります。
産婦人科を受診するケース
女性の朝の吐き気は、妊娠やホルモン変動が関係していることがあります。妊娠の可能性がある場合は、市販の妊娠検査薬で確認し、陽性なら早めに産婦人科を受診しましょう。受診では妊娠週数の確認に加え、子宮外妊娠など緊急性のある状態がないかも含めて診察します。
つわりが原因の場合は、食事や水分のとり方を調整しつつ、吐き気止めなどで症状を抑えます。水分が取れない、体重減少が大きい場合は点滴治療が必要になることもあります。
また更年期が疑われる場合は、問診を中心に評価し、漢方薬や症状を整える薬などで治療を行います。
心療内科・精神科を受診するケース
消化器内科などで検査をしても明らかな異常が見つからないのに吐き気が続く場合、ストレスや不安が関係していることがあります。こうしたケースでは、心療内科や精神科で「身体に出ている症状も含めて」評価し、治療方針を立てていくのが近道です。
診察では、生活状況やストレス要因、睡眠の状態などを丁寧に整理し、必要に応じてカウンセリングや薬による治療を組み合わせて進めます。吐き気に対しては、自律神経の乱れを整える薬や不安・抑うつを和らげる薬が選択されることもあります。
薬の副作用が心配な場合も、自己判断で中断せず、医師に相談しながら調整することが大切です。症状や体質に合わせて薬の種類や量を調整できるため、不安があれば遠慮なく伝えましょう。
まとめ
朝の不快な吐き気には、食生活などの生活習慣から、消化器、脳、耳、心の病気まで、実にさまざまな原因が隠されています。胸やけや胃痛、めまい、頭痛など、伴う症状が原因を探り、適切な診療科を選ぶための重要な手がかりとなります。
特に、突然の激しい頭痛や手足の麻痺などを伴う場合は、緊急性の高い病気が隠れている可能性があるため、迷わず救急車を呼んでください。
それ以外の症状でも、不安が続く場合は自己判断で放置せず、専門の医療機関を受診しましょう。
参考文献
- 日本消化器病学会ほか「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021」
- 日本消化器病学会・日本神経消化器病学会ほか「機能性ディスペプシアガイド2023」
