脳梗塞は、ある日突然発症し、手足の麻痺など、日常生活に大きな影響を及ぼす病気です。
命が助かった後も、「この麻痺は治るのだろうか」「元の生活に戻れるのだろうか」といった不安を抱える方は少なくありません。
この記事では、脳梗塞の後遺症として起こりやすい症状と、その対処法や改善策について解説します。
脳梗塞とは?
脳梗塞は、脳の血管が血の塊(血栓)などで詰まる病気です。脳梗塞を含む脳血管疾患で治療を受けている人は、全国で約188万人と報告されており、長期的に治療や生活調整が必要となるケースも少なくありません。(※1)
血管が詰まると、脳の細胞へ酸素や栄養が届かなくなり手足の麻痺など様々な障害を引き起こします。脳梗塞の急性期治療として、発症から一定時間以内であれば血栓溶解療法(t-PA静注)や血管内治療などが検討されます。(※2)
脳の血管トラブルは脳卒中と総称され、血管の状態によって、血管が塞がり詰まる脳梗塞と血管が破れて出血する脳出血・くも膜下出血に分かれます。
脳梗塞の一般的な原因は、加齢や生活習慣病による動脈硬化です。複数の血管が合流する血流の乏しくなる領域(境界領域)では、血流がわずかに低下しただけでも脳梗塞が起こりやすくなります。
脳梗塞の後遺症で起こる主な症状
脳梗塞の後遺症の症状や程度は、脳のどの血管が詰まり、どのくらいの範囲でダメージを受けたかで異なります。
代表的な後遺症について以下に解説していきます。
- 運動障害
- 感覚障害
- 視野障害
- 嚥下・構音障害
- 心理・精神面での不安
- 高次脳機能障害
運動障害
運動障害は、手足を動かす指令を出す脳の領域がダメージを受けることで起こります。
代表的な症状は、体の左右どちらか半分が動きにくくなる片麻痺です。
麻痺は、手足に力が全く入らない、あるいは動かせなくなる状態です。以前より力が弱くなり、物を持ったり支えたりすることが難しくなる筋力低下も起こります。
痙縮の症状は、脳からの筋肉をリラックスさせる指令が届かなくなり、筋肉が過度に緊張し、手足がこわばったり、意図せず曲がってしまったりします。
これらの症状は、日常生活のさまざまな場面で影響を及ぼします。
| 困りごとが起こる場面 | 具体的な例 |
|---|---|
| 食事 | 箸やスプーンがうまく使えない、お椀を持てない |
| 着替え | ボタンがかけられない、ズボンがうまく履けない |
| 移動 | 歩くときに足が引っかかり、ふらついて転びやすい |
| 入浴 | 体を洗いにくい、浴槽をまたげない |
| 整容 | 顔が洗いにくい、歯が磨きにくい |
歩行時のふらつきは転倒につながりやすく、リハビリでバランス能力を改善したり、杖や手すりなどの環境を整えたりすることが重要です。
感覚障害
脳梗塞では、体の感覚を認識する脳の領域がダメージを受けることがあり、感覚障害が起こり、運動障害と同時に起こることもあるため生活の質に影響します。
感覚障害の症状は、以下のように個人差があります。
感覚の鈍麻では触られている感じや、熱さ・冷たさが分かりにくくなります。
正座の後のようなジンジン、ビリビリとした不快なしびれが続く場合や何も触れていないのに、脳が痛みの信号を誤って出し、痛みを感じることがあります。
感覚の鈍麻は、ご本人が変化に気づきにくく、やけどや傷の発見が遅れることがあります。また、同じ姿勢を続けても不快感を感じにくく、褥瘡につながる場合もあります。しびれや痛みは外見からは分かりにくい後遺症です。
視野障害
- 脳の後ろ側にある、視覚情報を処理する後頭葉などがダメージを受けると視野障害が起こります。目の機能自体には問題がなくても、脳が正しく映像を認識できなくなるために生じる後遺症で、代表的な症状に両目の視野の同じ側が見えなくなる同名半盲があります。
嚥下・構音障害
口や喉の筋肉を動かす神経が障害されると、嚥下障害や構音障害が起こることがあります。嚥下障害では、食べ物や飲み物をうまく飲み込めず、むせや口の中に食べ物が残るといった症状がみられます。誤って食べ物や唾液が気管に入る誤嚥により、誤嚥性肺炎を引き起こす場合もあります。
構音障害では、口や舌、唇の麻痺によって、ろれつが回らず、言葉が不明瞭になります。これらの障害は、食事や会話といった日常生活に影響します。
心理・精神面での不安
これまでできていたことが急にできなくなることへのショックや、将来への不安から、精神的に不安定になることがあります。さらに、脳のダメージそのものが影響し、感情の起伏が大きくなったり、気持ちの切り替えが難しくなる場合もあります。
こうした心理・精神面の変化として、抑うつ(不眠・食欲不振)、不安障害、感情障害(感情失禁)、アパシー(自発性の低下)などがみられます。これらは、脳の障害に伴って現れる症状の一つです。
高次脳機能障害
脳梗塞の後遺症の中でも、周囲から理解されにくいのが高次脳機能障害です。記憶、注意、思考、判断といった、人間が社会生活を送る上で不可欠な、高度な脳の働きに障害が起きる状態を指します。外見からは分かりにくいため、怠けている、わざとやっていると誤解されやすいのが特徴です。
高次脳機能障害には、さまざまな症状があります。
| 障害の種類 | 具体的な症状の例 |
|---|---|
| 記憶障害 | 新しい出来事を覚えられない、約束や物の置き場所を忘れる |
| 注意障害 | 集中力が続かない、ぼんやりしている、同時に二つのことができない |
| 遂行機能障害 | 計画を立てて物事を実行できない、段取りが悪くなる |
| 社会的行動障害 | 感情のコントロールができない、状況に合わない言動をとる |
| 半側空間無視 | 視野には問題がないのに、片側の空間にある物事に気づかない |
料理の手順がわからなくなったり(遂行機能障害)、会話中にすぐ話が逸れたりする(注意障害)など、日常生活のあらゆる場面で困難が生じます。
本人は障害があることに気づいていない(病識の欠如)場合も少なくなく、社会復帰の大きな壁となることもあります。
ご家族や職場など、周りの人がこの障害の特性を理解し、サポートしていくことが大切です。
脳梗塞の後遺症はどこまで回復・改善する?
脳梗塞の後遺症がどの程度回復するかは、多くの方が気にする点です。後遺症の回復は、失われた機能がどこまで改善するかだけでなく、残っている機能をどのように活かしていくかという視点でも考えられます。
回復の経過には個人差があり、年齢や損傷した部位、範囲、治療やリハビリを開始した時期などが影響します。
神経の再編成について
リハビリによって後遺症が改善するのは、神経の再編成という能力が備わっているためです。これは脳の可塑性とも呼ばれます。
脳梗塞で脳の一部の細胞がダメージを受けると、その部分を通っていた命令の道が塞がれてしまいます。その後残った周りの健康な脳細胞が、別の新しい道(ネットワーク)を作り直し、失われた機能を肩代わりしようと働き始めます。
リハビリは、この新しい道筋作りを効率的にサポートするための、脳のトレーニングです。麻痺した手足を繰り返し動かそうとすることで、脳にこの新しい道を使ってと教え込み、神経の回路を強化していきます。
回復の程度に差が出る4つの条件(年齢・部位・範囲・対応スピード)
脳梗塞の後遺症の回復には個人差がありますが、その差が生まれる背景には、主に年齢、部位、範囲、対応スピードの4つの条件が関係していると考えられています。
年齢は、若い方の方が脳細胞の活力が高い傾向にあり、神経の再編成が活発に行われやすいため、回復の可能性が高いとされています。
損傷した部位は、手足を動かす運動野や言葉を話す言語野など、機能が集中している部分が損傷すると、後遺症が重くなりやすい傾向があります。
損傷した範囲は、小さいほど、周囲の脳細胞が機能を補いやすく、回復が期待できます。範囲が広いと回復に時間がかかります。
発症後、早く治療を開始し、リハビリを始められたかが、その後の回復を左右します。
脳梗塞の後遺症の改善を目指すリハビリと治療
脳梗塞の後遺症に対するリハビリや治療は、症状の種類や程度に応じて行われます。後遺症の改善は、機能の回復だけでなく、日常生活を維持・調整していく過程も含まれます。
ここでは、脳梗塞後に行われる主なリハビリテーションと治療の考え方について整理します。
理学療法・作業療法で麻痺と日常動作の改善を目指す
脳梗塞リハビリの基本となるのが、理学療法と作業療法です。
- 理学療法(PT:PhysicalTherapy)
- 主に立つ、歩くといった、体を動かすための基本的な能力の回復を目指し、関節可動域訓練、筋力増強訓練、基本動作訓練、バランス・歩行訓練などを行います。
- 作業療法(OT:OccupationalTherapy)
- 基本的な動きを応用し、より実践的な日常生活動作の獲得を目指します。日常生活動作(ADL)訓練(食事、着替え、トイレ、入浴など)、家事動作訓練、高次脳機能訓練(道具の使い方、作業の手順)などを行います。
これらのリハビリは、患者さん一人ひとりの状態や目標に合わせて、個別の計画を立てて進めていきます。
言語聴覚療法で会話・嚥下機能の向上を目指す
脳梗塞の後遺症は、手足の麻痺だけでなく、「話す」「食べる」といった機能にも影響を及ぼすことがあります。
言語聴覚療法では、専門家である言語聴覚士(ST)がこれらの機能の回復をサポートします。
言葉がうまく話せない(失語症)、ろれつが回らない(構音障害)方に対しては、発声・発語訓練(口や舌、喉の筋肉を動かす練習)、言語訓練、代替手段の確保を行います。
食べ物や飲み物がうまく飲み込めない嚥下障害は、誤嚥性肺炎という命に関わる病気の原因にもなるため、嚥下機能の評価、間接的訓練(食べ物を使わない口や舌、喉の筋肉を鍛える体操やマッサージ)、直接的訓練(実際に食べる練習)と段階的に訓練を進めます。
自宅での自主トレーニングと生活の工夫を続ける
自宅に戻った後も、回復した機能を維持・向上させるためには、生活の中でリハビリを続けることが大切です。
ご自宅でできる自主トレーニングの例としては、定期的な散歩や買い物、椅子からの立ち座り運動、できる範囲での家事(タオルで机を拭く、洗濯物をたたむなど)があります。
無理のない範囲で、日々の生活に運動を取り入れてみましょう。
ご家族ができるサポートのポイントは、できることは見守る、できたことを具体的に褒める、安全な環境を整える、一緒に取り組むなどの姿勢が大切になります。ご家族のサポートは、ご本人が前向きにリハビリを続けるための大きな力になります。
まとめ
脳梗塞の後遺症は、運動、感覚、言語、認知といった機能に及ぶことがあります。症状には個人差があるので、各々に適したリハビリを受けることが機能回復を目指す上で重要です。
気になる症状がある場合は、専門の医療機関で一度相談してみましょう。
参考文献
- 日本生活習慣病予防協会「脳血管疾患で治療を受けている総患者数は188万4,000人 令和5年(2023) 「患者調査の概況」より | 生活習慣病の調査・統計 | 日本生活習慣病予防協会」
- 日本脳卒中学会.「脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]」
