咳には乾いた咳と痰が絡む湿った咳があり、それぞれの症状に合った成分の薬を選ぶ必要があります。症状に合わない薬を選んでしまうと、期待した効果が得られないばかりか、症状を長引かせてしまうかもしれません。
この記事では、咳のタイプごとに適した成分や薬の選び方、受診の目安と家庭でできる対処法をわかりやすく解説します。正しく理解することで、自分に合う薬を自信を持って選べるようになり、咳の不安を和らげて早めの回復につなげることができます。
咳が出る仕組みと市販薬の基本
咳が続くと体力を消耗し、日常生活にも影響が出やすくなります。市販薬はつらい症状を一時的に和らげるための選択肢の一つです。ここでは、咳が出る仕組みと、市販薬の役割を解説します。
咳は異物を外に出す防御反応
咳は体内に異物が侵入するのを防ぐための生体防御反応です。
食事中にむせるのは、食べ物が誤って気管に入らないように体が守っている自然な反応です。異物が気道の粘膜に触れると、刺激が脳に伝わり、反射的に咳が出ます。咳によって気道がきれいに保たれ、病原体が肺の奥まで入り込むのを防いでいます。
むやみに咳を止めようとするのではなく、原因に合わせて適切に対処することが大切です。
咳中枢と反射メカニズム
咳が発生するのは、脳にある咳中枢が司令を出しているためです。
喉や気管の粘膜が刺激を受けると咳反射が起こります。(※1)ウイルスや細菌、痰などが侵入すると咳中枢からの指令で横隔膜や肋間筋が収縮し、勢いよく息が吐き出されることで咳が起こる仕組みです。
咳が起こるパターンは、熱いものに触れたときに思わず手を引っ込めるのと同じ反射運動で、私たちの意思とは関係なく起こります。鎮咳薬(ちんがいやく)の多くは、咳中枢の興奮を鎮めることで、つらい咳を和らげるように作られています。
咳止め市販薬と処方薬の違い
市販薬と処方薬の違いは、配合される成分の濃度や目的の広さです。
処方薬は、医師が症状に合わせて成分を選んで処方されます。市販薬は咳や鼻水、発熱など複数の症状に対応できるよう、さまざまな成分がバランス良く配合されているのが特徴です。
市販薬と処方薬の違いを、以下の表にまとめました。
| 項目 | 市販薬(OTC医薬品) | 処方薬 |
| 目的 | 一時的な症状の緩和のための対症療法 | 病気の原因に基づいた根本的な治療 |
| 成分 | 一般の方が自己判断で使用できるよう、有効成分の種類や含有量が調整されている | 個々の症状に特化成分や用量が調整される |
| 入手方法 | 薬局やドラッグストアなどで購入可能 | 医師の診察と処方箋が必要 |
| 使い方 | 短期間の使用を前提に、用法・用量を守って使用する | 医師や薬剤師の指示に従って使用する |
手軽に買える市販薬は初期症状の緩和に適していますが、特定の症状を抑えたい場合は処方薬が適しています。実際、急性咳嗽に対するOTC咳止めの薬の効果は限定的だという報告もあります。(※2)
咳が長引くことで起こるデメリット
咳が長引くと、体だけでなく生活や心にも大きな負担がかかります。咳が続くことで起こりやすい影響には、次のようなものがあります。
- 疲れやすくなる
- 眠りが浅くなる
- 仕事や勉強に集中できない
- 周囲の視線が気になる
さらに、強い咳が続くと喉の炎症や胸・背中の筋肉痛を引き起こし、まれに肋骨に負担がかかることもあります。咳が止まらない不安やストレスが重なると、症状がよりつらく感じられる場合もあります。
長引く咳の背景には別の病気が隠れていることもあるため、日常生活に支障が出る前に医師へ相談することが大切です。
咳止めの市販薬に使われる主な成分一覧
市販の咳止めによく使われる主な成分について解説します。
鎮咳成分(デキストロメトルファン・チペピジンなど)
鎮咳成分は、脳の咳中枢に働きかけて咳を鎮める成分です。
咳が続くと体力を消耗し、喉の粘膜を傷つけたり、睡眠を妨げたりします。鎮咳成分を含む薬は、咳の指令を出す脳の興奮を和らげ、反射的に起こる咳を抑える目的で用いられます。
代表的な成分には、依存形成リスクが低い「デキストロメトルファン」や、咳反射を和らげながら、気道分泌を調整する作用がある「チペピジン」があります。(※3)多くの市販薬に含まれるデキストロメトルファンは、夜間の咳を抑え、睡眠を妨げにくくする成分です。
チペピジンは気道粘膜の分泌を促す作用もあるため、咳と痰が同時に気になる場合に役立ちます。鎮咳成分は脳に作用することで咳を落ち着かせて、つらい症状を和らげます。咳を鎮めることで、喉の負担や体力の消耗を和らげる助けになります。(※息苦しさがある場合は、直ちに医療機関を受診してください)
去痰成分(カルボシステイン・アンブロキソールなど)
去痰成分は、喉に絡みついた痰を出しやすくします。痰が溜まると菌の温床となり、気管支炎や肺炎のリスクを高めることがあるため、注意が必要です。
去痰成分には、次のような働きの違いがあります。
| 種類 | 主な成分 | 働き |
| 気道粘液溶解薬 | ・L-カルボシステイン ・エチルシステイン | ねばつく痰をサラサラにして痰を切れやすくする |
| 気道粘液潤滑薬 | ・アンブロキソール ・ブロムヘキシン | 気道表面を潤わせて痰を出しやすくする |
| 気道分泌促進薬 | グアイフェネシン | 気道内の水分を増やして痰を出しやすくする |
痰が絡んで不快なときは、去痰成分が含まれる薬を検討してみてください。
その他の成分(抗ヒスタミン・消炎・気管支拡張など)
市販の咳止め薬は総合感冒薬として、咳や痰だけでなく、風邪に伴う症状に対応する成分が配合されていることがあります。
咳の症状に合わせて、次のような成分を含む薬も選択肢になります。
| 主な成分 | 働き | 薬剤 |
| 抗ヒスタミン成分 | ヒスタミンの働きをブロックしてくしゃみや鼻水、アレルギー性の咳を和らげる | 第一世代(眠気が出やすい) ・クロルフェニラミンマレイン酸塩 ・ジフェンヒドラミン ・メキタジン第二世代(眠気が出にくい) ・フェキソフェナジン ・ロラタジン ・エピナスチン |
| 抗炎症成分 | 喉の炎症を抑えて痛みや声枯れを和らげる | ・トラネキサム酸 ・グリチルリチン酸 |
| 気管支拡張成分 | 狭くなった気管支を広げて呼吸を楽にする | dl-メチルエフェドリン |
抗ヒスタミン成分は眠気を起こすことがあるため、運転する際には注意が必要です。
症状に合わせた咳止め市販薬の選び方
咳の種類によって、選ぶ薬の成分は異なります。ここでは、つらい咳を和らげる市販薬の選び方を解説します。
乾いた咳(空咳)に向いている成分
乾いた咳に向いているのは、脳の咳中枢に働きかける「中枢性鎮咳薬」です。中枢性鎮咳薬は咳反射を抑える働きがあり、依存が少ないため市販薬でも広く使われています。
中枢性と末梢性の鎮咳薬の違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | 中枢性(中枢神経に作用) | 末梢性(気道の刺激・原因に作用) |
| 主な作用 | 脳の咳中枢の働きを穏やかにし、咳の指令を鎮める | 喉の刺激や原因を抑える(痰、腫れ) |
| 代表的な成分 | デキストロメトルファン、コデイン(12歳未満は不可)、チペピジン | カルボシステイン、麦門冬湯 |
| 適用症状 | 乾いた咳、咳で体力が消耗しているとき | 痰が絡む咳、喉のイガイガが原因のとき |
| 注意点 | 痰を出す力も弱めるため、痰が多いときは注意が必要 | 即効性は中枢性より穏やかなことがある |
喉の乾燥が刺激となる場合は、末梢から喉を潤して刺激を和らげる漢方薬も検討されます。トローチやドロップの併用も一つの方法です。
痰が絡む咳に向いている成分
痰が絡む湿った咳には、痰の排出を助ける去痰成分が適しています。
ゴホゴホと痰が出る咳は、体が異物や老廃物を外へ出そうとして起こるものです。そのため、咳だけを無理に止めてしまうと、痰が肺や気道に溜まり、炎症が長引く原因になることがあります。
このような場合は、痰をやわらかくし、外へ出しやすくする去痰成分を含む薬を選ぶことが大切です。市販薬では、パッケージに「去痰」と表示されているものや、ブロムヘキシンなどの成分が配合された製品が目安になります。
痰が粘って切れにくい、気道に張り付く感じがするなど症状に違いがあるため、判断に迷う場合は医師や薬剤師に相談すると安心です。
咳以外の症状がある(喉の痛み・鼻水など)
咳だけでなく熱や鼻水、喉の痛みがある場合は、総合感冒薬(かぜ薬)も選択肢の一つです。
風邪をひくと喉の痛みや鼻水、咳など複数の症状が重なりがちですが、薬をいくつも飲むと成分が重複して副作用のリスクがあります。総合感冒薬は複数症状に対応できるよう、複数の成分が配合されています。
喉の腫れや痛みが強いときには、トラネキサム酸やグリチルリチン酸などの抗炎症成分が役立ちます。透明な鼻水やくしゃみ、アレルギー性の咳には、ヒスタミンの働きを抑える第2世代の抗ヒスタミン成分が適しています。
受診すべき咳と市販薬の注意点
咳止め市販薬は、つらい症状を和らげる選択肢ですが、万能ではありません。ここでは、市販薬を使ううえでの注意点と、医療機関を受診すべき咳のサインについて解説します。
すぐに受診すべき咳の症状
咳の症状の裏には、喘息や肺炎、心不全などの病気や細菌感染が隠れている可能性があります。次の症状に心当たりがある場合は、速やかに医療機関の受診を検討してください。
- 咳で苦しくて眠れない
- 呼吸する際に喘鳴(ぜーぜーする音)が聞こえる
- 深呼吸や咳をしたときに胸や背中に痛みを感じる
- 数日服用しても改善しない
- 黄色や緑色の濃い痰が出る、血が混じる
心臓病や糖尿病などの持病がある方や免疫を抑える薬を使用している方は、感染症が重症化しやすいため、早めに医師に相談してください。
副作用のチェックポイント
咳止め薬を服用する際は、副作用に注意が必要です。
市販の咳止めに含まれる鎮咳成分や抗ヒスタミン成分は、眠くなることがあります。服用後の車の運転には注意が必要です。市販薬は医薬品である以上、副作用のリスクは伴います。
薬を飲んだあとに次のような症状が出た場合は、病院受診の目安にしてください。
- 眠気や口の渇き、吐き気、食欲不振、便秘などがある
- めまいが起こる
- 皮膚に発疹や強いかゆみが出る
- 息苦しさを感じる
皮膚の異常や息苦しさなどの症状は、重いアレルギー反応の可能性があります。風邪薬やアレルギー薬、睡眠導入剤などを同時に飲んでいると、成分が重複して副作用が強く出ることもあります。
市販薬を選ぶ際は、薬剤師や登録販売者に飲み合わせを確認しておくと安心です。
市販薬で改善しないときの対応
市販薬を服用しても症状が改善しない、悪化する場合は服用を中止して受診しましょう。咳が長く続く場合、風邪ではなく別の病気が隠れていることがあります。
受診する際には、医師に次の情報を伝えると診断がスムーズになります。
| 項目 | 伝える内容 |
| 咳の症状 | ・咳が始まった時期や出やすい時間帯 ・痰の有無や色、量 |
| 使用した市販薬 | ・薬の名前や飲み始めた時期 ・何日間服用したか ・症状が楽になったか |
| 咳以外の症状 | 発熱や鼻水、喉の痛み、息苦しさ、食欲の変化など |
症状をメモにまとめたり、使用した薬のパッケージを持参したりすると伝え忘れを防げます。
家庭でできるセルフケアと予防法
薬の効果を高め、咳の回復を助けるためには環境を整えることも大切です。ここでは、家庭で実践できるセルフケアと予防法を解説します。
喉を潤す(水分補給・加湿・マスク)
水分摂取や加湿をして喉の潤いを保つことで、乾燥を防ぎ咳が落ち着きやすくなります。
気道の粘膜は、ウイルスや細菌、ホコリなどの異物が体内に入るのを防ぎます。異物を痰として外へ出すには、粘膜の潤いを保つことが基本です。
家庭で喉を保湿するには、こまめな水分摂取をおすすめします。カフェインやアルコールには利尿作用があり、水分が失われやすくなるため、飲みすぎには気をつけましょう。
冬の暖房や夏のエアコンで空気が乾きやすい環境では、加湿器や濡れタオルを干すことで部屋の湿度を適切に保つことも大切です。マスクを着けると、呼気に含まれる水分で口元の湿度が保たれやすいです。
喉の乾燥やイガイガ感が気になるときにマスクを着けて寝ると、朝の不快感が和らぐことがあります。乾燥しやすい冬場やエアコンの使用中は、湿度を管理して喉を保護しましょう。
タバコや刺激物を控える
咳が出るときは、喉への刺激を抑えることが回復を早めるポイントです。
咳が続いているときの気道は炎症で敏感になっているため、タバコの煙は粘膜を刺激して症状を悪化させる原因になります。煙に含まれる有害物質は、異物を外へ運ぶ働きを弱めるため、痰が溜まりやすくなり、咳も悪化しがちです。
周囲の人が煙を吸い込む受動喫煙も同様に影響するため、煙を避ける環境づくりが大切です。次のような飲食物は、喉の炎症に刺激を与えることがあります。
- 香辛料の強い料理(カレーや唐辛子、わさびなど)
- 熱い、または冷たい飲み物
- アルコール飲料
- 炭酸飲料
刺激を抑えることで喉への負担が減り、回復しやすい状態を整えることにつながります。
寝る姿勢の工夫で咳を和らげる
夜間の咳で眠れないときは、寝る姿勢を工夫してみましょう。
仰向けに寝ていると、気づかないうちに鼻水や胃酸が逆流して喉を刺激してしまう場合があります。対策として、背中にクッションを差し込み、上半身を少し高くしてみてください。傾斜をつけることで肺の位置が下がり、呼吸が楽になることがあります。また、水分も少し多めにとってみると咳の刺激が和らぐことがあります。
仰向けでは、舌が喉の奥に落ち込み、気道が狭くなることがありますが、横向きで寝ると気道が確保されて、呼吸が楽になることがあります。咳の状態に合わせて、自分が楽に感じる姿勢を探してみるのも良いです。
咳が続くときには寝室の環境づくりも大切です。寝具をこまめに交換してダニやホコリを減らすことを心がけましょう。
まとめ
咳止めの市販薬を選ぶ際は、乾いた咳か痰が絡む咳かを確認し、症状に合った成分を選ぶことが大切です。原因に合わない薬の服用を続けると、症状を長引かせてしまう恐れがあります。
薬選びに迷ったときは、薬剤師や登録販売者に相談しましょう。部屋の加湿や刺激物を控えるなどのセルフケアも咳を鎮める助けになります。
咳止めの市販薬を数日服用しても改善しない場合や、呼吸が苦しいときは迷わず医療機関を受診してください。適切な薬選びと早めの対応が、症状の悪化予防につながります。
参考文献
- 公益社団法人 日本薬学会:「咳反射」
- Smith SM, Schroeder K, Fahey T.Over-the-counter (OTC) medications for acute cough in children and adults in community settings.Cochrane Database Syst Rev,2014,2014,11.
厚生労働省:「鎮咳去痰薬」
