「なんだか気分が晴れない」「以前のようにやる気が出ない」などの不調で、うつ病や抑うつ状態ではないかと不安になっていませんか?
両者はよく似ていますが、一時的な状態か、専門的な治療が必要な病名かという違いがあります。
この記事では、うつ病と抑うつ状態の違いから、症状・原因・受診の目安まで解説します。
ご自身や大切な人の状態を正しく理解し、回復へ近づけられるようぜひ参考にしてください。
うつ病と抑うつ状態の違い
うつ病や抑うつ状態は、気分が落ち込んだり、やる気がまったく出なくなったりする心の不調です。しかし、両者をご自身で判別するのは困難です。
ここでは、うつ病と抑うつ状態の違いを理解できるよう、以下の内容を解説します。
- 定義の違い
- うつ病の症状と原因
- 抑うつ状態の症状と原因
定義の違い
抑うつ状態とうつ病では、以下のように定義が異なります。
| 抑うつ状態(うつ状態) | うつ病 | |
|---|---|---|
| 意味 | 気分が落ち込んでいる状態 | 治療が必要な心の病気 |
| 期間 | 一時的であることが多い | 症状が長期間(目安として2週間以上)続く |
| 影響 | 日常生活に支障がない場合もある | 仕事や生活に大きな支障が出ている |
| 診断 | 医学的な診断名ではない | 医師が国際的な診断基準にもとづき診断する |
抑うつ状態は、つらい出来事などをきっかけに一時的に気分が沈んでいる状態を指す言葉です。(※1)
一方、うつ病は単なる気分の落ち込みではなく、セロトニンなどの脳内の神経伝達物質の働きの低下などが複雑に関係して、憂うつな状態になる病気と考えられています。
日本人のうち、約15人に1人が生涯でかかるといわれています。(※2)
うつ病の症状と原因
うつ病になると、以下のような症状が心身に現れます。
- 一日中気分が重く、理由もなく涙が出る
- 趣味やテレビなど、今まで好きだったことが楽しめない
- 何事にも関心が持てず、億劫に感じる
- 「自分はダメな人間だ」と過度に自分を責めてしまう
- 「このまま消えてしまいたい」という考えがよぎる
- 寝つけない、夜中や早朝に目が覚めてしまう
- 食欲がまったくない(または、甘いものなどを過剰に食べてしまう)
- 常に鉛のように体が重く、疲れが抜けない
- 頭痛、肩こり、動悸、めまい、胃の不快感など
うつ病の原因は一つではありません。ストレスなどの環境要因と、元々持っている体質などが複雑に絡み合って発症すると考えられています。特に、脳内で感情や意欲をコントロールする神経伝達物質のバランスが乱れることが関係しているといわれています。
抑うつ状態の症状と原因
抑うつ状態の症状はうつ病と重なる部分も多いですが、比較的軽度で一時的な場合を指すことがほとんどです。
例えば、「適応障害」と診断される状態や仕事での失敗、離婚などがきっかけで一時的に気分が落ち込み、食欲がなくなったり眠れなくなったりすることがあります。
抑うつ状態を引き起こす原因は、さまざまです。仕事・家庭の悩みなどの心理的ストレスや引越し・転職などの環境変化、更年期障害などの体の病気、薬の副作用などが挙げられます。
多くの場合、原因となったストレスが解消されたり、新しい環境に慣れたりすることで、抑うつ状態は自然に回復する傾向です。しかし、抑うつ状態の感じ方や表現の仕方は、文化的な背景も影響する可能性があります。周りの目や社会的な偏見が、知らず知らずのうちに心理的な負担を重くしている可能性も指摘されています。(※3)
症状が長引いたり、悪化したりして日常生活に支障が出ている場合、うつ病に移行している可能性もあるため注意が必要です。
うつ病や抑うつ状態が疑われるときの対処法

うつ病や抑うつ状態になった際は、ご自身の状態を客観的に知り、適切な助言などを求めることが大切です。以下の方法を参考に、できることから試してみてください。
セルフチェックする
うつ病や抑うつ状態が疑われる場合は、簡単なセルフチェックを試してみましょう。うつ病や抑うつ状態のセルフチェック方法としては、簡易抑うつ症状尺度(QIDS−J)などがあります。
QIDS−Jは、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM−Ⅳ)に対応して開発された、世界的に広く使われているチェック方法です。睡眠や食欲、体重、精神運動状態に関する項目の質問に答えることで、うつ症状の程度を簡易的に調べられます。具体的な質問内容は、厚生労働省のページをご確認ください。(※4)
ただし、セルフチェックは医学的な診断ではなく、あくまでご自身の状態を知るための目安です。うつ病・抑うつ状態の疑いのある結果が出た場合は、医療機関に相談しましょう。セルフチェック結果を医療機関に持参すると、医師があなたの状態を理解する助けとなります。
うつ病のセルフチェックについてはコチラ⇒【医師監修】うつ病のセルフチェックリスト|診断の流れと受診の目安を解説
※注意:うつ病だと断定するものではなく、あなた自身がつらいと感じていたら、医療機関を受診するか、メンタルヘルス(心の健康)の専門機関に相談してみましょう。
なりやすい人の特徴に当てはまるか確認する
どのような性格や気質の人がうつ病・抑うつ状態になりやすいかを知ることも、自分自身の心の状態を理解するうえで役立ちます。以下のような傾向を持つ方は、心のエネルギーを消耗しやすいといわれているため、注意してください。
- 真面目で、与えられた役割を完璧にこなそうとする
- 物事に対して「こうあるべきだ」という思いが強い
- 周囲からどう見られているかを過度に気にしてしまう
- 人に頼るのが苦手で、何でも一人で抱え込んでしまう
ただし、これらの特徴に当てはまるからといって、うつ病になるとは限りません。ご自身の心の癖を知り、ストレスとの上手な付き合い方を見つけるためのヒントにすることが大切です。特徴に当てはまり、うつ病・抑うつ状態が疑われる症状がみられる場合は、医療機関に相談しましょう。
周囲の人に相談する
うつ病や抑うつ状態の疑いがあるときは、「心配をかけたくない」と一人で抱え込まず、家族や友人、パートナーに相談してください。誰かに話を聞いてもらうだけで、絡まっていた思考が整理されたり、自分では思いつかなかった視点に気づかされたりすることがあります。
周囲の人に相談し、「自分のことを気にかけてくれる人がいる」と実感できるだけでも、大きな心の支えとなるでしょう。友人・家族などに相談しにくい場合は、会社の産業医や相談窓口に話を聞いてもらうのも一つの選択肢です。
自分の心の悩みを話すことは、弱さではありません。回復に向けて踏み出すための勇気ある一歩です。
医療機関を受診する
セルフケアを試したり、周りの人に相談したりしても気分が晴れないときは、医療機関を受診することをおすすめします。特に、以下のような状態に当てはまる場合は、早めに心療内科や精神科を受診することを検討しましょう。心療内科と精神科の違いは、別記事をご参照ください。
- 気分の落ち込みや無気力な状態が2週間以上続いている
- 仕事や家事、勉強にまったく集中できなくなった
- 「このまま消えてしまいたい」という考えが頭をよぎる
医療機関では、専門家があなたの話を丁寧に聞き、心身に不調が起きている原因を正確に判断してくれます。最近では、脳波などを調べることで、どの治療法が患者さんに適していそうか予測する研究も進んでいます。(※5)
うつ病は、早期に専門的な治療を始めることで、よりスムーズな回復が期待できます。少しでも心身の不調に気づいたら、すみやかに医師に相談してください。
うつ病・抑うつ状態の主な治療法

うつ病や抑うつ状態の治療は、一つの正解があるわけではありません。まずは、エネルギーが枯渇してしまった心と体をしっかりと休ませることが大切です。休養を行なったうえで、患者さんの状態に合わせていくつかの治療法を組み合わせていきます。
ここでは、うつ病・抑うつ状態の主な治療法として、以下の内容を紹介します。
- 薬物療法
- カウンセリング
- 認知行動療法
薬物療法
薬物療法は、脳のエネルギー不足を補い、うつ病や抑うつ状態のつらい症状の軽減を目指した治療法です。
うつ病は気の持ちようや性格の問題ではなく、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れることで起こる脳の機能的な不調です。抗うつ薬は、神経伝達物質のバランスを穏やかに整える手助けをします。特に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)をはじめとする近年の抗うつ薬は、多くの研究で有効性が確認されています。(※6)
ただし、薬物療法で効果が出始めるまでには、時間がかかる点に注意が必要です。
すぐに効果が現れなくても自己判断で中断せず、医師の指示に従って服用を続けましょう。服用量を減らしたい場合も、医師と一緒に慎重に決めていく必要があります。
薬の飲み始めには、眠気や胃の不快感などの副作用が出ることもあります。多くの副作用は時間とともに和らぐ傾向ですが、つらいときには自己判断で薬をやめず、医師に相談してください。
カウンセリング
うつ病や抑うつ状態の治療法には、薬物療法だけでなく、カウンセリングによる心のケアもあります。
カウンセリングは、専門家との対話を通じて、ごちゃごちゃになった頭のなかを整理する方法です。つらさの原因となっているストレスや悩みに対して、どう向き合っていくかを探ります。
うつ病や抑うつ状態のときは、物事を実際よりも悲観的に捉えてしまう傾向です。カウンセリングでは、まずは物事を悲観的に考える自分の癖に気づくことを目指します。癖に気づいたうえで、考え方や行動パターンを専門家と一緒に変えていき、症状の改善へと向かいます。
「なぜ自分はいつもこう考えてしまうんだろう?」という無意識のパターンに気づくだけでも、心の負担は軽くなるでしょう。安心して話せる空間で、ご自身の心とじっくり向き合うことは、回復へと向かう一歩です。
認知行動療法
認知行動療法は、うつ病になりにくい考え方のスキルを身につけるための実践的な心理療法です。
私たちの気分は、起きた出来事そのものではなく、出来事をどう捉えるか(認知)によって大きく変わります。認知行動療法では、この捉え方の癖に焦点を当ててうつ病・抑うつ状態の改善を目指します。
例えば、仕事でミスをした出来事に対して、「自分がダメなんだ」と考える癖があると、気分はどんどん落ち込むでしょう。自分を責めるのではなく、ミスの経験をどう活かすかを考えることで、より柔軟で現実的な考え方に少しずつ変わっていきます。
認知行動療法により、症状の改善だけでなく、再発予防につながることを示す研究報告もあります。(※7)ただし、効果の現れ方には個人差がある点には注意が必要です。
まとめ
一時的な気分の落ち込みである抑うつ状態は誰にでも起こりえます。
しかし、心の不調が2週間以上も続いて日常生活に支障が出ているのなら、治療が必要なうつ病のサインかもしれません。
大切なのは、「自分のせいだ」「甘えているだけ」と一人で抱え込まないことです。うつ病は脳のエネルギーが枯渇した状態で、適切な休養や治療によって回復へと向かう可能性があります。
もし、つらい気持ちが続いているのであれば、心療内科や精神科などの専門家へ相談してみてください。
参考文献
- 厚生労働省:「抑うつ状態(うつ状態)」
- 厚生労働省:「うつ病」
- Shahnawaz Towheed, Zaakir Hamzavi, Viktoria Eleftheriadou, Khaled Ezzedine; GLObal Vitiligo Atlas (GLOVA).Vitiligo and Depression in Western versus South Asian Countries: Cultural Background Should Be Considered.J Invest Dermatol,2025.
- 厚生労働省:「うつ病チェック」
- Zongya Zhao, Xiangying Ran, Junming Wang, Shiyang Lv, Mengyue Qiu, Yanxiang Niu, Chang Wang, Yongtao Xu, Zhixian Gao, Wu Ren, Xuezhi Zhou, Xiaofeng Fan, Jinggui Song, Yi Yu.Common and differential EEG microstate of major depressive disorder patients with and without response to rTMS treatment.J Affect Disord,2024,367,777-787.
- Nastaran Talaee, Shataw Azadvar, Sanaz Khodadadi, Nahal Abbasi, Zahra Najafi Asli-Pashaki, Yasaman Mirabzadeh, Gita Kholghi, Shahin Akhondzadeh, Salar Vaseghi.Comparing the effect of fluoxetine, escitalopram, and sertraline, on the level of BDNF and depression in preclinical and clinical studies: a systematic review.Eur J Clin Pharmacol,2024,80,7,p.983-1016.
- 厚生労働省:「Q5:カウンセリング効果の実際は?」
