新しい環境や人間関係の変化などのストレス過多をきっかけに、「気分が晴れない」「特定の場所に行くと体調が悪い」と感じていませんか。真面目で責任感が強い人ほど陥りやすいその不調は、適応障害のサインかもしれません。
この記事では、適応障害の具体的な症状から原因、うつ病との違い、そして回復への道筋となる治療法や再発予防策までを詳しく解説します。
適応障害とは?症状・原因について
適応障害とは、ある特定の出来事や状況が大きなストレスの原因となり、心や体に不調があらわれ、日常生活に支障をきたしている状態を指します。
ストレスの原因が起きてから、1か月以内は「急性ストレス反応」、1か月を過ぎると「適応障害」と呼ばれることが多いです。詳しくは対処法のところで述べますが、適応障害の場合は、ストレスの原因が軽減されると、時間の経過とともに症状が和らぐ傾向にあることが知られています。
ここでは、適応障害の症状と原因について、詳しく解説します。
症状
適応障害の症状は、「からだ」「こころ」「行動」の3つの側面に現れます。症状の出方は人それぞれですが、ストレスの原因となる状況で症状が強く出て、離れると和らぐ傾向がある点が大きな特徴です。
ご自身の状態と照らし合わせながら、以下のチェックリストを確認してみてください。
| 項目 | 特徴 |
|---|---|
| からだ |
・朝起きるのがつらく、体が重いと感じる ・寝つきが悪い、または寝すぎてしまう ・頭痛や動悸、胃の不調など、原因不明の体調不良が続く |
| こころ |
・悲しさや不安、イライラを感じやすくなった ・気力が湧かず、何をするのも億劫に感じる ・以前は楽しめていたことに興味が持てない |
| 行動 |
・仕事や学校に行くのがつらく、休みがちになった ・集中力が続かず、ミスが増えた ・人と会うのを避け、一人で過ごす時間が増えた・食欲が落ちた、または食べ過ぎてしまう |
※このリストは診断を行うものではありません。当てはまる項目が多い場合は、専門医への相談をおすすめします。
これらのサインに気づいたら、一人で抱え込まずにストレスの原因の軽減をサポートしてくれそうな周囲の人、または専門家に相談することが大切です。
原因
適応障害の原因はストレスですが、その内容は多岐にわたります。仕事やプライベートなど、日常生活のさまざまな出来事が引き金となります。
| 原因となる環境 | 具体例 |
|---|---|
| 仕事や学校 |
|
| 家庭やプライベート |
|
同じ出来事を経験しても、ストレスの感じ方は人それぞれです。適応障害は、原因となるストレスがはっきりしているため、適切に対処することが早期回復のポイントです。早期に対応することで、うつ病や他の精神疾患などのより深刻な状態へ移行するのを防げる可能性もあります。
適応障害と他の病気の違い
ストレスが原因で心や体に不調があらわれると、適応障害なのか、違う病気なのかと不安に思うかもしれません。
適応障害の症状は、うつ病や不安障害など、他の心の病気と似ている部分が多くあります。
ここでは、適応障害と混同されやすい4つの病気について解説します。
うつ病
適応障害と間違われやすいのがうつ病です。どちらも気分の落ち込みや意欲の低下といった症状がみられますが、原因と症状の現れ方に大きな違いがあります。
| 視点 | 適応障害 | うつ病 |
|---|---|---|
| 原因の特徴 | 特定の明確なストレスが原因 | 原因がはっきりしないことも多い |
| 症状の持続性 | ストレスの原因から離れると症状が軽快する | ストレスから離れても一日中気分が落ち込む |
| 回復の傾向 | まず第一に、ストレスの原因を取り除く(環境調整)ことが重要(うつ病の治療に準じた対応が必要な場合もある) | 休養と薬物療法、精神療法、心理社会的介入(カウンセリング)など |
適応障害と診断された方の37.8%が、うつ病など別の診断名に変更されたという厚生労働省のデータ(2016年)もあります。(※1)症状が長引く場合はうつ病へ移行することもあるため、早期に専門医へ相談し、正確な診断を受けることが重要です。
双極性障害
双極性障害は、気分が高まる「躁(そう)状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を認める病気です。
適応障害でもストレスの有無によって気分の波はありますが、それはあくまで外部の状況に対する反応です。双極性障害の気分の波は、脳の機能的な問題が関係していると考えられており、周りの状況とは無関係に起こることが知られています。
ただし、周りの状況に影響を受けて気分の波が激しくなったり、急速に「躁」と「うつ」が入れ替わったりする可能性はあります。
うつ状態の時の症状はうつ病とよく似ていますが、躁状態の時には普段とは違う様子が見られます。
- ほとんど眠らなくても元気に活動できる
- 次から次へとアイデアが浮かび、おしゃべりになる
- 根拠のない自信に満ちあふれる
- 普段ならしないような高額な買い物や危険な行動をとる
- 些細なことでイライラし、怒りっぽくなる
適応障害のうつ状態と診断されていても、過去にこのような躁状態を経験したことがある場合は、双極性障害の可能性があります。
また、女性特有の生理周期にともなう情緒の不安定さなどが重なることもあります。
気分の大きな波がある場合は、かかりつけ医に相談、もしくは専門医に受診するようにしましょう。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
PTSDも適応障害と同じく、ストレスとなる出来事が原因で発症しますが、そのストレスの性質が大きく異なります。
適応障害の原因は、仕事や人間関係など、日常生活の中で起こりうる幅広いストレスであり、ストレスが1か月以上続くことも要因となります。
一方、PTSDの原因は、命の危険を感じたり、心に深い傷を残したりするような精神的衝撃を受ける出来事(トラウマ)に限られます。たとえば、自然災害や重大な事故、火災、犯罪被害などがトラウマとなることがあります。
PTSDには以下のような特有の症状が1ヶ月以上続きます。(※2)
- 突然、つらい出来事を繰り返し鮮明に思い出してしまう(フラッシュバック)
- その出来事を思い出すような場所や状況を避ける
- 常に神経が張り詰め、眠れない、ささいなことで驚く
原因となるストレスの強さと、フラッシュバックなどの特有な症状の有無が、適応障害とPTSDの大きな違いです。
不安障害
適応障害の症状として不安が強く出る場合、不安障害と似ていることがあります。適応障害は、特定のストレスが原因になっているため、その状況から離れれば不安も自然と和らいでいく傾向があります。
不安障害は、漠然とした不安が続いたり、人前に出ることに強い恐怖を感じたり、突然激しい動悸や息苦しさに襲われたりします。
ストレスの原因がはっきりしないのに強い不安が続く場合は、不安障害の可能性も考えられます。
適応障害になりやすい人の特徴
真面目で責任感が強い方は、周囲からの信頼も厚く、トラブルが起きても一人で解決しようと努力し、心身に負担をかけがちです。完璧主義な方は小さなミスでも見逃せず、自身を追い込んでしまう傾向があります。
他人に気を遣いすぎたり、相手の反応を気にしすぎたりすると、心に負担がかかり疲れてしまうこともあります。環境や状況の変化に適応するのが苦手な方も適応障害になりやすい人に当てはまるでしょう。大切なのは、ご自身の特性を弱さと捉えず、個性として理解することです。
適応障害の対応や治療法
適応障害は原因となるストレスがはっきりしているため、適切な対応や治療で症状の改善を目指せる病気です。
治療の目標は、まずつらい症状を和らげ、心と身体を十分に休ませることです。そのうえで、ストレスにうまく対処できる力を身につけ、あなたらしい穏やかな生活を取り戻すことを目指します。ここでは、適応障害の3つの対応法について解説します。
①環境改善
適応障害の治療において、重要なのが環境改善です。適応障害は、特定のストレスが原因で発症するため、原因から物理的、心理的に距離を置くことが大切です。まずは、心と身体をゆっくり休ませるための安全な場所を確保しましょう。
ストレスの原因となっている職場や学校から一時的に離れ、療養に専念することも重要です。
ただし、療養に専念できない事情がある場合は、ストレスの原因の軽減をサポートしてくれそうな周囲の人、または専門家に相談してみましょう。
特定の環境下や人間関係にストレスの原因がある場合は、一人で抱え込まずに、ストレス軽減につながる対応に取り組むサポートを受けると症状が改善することがあります。業務内容や課題などを調整してもらい、心身の負担を軽減してもらいましょう。
②精神療法と心理社会的介入(カウンセリング)
精神療法と心理社会的介入(カウンセリング)は、ストレスの原因そのものをなくすことが難しい場合に行う治療法の一つです。精神科医が医療行為としておこなう精神療法、臨床心理士・公認心理師がおこなうカウンセリングなどを通じて、ストレスへの受け止め方や考え方を見直し、ご自身の力で乗り越えていくスキル(ストレスコーピング)を身につけることを目指します。
代表的な方法は認知行動療法で、ストレスを感じた時に無意識に浮かぶ考え方の癖に気づき、気分や行動への影響を客観的に理解する訓練を行います。認知行動療法は、つらい気持ちを生み出している考え方や行動のクセに気づき、より楽になる捉え方や行動に少しずつ整えていく治療法です。
③薬物療法
薬物療法は、適応障害の根本的な原因を治すものではなく、悩んでいる症状を和らげる対症療法です。薬の力を借りて症状の緩和を図ることで、心身を休ませ、環境調整や精神療法に前向きに取り組むベースを整えましょう。
処方される薬には、主に以下のような種類があります。
| 症状の種類 | 使われる薬 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 不安や緊張が強い | 抗不安薬 | 自律神経の緊張・不安・焦燥感を和らげる |
| 眠れない | 睡眠導入剤 | 寝つきや眠りの質を改善させる |
| 気分の落ち込み | 抗うつ薬 | 憂うつな気分や意欲の低下を改善する |
薬は症状が落ち着けば、他の治療法の効果を見ながら少しずつ減らしていくのが一般的です。つらい時期を乗り越えるための一時的な支えとして、主治医の先生とも相談していきましょう。
適応障害の再発を防ぐための方法
適応障害の治療を経て症状が和らいできたとき、多くの方が安堵と同時に「また同じことになったらどうしよう」という再発への不安を抱えます。
ここでは、ご自身のペースで今日から始められる具体的な方法を4つご紹介します。
①ストレス対処能力を高める
ストレスを完全になくすのは、現代社会では簡単ではありません。だからこそ、上手にストレスに対処していくことが重要です。
たとえば、趣味を見つけて没頭したり、家族・友人と話して気分転換したりするといいでしょう。体もリラックスさせることが大事で、呼吸法や入浴、ストレッチなどのリラクゼーションを行うことで心の負担も軽減されます。
またストレスの原因がはっきりしている場合は、そこから離れることも大事です。
②生活習慣を見直す
不規則な生活や栄養バランスの乱れは、自律神経の働きを不安定にし、ストレスへの抵抗力を弱めてしまう原因になります。心と体をしっかりと安定させるために、日々の生活習慣を見直すことは、再発予防の基本です。
| 項目 | 生活習慣の改善ポイント |
|---|---|
| 睡眠 |
・毎日同じ時間に起き、体内時計を整える ・6~8時間の睡眠時間を確保する ・就寝前にはスマホやPC画面を見ない |
| 食事 |
・1日3食、定期的に食事を摂る ・バランスの良い食事を心がける ・カフェインの摂り過ぎに注意する |
| 運動 |
・ウォーキングなど、軽い有酸素運動を週に2~3回程度行う ・日常生活の中で体を動かす工夫する |
できることから、無理のないように少しずつ習慣にしていくことが大切です。
③自分自身の考え方の癖と向き合う
同じ出来事を経験しても、ストレスの感じ方は人それぞれです。ストレスの感じ方は無意識のうちに身につけている考え方の癖が影響していることがあります。
ストレスをため込みやすい考え方に自分で気づき、少し見方を変える練習をすることで、再発予防に役立ちます。
ストレスを感じやすい方の考え方の特徴は、以下のとおりです。
| 考え方の癖 | 特徴 | 別の考え方 |
|---|---|---|
| 完璧主義 | 「~すべき」「100%でないとダメ」と考える | 「8割できれば十分」「完璧でなくても大丈夫」 |
| 白黒思考 | 物事を「良いか悪いか」「成功か失敗か」で判断する | 「悪い面もあるけど、良い面もある」「中間もOK」 |
| マイナス思考 | 良かったことより、悪かったことばかりに目が行く | 「うまくいかなかったけど、学べたこともある」 |
| 過剰な一般化 | 一度の失敗を「いつもこうだ」とすべてのことに当てはめる | 「今回はたまたまそうなっただけかもしれない」 |
物事には多面性があり、一つの出来事にも見る角度や立場によって感じ方や考え方は変わります。大切なのは自分の癖に気づき、別の考え方をするとどうなるのかと、少しだけ視野を広げることです。
④復職・復学支援プログラム(リワーク)を活用する
休職や休学を経て元の環境に戻ることは、ご本人にとって大きな一歩ですが、同時に新たなストレスがかかる場面でもあります。復帰への不安を和らげ、スムーズな社会生活への再スタートをきるために、「リワークプログラム」などの支援を活用できます。
リワークプログラムは、職場復帰を目指す方が利用できるリハビリテーションの一種です。決まった時間に通所し、働くための体力と生活リズムを取り戻しながら、支援を受けられます。
パソコン作業や軽作業を行うことで集中力や持続力を回復させたり、他の人とのコミュニケーションを取ることで関わり方を学んだりできます。ストレスに晒された時の対処法を認知行動療法を用いて学び、復帰を目指します。
専門家の力を借りて準備を進めることが、スムーズな復帰と再発防止には重要です。リワークプログラムは、精神科の医療機関や地域障害者職業センターなどで提供されています。
まとめ
適応障害は、特別な人がなる病気ではなく、特定のストレスが原因で誰にでも起こりうる心と身体からのサインです。決してあなたの心が弱いわけでも、甘えでもありません。
大切なのは、ご自身を責めずに、まずは原因となっているストレスの原因から距離を置き、心と身体をゆっくり休ませることです。つらいと感じたら、一人で抱え込まずに、ぜひ専門の医療機関へ相談してください。
参考文献
- 厚生労働省:「精神疾患により長期療養する労働者の病状の 的確な把握方法及び治ゆに係る臨床研究」p.17
- Vasconcelos A, Reichenheim M, do Nascimento E, Lima E, Kristensen C, Mendlowicz M. The best of two worlds: Combining the DSM-5 and ICD-11 clusters of symptoms for posttraumatic stress disorder in a single screening scale. Brazilian Journal of Psychiatry,2023,45,5,p.423-430.
