激しい気分の浮き沈みに、「自分の性格の問題だろうか」と一人で苦しんでいませんか。コントロールできない感情の波は、双極性障害が原因かもしれません。双極性障害は、日本人1,000人のうち4〜7人弱が発症するとされる病気です。(※1)
この記事では、双極性障害の主な症状や、発症原因、具体的な治療法まで解説します。正しい知識を身につけ、ご自身や大切な方をケアするための参考にしてください。
この記事でわかること
- 双極性障害の躁状態・うつ状態・混合状態、3つの症状の特徴
- 双極I型・II型の違いと、うつ病と見分けるポイント
- 発症に関わる体質・脳・環境の要因
- 薬物療法と心理社会的治療、2つの治療アプローチ
- 再発を防ぐ4つのセルフケア
目次
双極性障害とは?
双極性障害は、激しい気分の浮き沈みが現れる脳の病気です。かつては「躁うつ病」と呼ばれていましたが、現在は双極性障害という名称が一般的です。
双極性障害の理解を深めるために、疾患の主な概要や、有病率と発症しやすい年齢を解説します。
気分の波が極端に現れる脳の疾患
双極性障害は、気分の波が極端に現れる脳の機能的な病気です。気分が異常に高揚して活動的になる「躁状態」と、意欲が著しく低下して憂うつになる「うつ状態」を繰り返します。(※1)本人の意思の力だけで気分を制御するのは難しく、遺伝的な要因などが深く関わっていることがわかっています。
気分の波自体は、誰にでもあるでしょう。しかし、双極性障害の場合は振れ幅が大きく、人間関係や仕事、学業などの人生に影響を及ぼしかねません。
双極性障害のうつ状態の症状は、うつ病とよく似ていますが、治療法が異なるため、専門家による正確な診断が重要です。双極性障害の方に、うつ病の治療を続けると、かえって症状を悪化させる可能性があります。
有病率と発症しやすい年齢
双極性障害は、特別な病気ではありません。日本では、生涯のうちに発症する人の割合は0.4〜0.7%ほどと報告されている病気です。(※1)発症年齢は10代後半〜20代が多く、比較的若い時期に症状が出始めるのが特徴ですが、ほかの年代で発症することもあります。(※2)
最初はうつ状態が目立ち、うつ病として治療を受けているなかで、躁状態が現れ、双極性障害へと診断が変わるケースもあります。
ご自身の気分の波で悩まれていることがあれば、一人で抱え込まず、専門の医療機関に相談することが大切です。
双極性障害の主な症状
双極性障害の症状は、主に次の3つの状態に分けられます。
- 躁状態
- うつ状態
- 躁とうつが混在する混合状態
一般的に、躁状態の期間よりも、うつ状態の期間のほうが長く続く傾向にあります。これらの症状を正しく知ることが、ご自身や大切な方を守るための第一歩です。
躁(そう)状態
双極性障害に特徴的な躁状態とは、気分が異常に高揚し、エネルギーに満ちあふれた状態です。本人は「絶好調だ」と感じていることが多く、病気であることの認識が持てないのが特徴です。
躁状態での行動は、ご本人の本来の意思とは裏腹に、人間関係のトラブルや大きな出費につながるケースもあるため、早めのサポートが大切です。
躁状態の主なサインは、以下のとおりです。
- 睡眠欲求の低下
- ほとんど眠らなくても平気で、精力的に活動を続ける
- 多弁・おしゃべり
- 普段より口数が増え、人の話を遮って一方的に話し続ける
- 活動性の高まり
- 次々とアイデアが浮かびじっとしていられなくなる
- 誇大な自己評価
- 根拠のない自信に満ち溢れ、尊大な態度をとる
- 衝動的な行動
- 買い物やギャンブルなどに大金をつぎ込む
- 社会的逸脱行動
- 人の意見に耳を貸さなかったり、性的に奔放になったりする
これらの症状がみられたら、迷わず医療機関を受診しましょう。
うつ状態
双極性障害の方には、躁状態だけでなく、うつ状態も現れます。うつ状態とは、躁状態とは正反対に心と体のエネルギーが尽きて、気分が深く沈み込んでしまう状態です。
うつ状態の主な症状には以下の表のような症状があります。
| 分類 | 主な症状 |
|---|---|
|
心の症状 |
|
|
体の症状 |
|
双極性障害はうつ状態の期間が長くなる傾向があり、本人の生活の質を下げます。命に関わる重大な事態につながる恐れもあるため、周囲のサポートと専門家による適切な治療が欠かせません。研究では、適切な治療開始が遅れるほど、うつ状態を繰り返す回数や自殺企図の数が増える可能性も指摘されています。(※3)
躁とうつが混在する混合状態
双極性障害では、躁状態とうつ状態の症状が、同時に、あるいは数時間〜数日で目まぐるしく入れ替わる混合状態が現れることもあります。
混合状態では、気分は沈んでいるのに、焦りやイライラが強く、いてもたってもいられなくなります。強い不安感に襲われ、落ち着きなく動き回ってしまうこともあるでしょう。悲しくて涙が流れているのに、頭のなかは興奮して考えが止まらないこともあります。
混合状態は、本人にとってつらいだけでなく、注意が必要な時期です。気分の落ち込み(うつ)と行動力(躁)が共存するため、衝動的な行動を起こしやすく、心身の安全を脅かすリスクが高まるため、特に慎重なケアが求められます。
双極性障害のタイプとうつ病との違い
ご自身の気分の波が「うつ病」なのか、「双極性障害」なのか、ご自身で見分けることは困難です。特に、双極性障害はうつ状態から始まることもあるため、最初はうつ病と診断されてしまうケースも少なくありません。
ここでは、双極性障害のタイプである「双極I型障害と双極II型障害」と、「うつ病との違い」を解説します。
双極I型障害と双極II型障害
双極性障害は、躁状態の激しさによって、主にI型とII型のタイプに分けられます。どちらのタイプでもうつ状態は現れますが、気分の高まり方に大きな違いがあります。
双極I型障害と双極II型障害の違いは以下の表の通りです。
| 双極I型障害 | 双極II型障害 | |
|---|---|---|
| 気分の高まり | 激しい躁状態 | 軽い躁状態(軽躁状態) |
| 生活への影響 | 入院が必要になることもあり、日常生活に大きな支障が出やすい | 本人は「絶好調」と感じ、周囲も「少し元気」と捉えるため、病気だと気づかれにくい |
| うつ状態 | あり | あり(I型よりも、つらいうつ状態でいる期間が長い傾向がある) |
双極I型障害は、誰の目からみても普通ではないとわかる、激しい躁状態が現れるのが特徴です。社会的な信用や財産、大切な人間関係を失う事態につながる恐れがあります。
一方、双極II型障害では、気分が高まるものの、程度の軽い軽躁状態が現れます。仕事がいつも以上にはかどったり、社交的になったりするため、本人も周囲も「調子が良いだけ」と見過ごしがちです。しかし、うつ状態の期間はI型より長い傾向にあります。
うつ病との違い
双極性障害とうつ病を見分けるポイントは、躁状態(または軽躁状態)の有無です。うつ病はうつ状態だけが起こるのに対し、双極性障害ではうつ状態と躁状態を繰り返します。
しかし、双極性障害の方の多くは、激しいうつ状態になって初めて病院を訪れるので、実際の診断は簡単ではありません。軽躁状態の時期は、「調子が良かったとき」と本人には記憶されているため、医師に伝わらないことがあります。結果、軽躁状態があったことが見逃され、うつ病の診断になってしまいます。
うつ病の治療を続けているのになかなか症状が改善しない場合は、過去に気分の波がなかったか一度振り返ってみてください。
双極性障害の発症要因
双極性障害は、特定の原因だけで発症するわけではなく、複数の要因が複雑に組み合わさって発症すると考えられています。主な発症要因は、以下のとおりです。
| 発症要因 | 詳細な内容 |
|---|---|
| 体質 | 脳内の情報を伝える神経伝達物質のバランスが、もともと乱れやすい体質である |
| 脳の器質的な変化 | 脳そのものに、何らかの機能的・構造的な変化が起きている |
| 環境的要因 | 強いストレスや過労、生活リズムの乱れなどの環境的な要因で脳内の神経伝達のバランスが大きく崩れ、症状として現れる |
ご自身の気分の波に違和感を覚えたら、一人で抱え込まず、できるだけ早く医療機関に相談しましょう。
双極性障害の診断
双極性障害は、うつ病などのほかの病気との区別が難しく、正しい診断にたどり着くのに時間がかかります。疑いのある症状がみられたら、できるだけ早く医療機関を訪問し、適切な診断を受けましょう。
ここでは、双極性障害の診断に関連する内容として、「受診する診療科」と「問診や検査内容」を解説します。
受診する診療科
躁状態やうつ状態などの気分の波に悩んだときは、精神科や心療内科を受診してください。両者は得意な領域が本来は異なりますが、現れている症状に合わせて診察をしてくれます。
気分の落ち込みや高揚、不安、不眠などの心の症状が中心の場合は精神科、頭痛や腹痛、動悸などの体の不調が強く出ている方は、心療内科がおすすめです。
どちらに行くべきか迷ったら、まずはお近くの通いやすいクリニックを選んでみてください。心や体の症状を診てもらうことで、適切な診療科を紹介してくれます。
問診や検査内容
双極性障害の診断は、過去〜現在の症状を把握するための問診が中心となります。医師が問診で患者さんにお伺いする主な内容は、以下のとおりです。
- 今のつらさ
- どんな気分が、いつから、どのくらい続いているか?
- 過去の気分の波
- これまでに、ほとんど眠らなくても平気だった時期はあったか?
- 生活への影響
- 気分の波によって、仕事や人間関係で困ったことはあったか?
- ご家族のこと
- 血縁のある方に、気分の波が激しい方がいるか?
- 薬歴
- 現在、治療中の病気や飲んでいるお薬があるか?
しかし、本人の記憶や言葉による問診だけでは、うつ病や統合失調症など、症状がよく似たほかの病気との区別が困難です。甲状腺の病気などの病気がないか確認するために、血液検査や脳の画像検査(CT・MRI)を行うこともあります。
問診と検査を組み合わせることで、双極性障害の確定診断へとつなげていきます。
双極性障害の治療法
双極性障害は、患者さんの意思とは関係なく脳の機能が不安定になる病気です。しかし、適切な治療を続けることで、気分の波を穏やかにコントロールできる可能性があります。
ここでは、双極性障害の治療法として、「①薬物療法」と「②心理社会的治療」を紹介します。
①薬物療法
薬物療法は、双極性障害による気分の波の振れ幅を小さくし、安定した状態を維持することを目指した治療法です。気分安定薬や一部の抗精神病薬を用いて治療します。
気分安定薬は、気分の波そのものを穏やかにする働きが期待でき、双極性障害治療の中心的な薬です。一方、抗精神病薬は、激しい躁状態をすみやかに鎮めたり、つらい症状を和らげたりすることを目指す目的で使われます。副作用が心配であったり、気になることがあったりするときは、自己判断で薬を中断するのではなく、主治医に相談してください。
なお、うつ病の治療で使われる抗うつ薬は、双極性障害の方が使うと、逆に躁状態を引き起こしてしまう恐れがあり、注意が必要です。薬を服用する前に医療機関を受診し、双極性障害かどうか正しく診断してもらうことが大切です。
②心理社会的治療
心理社会的治療は、双極性障害と上手に付き合い、再発を防ぐための対処法を身につける方法です。薬で症状を安定させたうえで、ご自身の力で気分の波をコントロールするスキルを身につけることを目指します。
心理社会的治療の主な内容は、以下の表の通りです。
| 治療法 | 詳細な内容 |
|---|---|
| 心理教育 | ご自身の病気の性質や薬の役割を学び、「どのようなときに気分の波があるか」「再発のサインは何か」を専門家と一緒に理解する |
| 認知行動療法 | 気分が落ち込んでいるときに陥りがちな、物事を悪く捉える思考のクセに気づき、より現実的な考え方ができるよう練習する |
| 対人関係・社会リズム療法 | 対人関係のストレスを整理し、睡眠や食事、日中の活動などの毎日の生活リズムを一定に保つことで、気分の波の安定化を図る |
こうした治療は心の安定だけでなく、患者さんの将来の身体的な健康を守ることにも深く関わっています。
双極性障害の再発予防に向けたセルフケア
ここでは、双極性障害の再発予防に向けたセルフケアとして、以下の4つを解説します。
①再発のサインに早く気づく
②生活リズムを整える
③ストレスを管理する
④医師の指示に従う
①再発のサインに早く気づく
双極性障害の再発を防ぐために重要なのは、再発の予兆にいち早く気づくことです。
双極性障害で気分の波が大きくなる前には、多くの場合、ご自身だけがわかる小さな変化が現れます。主な再発のサインは、以下のとおりです。
| 再発のサイン | 詳細 |
|---|---|
| 睡眠の変化 |
|
| 気分の変化 |
|
| 行動の変化 |
|
上記のようなサインを日頃から手帳やアプリに記録しておくと、通常時からの変化を客観的に捉えやすくなります。波が小さいうちに対処できれば、心と体へのダメージも少なく済むので、変化に気づいたら、ためらわずに医療機関に相談してください。
②生活リズムを整える
規則正しい生活リズムを保つことは、双極性障害の再発予防に向けた方法の一つです。
私たちの脳には、一日の活動と休息のリズムを刻む体内時計が備わっています。しかし、不規則な生活になると、体内時計が狂って脳に余計な負担をかけてしまい、再発の引き金となりかねません。
体内時計が狂わないよう、起床時間をできるだけ一定に保ち、日中は太陽の光を浴びて活動することを心がけましょう。食事は、1日3食をなるべく決まった時間に摂ることも大切です。睡眠不足につながる、徹夜や極端な夜更かしも避けてください。
③ストレスを管理する
ストレスは、双極性障害の再発を引き起こす大きな要因の一つであるため、適度に和らげられるよう管理することが大事です。あなたに合ったストレス解消法を見つけ、日常生活に意識的に取り入れてみましょう。
代表的なストレス解消法としては、心からリラックスできる時間を確保することが挙げられます。好きな音楽を聴いたり、湯船にゆっくり浸かったりすると良いでしょう。やるべき仕事が多い場合は、優先順位をつけ、無理のないスケジュールを立ててください。
引っ越しや転職、結婚などの大きな環境の変化も、脳にとって強いストレスになります。双極性障害を経験した方は、担当医や家族などと相談しながら、調子の良いときに慎重に進めるようにしましょう。
気分の波が大きいときは、人との交流さえも刺激が強すぎて疲弊してしまうことがあります。無理に誰かと会おうとせず、自分を守るために一人で静かに過ごす時間も欠かせません。
④医師の指示に従う
双極性障害の治療中に、自己判断で薬をやめてしまうことは、再発につながりかねない原因です。調子が良いからといって中断せず、医師の指示通りに服薬を続けましょう。
副作用がつらいと感じる場合は、我慢したり勝手にやめたりせず、担当医に伝えてください。薬の量を調整したり、種類を変えたりすることで、つらさを軽減できる可能性があります。
定期的な通院は、医師に状態を報告するだけの場ではありません。患者さんが安心して治療を続けるための場であるため、ささいなことでも相談してください。
まとめ
双極性障害は、激しい気分の浮き沈みが現れる脳の病気です。うつ病とは異なり、気分が異常に高揚する躁状態になることが特徴的な症状です。遺伝的な要因が大きいと考えられていますが、過度なストレスや生活リズムの乱れなど、さまざまな要素が絡み合って発症するといわれています。
双極性障害の治療は、薬物療法と心理社会的治療が基本です。薬物療法で気分の波を安定させ、ご自身の病気と向き合いながら生活リズムを整えていきます。
気分の波に「つらい」「何かおかしい」と感じたら、一人で抱え込まず、お近くの精神科や心療内科に相談しましょう。
参考文献
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト:「双極性障害(躁うつ病)」
- 日本うつ病学会:「日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023」P17
Sara Ahmadieh Mena, Norma Verdolini, Salvador Miret, Nuria Laherrán, Samuel Pàmpols, Roberto Palacios-Garrán.Impact of Duration of Untreated Bipolar Disorder on Clinical Outcomes: A Systematic Review.Early Intervention in Psychiatry,2025,19,6,p.e70059.
