お子さんのおねしょに、「いつまでこの状態が続くのか」「うちの子だけなのか」と不安を感じている方は多いのではないでしょうか。ましてや小学校に上がって以降になると、お泊り会や修学旅行などがあり、なおさら焦りが募ることでしょう。5歳以上の子どものおねしょは「夜尿症」と呼ばれる、医学的なケアの対象となる症状です。生活習慣の改善や適切な治療によって、おねしょが早く改善されるケースも報告されています。本記事では、昭和医科大学横浜市北部病院こどもセンター長・池田裕一医師の監修のもと、夜尿症の原因や治療法、受診の目安について解説します。
この記事でわかること
- 夜尿症の主な原因と改善の見通し
- 病院での治療法と、家庭でできる対策
- 夜尿症の子どもに対して、親が気をつけたいこと
目次
夜尿症とは? 定義と基礎知識
夜尿症とは「5歳以上で月1回以上のおねしょが3か月以上続く」に該当する場合をいい、医学的な定義に基づく診断名です。「おねしょ」とは違って、医療の対象となります。
夜尿症の定義─「5歳以上で月1回以上が3か月以上続く」
夜尿症の定義はポイントが2つあります。まず、5歳以上であること。次に、月1回以上のおねしょ(夜寝ている間の尿もれ・尿失禁)が3か月以上続くこと。これに該当する場合、「夜尿症」と診断されます(日本夜尿症・尿失禁学会の「夜尿症診療ガイドライン2021」)。
夜尿症とおねしょの違い
「おねしょ」は、夜寝ている間の尿もれのこと。赤ちゃんの場合、膀胱に尿が充満すると膀胱が収縮し、反射的に排尿してしまいます。つまり、おねしょは子どもの成長過程における生理的現象になります。これに対して「夜尿症」は、「5歳以上で月1回以上のおねしょが3か月以上続く」場合の医学的な診断名であり、適切な医療的対応が必要な病気の一つとして扱われます。
おねしょは何歳まで続く?
一般的に、4歳くらいで「自立排尿」が完成すると言われています。自立排尿とは、オムツに頼らず、自分の意思と体の機能でトイレに行き、排尿や排便ができるようになること。個人差があるものの、3歳半くらいで昼間のおもらしがなくなり、4歳くらいでおねしょがなくなります。
夜尿症の年齢別統計ー何歳くらいで改善?
夜尿症は成長とともに自然に改善していきます(※1)。しかし、小学生や中学生の年齢でも珍しい症状ではありません。夜尿症の有病率は5歳で15~20%、7歳で10%、10歳5%、15歳以上で1~2%程度とされ(※2)、次第に減少していくものの、小学校1年生だとクラスに3.5人いる計算になります(※3)。ただし、生活習慣の改善や適切な治療によって、自然経過と比べて早く改善できるという報告があります(※4)。
※1 Forsythe Wl,et al.:Arch Dis Child.49(4):259-263,1974
赤司俊二:夜尿症研究4:31-35,1999
※2 日本夜尿症学会編:夜尿症診療ガイドライン2021
※3 1学級を35人として、有病率をもとに算出。日本夜尿症学会編:夜尿症診療ガイドライン2021
※4 Naitoh Y,et al.:Urology.66(3):632-635,2005
池田裕一:prog Med.37(2):231-235,2017
夜尿症の3つの主な原因
夜尿症(おねしょ)は、親のしつけや育て方が原因で起こる症状ではありません。背景には医学的に説明できる3つの主な要因があり、これらが単独または重なって生じると考えられています。
夜間の尿量が多い(抗利尿ホルモンの分泌不足)
通常、夜間は脳の下垂体から分泌される「抗利尿ホルモン」のはたらきにより、尿の産生量が日中の半分程度に抑えられます。しかし夜尿症のある子どもでは、このホルモンの夜間分泌が未熟で、日中と同じくらい薄い尿が作られてしまうことがあります。寝る前の水分摂取量が多いことも一因となります。
膀胱容量が小さい(膀胱の発達途上)
膀胱に尿を溜めておく機能は、成長とともに発達していきます。夜尿症のあるお子さんの中には、膀胱の容量自体が同年齢の平均よりも小さく、尿が一定量に達すると覚醒せずに反射的に排尿してしまうケースがあります。
睡眠中の覚醒障害(尿意で目が覚めない)
通常、膀胱に尿が溜まると尿意の信号が脳に伝わり、目が覚めてトイレに向かうことができます。一方、夜尿症のあるお子さんは睡眠中、尿意の信号をうまく受け取れず、目を覚ますことが難しい状態にあります。尿意の信号を受け取れないのは、深い睡眠にあるからではなく、浅く質の悪い睡眠が続いているため、膀胱が尿でいっぱいになっても、トイレに行きたいという感覚が脳に伝わりにくいのです。
その他の要因(遺伝・ストレス・便秘)
夜尿症には、上記の3つ以外にも関連が指摘されている要因があります。遺伝的な素因も知られており、家族(親)に夜尿症の既往がある場合、お子さんに同様の症状が出やすい傾向があります。また、転居や家族関係の変化など、心理的なストレスが症状を悪化させることもあります。さらに、重症な便秘は膀胱を圧迫し、夜尿を引き起こしやすくする要因の一つとなります。自閉スペクトラム障害や注意欠如多動障害などの発達障害がある場合も、夜尿症を伴うケースが多いことが知られており、基礎にある病気の治療と並行して夜尿症への対応を検討することが重要です。
病院を受診すべきタイミングと診断の流れ
「夜尿症かもしれないが、受診するか迷っている」という方もいるでしょう。年齢別の受診の目安と診断の流れを紹介します。
年齢別の受診の目安
- 5~6歳(小学校入学前):自宅で生活習慣の改善(夕食後の水分を控える、食事の塩分を控える、寝る前にトイレに行く、冷えないようにする)に1~2か月間取り組んでも「月1回以上のおねしょが3か月以上続く」場合は、医療機関への受診を考えることをお勧めします。
- 小学校1~2年:週数回のおねしょの場合は、自宅で生活習慣の改善に1~2か月間取り組み、それでも改善しない場合は医療機関を受診することをお勧めします。一方、「ほぼ毎晩、おねしょがある」もしくは「おねしょに加え、昼間のおもらし(尿・便)もある」場合は、医療機関への速やかな受診をお勧めします。
- 小学校3年以上:医療機関への速やかな受診をお勧めします。
こんな場合は早めの受診を
・小学校入学後もほぼ毎晩、おねしょが続く
・昼間もおもらしがある
・重症な便秘を伴っている
・注意欠如多動障害や自閉スペクトラム障害などの発達障害が基礎にある
・お泊まり会や修学旅行など宿泊を伴う行事を控えている
・子どもがおねしょを気にしている
何科を受診する?(小児科・泌尿器科)
まずは、かかりつけの小児科や近くの病院で相談するのが一般的です。夜尿症外来や小児泌尿器科を設けている施設もあり、症状によってはより専門的な検査を行います。日本夜尿症・尿失禁学会のホームページでは、学会に所属する会員一覧があり、受診先を探す参考になります。また、日本小児泌尿器科学会のホームページでも学会専門医の一覧があり、こちらも参考にするといいでしょう。
診断の流れ(問診・尿検査・記録)
受診時には、おねしょの頻度や排尿・排便の状況、生活習慣などについて問診が行われます。続いて腹部と仙骨部の触診、尿検査、超音波検査などを行います。中でも重要なのが、尿検査になります。夜尿症の原因である抗利尿ホルモンの分泌不足がないか、または尿路感染症や腎臓疾患などの病気が隠れていないかを調べます。家庭でおねしょについて記録したものがあれば、治療方針を立てるうえで重要な手がかりとなります。
夜尿症の治療法─生活指導から薬物療法まで
夜尿症の治療は、3ステップで行われることが一般的です。ステップ1は生活指導です。数週間から1か月間行い、不十分であれば、ステップ2として薬物療法やアラーム療法に進みます。2週間から3か月間行い、不十分であれば、ステップ3として薬物療法とアラーム療法の併用が検討されます。
- ステップ1:生活指導(水分、食事、トイレ)
最初に取り組むのは生活指導です。ポイントは次の7つになります。
・早寝、早起き、規則正しい生活
・夕食後の水分はコップ1杯くらいまで
・塩辛いものは控えめに
・便秘を改善
・寝る前にはトイレへ行く
・寝ている時は寒くならないように気をつける
・ご家族は、夜中、子どもを無理にトイレへ起こさない
- ステップ2:薬物療法
生活指導で十分な改善が見られない場合は、薬物療法を検討します。薬にはいくつか種類があり、主なものが次の3つになります。年齢や症状に応じて使い分けたり、組み合わせたりします。いずれも一定の効果が期待できますが、副作用が生じる場合もあるため、必ず医師の指示に従って使用してください。
・尿の量を調節する薬(デスモプレシンなど抗利尿ホルモン薬)
・膀胱の緊張を緩め、収縮を抑える薬
・睡眠の質を改善し、体調を整える薬(漢方薬など)
- ステップ3:アラーム療法(夜尿アラーム)
アラーム療法とは、専用の機器を用いて、夜尿を本人に気づかせ、夜尿をしにくくする治療法です。パンツや専用パッドにセットしたセンサーが尿を感知すると、アラーム音が鳴って本人を起こします。繰り返すことで、膀胱に溜められる尿量が増えたり、尿意で覚醒しやすくなったりする効果が期待されます。国内外のガイドラインでも有効性が高い治療として位置づけられていますが、日本では保険適用外となります。
値段の目安:専用機器の販売価格が1万数千円(レンタルしている医療機関もあるため、確認を)
治療期間の目安と治療終了の基準
治療には数か月から半年以上を要するのが一般的です。お泊り会や修学旅行など短期的な目標がある場合でも、3か月程度の準備期間があれば、行事の期間にあわせて症状を抑えられる可能性があります。一般に、夜尿のない状態が連続して1か月以上続けば、治療終了の目安とされます。
夜尿症が与える影響
子どもへの影響
夜尿症は子どもの自尊心を低下させ、自信をなくさせます。学校生活や友人関係に影響を与えることもあります。小児における重大な生活上のイベントを調べた海外の研究(※)では、夜尿がある小児の場合、8歳以上12歳未満では「1位:親の離婚、2位ケンカ、3位夜尿」という結果が出ており、子どもにとって大きなトラウマになる可能性があることを示しています。
※Van Tijen NM,et al.1998 https://bjui-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1464-410x.1998.00018.x
親(養育者)への影響
夜尿症は、親(養育者)へ与える影響も憂慮されます。おねしょをしている子どもを持つ家族248名に行ったインターネット調査(※)では、「お子さまの夜尿をストレスと感じますか?」という問いに対し、「よく感じる」30.6%、「時々感じる」47.2%という結果でした。「ストレスと感じていることは何ですか?(複数回答可)」に対しては、「夜尿が治らない」「夜尿の後片付け」「子どもを怒る」「ほかの人に相談できない」が上位にあがっています。
家庭でできるおねしょ対策と親の心がまえ
今日から始められる家庭でのおねしょ対策と、親の心がまえをまとめます。
親の5原則(起こさない、焦らない、怒らない、比べない、褒める)
家庭での関わり方として、重要なのが「起こさない、焦らない、怒らない、比べない、褒める」の5原則です。
夜中に無理に起こしてトイレへ連れて行くと、抗利尿ホルモンの分泌リズムが乱れ、かえって治療を妨げる可能性があります。叱ったり、ほかのきょうだいと比べたりすることは、子どもの自尊心を傷つけ、症状の長期化につながりかねません。
おねしょをしたい子どもはいません。おねしょがなかった日はしっかりと子どもを褒め、成功体験で自信をつけてあげましょう。長い目で見守る姿勢を大切にしてください。
夜尿日記のつけ方と活用法
治療の手がかりとなるのが「夜尿日記」です。おねしょの有無や時間、起床時の尿量、夜間の水分摂取量、排便の有無などを2週間程度記録します。受診時に持参することで、医師が原因を見極めやすくなり、治療方針を立てる助けとなります。また、夜尿症の改善度合いの確認にも活用できます。
お泊り会・修学旅行への備え
宿泊行事を前に来院されるご家庭は多くあります。3か月程度の準備期間があれば行事に合わせた対策を立てられる可能性があるため、医療機関への早めの相談が望まれます。また、行事前から子どもとしっかり話し合い、必要に応じて吸水パッドや使い捨て下着を用意するなど、家族全体で具体的な備えを考えておくことも、心理的な負担の軽減につながります。
夜尿症に関するよくある質問(FAQ)
Q. おねしょは親のしつけや育て方のせいですか?
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A. しつけや育て方は夜尿症の原因ではありません。背景には、抗利尿ホルモンの分泌の未熟さ、膀胱容量、覚醒のしくみといった医学的要因があります。保護者がご自身を責める必要はなく、お子さんと一緒に長い目で取り組むことが大切です。
Q. 夜尿症は放置しても自然に改善しますか?
-
A. 自然に改善することが多いとされています。ただし、1年間に約15%ずつ自然に軽快するという報告(※1)がある一方で、「治療後、半年までに約80%の子どもで症状が改善した(※2)」「治療後2年で夜尿症が改善した子どもは75%以上(※3)」という報告もあります。お子さんの自尊心や生活の質への影響を考えると、5歳を過ぎて続くときは医療機関への相談を検討されるとよいでしょう。
※1 金子一成:小児科診療77(11):1437-41,2014より改変
※2 Naitoh Y,et al.:Urology.66(3):632-635,2005
※3 池田裕一:prog Med.37(2):231-235,2017
Q. 子どもの性格と夜尿症は関係しますか?
-
A. 性格が夜尿症の原因になることはありません。ただし、夜尿症が重症であるほど自尊心が低い子どもの割合が増えることを示した国内の研究(※1)があります。また、夜尿症の治療が開始すると、治療前よりも自己評価スコアが高くなることを示した海外の研究(※2)もあります。これらの結果からも、夜尿症が子どもの性格に影響を与える可能性は考えられます。
※1 河内明宏ほか「夜尿症患者のself-esteemに関する検討」(1999)
※2 Hagglof,B et al.:Eur Urol 1998:33(S3),16-19
Q. 夜中に起こしてトイレに行かせたほうがいいですか?
-
A. 推奨されません。夜中に無理に起こすと、抗利尿ホルモンの分泌リズムが乱れる可能性があるためです。朝まで眠らせ、就寝前にトイレを済ませる習慣をつくる方が望ましいとされています。
Q.トイレで目が覚めないのはぐっすり眠れている証でしょうか?
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A.そうではありません。夜尿症は「尿意があるのに脳が覚醒しない」という覚醒障害が原因の一つにあり、むしろ眠りが浅い(質が悪い)状態です。ぐっすり眠れていないため、日中の眠気が強くなり、学業やメンタルヘルスに影響を与えることがあります。
Q. 親が心がけることはありますか?
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A.おねしょをしても怒ったり、ほかのきょうだいと比べたりしないことです。「起こさない、焦らない、怒らない、比べない、褒める」を心がけてください。
Q. 大人でも夜尿症になることはありますか?
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A. 数は多くありませんが、成人になっても夜尿症が続く方はいます。原因が小児期と同じ場合もあれば、ほかの病気が背景にある場合もあるため、泌尿器科への相談が望まれます。
まとめ─おねしょは「成長とともに改善を目指せる」症状
おねしょは赤ちゃんなら自然な現象ですが、5歳を過ぎても続く場合は「夜尿症」として医療の対象になります。原因は、夜間の尿量、膀胱容量、覚醒のしくみという3つが中心で、しつけの問題ではありません。生活指導・薬物療法・アラーム療法といった治療法があり、適切なケアで改善が期待できます。子どものおねしょが続いていて不安を感じる場合は、ぜひ一度、小児科や夜尿症外来を受診し、医師に相談してみてください。
免責事項:本記事は夜尿症に関する情報提供を目的としており、特定の医療行為の推奨や効果の保証を行うものではありません。お子さまの症状については、必ず医師にご相談ください。
