目次
- 1 はじめに
- 2 ★緑内障とはどういう病気ですか?
- 3 ★痛みはありますか?
- 4 ★原因はなんですか?
- 5 ★白内障という病気もよく聞きます。緑内障と白内障、名前がよく似ていますが、同じような病気ですか?
- 6 ★緑内障になる人って多いのでしょうか?
- 7 ★緑内障について正しく認識している人は増えていますか?
- 8 ★3月には国内の公共施設やランドマークがグリーンにライトアップされる「ライトアップinグリーン運動」も行われていました。
- 9 ★緑内障を早期発見するために、知っておきたいことを教えてください。
- 10 ★日本人は正常眼圧緑内障が多いとのことですが、眼圧の検査は必要なのですか?
- 11 ★セルフチェックは有効でしょうか?
- 12 この記事を監修した医師
はじめに
緑内障は、慢性的に視野が欠けていく病気だ。日本において中途失明原因の1に位置する病気であるにもかかわらず、緑内障がどういう病気か、正しく認識していない人がまだまだ多い。
2000年9月から翌01年10月に岐阜県多治見市で行われた大規模な緑内障疫学調査、通称「多治見スタディ」によれば、40歳以上の5%、つまり20人に1人の割合で緑内障患者。年齢の上昇ともに緑内障の割合は増える。
緑内障は、進行すれば失った視機能は取り戻せない病気ではあるものの、進行を食い止める治療法はある。視力を維持できるのだ。そのために知っておくべきことは何か?多治見スタディ実施時の現地担当者を務め、国内の公共施設やランドマーク、多数の医療機関などにおいて、緑内障のシンボルカラーであるグリーンにライトアップする運動「ライトアップ in グリーン運動」(毎年3月実施)の実行委員長を2022年まで務めた「たじみ岩瀬眼科」(岐阜県多治見市)の岩瀬愛子院長に話を聞いた。
※厚生労働省研究班調査(2018年)による
★緑内障とはどういう病気ですか?
緑内障とは、視神経が障害され、視野が狭くなったり(視野狭窄)、部分的に見えない部分ができたり(視野欠損)する病気です。簡単に言うと、視力は良いまま、視野がじわじわとかけていくのです。進行に伴い、中心部分に見えない範囲が広がっていきます。
★痛みはありますか?
ほとんどの場合で痛みはありません。また、両目に起こることが大半ですが、同時に、同じスピードで進行するわけではありません。そのため、片方の眼に視野狭窄や視野欠損が起こっていても、もう片方の眼で補って見てしまうことができます。さらに、私たちの脳には視野が欠けていても自動的にそれを補う仕組みがあるので症状に気づきにくいのが特徴です。
★原因はなんですか?

眼球には、ちょうどいい機能を保つために圧力がかかっています。これを眼圧といいます。この圧力は個人差があるのですが、それを超えて圧力がかかると、視神経がダメージを受け、そのダメージを受けた部分が担当している視野から見えなくなっていくのです。
緑内障にはいくつか種類があります。
なんらかの病気が原因ではない場合の緑内障を原発緑内障、病気や薬物使用が原因で起こる緑内障を続発緑内障、小児期に発症した病気で起こるものを小児緑内障といいます。
緑内障で圧倒的多数を占めているのが原発緑内障です。これはさらに、原発開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、原発閉塞隅角緑内障があります。
【原発開放隅角緑内障】
眼球には、毛様体で作られる房水という水分があり、これが圧力を調整しています。房水が作られる量と、排出される量のバランスが取れていれば圧力は一定に保たれます。しかし、房水が作られる量が過剰になったり、排出されにくくなったりすると、圧力が高くなってしまいます。
原発開放隅角緑内障の「隅角」は、房水の排水路があるところです。隅角は開放しているのですが、房水の流れが滞って眼圧が上がり、緑内障を発症したものを原発開放隅角緑内障といいます。
【正常眼圧緑内障】
原発開放隅角緑内障の中の一つの型で、眼圧が正常であるにもかかわらず視神経がダメージを受け緑内障を発症するのが正常眼圧緑内障です。緑内障の典型的なパターンとして、「眼圧が正常値の上限とされる21mmHgを超えて上昇し視神経がダメージを受けると緑内障を発症する」と考えられていたのですが、疫学調査で、眼圧が20mmHg以下の正常値でも緑内障を発症する型が日本には多いということが明らかになったのです。
【原発閉塞隅角緑内障】
隅角が閉塞し眼圧が上昇して緑内障を発症するのが、原発閉塞隅角緑内障です。慢性的に眼圧が上がる場合もありますが、急激に眼圧が上昇することがあり、これを急性緑内障発作とも呼びます。
★白内障という病気もよく聞きます。緑内障と白内障、名前がよく似ていますが、同じような病気ですか?
緑内障と白内障は、治療を受けないままでいるとやがては失明に至るリスクがあるものの、まったく違う病気です。それぞれの違いを挙げましょう。
緑内障は前述の通り、視神経がダメージを受け、視野狭窄や視野欠損が起こる病気です。一方、白内障は、カメラのレンズのような役割を担う水晶体が硬くなったり濁ったりして、視力が低下します。白内障の原因の大半は、加齢です。
私の眼科に来院し、進行した緑内障が見つかった患者さんから「運転免許の視力検査は毎年合格だったのですが…」「緑内障は、手術で治るんですよね。知人も手術でよくなったと話していました」といったようなことをたびたび言われます。いずれも大いなる勘違いで、緑内障と白内障を混同していることが一因かと思われます。
まず、緑内障は視力自体は最初は落ちません。だから視力検査では異常が分かりづらい。白内障は、水晶体が濁るので視力が落ちます。ほかに、「目が霞む」「光を眩しく感じる」「物が二重に見える」「目が疲れやすくなる」「メガネが合わなくなる」といった症状があります。
次に、緑内障は手術では治りません。ダメージを受けた視神経は元には戻りませんから、起こった視野狭窄や視野欠損はそのままになります。緑内障の治療で重要なのは、それ以上に視野狭窄や視野欠損を進行させないことです。
白内障に関しては、「手術で治るんですよね」という認識はあながち間違いではありません。手術で濁った水晶体を取り出し、眼内レンズを入れるなどすることで視力を取り戻せます。今はさまざまな種類の眼内レンズが出ており、その選択によっては、これまでメガネをかけていた人が、メガネなしの生活を送れるようになることもあります。
★緑内障になる人って多いのでしょうか?
2000年から2001年にかけて、日本緑内障学会が岐阜県多治見市で大規模な疫学調査「多治見スタディ」を行いました。学会が総力をあげて取り組んだ事業でした。
この疫学調査で判明したのは、緑内障患者の多さでした。程度の差はあれ、40歳以上の20人に1人は緑内障との結果が出たのです。しかも、全体の89.5%が未発見者であり、自覚症状がないため眼科検診を受けておらず、目の検査といえば視力検査でいいと思い込んでいる人が大半だったのです。
★緑内障について正しく認識している人は増えていますか?
私の実感では、いまだに正しく認識されているとは言い難い状況です。
日本緑内障学会では、多治見スタディの結果をあちこちで報告し、講演会を行ったり、眼科検診の重要性を説いたりしていますが、緑内障が進行してからようやく受診する患者さんが後を絶ちません。自覚症状をおぼえづらい病気であり、「ダメージを受けた視神経は元に戻らない」ということが十分に理解されていないため、と思われます。
緑内障は、失明原因にもなりますが、早期発見し、治療を継続すれば、生活に支障を生じずに過ごせることも多い病気でもあるのです。私は緑内障について伝える時、早期発見、継続、希望という3つのキーワードを挙げています。早期に発見することが大事、診断がついたら治療を継続することが大事、たとえ進行して発見されたとしても、それ以上進行させないために、医療者や周りの人ともよくコミュニケーションを取りながら、正しい知識を持って希望を持って治療するという意味です。それをしっかり認識して欲しいと思います。
★3月には国内の公共施設やランドマークがグリーンにライトアップされる「ライトアップinグリーン運動」も行われていました。
もともとは2015年に国内5カ所で始まった運動で、その後、日本緑内障学会の公式事業となりました。海外にも「light-up in Green」の名前で広がりつつあります。この運動が行われる3月には、国際的な緑内障啓発活動期間(世界緑内障週間)にあたります。
★緑内障を早期発見するために、知っておきたいことを教えてください。
【眼科検診を受ける】
緑内障を早期発見するには、眼科検診を受ける以外ありません。すでに述べてきている通り、自覚症状に頼っていては早期発見は難しいのです。
「見えている」に甘んじないことです。緑内障は、40歳代からリスクが高くなります。40歳を超えたらできたら毎年、最低でも3〜5年に1度は眼科検診を受けてください。「眼科検診=視力検査」ではないことも覚えておきましょう。
【眼圧、眼底検査を受ける】
「職場検診を受けているから…」と安心していたら、その中に眼底、眼圧検査が含まれていなかったということがあります。職場検診で義務となっている眼の検査は、視力検査のみだからです。
受けている眼科検診には、眼圧、眼底検査が含まれているかどうかの確認を。視野検査も行われていればベストです。
【緑内障の疑いがある、と過去に一度でも言われたら要注意】
よくある間違いが、「緑内障の疑いがあると眼科検診で言われた→精密検査を受けたら異常なしだった→『緑内障にはならない』と思い、眼科検診を受けなくなった」というもの。
精密検査で異常なしとなっても、「その段階では異常なし」ということであり、翌年以降は分かりません。一度でも「緑内障の疑いあり」と言われた方は、1年に1回は眼科検診を受けてください。
【緑内障リスクが高いかどうかを知る】
緑内障は、40歳以上なら誰がなってもおかしくない病気です。それが大前提。加えて知っておきたいのは、特にリスクが高いかどうか。「眼圧が高い」「家族に緑内障患者がいる」「強度の近視」「強い遠視」「目にボールをぶつけたことがある」「目を強く打撲したことがある」「眼科検診などで視神経乳頭陥凹拡大を指摘されたことがある」という人は、特にリスクが高いに該当します。その場合、やはり1年に1回は眼科検診を受けることを強くお勧めします。
★日本人は正常眼圧緑内障が多いとのことですが、眼圧の検査は必要なのですか?
眼圧は個人差があり、その人にとっての正常な眼圧を超えると緑内障を発症しやすくなります。また、眼圧が高いほど、緑内障の進行速度が速いことが分かっています。
そのために、眼圧は定期的に検査をすることは必要。緑内障を調べる眼科検診では、眼圧の検査が必須です。
★セルフチェックは有効でしょうか?
やらないよりやった方がいいですが、限度があります。緑内障の早期発見のためには、必ず眼科検診を受けてください。