麻疹の強い感染力に関するニュースを見て、知らない間に感染していないかと不安を感じていませんか。麻疹は免疫がない人が接触すると約90%の方が感染するとされ、自覚症状のない潜伏期間のうちから感染を広げる厄介な性質を持っています。(※1)
この記事では、麻疹の平均的な潜伏期間や空気感染などの主な感染経路、ワクチン接種をはじめとする予防策を詳しく解説します。感染の仕組みから具体的な対策までを知ることで、ご自身と大切な家族を守るためにすべきことが明確になるでしょう。
麻疹の潜伏期間は?
麻疹の潜伏期間は、ウイルスに感染してから平均して10〜12日です。この間は自覚症状がありませんが、発症の1日前から周囲に感染させる強い感染力を持つため、感染者と接触した場合は約3週間の体調観察が必要です。
潜伏期間は自覚症状がほとんどないため、ご自身が感染していることに気づくのは困難です。しかし、症状が出る前から周囲の人にうつしてしまう可能性があるため、正しい知識を持つことが感染拡大を防ぐ鍵となります。
ここでは、麻疹に関する以下の内容を解説します。
- 麻疹の平均的な潜伏期間
- 潜伏期間中に症状は出る?
- いつから症状が出始める?
- 主な感染経路は?
麻疹の平均的な潜伏期間は10〜12日
国立健康危機管理研究機構によると、麻疹の潜伏期間は、ウイルスに感染してから平均して10〜12日ほどです。(※2)複数の研究報告を統合した分析では、潜伏期間の中央値は12.5日であったと報告されています。(※3)
ただし、これはあくまで目安であり、個人差も大きいため注意が必要です。一般的な潜伏期間は7〜21日間と幅広いことが知られています。(※4)麻疹の患者さんと接触した可能性がある場合は、少なくとも3週間程度はご自身の体調変化に注意を払うことが大切です。
潜伏期間中に症状は出る?
潜伏期間中は、基本的に熱や咳、発疹などの自覚症状は現れません。そのため、ご本人は感染に気づかないまま、普段通りの生活を送ってしまうことがほとんどです。
しかし、麻疹ウイルスは、症状が出る1日前ごろ、つまり発疹が出る数日前から周囲に感染させる可能性があるため注意が必要です。
麻疹ウイルスは、特徴的な発疹が現れる数日ほど前から体外へ排出され始めるといわれています。特に、発疹前のカタル期は感染力が強く、さらに症状が出る1日前からも感染させる可能性があります。
麻疹の潜伏期間中は、知らないうちに学校や職場などでウイルスを広げてしまうリスクがあるため、感染リスクを正しく理解しておくことが重要です。
いつから症状が出始める?
約10〜12日の潜伏期間が終わると、まず「カタル期」と呼ばれる初期症状から始まります。カタル期の症状は風邪とよく似ているため、初期段階で麻疹だと見分けるのは難しいかもしれません。
カタル期の主な症状としては、38℃前後の発熱やしつこい咳・鼻水・くしゃみ、目の充血、目やに、全身のだるさなどが挙げられます。
カタル期には、麻疹に特徴的な「コプリック斑」と呼ばれるサインが現れることがあります。これは、頬の内側にできる、やや隆起した白いブツブツで、麻疹を早期に診断するうえで重要な所見です。(※5)
この初期症状が2〜4日続いたあと、いったん熱が下がりかけ、再び高熱になるとともに全身に発疹が出現する「発疹期」へと移ります。
主な感染経路は?
麻疹の主な感染経路は、「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」の3つです。インフルエンザなど、ほかの多くの感染症と比べても、感染力が強いという特徴があります。主な感染経路の特徴を、以下の表にまとめました。
| 感染経路 | 詳細な内容 |
|---|---|
| 空気感染 | 感染者が咳やくしゃみをして飛び散ったウイルスが、水分を失って小さな粒子となり、空気中を長時間フワフワと漂う。離れた場所にいる人が粒子を吸い込むことで感染する。 |
| 飛沫感染 | 感染者の咳やくしゃみ、会話などで飛び散るウイルスを含んだしぶき(飛沫)を、近くにいる人が直接口や鼻から吸い込んで感染する |
| 接触感染 | ウイルスが付着した手で自分の口や鼻に触れたり、ウイルスが付着したドアノブや手すり、電車のつり革などを触ったりして感染する |
特に「空気感染」することが、麻疹の感染力が強い理由です。換気が不十分な密閉空間では、同じ部屋にいるだけで感染する可能性があります。
麻疹にかからないための予防策

麻疹にはインフルエンザのような特効薬(抗ウイルス薬)がなく、治療は症状を和らげる対症療法が中心です。空気感染もするため、手洗いやマスクなどの一般的な対策だけで感染を完全には防げません。
そのため、麻疹への抵抗力を持っているのかを確認する抗体検査と、免疫の獲得が期待できるワクチン接種が重要な予防策です。 ここでは、麻疹の予防策である「抗体検査」と「ワクチン接種」を詳しく解説します。
抗体検査
抗体検査は、採血によってご自身が麻疹に対する免疫(抗体)を十分に持っているかを確認する方法です。「過去にかかったか覚えていない」「ワクチンを打ったか母子手帳がなくてわからない」などの場合でも、抗体検査で免疫の状態を把握できます。
以下のような方は、ご自身と周りの大切な人を守るために、抗体検査を検討しましょう。
- ワクチン接種の記録が不明な方、または1回しか接種していない方
- これから妊娠を考えている女性と、そのパートナーやご家族
- 医療・介護・保育・教育関係者など、多くの人と接する機会のある方
検査はお近くの内科や小児科で受けられます。検査の結果、抗体が不十分だと判明した場合は、感染から身を守るためにワクチン接種を考えましょう。
ワクチン接種
ワクチン接種は、麻疹の発症と、肺炎や脳炎などの重い合併症を防ぐことが期待できる手段です。麻疹にかかってしまう方は、ワクチンを一度も接種していなかったり、接種が1回だけだったりするケースが多いといわれています。(※6)
現在、日本では「MR(麻しん風しん混合)ワクチン」が、公費で受けられる麻疹の予防接種です。ただし定期接種の対象年齢を過ぎた場合は、原則として任意接種(自費)となります。自治体助成の対象になることや、医療機関によって費用が異なる場合があるため、正確な費用はお住まいの自治体や受診を検討している医療機関へご確認ください。 2回の接種を受けることで、95%以上の方が麻疹に対する免疫を獲得できると報告されています。(※7)
ご自身の接種歴は、まず母子健康手帳でご確認ください。手帳が見つからない、または2回接種したか定かでない場合は、追加接種をかかりつけ医に相談してみましょう。
ただし、MRワクチンは「生ワクチン」であるため、妊娠している方は接種できません。将来的に妊娠を希望される方は、妊娠前に抗体の有無を確認し、必要であれば接種を済ませておくことが大切です。
症状別の麻疹の対策と受診の目安
麻疹を疑わせる症状が出た場合、感染力が強いため、ご自身の判断で医療機関へ直接向かうことは避けてください。まずは、医療機関へ電話で連絡し、指示を仰ぐことが大切です。
ここでは、麻疹への感染が疑われる場合の対策として、以下の内容を解説します。
- 麻疹の初期症状と風邪を見分けるポイント
- 家族にうつさないための家庭での対策
- 麻疹が疑われる場合に受診すべき診療科
- 出席・出勤停止期間の基準
麻疹の初期症状と風邪を見分けるポイント
麻疹の初期症状は風邪とよく似ていますが、コプリック斑と、特徴的な熱の動きが見分けるための重要なサインです。
カタル期には、38℃前後の発熱、しつこい咳、鼻水、目の充血などの風邪のような症状が数日間続きます。この時点での判別は困難ですが、麻疹を疑うべき以下の特徴的なサインがないか確認してください。
| 特徴的なサイン | 症状の詳細 |
|---|---|
| コプリック斑 | 麻疹に特徴的な症状で、発疹が出る1〜2日前に出現する |
| 二段階の発熱 | 一度38℃程度の熱が少し下がりかけても、半日〜1日後には再び39℃以上の高熱になる |
| 発疹の出現 | 熱が再び高くなると同時に、顔や首すじから赤く小さな発疹が出始め、2〜3日かけて体、腕、足へと全身に広がっていく |
これらのサインが見られた場合は、単なる風邪ではない可能性を疑い、すみやかに次の行動に移りましょう。
家族にうつさないための家庭での対策
ご家族に麻疹が疑われる方がいる場合、家庭内での感染拡大を防ぐためには、患者さんの隔離とこまめな換気が基本です。患者さんは個室で過ごしてもらい、ほかの家族との接触をできるだけ避けましょう。タオルや食器、歯ブラシなども共有しないことが大切です。
接触する際には、患者さんご本人とお世話をする方はマスクを着用し、ケアしたあとは石鹸や流水で丁寧に手を洗ってください。
ただし、麻疹ウイルスは空気感染が主な経路のため、同じ空間にいるだけでも感染する可能性があります。ワクチン未接種の赤ちゃんや妊婦さん、病気治療中で免疫力が低下しているご家族がいる場合は、より一層の注意が必要です。
麻疹が疑われる場合に受診すべき診療科
麻疹が疑われる場合は、ほかの人への感染を防ぐため、医療機関へ行く前に、かかりつけの内科や小児科に電話で相談することが重要です。
医療機関の待合室には、免疫力が低下した方や妊婦さん、小さな赤ちゃんなど、麻疹に感染すると重症化のリスクが高い方が大勢います。麻疹の感染者が直接訪れると、深刻な院内感染を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。
受診する際は、以下の手順を守ってください。
- 事前に電話で連絡する
- 医療機関の指示を待つ
- 指示に従い受診する
皮膚の発疹が目立つ場合でも、まずは内科や小児科への電話相談が基本です。事前の一本の電話が、社会全体への感染拡大を防ぐための一歩となります。
出席・出勤停止期間の基準
麻疹と診断された場合、周囲への感染拡大を防ぐため、法律や職場の規定にもとづいて一定期間休む必要があります。
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 学校保健安全法による出席停止期間 | 解熱した後、3日を経過するまで |
| 出勤停止の基準 | 法律上の明確な規定はないが、学校の基準に準じるのが一般的 |
例えば、月曜日に熱が完全に下がった場合、火・水・木の3日間を経過した金曜日から登校・出勤が可能となります。
社会人には法律による明確な出勤停止の規定はありませんが、感染症の蔓延を防ぐ観点から、多くは学校の基準に準じた対応が求められます。
熱が下がったからといって自己判断で出勤せず、医師の診断書をもとに、勤務先の指示に従ってください。症状が軽快したように感じても、まだ体内にウイルスが残っている可能性があることを忘れてはいけません。
まとめ
麻疹の潜伏期間は平均して10〜12日ほどで、自覚症状がほとんどありません。しかし、症状が現れる前から感染力を持つため、知らない間に周囲へ感染を広げてしまう可能性があります。
麻疹は空気感染するほど感染力が強く、特効薬もありません。ワクチン接種を2回受けることで、感染や重症化を予防できる可能性が高まります。
ご自身の接種歴がわからない場合は、母子手帳で確認したり、抗体検査を受けたりすることを検討しましょう。麻疹を疑う症状が出た際は、自己判断で受診せず、事前に医療機関へ電話で相談することが、ご自身と周りの人を守るために大切です。
麻疹に関連する記事はこちら⇒【医師監修】麻疹と風疹の違いとは?主な症状の特徴やワクチン接種の重要性を解説
参考文献
- 一般社団法人日本感染症学会:「麻しん(はしか)が世界・国内で増加しています」
- 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:「麻しん(詳細版)」
- Justin Lessler, Nicholas G Reich, Ron Brookmeyer, Trish M Perl, Kenrad E Nelson, Derek A T Cummings.Incubation periods of acute respiratory viral infections: a systematic review.Lancet Infect Dis,2009,9,5,291-300.
- 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター:「はしか(麻しんウイルス感染症)にご注意ください!!」
- Ingo Stock.Measles.Med Monatsschr Pharm,2009,32,4,118-26; quiz 127-8.
- Mihály Végh, András Hári-Kovács, Hans-Walter Roth, Andrea Facskó.Ophthalmological symptoms of measles and their treatment.Orv Hetil,2017,158,39,1523-1527.
- 厚生労働省:「MRワクチン」