インフルエンザは、例年12月~3月に流行し、風邪に比べて感染力が強く、重症化しやすい病気です。
特に抵抗力の弱い高齢者や乳幼児が感染すると、肺炎を起こしたり、持病が悪化したりするなどして、最悪の場合は命を落とすこともあります。今回は、高齢者が知っておくべきインフルエンザや肺炎予防対策などについて、池袋大谷クリニックの大谷義夫院長に教えていただきました。
目次
- 1 Q 超高齢社会といわれています。高齢者のインフルエンザ対策で知っておくべきことはありますか?
- 2 Q 肺炎球菌ワクチンは何歳からでも受けられるのですか?
- 3 Q 肺炎球菌ワクチンは種類がありますか?
- 4 Q 2種類の肺炎球菌ワクチンを接種する場合、間を空けるのですか?
- 5 Q 65歳未満は受けなくてもいいのでしょうか?
- 6 Q 高齢者では口腔内のケアもインフルエンザ対策に有効だと聞きました。
- 7 Q 改めてインフルエンザの症状を教えてください
- 8 Q インフルエンザと肺炎球菌以外にも肺炎を予防するワクチンはありますか?
- 9 Q インフルエンザか風邪か、またはほかの疾患か、見極めるには?
- 10 Q 大谷先生の美学を教えてください
- 11 この記事を監修した医師
Q 超高齢社会といわれています。高齢者のインフルエンザ対策で知っておくべきことはありますか?
インフルエンザから肺炎を引き起こさないことが非常に重要です。高齢者ほど肺炎が原因で亡くなる方が多く、肺炎を死因とする方の約98%が65歳以上(2021年)です。 日常生活でかかる肺炎のうち、一番多い原因菌は肺炎球菌であり、全体の約20%を占めます。インフルエンザが流行している時では、日常生活でかかる肺炎の50%程度になるという報告もあります。
肺炎球菌は人間だけが保菌し感染するため、動物や生活環境中には存在しません。感染経路は飛沫感染または接触感染で、人から人に感染します。日本人の高齢者の約3~5%で、鼻や喉に菌が常在すると報告され、この菌がもとで肺炎や敗血症などの重症感染症を生じることがあるのです。それを予防するために、ぜひ私がお薦めしたいのが、肺炎球菌ワクチンの接種です。日本呼吸器学会のガイドラインでも「肺炎球菌ワクチンを強く推奨する」としています。
参考:一般社団法人 日本呼吸器学会 【65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第6版 2024年9月6日の改訂ポイント)】
Q 肺炎球菌ワクチンは何歳からでも受けられるのですか?
65歳以上を目安に考えてください。厚生労働省は早期予防接種を推奨しており、経過措置として、2018年度まで65歳から5歳刻みで、接種費用の一部あるいは全額を補助していました。2024年3月31日で経過措置は終了し、2024年4月からは、定期接種として自治体の補助が受けられるのは下記に該当する方です。
1)65歳の方
2)60~64歳で、心臓や腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活を極度に制限される方
3)60~64歳で、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
一方で、定期接種に該当しない年齢でも、自治体の補助はないものの自費診療として接種可能です。
Q 肺炎球菌ワクチンは種類がありますか?

肺炎球菌は90種類以上の型があり、このうち過去のデータから肺炎を発症する頻度の高いものとして選ばれた23種類の型に対応する「多糖体ワクチン」と、13種類の型に対応する「結合型ワクチン」があります。 その後「結合型ワクチン」は、15種類の型に対応するワクチンが登場し、最近では、20種類の型に対応するワクチンが発売されました。
多糖体ワクチンは効果が5年間続くとされており、それを過ぎると再接種を検討します。
結合型ワクチンは「免疫の記憶」がつきやすいワクチンで、5年を経過しても、肺炎球菌に感染すると「免疫記憶」によって免疫機能が反応します。そのため、多糖体ワクチンのように再接種を考えなくてもよいのです。
日本呼吸器学会のガイドラインでは「(2種類のワクチンの)連続接種は、多糖体ワクチンの単独接種より有効」と明記されております。
Q 2種類の肺炎球菌ワクチンを接種する場合、間を空けるのですか?
65歳以上ですでに多糖体ワクチンを接種したことがある人は、1年以上期間を空けて、結合型ワクチンを接種してください。
65歳以上で一度も接種歴がない場合は、まずは結合型ワクチンを接種し、1年後に多糖体ワクチンを接種してください。
Q 65歳未満は受けなくてもいいのでしょうか?
一般的に、免疫機能がしっかりしており、肺炎リスクが低いと考えられるので、受ける必要はないと思います。
高齢者の肺炎は薬で治せても再発を繰り返しやすく、それがきっかけで寝たきりや食べ物・飲み物を飲み込む力が弱り、生活の質(QOL)と日常生活動作(ADL)が低下します。フレイル(高齢者の身体機能や認知機能の低下による虚弱状態)やサルコペニア(筋肉量減少による全身の筋力・身体機能の低下)も招き、さらに飲み込む力が低下、誤嚥性肺炎を生じて再び寝たきりにという負のスパイラルに陥ります。寝たきりや認知症のリスクも上がり、負のスパイラルを繰り返すと、誤嚥性肺炎を繰り返し、生命の危機に陥ります。一見お元気そうな方でも、65歳以上を一つの境目と考え、肺炎球菌ワクチンの接種を考えてみてください。
Q 高齢者では口腔内のケアもインフルエンザ対策に有効だと聞きました。

確かにそうです。高齢者施設で歯科衛生士が口腔ケアを積極的に行った群と、そうでない群を調べた結果、積極的に行った群のほうがインフルエンザ発症が有意に少なかったという報告があります。
口腔内には様々な細菌がいます。口腔内細菌からは、インフルエンザウイルスが気道の粘膜に侵入するのを助ける酵素を出し、増殖を促進させる酵素も出すため、口腔内細菌が多いとインフルエンザウイルスの気道への侵入と増殖を助けてしまうという結果になるのです。歯磨きなどによる口腔ケアによって口腔内細菌が減り、インフルエンザ対策につながるのです。口腔ケアとしての歯磨きを確実に行うと、心臓病、糖尿病、高血圧などの生活習慣病の発症リスクを低下させるというデータもあります。
私が提唱しているのは、1日4〜5回の歯磨きです。まずは、朝起きた時。寝ている間は唾液が減少しますので、この間に細菌が増えます。朝食後、昼食後、夕食後の歯磨きを経て、寝る前に入念な歯磨きとフロスや歯間ブラシを行います。理想は5分間の歯磨き。就寝中の細菌の増殖を少しでも抑えるのが目的です。
Q 改めてインフルエンザの症状を教えてください
インフルエンザでは、「悪寒」「38度以上の急な発熱」「関節痛」「筋肉痛」「頭痛」「全身倦怠感」といった全身症状に続いて「咽頭痛」「咳」を認めます。悪寒に襲われたと思ったら、急激に高熱や関節痛が起こるのがインフルエンザで、風邪と比べて症状の進行は速いです。
風邪と異なる点は、インフルエンザはワクチン接種で発症リスクと重症化リスクを下げられることです。風邪の原因となるアデノウイルス、ライノウイルス、新型コロナウイルス出現前の従来のコロナウイルスなどには、抗ウイルス薬や予防接種は存在しません。また、薬を飲まなくても、人間の体の中にある好中球、マクロファージ、リンパ球といった免疫システムがウイルスなどと戦い、長くても2週間以内に治ります。
一方、インフルエンザはインフルエンザウイルスによるもので、予防ワクチンが存在します。その年の流行型を予測して3~4種類の型を含んだワクチンですので高齢者や乳幼児など免疫力が弱い人は、予防接種を受けたほうがよいでしょう。インフルエンザの流行のピークは、12月下旬〜3月。インフルエンザワクチンを接種してから2週間以降で抗体価が上昇し、有効になります。
Q インフルエンザと肺炎球菌以外にも肺炎を予防するワクチンはありますか?
2020年からの新型コロナウイルスのパンデミックも収束し、当初よりは新型コロナウイルス感染症(COVID19)で死亡する方は減少し、新型コロナと共存する時代です。新型コロナはただの風邪と思っている方も多いようですが、高齢者や基礎疾患のある方では、現在でも肺炎に進展しております。2024年秋、新型コロナ5類移行後も死者3万人超、インフルエンザの15倍死亡していると報告されました。高齢者には脅威なのです。日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会は、2024年10月21日に「2024年新型コロナワクチン定期接種に関する見解」を共同で発表しました。3学会は、COVID-19の高齢者における重症化リスク・死亡リスクはインフルエンザよりかなり高く、今冬の流行に備えて、新型コロナのワクチンの定期接種を強く推奨しました。
RSウイルスに対して、60歳以上を対象としたワクチン及び生まれてくる子の予防を目的に妊婦に接種するワクチンがあります。RSウイルス感染症は、喘息やCOPD、心疾患などの基礎疾患の増悪の原因となります。また、肺炎患者における検出ウイルスとして、インフルエンザウイルス9%、RSウイルス9%とする報告もあります。米国疾患予防センター(CDC)の推奨だけでなく、日本呼吸器学会肺炎診療ガイドライン2024にも、RSウイルスワクチンの推奨が記載されております。
Q インフルエンザか風邪か、またはほかの疾患か、見極めるには?

冒頭で申し上げたようにインフルエンザは進行が速いし、とても辛いのです。そこは風邪と違うところでしょう。
風邪であれば、栄養をつけて睡眠を十分に取るようにすれば、放っておいても治ります。発熱があるなら水分補給も心掛けてください。インフルエンザは症状も辛く、重症化することもありますから、欧米と異なり医療アクセスのよい日本では抗ウイルス薬の投与を患者さんと相談いたします。とはいえ、インフルエンザや新型コロナの流行期には発熱外来はいっぱいで予約できないことも多いと思います。現在では、薬局でインフルエンザと新型コロナの同時検査の抗原キットを販売しております。セルフメディケーションとしても、薬局で抗原キットを購入頂き、インフルエンザが陽性でしたら、医療機関を受診しなくてもオンライン診療で近隣の薬局に処方箋をFAXすることが可能ですので、発熱時のためにも御自宅に抗原キットを数回分、御用意しておくことをお勧めしております。
インフルエンザで抗ウイルス薬治療後も発熱が長引くなら、肺炎を合併したかもしれません。また、インフルエンザも新型コロナの抗原も陰性ながら、2週間を過ぎても症状が続くなら、それは風邪ではありません。風邪以外の病気が疑われます。呼吸器内科を受診してください。
2週間未満でも、「咳がひどい」「咳がひどくて眠れない」場合、または「いつもの風邪と何か違う」と感じる場合は、呼吸器内科を受診してください。
Q 大谷先生の美学を教えてください
症状の原因をできる限り探し、必要最低限の薬で根本治療を目指しています。
先日診察した70代の喘息患者さんは、咳が悪化したため、喘息の薬を強化することを希望して受診されました。咳の原因を調べるために行った胸部レントゲン検査で、小さな肺炎が見つかりました。高齢者で肺炎を見逃していたら、もしかしたら大事に至っていたかもしれません。吸入ステロイド増量など喘息薬の強化だけでなく、抗菌薬を処方して改善頂きました。