一年でもっとも寒い季節に猛威を振うインフルエンザ。気温が低く空気が乾燥する環境下でウイルスは活発に増殖することが要因と言われています。
インフルエンザは、普通のかぜとは異なり、突然の38℃以上の高熱や関節痛、筋肉痛、頭痛などのほか、全身倦怠感、食欲不振などの「全身症状」が強く現れるのが特徴。気管支炎や肺炎、中耳炎、脳症などを併発して、重症化することもあるので、高齢者や小児では特に注意が必要です。
今回は、インフルエンザワクチン接種を受けるべきかどうかをはじめ、飛沫・接触・空気など感染経路別予防対策、さらには日常生活でできる免疫力アップ法などついて、池袋大谷クリニックの大谷義夫院長に教えていただきました。
この機会に感染力の非常に強いインフルエンザから身を守るための知識と方法をぜひ身に付けてください。
目次
- 1 Q1.インフルエンザのワクチンを接種していません。接種をするべきですか?
- 2 Q2.子供は2回接種が必要ですか?
- 3 Q3.ワクチン接種は大前提として、ほかにインフルエンザ対策としてするべきことを教えてください。
- 4 Q4.タオルの共有は問題ありませんか?
- 5 Q5.うがいはどうでしょう?
- 6 Q6.マスクは使ったほうがいいですか?
- 7 Q7.加湿器を使うかどうか悩んでいます。インフルエンザ対策になりますか?
- 8 Q8.免疫力アップにいいと聞いたビタミンCのサプリメントを日常的に飲んでいます。やはり効果があるのでしょうか?
- 9 Q9.家族がインフルエンザに感染しました。予防として薬を飲むのは可能ですか?
- 10 Q10.先生の美学を教えてください。
- 11 この記事を監修した医師
Q1.インフルエンザのワクチンを接種していません。接種をするべきですか?
インフルエンザワクチンは一般的に、流行シーズンの前である12月上旬くらいまでの接種が推奨されます。しかし、さまざまな理由から1月を過ぎてもまだ打っていない方もいるかと思います。私の考えは、1月に入ってからでも、インフルエンザワクチンの接種をしたほうがいいというものです。やらないよりは、やったほうがいい。なぜなら、過去のインフルエンザの流行を見ると、3月くらいまで患者数が多く、4月に入ってようやく患者数が少なくなるかな、という状況だからです。
インフルエンザワクチンは、接種から2週間ほどで効果を発揮します。1月にワクチン接種をしても、2月、3月のインフルエンザ感染予防として大いに役立ちます。
Q2.子供は2回接種が必要ですか?
日本では13歳未満は2回接種、13歳以上は1回接種となっています。しかし、海外では過去の接種歴など、状況によっては小児も1回接種というところもあります。
Q3.ワクチン接種は大前提として、ほかにインフルエンザ対策としてするべきことを教えてください。

インフルエンザは、飛沫感染と接触感染が主な感染経路ですが、最近では空気感染の報告も認められますので、換気も重要です。
接触感染予防に手洗いは有効です。手のひら、手の甲、指の間、爪先、手首までしっかり洗ってください。泡立てた石けんをつけ、30秒以上洗います。石鹸による手洗いは、特に手に汚れがある場合に有効です。コロナ禍以降、手指消毒用のアルコールが病院や介護施設だけでなく、飲食店やスーパーなど様々なところに設置されております。アルコールによる手指消毒は、石鹸による手洗いの数倍効果がある消毒法ということがわかっております。私達医師は、一人の患者さんを診察すると、アルコール手指消毒をすることにしております。
インフルエンザウイルスは金属やプラスチックなど表面が平滑な物質で24~48時間生存でき、ウイルス活性は24時間持続します。なお、衣服や紙、繊維では8時間の生存で、ウイルス活性は15分です。
私たちの身の回りは、表面が平滑な物質であふれかえっています。ドアノブ、電車の手すり、スマホ、電話、パソコン、キーボード、エアコンのスイッチ、デスク、小銭などなど。私は、他人と共有するドアノブ、電車の手すりなどを触るとアルコール手指消毒をするのが習慣になりました。キャッシュレスが進む現在では、小銭を触る機会が激減したのは感染対策には有効と考えます。
Q4.タオルの共有は問題ありませんか?
衣服や紙、繊維のウイルス生存は8時間、ウイルス活性は15分と申し上げました。表面が平滑な物質に比べると短い時間ですが、ウイルスは生存するため、私はペーパータオルを使い、バスタオルも別々にしています。
Q5.うがいはどうでしょう?
これに対する考えは、大きく変わりました。平成20年の厚労省のインフルエンザに関するホームページには「うがい」を推奨する一文がありました。しかし今では推奨されていません。インフルエンザウイルスは比較的短時間で気道粘膜に侵入するため、1日数回のうがい程度では予防できないのかもしれません。また、うがいによって、洗面台で飛沫が飛び散るのは感染対策からはお勧めできません。
ただ、水うがいは否定的ですが、「緑茶うがいをすると高齢者においてインフルエンザ感染が減少した(高齢者以外では差が出ていない)」という静岡県立大学からの研究報告があります。
なお、風邪に対しては、ポビドンヨード液(うがい薬)を使ったうがいと水でのうがいではどちらが有効か調べた京都大学からの研究があります。それによると、水うがいのほうが風邪予防の効果が高かったのです。ポビドンヨード液を使うことで喉の常在菌のバランスに影響を与えるからだと考えられます。風邪の予防には水うがい、風邪をひいたあとではうがい薬を使用するのが宜しいかと考えます。
Q6.マスクは使ったほうがいいですか?

飛沫感染対策にマスクは有効です。また、マスクは喉の保湿を保つことも利点。ただし、「マスクを正しく使えば」という注釈がつきます。
実は、マスクを適正に使えていない人が非常に多いのです。製薬会社「エーザイ」の調査では、7割以上が間違った使い方でした。具体的には、マスクの表面を触る人が多い。マスクの表面にはインフルエンザウイルスが付着しています。接触感染の原因になりますから、マスクを外す時は、表面を触ってはいけません。私は、マスクのゴムひもだけを持って取り外すようにしています。
次に、マスクの取り替え頻度です。1日使ったら翌日は新しいのに替える……という方が多いのではないでしょうか? また、使ったマスクをカバンやポケットに入れたり、半分に折ったりする方もいるでしょう。これらはNGです。一度取り外したら、そのマスクにはウイルスが付着しているので、新しいものに替えて頂きたいのです。1日数枚のマスクを使用するのが安全かと思います。マスクのサイズも大切です。さまざまな大きさのものがありますので、ご自身の顔の大きさにぴったりフィットするものを選んで使うようにしてください。
Q7.加湿器を使うかどうか悩んでいます。インフルエンザ対策になりますか?
なります。私は診察室、自宅どちらも、あちこちに加湿器を置いています。50~60%の湿度が、気道の線毛の活動を活発にして免疫を高め、ウイルス対策に良いとされています。湿度がそれより高いとカビやダニを増やすことにつながりますので、50~60%を目標にして頂くのが宜しいと考えます。
Q8.免疫力アップにいいと聞いたビタミンCのサプリメントを日常的に飲んでいます。やはり効果があるのでしょうか?
ビタミンCの感染症対策に関するエビデンス(科学的根拠)は実はあまりないのです。むしろ、感染症対策にいいとエビデンスがあるのが、ビタミンDです。魚やキノコ類に多く含まれているので、たくさん召し上がって頂きたいものです。また、皮膚を日光に当てると体内のビタミンDが増えるという研究報告もあります。冬では、関東圏で20分ほど、沖縄で10分、札幌で70分。皮膚ならどこでもいいですが、現実的に当てやすいのは、手ですよね。通勤時や昼食を取りに行く時には手袋をつけずに、20分ほど日光に当てるようにしてください。
Q9.家族がインフルエンザに感染しました。予防として薬を飲むのは可能ですか?

予防投与は、保険適応にはなりません。保険適用でなく自由診療としてなら、高齢者や慢性呼吸器疾患患者、慢性心疾患患者、糖尿病患者、腎機能障害患者など、免疫機能が悪い人には可能です。高齢者が多く入院する病院や高齢者施設では、同室にインフルエンザを発症した患者がいた場合には、予防投与は有意義と考えられます。非高齢者で基礎疾患がない場合には、予防投与を推奨することはできません。たとえば受験生はインフルエンザが心配ですから、予防投与を希望するかもしれませんよね。しかし、免疫低下のない方への使用は問題があります。予防投与に禁忌はないのですが、安易な使用は耐性ウイルスの出現を誘導する可能性があるのです。主治医に相談してください。
Q10.先生の美学を教えてください。
インフルエンザワクチンを接種しても、発症率をゼロにできるものではない、だから接種しない……。こう思っている人もいらっしゃるかもしれません。しかし、インフルエンザワクチンは発症リスクを下げるとともに、たとえ発症しても重症化を防ぐ役割があります。インフルエンザが重症化すれば、肺炎を引き起こします。高齢者や免疫機能が低下している人の場合、肺炎は命にかかわることも。それを避けるためにも、ワクチン接種はぜひやっていただきたい。同時に、私はインフルエンザ予防に役立つことならすべて実践しますし、患者さんにも勧めたい。結果的に、発症率、重症化率が国民全体で下がると考えているからです。