内視鏡検査を終えて、お腹の張りやチクチクとした痛みが続くと、「異常があったのでは?」と不安になりやすいです。実はその腹痛のほとんどが、検査で入れた空気が原因で、通常1〜2日で自然に軽快します。
しかしポリープを切除した場合や、3日以上痛みが続く、発熱や我慢できないほどの激痛がある場合は、合併症のサインかもしれません。
この記事では、検査後の腹痛の原因から、翌日の仕事復帰の目安、ご自身でできる痛みの対処法まで解説します。自己判断で後悔する前に、まずは正しい知識を身につけ、ご自身の安全を守りましょう。
目次
内視鏡検査後の腹痛が続く期間は通常1〜2日
内視鏡検査後の腹痛が続く期間は通常1〜2日です。胃や大腸の観察を隅々まで行うために空気やガスを入れた影響です。多くの場合、この腹痛やお腹の張りは検査に伴う一時的なもので、自然に軽快していきます。
ここでは、「腹痛が治まるまでの一般的な経過」と「内視鏡検査の翌日にだるいと感じる理由」を解説します。
腹痛が治まるまでの一般的な経過
内視鏡検査後の腹痛は、時間とともに少しずつ楽になっていくのが通常の経過です。多くの方は、以下のような流れで回復に向かいます。
時期 | 主な症状の目安 | おすすめの過ごし方 |
検査当日 | お腹の張り、ゴロゴロする感じ、軽い痛み | 横になって安静にし、自然なガス排出を待つ |
検査翌日 | 軽い張りや違和感が残ることがある | 消化に良い食事を摂り、体を十分に休める |
検査2日後 | ほとんどの症状がなくなり、普段通りになる | 異常がなければ、通常の生活に戻れる |
内視鏡検査の翌日にだるいと感じる理由
検査の翌日に「なんとなく体がだるい」「疲れがとれない」と感じる方も少なくありません。翌日のだるさは検査に伴って起こりうる一時的な反応で、主な原因は以下の3つです。
- 鎮静剤の影響
- 検査前の準備による負担
- 検査中の緊張やストレス
強い腹痛や38度以上の発熱が続く場合は、単なる倦怠感ではない可能性があるため、自己判断せず速やかに受診してください。
内視鏡検査後の腹痛の主な原因2つ
内視鏡検査後の腹痛の主な原因は2つです。ここでは、「①検査時に入れた空気やガスの残留」「②ポリープ切除(ポリペクトミー)」を解説します。
①検査時に入れた空気やガスの残留
内視鏡検査後の腹痛で多い原因は、検査中に胃や大腸に入れた空気が残ることです。胃や大腸のヒダに隠れた小さな病変を見逃さないよう、空気やガスで膨らませて観察します。
この空気が残ると、お腹の張りや軽い痛みを感じることがあります。特に大腸カメラは腸全体を膨らませる必要があるため、胃カメラより張りを感じやすい傾向にあります。
内視鏡検査で送気する際、空気か二酸化炭素が使われます。
空気は体内での吸収が遅いため、検査後もオナラとして排出されるまでお腹の張りが続きやすいです。
一方で二酸化炭素は空気に比べて約150〜200倍吸収されやすく、検査後のお腹の張りが早く解消され、比較的楽に過ごせます。現在では二酸化炭素を使うのが主流です。
②ポリープ切除(ポリペクトミー)
検査中にポリープを切除すると、切除部位が一種の傷や火傷のような状態となり、腹痛や違和感が出ることがあります。これは治療に伴う正常な反応です。
痛みの程度はポリープの大きさや数、切除部位によって異なりますが、通常は軽い痛みが数日続く程度です。合併症を防ぐため、切除後は安静が重要です。
ポリープ切除後の注意点を以下の表にまとめています。
項目 | 内容 |
食事 | ・当日はおかゆ・うどんなど消化の良い食事 ・香辛料や脂肪分の多い食事、アルコールは1週間程度控える |
運動 | 激しい運動や力仕事は1週間ほど避ける |
入浴 | ・当日はシャワーのみ ・湯船は翌日以降から可能 |
移動 | 長距離移動や旅行は1週間程度控える(特に飛行機移動) |
まれに、胃のポリープを切除した場合、胃の防御機能が低下し、細菌感染で胃の壁に膿が溜まる「胃膿瘍(いのうよう)」が起こることがあります。(※1)診断が遅れると重症化する恐れがあるため、次のような症状があれば医療機関へ連絡してください。
- 我慢できないほどの強い腹痛
- 冷や汗が出る
- 便器が真っ赤になるほどの下血や、黒いタール状の便が出る
- 38度以上の発熱
内視鏡検査の翌日に仕事へ行ける?
翌日から働けるかどうかは、以下の条件で判断が変わります。
- 検査内容(観察のみか、ポリープ切除があったか)
- 鎮静剤を使用したかどうか
- 仕事の内容(デスクワークか、肉体労働か)
ここでは、仕事の種類別に復帰の目安を解説します。
デスクワークの場合の復帰目安
座って行う作業が中心のデスクワークは、検査内容によって復帰の目安が変わります。鎮静剤を使わず観察のみで終わった場合、体調に問題がなければ翌日から復帰できることがほとんどです。
鎮静剤を使用した場合は、眠気やふらつきがなくても集中力や判断力が一時的に低下することがあります。重要な契約や精密な作業がある日は、もう1日休むのが安心です。
ポリープ切除を行った場合は、安静にして出血を防ぐことが最優先です。長時間の着座も腹部に圧をかけるため、復帰時期は慎重に判断しましょう。ただし、医師からの特別な指示がなければ、デスクワークは翌日からの再開で問題ありません。
ポリープ切除後のデスクワーク復帰の目安は以下のとおりです。
- 出血や我慢できないほどの強い腹痛がないか
- 医師から安静期間などの特別な指示はなかったか
- 検査当日は休み、体をしっかり回復させたか
復帰後も、1時間に1回は立ち上がって軽く動くなど、こまめに休憩をとりましょう。
肉体労働の場合の復帰目安
重い物の運搬や大きな動きを伴う肉体労働は、腹圧が高く出血リスクも大きいため、復帰には慎重な判断が必要です。観察のみで鎮静剤を使わなかった場合でも、お腹の張りや違和感が完全になくなるまでは力仕事を避けましょう。
ポリープ切除後は特に注意が必要です。以下のような動作は腹圧を著しく高めるため、約1週間は控えましょう。
避けるべき動作 | 具体例 |
重い荷物を扱う | 機材運搬、荷物の持ち上げ・押し引き |
不自然な姿勢の維持 | 前かがみや中腰での農作業・介護業務 |
急な動き | 急な方向転換、走る、階段の駆け上がり |
出血は翌日だけでなく数日後に起こることもあります。「痛みがないから大丈夫」という自己判断は危険です。復帰の可否を医師に確認し、復帰後に強い腹痛や下血があれば作業を中止し、受診してください。
内視鏡検査後の腹痛を和らげる4つの対処法
内視鏡検査後の腹痛を和らげる対処法として、以下の4つを解説します。
①お腹の張りを和らげる
②溜まったガスを出す
③食事で腹痛やだるさを軽減する
④市販薬の服用時は医師に相談する
①お腹の張りを和らげる
お腹の張りは、腸内に残ったガスが原因です。腸の形に沿ってガスが移動しやすくなる姿勢にすることで、不快感を和らげられます。以下の姿勢を無理のない範囲で試しましょう。
姿勢 | ポイント |
右側を下にして横になる | ・大腸の走行に沿ってガスが出口へ移動しやすくなる ・クッションを抱えるとリラックス効果あり |
うつ伏せになる | ・軽くお腹を圧迫して腸の動きを刺激する ・お腹の下に枕を敷き、10〜15分を目安に行う |
四つん這い(猫のポーズ) | 「背中を丸める→反らす」をゆっくり5〜10回繰り返し、腸の圧迫を解放する |
痛みが強まる、気分が悪くなる場合はすぐに中止してください。基本は安静を優先し、楽な体勢で休むことが大切です。
②溜まったガスを抜く
姿勢の工夫とあわせて、腸の動きを穏やかに促すことでガスが抜けやすくなります。ただし、ポリープ切除後や痛みが強い場合は腹圧がかかる行為を避け、安静を優先してください。
以下の方法は、自宅で無理なく試せます。
- ゆっくり歩く:腸が適度に刺激され、蠕動運動が促進される
- お腹で「の」の字マッサージする:ガスが排出されやすい
- 腹部を温める:温めたタオルやカイロを衣服越しに当て、血行を促す
リラックスした状態で行うことがポイントです。焦らず、ご自身の体調に合わせて試してみてください。
③食事で腹痛やだるさを軽減する
検査後の胃や腸は、下剤や検査の刺激で敏感になっています。消化しやすく、負担の少ない食事を選ぶことが回復の鍵です。
特にポリープ切除後は、医師の指示に従い、1週間は消化の良い食事を心がけましょう。おすすめの食事や避けるべき食事を以下の表にまとめています。
おすすめの食事 | 避けるべき食事 | |
主食 | おかゆ、やわらかく煮込んだうどん、食パン | 玄米、雑穀米、ラーメン、パスタ |
主菜 | 豆腐、白身魚(たら、かれい)、鶏のささみ・皮なしの胸肉、半熟卵 | 揚げ物全般、脂身の多い肉(バラ肉など)、加工肉(ソーセージなど) |
副菜 | よく煮た野菜(大根・かぶ・にんじん・じゃがいも)、バナナ、りんごのすりおろし | 食物繊維の多い野菜(ごぼう、きのこ類)、豆類、海藻類、刺激の強い香辛料 |
飲み物 | 常温の水、白湯、麦茶 | アルコール、炭酸飲料、コーヒー、牛乳などの乳製品 |
水分補給も重要です。下剤で水分が失われやすいため、常温の水や白湯、麦茶をこまめに摂りましょう。冷たい飲み物は胃腸を刺激しやすいことから、なるべく避けてください。
④市販薬の服用時は医師に相談する
内視鏡検査後の腹痛に自己判断で市販の鎮痛薬を使うのは危険です。安全のため、まずは検査を受けた医療機関に相談してください。医師に相談する理由として、以下が挙げられます。
- 合併症のサインが隠れてしまうおそれ:穿孔や出血などの痛みを感じにくく、発見を遅らせる
- 症状を悪化させる可能性あり:NSAIDsなどの市販薬が胃腸を荒らし、出血を助長する
検査後の経過観察は治療の一部です。自己判断せず、医師の指示を仰ぎましょう。
内視鏡検査後に腹痛が長引く場合の注意点
通常の回復過程とは異なる症状が見られる場合は、注意が必要です。ここでは、どのような場合に医療機関へ相談すべきか、具体的な目安と危険なサインを解説します。
3日以上痛みやだるさが続く場合は受診を検討
十分な休息をとっても3日以上だるさが続く場合も、注意しましょう。痛みが長引く背景には、検査の刺激で腸に軽い炎症が起きている場合や、腸が敏感な状態で回復に時間がかかっている場合が考えられます。
「我慢できないほどではないから大丈夫」と自己判断で様子を見るのは危険です。不安な状態が3日以上続く場合は、まずは検査を受けた医療機関へ相談してください。
悪化のサイン(発熱・強い痛み・出血など)に注意
内視鏡検査後、次のような症状が出たら自己判断せず、速やかに医療機関へ連絡してください。
- 強い腹痛や冷や汗が出る:穿孔の可能性があり、お腹が硬くなることもある
- 38度以上の高熱や嘔吐が続く:穿孔による腹膜炎が疑われる
- 大量の下血(血便)が出る:ポリープ切除後や憩室出血の可能性がある
- 黒くドロっとした便が出る:胃や十二指腸での出血のサイン
上記はいずれも緊急対応が必要な状態です。なるべく早めに医師の判断を仰ぎましょう。
まとめ
検査後のお腹の張りや痛みは、多くの場合、検査で入れた空気が原因であり、一時的です。通常は1〜2日で自然に治まるので、まずは安心してください。
ガス抜きの姿勢や、消化に良い食事を心がけることで、つらい症状を和らげることができます。ただし、大切なのは自己判断で我慢しないことです。内視鏡後の指示には施設間格差がかなり大きいため、検査を受けた施設での指示をしっかり守ることが大切です。
痛みが3日以上続き、だんだん強くなる、発熱や出血(血便)がある場合は、すぐに検査を受けた医療機関へ連絡しましょう。
参考文献
- Jia Xie, Mo-Jin Wang, Rui Wang. Diagnosis and treatment of gastric abscess by endoscopic ultrasound: A mini-review of the preliminary application. DEN Open, 2025 May 7;6(1):e70129. doi: 10.1002/deo2.70129. eCollection 2026 Apr.