「最近、胃の調子が悪い」「便秘と下痢を繰り返す」、そんなお腹の不調を見過ごしてはいませんか。何気ないサインが、胃がんや大腸がんなどの命に関わる病気の始まりかもしれません。
消化器のがんは初期症状が乏しいため、「沈黙の病気」とも呼ばれます。腹痛や血便などの症状に気づいたときには、すでに進行しているケースもあります。特に、がんのリスクが高まり始める40歳以上の方は注意が必要です。
この記事では、胃カメラ・大腸カメラでわかる主な病気や、検査の重要性を詳しく解説します。手遅れになる前に、ご自身の体を守るための知識を確認していきましょう。
目次
胃カメラでわかる主な病気5つ
胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)は、さまざまな病気の早期発見と早期治療につながる有効な検査です。胃カメラ検査で発見できる代表的な病気として、以下の5つを解説します。
①逆流性食道炎
②胃がん
③胃潰瘍・十二指腸潰瘍
④ピロリ菌感染症
⑤胃ポリープ
①逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸などが食道に逆流して粘膜が炎症を起こす病気です。脂肪分の多い食事や肥満、加齢による食道と胃のつなぎ目の緩みが主な原因です。
胃カメラでは、食道粘膜の炎症の程度や範囲を直接観察できます。粘膜が赤くなっていたり、びらん(ただれ)が生じたりしています。重症になると、深くえぐれた潰瘍が見つかることもあります。
放置すると「Barrett(バレット)食道」に進行し、食道がんのリスクが高まります。バレット食道は食道の粘膜が胃の粘膜のように変化した状態で、早期診断と生活習慣の改善、薬による治療が重要です。
②胃がん
胃がんは日本人に多いがんの一つですが、早期発見できれば内視鏡治療で完治が期待できます。問題は、早期にはほとんど自覚症状がなく、症状が出たときにはすでに進行していることが多い点です。
胃カメラでは、初期の病変も発見可能です。粘膜の微細な変化を捉え、特殊光(NBI:狭帯域光観察)でがん特有の血管模様を鮮明化し、診断精度を高めます。
放置すると、がんは胃の壁の奥深くまで進行し、潰瘍を形成したり大きく盛り上がった腫瘍になったりします。他の臓器への転移も起こり、治療は困難になります。症状がないうちから定期的な胃カメラ検査が大切です。
③胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、胃酸によって粘膜が深く傷つき、えぐれてしまう病気です。主な原因はピロリ菌感染と痛み止め(NSAIDs)の副作用です。
症状は痛みの出るタイミングによって違いがあり、以下が目安となります。
- 空腹時に痛む(十二指腸潰瘍の可能性)
- 食後に痛む(胃潰瘍の可能性)
胃カメラでは、潰瘍の深さ・大きさ・形・出血の有無を直接確認できます。出血している場合は、その場で内視鏡による止血処置(クリップで血管を挟む、薬剤注入など)が可能です。
放置した場合のリスクは、以下のとおりです。
- 治癒過程で瘢痕(はんこん)が残る
- 瘢痕により胃出口が狭くなり、「良性胃出口閉塞」を起こす
- 胃から十二指腸へ食べ物が流れなくなる
- 吐き気や嘔吐を繰り返す
- 潰瘍が深くなり、胃や十二指腸の壁に穴が開く(穿孔)
- 穿孔によって腹膜炎を発症し、緊急手術が必要になる危険がある
近年では、良性胃出口閉塞に対しても低侵襲な内視鏡治療が行われていますが、早期発見と適切な治療が何より重要です。(※1)
④ピロリ菌感染症
ピロリ菌は胃の粘膜にすみつく細菌で、胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がんの原因です。一度感染すると、除菌しない限り胃にすみ続けます。
胃カメラで見られる特徴的な所見には、炎症で胃粘膜が薄くなり、血管が透けて見える「萎縮性胃炎」や胃出口付近に鳥肌のような隆起ができる「びまん性発赤胃炎」などがあります。
放置した場合のリスクとして、以下の3つがあげられます。
- 胃がんの発生リスクが高まる
- 胃粘膜の萎縮が進行する
- 感染は自然には消えず、長期的な胃の炎症を招く
胃カメラによる所見から感染が疑われる場合、検査中に組織を採取します。採取した組織でピロリ菌の有無を迅速に調べることもできます。ピロリ菌の除菌は、胃がんの発生リスクを下げることがわかっています。(※2)
感染が判明した場合は、除菌治療を行い、胃がんリスクを下げましょう。
⑤胃ポリープ
胃ポリープは、胃の粘膜がきのこのように盛り上がった「できもの」です。多くは良性で、大腸ポリープとは異なり、すぐに切除が必要なケースはまれです。主な種類は以下の2つです。
- 胃底腺ポリープ:表面がなめらかで、周囲の粘膜と同じ色
- 過形成性ポリープ:表面が赤く、ブツブツとしており、出血しやすい
胃底腺ポリープのがん化はまれで、過形成性ポリープはピロリ菌感染が原因です。胃ポリープの特徴や対応方法を、以下の表にまとめます。
項目 | 内容 |
胃カメラでの観察 | 大きさ、形、色を確認し、良性か悪性かを高精度で判断 |
追加対応例 | 生検で組織検査/切除 |
特徴的な経過 | 過形成性ポリープは、ピロリ菌除菌で縮小・消失することもある |
ほとんどの胃ポリープは経過観察で問題ありません。ただし、10mm以上に大きいもの、出血を繰り返すもの、がんとの区別が難しい形や色は追加の対応が必要となるケースがあります。
大腸カメラでわかる主な病気4つ
大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)は、肛門から内視鏡を挿入し、直腸から盲腸までの大腸全体を直接観察する検査です。ここでは、大腸カメラで発見できる代表的な病気として、以下の4つを解説します。
①大腸ポリープ
②大腸がん
③潰瘍性大腸炎
④クローン病
①大腸ポリープ
大腸ポリープは、大腸の粘膜にできる「いぼ」のような隆起で、多くは初期に自覚症状がありません。健診の便潜血検査や他の目的で行った大腸カメラで偶然見つかることが多いです。
大腸カメラでは、ポリープの大きさ・形・色・表面の模様を観察します。特殊光で血管を強調表示することで、がん化リスクを高精度に判断します。
ポリープの主な種類とがん化リスクを以下の表にまとめています。
種類 | 特徴 | がん化リスク |
腺腫性ポリープ | 大腸がんの多くがこのタイプから発生(いわゆる「がんの芽」) | 高い(切除で予防可能) |
過形成性ポリープ | 良性で基本的にがん化しない | 低い(大きい場合は腺腫との鑑別必要) |
炎症性ポリープ | 腸の炎症の治癒後にできる | なし |
大腸カメラのメリットは、診断と治療を同時に行えることです。がん化の恐れがあるポリープを発見した場合、その場で切除できるため、がん予防にも直結します。
②大腸がん
大腸がんは、日本人のがんによる死亡原因で常に上位ですが、早期発見できれば高い確率で完治が期待できます。問題は、初期にはほとんど自覚症状がないことです。
症状(血便・便が細い・腹痛など)が出たときには、すでに進行しているケースも少なくありません。大腸カメラは粘膜を直接拡大して観察できるため、バリウム検査では見つけにくい平坦ながんや微小ながんの発見に優れています。
大腸カメラの検査が推奨されるのは、以下のようなケースです。
- 40歳を過ぎて一度も大腸カメラを受けたことがない
- 便に血が混じる、または健診の便潜血検査で陽性を指摘された
- 便が細くなった、残便感がある
- 便秘と下痢を繰り返すようになった
- 原因不明の体重減少や貧血がある
- 血縁者に大腸がんや大腸ポリープになった人がいる
早期発見ならお腹を切らずに大腸カメラで切除でき、完治が期待できます。手遅れになる前に大腸カメラを受けることが、自分の命を守る第一歩です。
③潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こる原因不明の病気で、国の難病に指定されています。主に若い世代に多く発症し、粘り気のある血便や下痢、腹痛が代表的な症状です。寛解期(症状が落ち着く)と再燃期(悪化)を繰り返すのも特徴に挙げられます。
潰瘍性大腸炎を放置した場合、長期の炎症が続くと大腸がんのリスクが上昇します。また、定期的な大腸カメラでがんや前兆を監視する必要があります。
近年、結腸カプセル内視鏡も炎症評価に使われますが、がんの監視には、直接観察と組織採取が可能な大腸カメラが標準とされています。(※3)
④クローン病
クローン病も潰瘍性大腸炎と同じく、原因不明の炎症性腸疾患です。国の難病に指定されており、口から肛門までの消化管のあらゆる場所に、病変が飛び飛びに(非連続的に)発生する可能性があります。
主な症状として、腹痛や下痢、体重減少、発熱、痔瘻などの肛門病変を合併することもあります。
クローン病は小腸病変が多く、カプセル内視鏡が診断に有効です。ただし、狭窄があるとカプセル滞留の恐れがあるため、実施前に大腸内視鏡などで安全性を確認します。早期に正確な診断と治療を行えば、生活の質(QOL)の維持につながります。
内視鏡検査を受けたほうが良い5つの症状・サイン
消化器の病気は、気づいたときには、進行してしまっている傾向があります。内視鏡検査を受けたほうが良い症状・サインとして、以下の5つを解説します。
①胃の不快感
②便通異常
③原因不明の体重減少や貧血
④健康診断の便潜血検査で陽性反応
⑤40歳以上で一度も内視鏡検査を受けたことがない
①胃の不快感
食後に胃が重い、胸やけがする、みぞおちが痛むような不快感は、誰にでも起こる身近な症状です。ただし、症状が続く場合は病気のサインかもしれません。
代表的な原因は以下の3つが挙げられます。
- 逆流性食道炎:胃酸が逆流して食道に炎症が起こる
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍:胃酸で粘膜が深く傷つく
- 胃がん:進行すると不快感や痛みを引き起こす
逆流性食道炎では、胸やけや酸っぱい液体がこみ上げる「呑酸(どんさん)」がよく見られます。潰瘍はみぞおちの痛みが特徴で、空腹時に強く出ることがあります。
胃がんは、進行してから不調として現れる場合があり、市販薬で一時的に症状がやわらいでも、本当の原因を見逃す危険があります。長引く場合は、胃カメラでの確認が早期発見につながります。
②便通異常
便通は「お腹の中からのお便り」といわれるほど、体調を反映する重要なサインです。便秘や下痢の繰り返し、血便、便が細くなるなどの変化は、大腸の異常を示している可能性があります。
便通異常の原因として考えられる主な病気は以下の2つです。
- 大腸ポリープ・大腸がん:腸が狭くなり便が細くなる、出血で血便が出る
- 炎症性腸疾患:下痢・腹痛・血便を繰り返す(潰瘍性大腸炎・クローン病)
ポリープやがんは、便の通過を妨げることで便秘や便の変形を引き起こします。症状が続く場合は、早めに大腸カメラ検査を受けましょう。
③原因不明の体重減少や貧血
ダイエットをしていないのに、体重が急に減った、階段で息切れする、顔色が悪いなどの症状は、消化器の病気の可能性があります。がん細胞は正常細胞よりも多くの栄養を消費するためです。
胃がんや大腸がんがあると、栄養が奪われて体重が減少し、消化吸収の不調も拍車をかけます。また、貧血の原因が胃や腸からの出血も多く見られます。
胃潰瘍やがんから、わずかな出血が長く続くことで鉄分が失われ、貧血を引き起こします。男性や閉経後の女性で鉄欠乏性貧血を指摘された場合は、消化管出血の可能性が高く、原因精査が必要です。
④健康診断の便潜血検査で陽性反応
便潜血検査は、便に血液が混じっていないかを調べる検査です。陽性=消化管のどこかで出血している可能性があるサインです。
ただし、陽性だからといって必ずしも大腸がんというわけではありません。以下のような原因でも陽性になります。
- 痔
- 良性のポリープ
- 大腸炎などの炎症性疾患
便潜血陽性で大腸内視鏡検査を受けた人のうち、約11.8%に大腸がんが、約20〜42%に高リスク腺腫が見つかった報告があります。(※4)陽性回数が多いほど、発見率は高くなる傾向です。
便潜血検査は、自覚症状のない段階で病気を見つけるための貴重な機会です。陽性の結果が出たら、放置せず早めに精密検査を受けましょう。
⑤40歳以上で一度も内視鏡検査を受けたことがない
特に気になる症状がない方でも、40歳を過ぎたら一度は内視鏡検査をおすすめします。消化器がんは、40代から発症する方が増え始め、加齢とともにリスクは高まっていくためです。
がんは初期には自覚症状がほとんどなく、「症状が出てからの検査」では手遅れになることもあります。ご家族に胃がんや大腸がんになった方がいる場合は、注意が必要です。
遺伝的な要因も考えられるため、40歳より前から定期的な検査を推奨します。将来の不安を減らすためにも、40歳の節目に一度、内視鏡検査を受けてみましょう。
内視鏡検査による早期発見が重要な理由
症状が出る前に内視鏡検査を受けることが、がんの早期発見・治療において、将来の負担を減らす有効な方法の一つです。「沈黙の病気」のため、腹痛や血便などのサインに気づいた時には、すでに手遅れに近いこともあります。
早期発見することで、以下のようなメリットがあります。
メリット | 内容 |
体への負担が少ない治療で完治が目指せる | ・初期のがんなら開腹手術は不要 ・内視鏡で粘膜だけを切除可能 |
治療期間が短く、生活への影響が少ない | ・入院日数が短く、体へのダメージも最小限 ・早期に職場や家庭へ復帰可能 |
医療費や通院負担が軽くなる | 進行がんに比べ、医療費・通院の頻度・身体的な負担が少ない |
生活の質(QOL)を保ちやすい | ・後遺症や体力低下のリスクが低い ・普段通りの生活を維持しやすい |
症状がない段階での定期的な検査は、ご自身の健康と、その先の生活を守るための大切な自己投資です。
まとめ
胃がんや大腸がんといった病気は、初期には自覚症状がほとんどない「沈黙の病気」です。だからこそ、症状がないうちの検査が、将来の健康を大きく左右します。
検査と聞くと少し不安に感じるかもしれませんが、ポリープの段階で発見・切除できれば、がんの予防にもつながります。この記事でご紹介した症状がある方や、40歳を過ぎて検査を受けたことがない方は、ご自身の体を守るための第一歩を踏み出しましょう。
内視鏡検査に不安をお持ちの方は、ぜひお気軽にかかりつけ医に相談してみてください。
参考文献
- Suprabhat Giri, Saroj Kanta Sahu, Gaurav Khatana, Prasanna Gore, Preetam Nath, Bipadabhanjan Mallick, Jimmy Narayan, Aditya Kale, Sridhar Sundaram. Role of Endoscopic Ultrasound-guided Gastroenterostomy for Benign Gastric Outlet Obstruction. DEN Open, 2025, 6, 1, p.e70170.
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