大腸がんは、2023年の統計で日本人のがんによる死亡原因で男性では2位、女性では1位となっている身近な病気です。(※1)大腸がんが恐ろしいのは、初期段階では自覚症状がほとんどないことです。お腹の不調や血便などのサインに気づいたときには、すでに進行しているケースも少なくありません。
一方で、大腸がんは早期に発見しさえすれば、高い確率で治癒が期待できるがんです。症状がない状態でも検査を受けることで、がんになる前の「ポリープ」の段階で発見し、切除することも可能です。
この記事では、便潜血検査から最新の内視鏡検査まで、さまざまな大腸がん検査の種類と流れ、費用や精度、痛みについて徹底解説します。大腸がんの検査を受けようと考えている人は、ぜひ最後まで参考にしてください。
目次
大腸がんの検査が必要な理由
大腸がん検査が重要である最大の理由は、大腸がんの初期の段階では自覚症状がほとんどないためです。
しかし、大腸がん検診の受診率は年々上昇しているものの、50%未満にとどまります。(※2)検査を受けない理由には「仕事や家事で時間がない」「健康なので必要ない」「体調変化があれば受診すれば良い」などが目立ち、がん検診の重要性や役割が十分に周知されていない可能性があります。
ご自身や大切なご家族を守るため、40歳を過ぎたら、大腸がん検査を検討することが重要です。
大腸がんの検査の種類と流れを解説
ここでは、代表的な大腸がんの検査方法について、その流れや特徴を一つひとつ解説していきます。
- 便潜血検査
- 直腸指診
- 直腸造影検査
- CT検査・MRI検査
- 超音波検査
- 下部内視鏡検査
- カプセル内視鏡
- PET検査
- がん遺伝子検査
- 腫瘍マーカー検査
1.便潜血検査
便潜血検査とは便の中に目には見えない微量の血液が混じっていないかを調べる、手軽な大腸がんのスクリーニング検査です。自宅で簡単にでき、食事制限も必要ないため、市区町村や職場の健康診断として広く行われています。
【検査方法と流れ】
- 医療機関や検診機関から専用の採便容器を受け取ります。
- 自宅で2日間にわたり、それぞれ便を採取します。容器のスティックで便の表面を数か所こするように採るだけです。
- 採取した容器を説明書に従って保管し、指定された場所に提出します。
がんやポリープからの出血は毎日出るとは限りません。そのため、2日法と呼ばれる方法が採用されており、2日に分けて実施するのが一般的です。便潜血検査で陽性となれば、大腸がんの可能性があります。
ただし、陽性(血液が検出された)となっても、すぐにがんと決まるわけではありません。痔などの良性の病気が原因のこともあります。しかし、がんやポリープが存在する可能性を否定できないため、陽性判定が出た場合は、症状がなくても必ず精密検査を受けてください。
費用は、自治体や職場の健康診断なら無料のことが多く、人間ドックなどの自由診療でも数百円〜2,000円程度です。
2.直腸指診
直腸指診は、医師が肛門から指を挿入して、直腸の内部を直接触って調べる診察方法です。
検査では、医師が手袋を着用し、潤滑剤を塗った指を肛門からゆっくりと挿入します。そして、直腸の壁を全周にわたって丁寧に触診します。これにより、しこり(腫瘍)の有無やその硬さ、大きさ、肛門からどのくらいの位置にあるかなどを確認します。
特別な機械は不要で、診察室ですぐに行えるため身体への負担が少ない点がメリットです。肛門から約7〜8cmの範囲にある病変であれば、この診察で発見できる可能性があります。しかし指が届く範囲、つまり直腸の下部に限られるので、それより奥にある大腸のがんは見つけられません。
そのため、直腸指診だけで大腸がんの有無を完全に判断することはできません。しかし、おしりからの出血や便秘などの症状がある場合、まず行われるべき基本的な診察の一つです。外来や入院で病変を検索する際に行われるのが一般的で、基本診療料(初診料・再診料・外来診療料など)に含まれるので、特別な費用はかかりません。
3.注腸造影検査
注腸造影検査は、造影剤と空気を肛門から注入し、大腸のX線(レントゲン)写真を撮影する検査です。大腸全体の形や、がんやポリープによる粘膜の凹凸を詳しく調べます。
【検査の方法と流れ】
- 前準備検査の前日から食事制限を行い、下剤を飲んで大腸の中を空にします。
- 肛門から細いチューブを挿入します。そこから造影剤と空気をゆっくりと注入し、大腸を膨らませます。
- 撮影体の向きをいろいろと変えながら、大腸の隅々まで造影剤が付着した状態で、X線写真を何枚か撮影します。
この検査は、大きなポリープや、がんによって腸が狭くなっている状態、大腸全体の走行などを把握するのに役立ちます。特にお腹の手術後などで腸に癒着があり、大腸内視鏡が奥まで挿入できない場合に有効な選択肢となります。
ただし、平坦な病変やごく小さなポリープは見つけにくいことがあります。また、疑わしい部分が見つかっても、その場で組織を採って調べられません。そのため、異常が指摘された場合は改めて大腸内視鏡検査が必要です。
保険診療が適用されるので、自己負担額は3割負担で4,000〜5,000円程度です。
4.CT検査・MRI検査
CT検査とMRI検査は、体の内部を輪切りのような画像にして、病気の状態を詳しく調べる検査です。大腸がんそのものを最初に見つけるというよりは、がんが見つかった後に行われることが多い検査です。がんの広がり(進行度)や他の臓器への転移がないかを正確に評価します。
画像検査に関しては、CTコロノグラフィ(大腸3D-CT検査)と呼ばれるものもあります。肛門から炭酸ガスを入れて大腸を膨らませた状態でCT撮影を行います。その画像をコンピューターで処理することで、内視鏡で大腸の中を見ているかのような3D画像を作成する検査です。
保険適用で3割負担の場合5,000〜8,000円程度です。
5.超音波検査(エコー検査)
超音波検査(エコー検査)は周波数の音波を体に当て、その反響を画像にする検査です。痛みや放射線被ばくの心配がありません。大腸がんの場合は転移の有無の評価などに用いられます。具体的には腹部超音波検査で皮膚の上からお腹にプローブを当てることで他の臓器(特に肝臓など)への転移を確認するのに有効です。
3割負担で1,000〜数千円程度の費用がかかります。
6.下部内視鏡検査
下部内視鏡検査(大腸カメラ)は、精度の高い大腸がん検査です。先端に高性能カメラが付いた細くしなやかなスコープを肛門から挿入し、直腸から盲腸までの大腸全体を直接観察します。
【この検査でできること】
- 粘膜の直接観察:モニター画像で粘膜の微細な変化を確認し、ミリ単位の病変も発見可能。
- 組織採取(生検):疑わしい部分を採取し、病理検査で良悪性を判定。
- ポリープ切除:がん化の恐れがあるポリープはその場で切除し予防につなげる。
3割負担で保険診療を受ける場合、検査前の診察や腸管洗浄用の下剤代を含め、7,000〜10,000円程度が目安となります。ポリープ切除が必要な際は追加費用が発生します。
内視鏡検査については、こちらの記事でも詳しくまとめているのであわせて参考にしてください。
7.カプセル内視鏡
カプセル内視鏡は、ビタミン剤ほどの大きさの小型カメラが入ったカプセルを、水と一緒に飲み込んで行う検査です。カプセルは消化管のぜん動運動によって自然に進みながら、写真を撮影します。
小腸用と大腸用のものがあり、大腸用カプセル内視鏡は大腸内視鏡で回盲部まで到達できなかった場合や、腹部手術歴があり癒着が疑われる場合や器質的異常により通常の大腸内視鏡の挿入が困難と予想される場合に行われます。
しかしリアルタイムでの操作ができないため、怪しい場所をじっくり観察できない他、組織を採取したり、ポリープを切除したりすることはできません。まれに、腸が狭くなっている場所でカプセルが滞留するリスクがあります。
検査前には下剤を飲む必要があり、体に記録装置を装着して数時間過ごします。カプセルは通常、1〜2日後に便と一緒に自然に排出されます。異常が見つかった場合は、改めて通常の大腸内視鏡検査が必要です。
保険診療では3割負担で約3万円、自由診療で約10万円の費用がかかります。
8.PET検査
PET検査(Positron Emission Tomography:陽電子放出断層撮影)とは、全身のがん細胞を一度に画像化できる特殊な検査です。がん細胞が正常な細胞よりも多くのブドウ糖を取り込む性質を利用します。
【検査の仕組みと目的】
- ブドウ糖によく似た「FDG」という放射性物質を含む薬剤を注射します。
- 薬剤が全身に行き渡り、がん細胞に集まるまで1時間ほど安静にします。
- 専用の装置で全身を撮影すると、薬剤が多く集まる場所が光って見えます。
PET検査の主な目的は、大腸がんそのものを見つけることではありません。CTなど他の検査でははっきりしない転移や、予期せぬ場所への転移がないか全身を一度に調べたいときや、手術後の再発をチェックするときなどに用いられます。あくまで他の検査と組み合わせて総合的に判断するための補助的な検査です。
保険適用の場合は3割負担で数千円〜数万円程度、自由診療の場合は10万円以上かかることもあります。
9.がん遺伝子検査
がん遺伝子検査は、がん細胞そのものの遺伝子(DNA)を調べ、どのような異常が起きているかを解析する比較的新しい検査です。
検査では、がんの増殖に関わる遺伝子変異を調べて分子標的薬の効果を予測できるほか、血液や唾液を用いた遺伝学的検査でリンチ症候群など遺伝性大腸がんのリスクも評価できます。
保険診療でも数万円〜十数万円、自由診療では数十万円かかる高額な検査ですが、一人ひとりの患者さんに合わせた最適な治療法を選択する「個別化医療」あるいは「オーダーメイド医療」が可能になります。
10.腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカー検査は、血液を採取し、がん細胞が作り出す特定の物質(タンパク質など)の量を測定する検査です。大腸がんでは、主に「CEA」や「CA19-9」などの項目を調べます。
検査の役割と注意点この検査の主な役割は、診断の補助や治療効果の判定、治療後の再発確認です。治療効果の判定手術や抗がん剤治療でがんが小さくなると、腫瘍マーカーの値も下がることが多く、治療が効いているかどうかの目安になります。
再発のモニタリング治療後に下がったマーカー値が再び上昇した場合は、がんの再発が疑われ、CTやMRI、下部内視鏡検査などが行われることもあります。
重要な注意点腫瘍マーカーは、あくまで補助的な検査です。早期のがんでは数値が上がらないことも多く、逆にがん以外の病気(肝炎など)や、喫煙のような生活習慣でも数値が高くなることがあります。したがって、この検査の数値だけでがんの有無を診断することはできません。必ず、内視鏡検査や画像検査の結果と合わせて総合的に判断する必要があります。
検査費用は3割負担で1項目あたり1,000円〜3,000円程度です。
まとめ
大腸がんの検査には、手軽な便潜血検査から、最も精度の高い内視鏡検査、さらには遺伝子レベルで調べる新しい検査まで、さまざまな種類があります。
大腸がんは、症状のない早期の段階で発見することが、何よりも重要です。最初は簡単な便潜血検査から始めて、必要に応じて他の検査方法も検討してみましょう。大腸がんの検査に関して不安がある場合は、消化器内科・外科の医師に相談してみてください。
参考文献
- 国立研究開発法人国立がん研究センター.「がんの統計2024」
- 国立研究開発法人国立がん研究センター.「がん検診に関する統計データのダウンロード」