「不妊治療を始めたいけど、自分の年齢でも大丈夫なのか?」と、年齢への不安を口にされる方が少なくありません。
不妊治療を考えるうえで、年齢は避けては通れない要素です。妊娠率・出産率だけでなく、治療費の負担を軽くする公的医療保険の利用にも年齢制限があるためです。
本記事では、公的保険の不妊治療の年齢制限や設定されている理由を解説します。高齢でも不妊治療での妊娠の確率を高める方法も紹介するので、心から納得して治療に臨むためにも、ぜひ参考にしてください。
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不妊治療の年齢制限とは?知っておきたい3つのポイント
不妊治療には「年齢」という大きな要素が関わっています。年齢が妊娠のしやすさに影響するだけでなく、公的医療保険の適用にも制限が設けられているためです。
ここでは、不妊治療の年齢制限に関わる以下の3つのポイントを解説します。
①年齢で変わる不妊治療の成功率
②年齢で決まる不妊治療の保険適用
③年齢で変わる保険適用回数
①年齢で変わる不妊治療の成功率
不妊治療が成功し、無事に出産に至る確率は女性の年齢に大きく左右されます。年齢を重ねるとともに、妊娠する力(妊孕性:にんようせい)は大きく低下するためです。20〜24歳の妊孕率を100%とすると、40〜44歳では約40%、45歳以上では10%未満にまで低下します。(※1)
年齢の影響は妊娠の成立だけでなく、流産にも及びます。受精卵が着床し、赤ちゃん自体が正常に作られなければ、出産まで到達できません。生殖補助医療における全体的な流産率は約12.5%とされており、自然妊娠よりやや高めです。(※2)
②年齢で決まる不妊治療の保険適用
不妊治療のうち、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を公的医療保険で受けられるのは、女性が43歳未満で治療を開始する場合に限られます。
これは、2022年4月から不妊治療の一部として保険適用された年齢条件です。(※3)一方で、タイミング法や人工授精などの一般不妊治療には、年齢制限は設けられていません。
以下の表のように治療の種類によって、保険適用の年齢条件に違いがあるため、事前に確認しておくことが重要です。
治療法 | 保険適用の年齢条件 |
一般不妊治療(タイミング法、人工授精など) | 制限なし |
生殖補助医療(体外受精、顕微授精など) | 初回治療開始時に女性が43歳未満 |
③年齢で変わる保険適用回数
厚生労働省によると、公的医療保険の適用を受けるためには、年齢だけでなく以下の表に示す回数制限もあります。(※3)
治療開始時点の女性の年齢 | 保険が適用できる回数 |
40歳未満 | 子ども一人につき通算6回 |
40歳以上43歳未満 | 子ども一人につき通算3回 |
表に示す回数は、生殖補助医療の「胚移植(受精卵を子宮に戻す処置)」を対象としており、採卵には回数制限がありません。子ども一人当たりの回数制限のため、二人目の治療を始める際には再び上限回数まで保険が適用されます。
上限回数を超えた治療や、43歳以上で治療を開始した場合は、治療費が全額自己負担(自費診療)となる点に注意してください。
不妊治療に年齢制限がある理由
不妊治療に年齢制限が設けられている理由は、以下の2つです。
①卵子の数や質低下
②女性ホルモン分泌の減少
①卵子の数や質の低下
不妊治療に年齢制限があるのは、加齢によって卵子の数と質が低下するためです。卵子の数は胎児のときに決まり、生まれた時点で約200万個あります(※4)。
新しく作られることはなく、初経を迎える頃には約30万個に減り、その後も年齢とともに減り続けます。数が減ると精子と出会う確率が下がり、妊娠率も低下します。
さらに、卵子は年齢とともに老化し、染色体異常のリスクが高まります。染色体は生命の設計図のようなものです。設計図に異常のある卵子が受精した場合、以下のようなことが起こりやすくなります。
- 受精卵がうまく成長しない
- 細胞分裂が途中で止まってしまう
- 子宮内膜に着床できない
- 着床してもすぐに成長が止まってしまう
- 妊娠初期での流産につながる
- 妊娠が継続できない
年齢を重ねると、卵子の「数」だけでなく「質」も低下するため、妊娠の難易度が上がります。
②女性ホルモン分泌の減少
妊娠の成立と維持には、女性ホルモンの精密な働きが欠かせません。妊娠に関わる主な女性ホルモンの種類と役割は、以下の表のとおりです。
女性ホルモンの種類 | 役割 |
エストロゲン(卵胞ホルモン) | 卵子を成熟させ、受精卵が着床しやすいように子宮内膜を厚くする |
プロゲステロン(黄体ホルモン) | 厚くなった子宮内膜を維持し、妊娠が継続しやすい状態を保つ |
年齢とともに卵巣の機能が低下すると、女性ホルモンの分泌量の減少や、分泌バランスの乱れにつながります。結果として、排卵が不規則になったり、子宮内膜が十分に厚くならず受精卵が着床しにくくなったりします。
加齢とともに、胎盤形成に重要な黄体ホルモンの分泌も減少するため、高齢になると妊娠後に胎盤を作ることが難しい可能性があります。胎盤がうまく作られないと、赤ちゃんへの血流供給が不足し、流産や胎児の発育不全、妊娠高血圧症候群などの合併症のリスクを高める一因ともなるのです。
高齢でも不妊治療で妊娠確率を上げる4つの方法
高齢でも不妊治療を諦めてはいけません。妊娠の可能性を高められる方法として、以下の4つが挙げられます。
①プレコンセプションケアと生活習慣の改善
②不妊治療のステップアップ
③後悔しない不妊治療クリニックの選び方
④卵子凍結
①プレコンセプションケアと生活習慣の改善
妊娠の可能性を高めるための第一歩は、プレコンセプションケアと呼ばれる不妊治療を始める前の体づくりです。プレコンセプションケアとは、将来の妊娠に備えて心身を最適な状態に整える取り組みを指します。
今日からできるプレコンセプションケアを以下の表にまとめました。
プレコンセプションケア | 内容 |
バランスの良い食事 | 特定の食品に偏らず、主食・主菜・副菜をそろえましょう。緑黄色野菜や葉酸を積極的に摂取してください。葉酸については妊娠希望の1ヶ月前から1日400μgの摂取が推奨されている |
適度な運動 | ウォーキングやヨガなど心地良いと感じる運動を続けましょう。 |
質の良い睡眠 | 毎日なるべく同じ時間に寝起きし、心と体を休める時間を十分に確保してください。 |
禁煙と節度のある飲酒 | 喫煙は卵子・精子の質を低下させるため、パートナーと協力して禁煙に取り組むことが重要です。また飲酒についても控えるようにしましょう |
②不妊治療のステップアップ
限られた時間で妊娠の可能性を高めるためには、不妊治療のステップアップを主治医と話し合って適切なタイミングで判断することが重要です。
不妊治療は負担の少ないものから進めるのが一般的で、以下の順序で行われます。
- タイミング法
- 人工授精
- 体外受精・顕微授精
不妊治療のステップアップを検討する目安は、以下のとおりです。
- 40歳以上で治療を開始する
- タイミング法や人工授精を数回程度試みても結果が出ない
- 卵巣に残る卵子の数が少ないと予測される
いずれかに該当する場合は、早めに体外受精などの高度な治療への移行を、主治医と相談することをおすすめします。
③後悔しない不妊治療クリニックの選び方

年齢が高い場合の不妊治療は、どのクリニックを選ぶかによって結果が大きく左右されることがあります。少しでも妊娠の可能性を高めるために、慎重に情報収集を行いましょう。
クリニック選びで確認したいチェックポイントは、以下の表のとおりです。
チェックポイント | 内容 |
専門性と実績 | ・生殖医療専門医が在籍しているか ・年齢別の治療実績をホームページなどで公開しているか |
技術力と教育体制 | ・胚培養士の経験や資格に関する説明を受けられるか ・スタッフの学会参加や研修などに参加しているか |
治療方針と説明 | ・一人ひとりの状況に合わせた治療計画を提案してくれるか ・検査結果や治療の選択肢を納得できるまで説明してくれるか |
サポート体制 | ・不妊治療の心のケアを受けられる体制があるか ・仕事との両立に配慮した診療時間や制度があるか |
まずはクリニックの説明会や個別相談に参加し、雰囲気やスタッフの対応をご自身の目で確かめてみてください。
④卵子凍結
卵子凍結とは、排卵前に採取した卵子を-196℃の液体窒素で凍結保存し、将来の妊娠に備える方法です。年齢とともに卵子の数や質は低下するため、若いうちに卵子を保存しておけば、後のライフステージで妊娠を希望する際に役立つ可能性があります。ただし、凍結した卵子で100%妊娠が成立するわけではないところにご注意ください。
仕事やライフプランの都合で妊娠を先延ばしにしたい方や、治療の影響で将来妊娠力が下がるリスクがある方にとって有効な選択肢です。費用や定期的な保管料が必要ですが、「将来の妊娠の可能性を残す」安心感が得られる点で注目されています。
まとめ
不妊治療の成功率に年齢が影響することは事実ですが、大切なのは今できることに丁寧に取り組むことです。生活習慣の改善、ご自身の状況に合わせた治療の選択、信頼できる専門家との出会いが未来への道を拓きます。
ご自身の年齢が気になり、不妊治療で妊娠できるか不安な方は、クリニックで相談することから始めてみましょう。
参考文献
- 一般社団法人 日本生殖医学会:「年齢が不妊・不育症に与える影響」
- Manna C, Lacconi V, Rizzo G, De Lorenzo A, Massimiani M.Placental Dysfunction in Assisted Reproductive Pregnancies: Perinatal, Neonatal and Adult Life Outcomes.Int J Mol Sci,2022,23,2,659.
- 厚生労働省:「不妊治療保険適用リーフレット」
- 子ども家庭庁:「妊娠・不妊の基礎知識」