お子さまの歯並びが気になりつつも、「矯正は高額だから…」と治療をためらっていませんか?
一般的なワイヤー矯正には60万円以上かかることも珍しくなく、経済的な負担は悩みの一つです。しかし、成長期のお子さまなら、本格的な矯正より費用を抑えやすい「床矯正(しょうきょうせい)」という選択肢があります。費用相場は約20〜50万円と比較的安価であり、将来的な抜歯リスクを減らせるというメリットもあります。
この記事では、床矯正の費用相場や料金の内訳、医療費控除などを活用する方法までをわかりやすく解説します。後悔しない選択のために、まずは正しい知識を身につけましょう。
目次
床矯正とは顎を広げる取り外し式の矯正
床矯正は、主に顎の骨が成長している時期のお子さまを対象とした矯正治療法の一つです。
取り外しができるプレート状の装置についているネジを少しずつ回し、顎の骨をゆっくりと広げていきます。この治療の主な目的は、将来生えてくる永久歯がきれいに並ぶためのスペースを確保することにあります。
食事や歯磨きの時には自分で取り外せるため、日常生活への影響が少ない点が大きな特徴です。
床矯正のメリット・デメリット
床矯正のメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット | ・将来的な抜歯のリスクを減らせる・取り外しが可能で衛生的・痛みが比較的少ない・他の矯正法より費用を抑えやすい傾向がある |
デメリット | ・お子さま本人の協力が不可欠・決められた装着時間を守る必要がある・適応できる症例が限られる・歯1本1本の細かい調整は難しい・年齢の適応がある |
床矯正は日常生活に取り入れやすいですが、治療効果を得るにはお子さま本人の努力も必要です。特に装着時間の管理は大きなポイントになります。
また、すべての症例に適応できるわけではなく、歯並びや顎の状態によっては別の矯正方法が検討される場合もあります。そのため、メリットとデメリットを理解したうえで、専門の歯科医師と相談することが大切です。
治療開始の最適年齢
一般的に、床矯正を開始するのに適した時期は、顎の骨が成長段階にある6〜12歳ごろといわれています。この時期は「混合歯列期」と呼ばれ、乳歯と永久歯が混在している状態です。
この時期が最適な理由は以下のとおりです。
- 顎の成長を利用できる
- 永久歯が生えるスペースを確保できる
- 将来の本格的な矯正治療の負担を軽減できる
もちろん、お子さまの成長には個人差があるため、最適な開始時期は一人ひとり異なります。歯並びで気になる点があれば、歯科医師に相談し、お子さまのお口の状態を確認してもらうことをおすすめします。
床矯正の費用相場(20〜50万円程度)
床矯正の費用相場は、20〜40万円程度です。ワイヤー矯正などの本格的な矯正治療と比較すると、費用を抑えやすい治療法といえるでしょう。
実際にかかる費用は、お子さまの歯並びの状態や顎の成長段階、治療期間、治療を受けるクリニックの方針によって変動します。具体的には、以下の費用が含まれています。
- 初回カウンセリング
- 精密検査・診断料
- 矯正装置の製作費
- メンテナンス料
- 治療後の保定装置費
初回カウンセリング
カウンセリングの費用は無料〜5,000円程度です。多くのクリニックでは無料相談を実施しており、費用を気にせず気軽に相談できます。
初回カウンセリングでは主に次のような内容が説明されます。
- 現在の歯並びの問題点の簡易チェック
- 床矯正が適応するかどうかの診断
- 使用する装置や治療の流れ
- 治療期間や費用の目安
この段階で疑問や不安を解消しておくことが大切です。複数のクリニックで相談し、治療方針や費用、医師との相性を比較することで、安心して次のステップに進むことができます。
精密検査・診断料
精密検査・診断料の相場は3〜5万円程度です。カウンセリング後に治療を前向きに検討する場合、この精密検査に進みます。検査は、お子さま一人ひとりに合わせた最適な治療計画を立てるために欠かせません。
主な検査内容は次のとおりです。
- レントゲン撮影:顎の骨格や歯の状態、成長方向を確認する
- 口腔内・顔貌の写真撮影:歯並びと顔全体のバランスを評価する
- 歯の型取り:噛み合わせを立体的に分析する
- 虫歯・歯周病のチェック:矯正を安全に進めるために事前確認する
これらを総合的に分析することで、使用する装置や治療期間、必要な費用がより正確に示されます。精密検査を受けることで、治療の見通しを具体的に把握できるのが大きなメリットです。
矯正装置の製作費
床矯正で大きな費用を占めるのは、オーダーメイドで制作される矯正装置です。装置の価格は片顎(上に装着、もしくは下に装着)か両顎(上と下どちらにも装着)か、また装置の複雑さによって変わります。
目安は片顎で15〜20万円、両顎で30〜40万円程度です。装置には、顎を広げて歯が並ぶスペースを作る「拡大床装置」や、筋肉の力を利用して顎の成長を促す「機能的矯正装置」があります。
治療の途中で顎の成長や歯並びの変化に応じ、装置の修理や作り直しが必要になることもあります。その際は追加費用が発生する可能性があるため、事前に確認しておくと安心です。
メンテナンス料
床矯正では月に1回程度の通院が必要で、そのたびにメンテナンス料(調整料・処置料)が発生します。相場は1回あたり3,000〜5,000円程度です。メンテナンス料には次のような処置が含まれます。
- 装置の調整と適合状態の確認
- 歯の動きや顎の成長のチェック
- 虫歯や歯肉炎など口内トラブルの確認
- 歯磨き指導など口腔衛生管理
初期費用が安くても、治療が長引けばメンテナンス料の総額は高くなります。
治療を始める際は装置代だけでなく、毎月のメンテナンス料や治療期間を含めた総額で費用を考えることが重要です。
治療後の保定装置費
床矯正の治療後は「保定期間」に入り、歯が元の位置に戻る「後戻り」を防ぐために保定装置を使用します。保定装置の費用は1〜5万円程度が相場です。主な種類と特徴は以下のとおりです。
種類 | 特徴 |
プレートタイプ | プラスチックとワイヤーで作られた取り外し式 |
マウスピースタイプ | 透明で目立ちにくい取り外し式 |
フィックスタイプ | 歯の裏側に細いワイヤーを接着して固定 |
保定期間中も数か月に1回の通院で歯並びのチェックを行い、その際に3,000〜5,000円程度の観察料がかかる場合があります。また、保定装置を紛失・破損すると再製作費用が発生するため、日常の取り扱いには注意が必要です。
床矯正の費用を安く抑える方法
床矯正の費用を少しでも安く抑えるための具体的な方法は以下の3つです。
①モニター治療に応募する
②医療費控除を受ける
③保険適用になるか確認する
ご自身に合った方法がないか、ぜひ確認してみてください。
①モニター治療に応募する
モニター治療は、治療経過の記録や症例写真をクリニックのWebサイトや広告で使用することに同意する代わりに、通常より安く治療を受けられる制度です。
新しい治療法の導入時や、治療実績を紹介する目的で募集されることが多く、費用を抑えたい方に魅力的な選択肢といえます。ただし注意点もあります。
常時募集されているわけではなく、期間や条件が限定される場合があります。応募できるかどうかは歯並びの状態などクリニックが定める条件によります。また、口元の写真や治療データが公開される点は理解しておきましょう。
モニター治療を選ぶ際には割引額だけでなく、治療計画やクリニックの信頼性を確認することが大切です。
②医療費控除を受ける
床矯正の費用は、条件を満たせば医療費控除の対象となります。医療費控除とは、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告を行うことで所得税の一部が戻ってくる制度です。
対象となるかどうかは目的によって異なります。審美目的のみの矯正は対象外ですが、子どもの床矯正は、顎の成長を助けたり噛み合わせを整えたりする医療目的で行われます。そのため、多くの場合は控除の対象になります。
大人でも機能改善が目的であれば対象となる可能性があります。医療費控除の主なポイントは以下のとおりなので、確認してみてください。
項目 | 内容 |
対象となる金額 | 年間の医療費が10万円を超えた部分 |
対象となる費用 | 矯正治療費、通院時の公共交通機関の交通費 |
手続き | 翌年の確定申告期間に税務署で申告 |
税務署での申告の際に、医療費の領収書を添付する必要はありませんが、明細書の記入内容の確認のため、税務署から領収書の提示や提出を求められる場合があるので、領収書は5年間必ず保管するようにしましょう。
③保険適用になるか確認する
床矯正を含む多くの歯科矯正は自由診療であり、費用は全額自己負担となります。ただし、一定の条件を満たせば、指定施設で公的医療保険の適用を受けられ、自己負担は原則1〜3割に軽減されます。適用条件は以下の3つです。
- 厚生労働大臣が定める先天性疾患が原因で噛み合わせに異常がある場合(唇顎口蓋裂やダウン症候群など50種類以上が対象)
- 顎変形症と診断され、外科手術を伴う矯正治療を行う場合
- 永久歯萌出不全により前歯3本以上が生えず、外科処置を伴って矯正する場合
これらはいずれも見た目改善ではなく、機能回復を目的とした医療行為と位置づけられます。
保険診療が認められるのは国の基準を満たす医療機関に限られます。ご自身の症状が対象かどうか、治療を希望するクリニックが指定施設かを事前に確認することが重要です。
床矯正とワイヤー矯正・マウスピース矯正の費用比較
矯正治療の費用は、治療法によって大きく異なります。代表的な3つの方法を比較すると次のとおりです。
治療方法 | 費用相場(全体矯正の場合) | 主な特徴 |
床矯正 | 約20~40万円 | 顎の骨の成長を利用して、歯が並ぶスペースを作る治療 |
ワイヤー矯正 | 約60~100万円 | 歯一本一本を精密に動かし、細かな歯並びを整える治療 |
マウスピース矯正 | 約70~100万円 | 透明なマウスピースを交換しながら、歯を動かしていく治療 |
床矯正の費用が比較的安価なのは、治療目的が異なるためです。床矯正は成長期のお子さまに行う第一期治療で、使用する装置もシンプルです。
一方、ワイヤー矯正やマウスピース矯正は、歯1本ずつを精密に動かす第二期治療が中心で、複雑な装置や技術を必要とするため費用が高くなります。
費用は治療法を選ぶ大切な要素ですが、重視すべきはお子さまの歯並びの状態に合っているかどうかです。長期的に時間と費用を無駄にしないためにも、専門医に相談して適切な方法を選ぶことが重要です。
床矯正を始める前に知っておくべき注意点
床矯正を始める際には、費用だけでなく治療後の注意点も理解しておく必要があります。以下では、後戻りを防ぐための保定装置や、食事・歯磨きなど日常生活への影響を解説します。
後戻り防止のための保定装置
床矯正で顎を広げて歯のスペースを確保しても、それで治療が終わりではありません。矯正治療で動かした歯は、周囲の骨や歯茎がまだ安定していないため、放置すると元の位置に戻ろうとします。
これを防ぐのが「保定期間」であり、歯並びを体に定着させる大切なステップです。保定期間は1〜3年程度で、この期間の自己管理を怠ると、歯が後戻りして再治療が必要になる場合もあります。
日常生活への影響(食事・歯磨きなど)
食事の際は装置を外し、専用ケースに必ず保管しましょう。装着したまま食べると破損や虫歯のリスクにつながります。また、ケースに保管することで、紛失も防ぐことができます。外出先でも取り外せる準備が大切です。
歯磨きは装置を外せるため、清掃しやすい点がメリットです。ただし、装置自体も毎日洗浄して細菌の繁殖を防ぐ必要があります。
治療を成功させるためには、日常生活の中で次のポイントを守ることが重要です。
- 装着時間を1日12〜14時間以上守る(※1)
- 発音の違和感は一時的と理解する
- 月1回程度の通院を欠かさない
お子さまが装置をきちんと使えるように、保護者の方がサポートしてあげることも、治療をスムーズに進めるためには大切です。
まとめ
床矯正は、顎が成長する大切な時期に行うことで、将来の抜歯リスクを減らせるなど多くのメリットがあります。費用も他の矯正法に比べて抑えやすい傾向ですが、効果を引き出すには、お子さま自身の協力が大切です。
費用は治療法を選ぶうえで重要なポイントですが、大切なのはお子さまの歯並びの状態に合った治療法を見つけることです。初期費用が安くても、治療が計画通りに進まなければ、総額が高くなる可能性もあります。
まずは専門の歯科医師に相談し、メリット・デメリットや総費用を理解したうえで治療を始めましょう。
参考文献
- Emad Eddin Alzoubi, Simon Camilleri, Mohammed Al Muzian, Nikolai Attard. The effect of tooth borne versus skeletally anchored Alt-RAMEC protocol in early treatment of Class III malocclusion: a single-centre randomized clinical trial. Eur J Orthod, 2023, 45(5), p.517-527.