子どもの歯並びのために床矯正を始めたものの、その効果や毎日の習慣化などに、不安を感じることはありませんか?
床矯正の装置は、自身で取り外しできる手軽さの一方で、装着時間は1日12〜14時間以上必要になります。(※1)実際に、推奨時間を下回ると、せっかく動かした歯が元に戻ってしまう「後戻り」のリスクも高まります。(※2)
この記事では、なぜ12〜14時間以上必要なのか、そしてご家庭で無理なく装着時間を守るための具体的な工夫を詳しく解説します。読み終える頃には、効果を高めるための床矯正のポイントや注意点が理解でき、自信を持って取り組めるようになります。
床矯正の効果を高める装着時間のポイント
床矯正の治療が成功するかどうかは、装置をどれくらいの時間装着しているかに大きく左右されます。
治療をより効果的に引き出すための装着時間のポイントは以下の3つです。
①推奨装着時間は1日12〜14時間以上が目安
②装置を入れる・ネジを巻くタイミング
③装着時間が短いと後戻りのリスクも
①推奨装着時間は1日12〜14時間以上が目安
床矯正の装置は、1日12〜14時間以上の装着が一般的な目安です。理由は、歯や顎の骨に弱く持続的な力をかけ続けることで、骨の組織をゆっくりと変化させ、歯が動くためのスペースを確保するためです。
装着時間が推奨時間より短い場合、以下のリスクがあります。
- 計画通りに歯が動かず、治療効果が十分に得られない
- 治療期間が長引き、本来の計画よりも治療時間が長くなる
- 作成した装置がきつくなったり、浮いたりする
ご自宅で過ごす時間を中心に、できるだけ長く装着するよう心がけることが大切です。
②装置を入れる・ネジを巻くタイミング
床矯正を成功させるには、「装置を入れるタイミング」と「ネジを巻くタイミング」を正しく守ることが欠かせません。装置は基本的に食事と歯磨き以外の時間は、常に装着するのが原則です。
シーン別の目安をまとめると次のようになります。
シーン | 装置の取り扱い |
食事 | 破損防止と虫歯予防のため外す |
歯磨き | 歯と装置を清潔に保つため外す |
学校・仕事中 | 装着が難しい場合は、帰宅後すぐに装着する |
睡眠中 | しっかり装着する |
顎を広げるためには装置中央のネジを回す必要があります。ネジを回す頻度や回数は必ず歯科医師の指示に従うことが大切です。
一般的には週に1〜2回、決まった曜日の夜に行うことが多いです。お風呂の後や歯磨きの後など、ネジを巻く時間を決めると習慣化しやすくなります。また、ネジを巻いて装置した後に就寝し、朝起きるまで長時間外さないことで、装置の効果が得られやすいというメリットもあります。
③装着時間が短いと後戻りのリスクも
床矯正は、装置を正しい時間装着しなければ、「後戻り」のリスクが高まります。歯の周りの組織が安定する前に装置を外していると、頬や舌の力で押し戻されやすくなるためです。
研究でも、装置を長くつけているほど歯が効率よく動くことが分かっており、決められた時間を守ることが大切だとされています。(※3)
装着時間が短いと、単に治療が進まないだけでなく、これまでの治療が無駄になってしまう可能性もあるため、注意が必要です。
床矯正を装着する際の注意点
床矯正の治療を安全かつスムーズに進めるために、自宅で実践してほしい注意点は以下の3つです。
①正しい装着方法で取り付ける
②洗浄後は専用ケースで保管する
③治療をスムーズに進めるために定期通院を続ける
①正しい装着方法で取り付ける
床矯正の装置は、毎日自身で取り外すため、正しく装着できていないと、十分な治療効果が得られません。期待される治療の効果を出すためには、以下の手順を守りましょう。
- 鏡で装置の位置を確認しながら入れる
- 前歯にワイヤーを合わせる
- 奥歯の金属バネを左右均等に指で押し込む
- 「カチッ」と音がして浮き上がらないことを確認する
一方で、自己流の装着方法は、装置の変形や破損につながります。強く噛んだり舌で押したりしての装着は絶対に避けてください。最初は違和感を覚えても、数日〜1週間ほどで慣れてくることがほとんどです。
装着時に強い痛みを感じる場合や、上手くはまらない場合は、無理せず歯科医院にご相談ください。
②洗浄後は専用ケースで保管する
外した床矯正の装置は、紛失や破損を防ぐために、専用のケースに必ず入れて保管してください。ティッシュに包んで置いておくと、ご家族が誤って捨ててしまったり、ペットのおもちゃにされたりする危険があります。
装置を紛失・破損してしまうと、再製作の費用や治療の遅れにつながり、せっかくの矯正効果が台無しになってしまうこともあります。日常的に「外したらケースに入れる」を徹底することが、安心して治療を続けるための基本ルールです。
③治療をスムーズに進めるために定期通院を続ける
床矯正を計画通りに進めるためには、歯科医師による定期的なチェックと調整が不可欠です。通院時には、以下のような確認や調整を行います。
項目 | 具体的な内容 |
治療の進捗確認 | 歯や顎が計画通りに広がっているか、歯並びに問題が起きていないかをチェック |
装置の調整 | 口腔内の成長や変化に合わせて、ワイヤーなどを微調整 |
口腔内の健康チェック | 虫歯や歯肉炎の兆候がないかを専門的に診察 |
相談とモチベーション維持 | ・治療に関する不安や疑問に応答 ・子どものやる気を引き出す |
通院の頻度は、お口の状態にもよりますが、一般的には1か月に1回程度です。痛みや装置の不具合など、何か困ったことがあれば、すぐにクリニックへ連絡するようにしてください。
床矯正を成功させるために実践したい工夫
床矯正の装置を毎日長い時間着け続けるのは、子どもはもちろん、サポートする家族にとっても簡単ではありません。治療を成功させるポイントとして、以下の3つを紹介します。
①嫌がる子どもには声かけやご褒美でやる気を引き出す
②装着時間の記録にはアプリ・カレンダーを活用する
③口内炎・口臭を防ぐために口腔ケアを徹底する
①嫌がる子どもには声かけやご褒美でやる気を引き出す
床矯正の装置を嫌がるのは自然なことです。特に治療開始直後は痛みや違和感、話しにくさが強く、お子さまが装着を避けたくなるのも無理はありません。大切なのは、その気持ちに寄り添いながら、前向きに治療を続けられる工夫を取り入れることです。
やる気を引き出すためのポイントは次の3つです。
- 肯定的な声かけ:「今日も頑張って偉いね」など前向きな言葉で認める
- 達成可能な目標とご褒美を設定:短期間の目標を設定し、達成したら好きなおやつや遊びで喜びを共有する
- 家族みんなで応援:治療の大切さを理解し、家族全員で励ますことで続ける力につながる
こうしたサポートは、お子さまが「頑張ろう」と思える大きな原動力になります。
②装着時間の記録にはアプリ・カレンダーを活用する
床矯正で効果を出すためには、装着時間を正確に管理することが欠かせません。毎日の記録をつけることで「どれくらい頑張れているか」が一目でわかり、モチベーションの維持にもつながります。さらに、その記録を歯科医師に伝えることで、治療方針の調整にも役立ちます。
記録の方法としては、カレンダーや手帳を使って装着と取り外しの時間を書き込み、シールやスタンプで楽しみながら続けるやり方があります。また、スマホアプリを活用すればタイマーやリマインダーで着け忘れを防げるほか、矯正専用のアプリを利用することもできます。
シンプルな仕組みでも続けることが大切です。お子さまの性格や家庭の習慣に合った方法を選び、日々の積み重ねを可視化しましょう。
③口内炎・口臭を防ぐために口腔ケアを徹底する
床矯正の装着中は、口の中が汚れやすくなるため、虫歯や口内炎、口臭を防ぐには日々の口腔ケアの徹底が欠かせません。 装置が入ることで唾液の洗浄作用が妨げられ、普段よりも食べかすや細菌が残りやすくなるためです。
特に、子どもは痛みや違和感を訴えて歯磨きを嫌がることもあるため、保護者のサポートが重要になります。もし口内炎ができて痛みが強い場合や、ケアに迷うことがあれば、歯科医師に相談してください。
歯と装置のケア方法で、それぞれ押さえておくべきポイントは下記のとおりです。
ケアの対象 | ポイント |
歯 | ・装置を外し、歯と歯ぐきの境目などを一本ずつ丁寧に磨く ・デンタルフロスや歯間ブラシを必ず活用する ・食後、歯磨きができない場合は、うがいだけでも行う |
装置 | ・柔らかい歯ブラシ(義歯用ブラシも可)を使い、流水で優しく洗浄する ・歯磨き粉は研磨剤で装置に傷をつけ、細菌の温床となるため使用しない ・汚れが気になる場合、週に数回、専用の洗浄剤を使う ・洗浄後、専用のケースで保管し、紛失や破損を防ぐ |
シーン別|床矯正の装着時間に関するよくある質問
床矯正治療を始めると、日常生活のさまざまな場面で、疑問に思うことが出てきます。治療の効果に直接関わる装着時間に関する質問として、以下の5つを解説します。
- 食事・歯磨きの際は外しても良い?
- 学校に行っている間も装着すべき?
- 装着を忘れた・守れなかった日はどうすれば良い?
- 痛みや話しづらさはいつまで続く?
- 睡眠中の装着だけでも効果はある?
食事・歯磨きの際は外しても良い?
食事や歯磨きの際は、必ず装置を外す必要があります。
装着したまま食事をすると食べ物が詰まりやすく、虫歯や歯肉炎の原因になります。また、硬いものや粘着性のある食品で装置が壊れるリスクもあります。歯磨きの際も外さなければ十分に清掃できません。
なお、食事や歯磨きで装置を外している時間は、1日の装着時間には含まれません。食後の再装着を忘れないよう意識することが大切です。
学校に行っている間も装着すべき?
学校や習い事に行っている間など、日中の時間帯も可能な限り装着することで、治療を計画的に進めることができます。
多くの床矯正治療では、1日12〜14時間以上の装着が目安とされます。睡眠時間だけでは不足するため、日中の時間も活用しなければ、十分な効果が得られません。
もちろん、食事や体育、楽器演奏、発表など、一時的に外さざるを得ない場面もあります。その場合は、専用ケースに入れて保管し、必要になったらできるだけ早く再装着しましょう。外している時間が長引くほど、後戻りや治療の遅れにつながるため注意が必要です。
装着を忘れた・守れなかった日はどうすればいい?
装置の装着忘れや、体調不良などで時間を守れなかった場合でも、慌てずに正しい対応を取ることが大切です。状況ごとの対処法として、以下を参考にしてみてください。
- 数時間の遅れ:気づいた時点ですぐ装着し、その日の夜はできるだけ長めに装着する
- 丸一日以上忘れた場合:歯科医院に連絡し、相談する
- 数日間装着できない予定がある場合:事前に歯科医院へ報告して対応を確認する
長期間装置を外していると、歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」が起きて、装置がきつくて入らなくなることがあります。また、自己判断でネジを多めに巻いて取り戻そうとするのは危険です。歯や顎に強い負担をかけ、最悪の場合は装置の作り直しが必要になることもあります。
忘れてしまったことは正直に歯科医師へ伝え、適切な指示を受けることが治療をスムーズに進めるポイントです。
痛みや話しづらさはいつまで続く?
装置による痛みや話しづらさは、ほとんどの場合一時的なものです。多くの方は数日〜1週間ほどで慣れていきます。
歯の痛みや違和感は、歯が押されて動き始める正常な反応であり、通常は2〜3日から長くても1週間程度で和らぎます。痛みが強いときは、おかゆやスープ、豆腐、ヨーグルトなど、柔らかい食事を中心にしましょう。
ただし、痛みが我慢できないほど強い場合や、装置が頬や歯茎に刺さるような鋭い痛みが長期間続く場合は、装置の不具合の可能性もあります。不安なことやつらいことがあれば、すぐに歯科医師へ相談してください。
滑舌については、サ行、タ行、ラ行などが発音しにくくなることがありますが、ほとんどの方が1〜2週間ほどで舌が装置に順応します。自宅での音読や、ご家族との会話を増やすなど、積極的に発声練習すると慣れが早まります。
睡眠中の装着だけでも効果はある?
睡眠中だけの装着では、十分な効果は期待できません。床矯正は「弱い力を継続的にかける」ことで顎の成長や歯の移動を促すため、装着時間が不足すると治療が進みにくくなります。
睡眠中のみの装着で効果が乏しい理由は次のとおりです。
- 睡眠時間だけでは約6〜8時間と短い
- 日中に外している間に頬や舌の力で歯が押し戻される
- 夜に動いた分が日中に後戻りし、進行が止まる
推奨される装着時間(1日12〜14時間以上)を満たすには、学校時間や帰宅後から就寝までの時間も活用することが重要です。
まとめ
床矯正は、装置を「1日12〜14時間以上」装着できるかどうかが、治療が計画通り進めるための目安です。毎日の継続には、子ども自身の頑張りはもちろん、家族のサポートも欠かせません。
カレンダーやアプリで記録をつけたり、小さなご褒美を設定したりと、家庭で楽しみながら続けられる工夫を取り入れてみてください。床矯正に関する疑問や不安、困ったことがあれば、まずは担当の歯科医師へ相談しましょう。
参考文献
- Emad Eddin Alzoubi, Simon Camilleri, Mohammed Al Muzian, Nikolai Attard. The effect of tooth borne versus skeletally anchored Alt-RAMEC protocol in early treatment of Class III malocclusion: a single-centre randomized clinical trial. Eur J Orthod, 2023, 45(5), p.517-527.
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