慢性的な肩こりや頭痛、姿勢の崩れ、原因不明のだるさ。いくら整体やマッサージに通っても改善せず、繰り返していませんか?
実はその不調には、「噛み合わせの悪さ」が関係しているかもしれません。噛み合わせの乱れは、口の中だけでなく全身に影響し、頭痛・肩こりから消化器系の不調まで引き起こす可能性があります。
この記事では、噛み合わせが悪いと現れる症状やリスク、歯科でできる治療法、日常生活でのセルフケアまで解説します。正しく理解することで、不調の原因を知り、心身ともに健やかな生活を取り戻す第一歩につながるはずです。
噛み合わせが悪くなる原因
噛み合わせの悪化は、生まれつきの骨格だけでなく、日常の習慣や口内環境の変化が積み重なることで起こります。
頬杖や片側での咀嚼など無意識の癖は顎(あご)のバランスを崩し、歯ぎしりや食いしばりは歯をすり減らします。さらに、虫歯や歯周病の放置、歯を失ったままにすることも噛み合わせの乱れにつながります。
代表的な原因は次のとおりです。
- 頬杖:片側から力がかかり、歯並びが悪化したり、骨格がゆがむ
- 偏咀嚼:片側の筋肉ばかりが発達し、顔のバランスを崩す
- うつぶせ寝や猫背:不自然な姿勢が首や顎に負担をかける
- 虫歯・歯周病:歯を支える骨が溶けて噛み合わせが悪化する
- 抜けた歯の放置:空いたスペースに隣の歯は倒れ込み、上下の歯は伸びてきて歯並び全体が乱れる
複数の原因が絡み合って症状が出ることもあるので、症状がひどい場合は歯医者を受診することが重要です。
噛み合わせが悪いと出る症状6つ
噛み合わせのわずかなズレが、体のさまざまな不調につながることがあります。ご自身では気づかないうちに、顎や頭、肩、さらには心のバランスにまで影響を及ぼしているかもしれません。
ここでは、噛み合わせの悪さによって起こりやすい症状として、以下の6つを解説します。
①虫歯・歯周病
②顎周辺の症状
③頭痛・肩こり症状
④フェイスラインの変化
⑤自律神経への影響
⑥消化器系や体全体の負担
①虫歯・歯周病
かみ合わせが悪いと、虫歯や歯周病になりやすいといわれています。その理由の一つは、歯が重なったり隙間ができたりすることで歯ブラシが届きにくくなり、磨き残しが増えてしまうことです。
汚れや細菌が溜まると虫歯や歯周病のリスクが高まります。また、噛む力が一部の歯に集中すると、その歯に負担がかかり、ひび割れや欠けが生じることもあります。
こうした小さなトラブルが重なることで口の中の環境が悪化し、結果的に虫歯や歯周病を引き起こしやすくなるのです。
②顎周辺の症状
噛み合わせが悪いと顎の周りに痛みや違和感が生じやすくなります。食事や会話で毎日使う部位だからこそ、わずかな負担の積み重ねが不調を引き起こします。
特に注意したいのが「歯ぎしり」や「食いしばり」です。睡眠中や集中している時には、強い力で噛みしめることもあります。
顎関節症になると、次のような症状につながります。
- 歯のすり減りやひび割れ
- 朝起きたときの顎のだるさや痛み
- 筋肉の緊張によるこめかみや頬の不快感
これらは噛み合わせの乱れと深く関係しており、早めの対策が必要です。
③頭痛・肩こり症状
原因不明の頭痛や、マッサージをしても治らない肩こりは、噛み合わせの悪さが原因の可能性があります。
噛み合わせが悪いと顎の筋肉に余分な力がかかり、その緊張が首や肩の筋肉にも伝わります。その結果、血流が悪くなり、肩こりや頭痛の一因になることがあります。(※1)
肩こりだけにとどまらず、非定型顔面痛と呼ばれる、原因がはっきりしない持続的な顔の痛みに悩まされることもあります。長引く頭痛や顔の痛みがある場合、その不調は噛み合わせの悪さが関係しているかもしれません。
一度、口の中の状態を専門家に確認してもらいましょう。
④フェイスラインの変化
噛み合わせの悪さは、フェイスラインの歪みや左右のアンバランスを引き起こします。無意識に片側だけで噛む「偏咀嚼」により、片側の顎の筋肉だけが過剰に発達してしまうことが原因です。
筋肉のバランスが崩れると、次のような見た目の変化が現れます。
- 口角の高さが左右で違う
- 片側のエラが張って見える
- ほうれい線の深さが左右で異なる
筋肉のアンバランスな状態が長く続くと、顎の骨格にまでズレが生じてしまう可能性もあります。見た目の問題だけでなく、特定の歯に過度な負担をかけて歯を傷つけるリスクも高まるため、注意が必要です。
⑤自律神経への影響
噛み合わせが乱れると、自律神経の働きにも影響し、全身の不調を引き起こすことがあります。原因がはっきりしないめまいや疲労感、気分の落ち込みや不安感もその一例です。
顎関節の周りには多くの神経が集まっており、噛み合わせのズレによる負担が続くと神経が刺激され、自律神経のバランスが乱れやすくなります。複数の不調が続いて改善しない場合、根本原因の一つとして噛み合わせの問題を疑うことも大切です。
⑥消化器系や体全体の負担
噛み合わせの悪さは、消化器系の不調やバランスの崩れを招く可能性があります。消化器系や体全体には、以下のような影響があります。
場所 | 影響 |
消化器系 | ・大きな塊のまま食べ物が胃に送られる ・消化不良や胃もたれ、胸やけが起こる ・咀嚼不足で唾液の分泌が減少して栄養の吸収効率が低下する |
体全体 | ・噛む力の偏りで体の重心が不安定になる ・姿勢の悪化や体の歪みにつながる ・腰痛などの全身症状を引き起こす |
一見関係ないように思える胃の不調や腰痛も、「しっかり噛めていない」ことが根本的な原因になっている可能性があります。
噛み合わせが悪いまま放置するリスク
噛み合わせが悪いまま放置すると以下のようなリスクがあります。
- 虫歯・歯周病になる
- 顎関節症になる
- 集中力が低下する
- 睡眠の質が低下する
- 気分が落ち込みやすくなる
虫歯・歯周病になる
噛み合わせが悪いと、虫歯や歯周病のリスクが高まります。その原因は「汚れの問題」と「力の問題」の2つに分けられ、詳細は以下の表にまとめています。
問題点 | 内容 |
汚れの問題 | ・歯が重なると複雑な隙間ができる ・歯ブラシがすみずみまで届かない ・磨き残した歯垢が虫歯や歯周病の原因になる |
力の問題 | ・噛む力が特定の歯に集中する ・歯に目に見えないひびが入る ・歯を支える骨や歯ぐきに負担がかかる ・細菌が侵入しやすい隙間ができる ・歯周病を進行させる原因になる |
噛み合わせが悪いと、歯が磨きにくく汚れが残りやすくなるうえに、一部の歯に強い力がかかって負担が大きくなります。毎日きちんと歯磨きをしているのにトラブルを繰り返す方は、原因が噛み合わせにあるのかもしれません。
顎関節症になる
噛み合わせの悪さは、顎関節症を引き起こす要因の一つです。いつも同じ側で噛む癖がつくと、片方の顎関節や筋肉に負担が集中し、症状が悪化していきます。
顎関節症になると、以下のような症状が現れます。
- 口の開閉時に「カクカク」「ジャリジャリ」と音がする
- 口を動かすと顎やこめかみ、頬が痛む
- 大きく口を開けられない、または口がまっすぐ開かない
顎の違和感を放置すると、食事や会話にも支障をきたします。気になる症状がある場合は、早めに歯科医院で相談することが大切です。
集中力が低下する
噛み合わせの悪さは、仕事や勉強での集中力低下につながる可能性があります。顎周りの筋肉が緊張すると、その影響が首や肩へ広がり、慢性的な痛みや不快感を引き起こすためです。
噛み合わせが乱れると、まず顎の筋肉が緊張しやすくなります。その緊張は首や肩にまで広がり、血管を圧迫して血流が悪くなります。すると頭痛や肩こりといった慢性的な痛みが続くようになり、結果として体の不快感が集中力を妨げてしまうのです。
慢性的な頭痛や肩こりに悩んでいる場合、一度噛み合わせをチェックしてみましょう。
睡眠の質が低下する
噛み合わせが悪いと、睡眠の質を下げる原因になることがあります。主な要因は2つです。1つは歯ぎしりや食いしばりによる体の緊張で、就寝中も筋肉がこわばり、深いリラックスを妨げます。
もう1つは気道が狭まることで、いびきの原因や睡眠時無呼吸症候群につながる点です。睡眠障害の治療では、睡眠専門医と歯科医の連携が重要といえます。日中に強い眠気が続く場合や、十分眠っても疲れがとれない場合は、噛み合わせの乱れが睡眠の質を低下させている可能性があります。
気分が落ち込みやすくなる
噛み合わせの乱れは、心の健康にまで悪影響を及ぼすことがあります。慢性的な体の痛みや生活の不便さがストレスとなり、知らず知らずのうちに精神的な負担を増やしてしまうためです。
精神的ストレスにつながる要因には、以下のようなものがあります。
- 体の痛み:頭痛、肩こり、顎の違和感や痛みなど
- 食事や会話の不便さ:食事が楽しめない、滑舌が悪くなる
- 見た目への悩み:顔の歪みがコンプレックスになる
こうした複数の要素が重なることで心のバランスが崩れ、原因不明の気分の落ち込みとして現れることもあります。
噛み合わせが悪いときのセルフケア方法
噛み合わせが悪いときのセルフケア方法は以下の3つです。
- 顎に負担をかけない生活習慣
- 姿勢や癖の改善
- 筋肉をほぐすケア
少し意識を変えるだけで始められることばかりですので、今日から試してみてください。
顎に負担をかけない生活習慣
噛み合わせの不調を悪化させないためには、食べ方や無意識の癖など、顎に過度な負担をかけない生活習慣を心がけましょう。硬いものを噛んだり、片側だけで噛んだりといった何気ない習慣の積み重ねが、顎の関節や筋肉に継続的なダメージを与えます。
具体的な習慣の見直し例は以下のとおりです。
工夫する点 | 負担をかけない方法 |
食事の工夫 | ・硬い食べ物を避ける・食べ物を小さく切る・左右均等に噛む |
日中の意識 | 日中に歯を食いしばっていることに気づいたら、すぐに力を抜くように意識する |
毎日の食事や日中の過ごし方を意識すると、顎への負担は軽減できます。自分の習慣をチェックし、できることから一つずつ始めてみましょう。
姿勢や癖の改善
日常的な姿勢の悪さも噛み合わせを悪化させる原因となります。体は全身がつながっており、歪みが巡り巡って顎の位置をずらしてしまう可能性があるためです。
猫背で前に出た重い頭を支えるために首や肩が緊張すると、その負担が「筋膜」を通じて顎周りにまで広がり、バランスを崩す原因になります。
噛み合わせに影響を与える姿勢がないか、以下の項目をチェックしましょう。
- パソコン作業中に猫背になっている
- 目線を下げたままスマートフォンを長時間見ている
- 無意識に頬杖をついている
- 片側の肩にばかりバッグをかける
- うつ伏せで寝ることが多い
噛み合わせのトラブルを防ぐには、全身の姿勢や癖を見直すことが大切です。デスクワーク中はモニターの高さを調整したり、立ち上がって体を伸ばしたり、ゆっくり息を吐いて筋肉の緊張を和らげるなど、こまめに姿勢をリセットする習慣をつけましょう。
筋肉をほぐすケア
噛み合わせの悪さが原因で起こる頭痛や肩こりは、セルフケアで筋肉をほぐすことで緩和できます。マッサージやストレッチで緊張を和らげ、血行を促すことが大切です。
噛み合わせが悪いと口周りから首、肩にかけての筋肉がこわばり、血流が滞ります。この筋肉の緊張が痛みの大きな原因となるため、リラックスさせることが症状改善につながります。
日常でできる簡単なケアの例は以下のとおりです。
部位 | 方法 |
咬筋マッサージ | 食いしばったときに硬くなる頬の筋肉を、指の腹で優しく円を描くようにほぐす |
首のストレッチ | ゆっくりと首を前後左右に傾け、痛みを感じない範囲で気持ちよく首筋を伸ばす |
肩のストレッチ | 両肩を耳に近づけるように上げて、ストンと力を抜く動作を数回繰り返す |
日常的にこうしたセルフケアを取り入れることで、筋肉の緊張をリセットし、不快な症状を軽減できます。ただし、痛みが強い場合や炎症が疑われる場合は、無理をせず専門家に相談することが大切です。
歯科で行う噛み合わせ治療のポイント
歯科医院で行う治療は、単に歯並びを整えるだけでなく、口腔内の健康維持や発音のしやすさなど、生活の質を高めることを目的としています。
歯科医院で行われる代表的な治療のポイントは以下の3つです。
- マウスピースで負担を軽減する
- 矯正治療をする
- 精密検査を受ける
マウスピースで負担を軽減する
就寝中の歯ぎしりや食いしばりは、強い力で歯や顎にダメージを与えます。そこで効果が期待されるのが、歯ぎしり防止用のマウスピースです。歯科医院で作るオーダーメイドの装置で、比較的費用を抑えて始められるのも特徴です。
マウスピースの装着によって、以下のような効果が期待できます。
- 歯のすり減りや欠けなどのダメージを防ぐ
- 顎周りの筋肉をリラックスさせ、頭痛や肩こりを緩和する
- 顎を楽な位置へ導き、顎関節症の症状を和らげる
マウスピースは、あくまで症状を緩和する対症療法です。不調の根本原因が歯並びにある場合は、次のステップの治療が必要になります。
矯正治療をする
歯ぎしり防止用のマウスピースは負担を和らげる対症療法ですが、歯並びの乱れ自体が原因の場合は矯正治療が必要です。矯正は歯を正しい位置に動かし、見た目と機能の両面で安定した噛み合わせをつくる根本治療です。
矯正治療には、以下のような治療法があります。
- ワイヤー矯正:歯の表面に装置をつけ、ワイヤーの力で歯を動かす方法
- マウスピース矯正:透明なマウスピースを交換しながら、少しずつ歯を動かす方法
- 部分矯正:噛み合わせに影響している一部分だけを整える方法
歯周病があると矯正治療は難しくなりますが、「歯科矯正用アンカースクリュー」という小さなネジを使う方法もあります。このネジを顎の骨に固定して土台にすることで、動かしたい歯だけを正確に動かせます。
さらに、弱った歯ぐきや骨をケアしながら治療を進められるのも大きなメリットです。
精密検査を受ける
最適な噛み合わせ治療を行うためには、治療前に精密検査を行い、不調の根本原因を突き止めることが重要です。噛み合わせが悪くなった原因は一人ひとり異なり、特定しないまま治療を始めても良い結果は得られません。
精密検査では、以下のようなチェックを行います。
- 問診:症状や生活習慣について聴取する
- 口腔内チェック:歯並び、虫歯、歯周病、歯のすり減りなどを確認する
- レントゲン撮影:顔の骨格バランスや歯の根など、目に見えない部分を調べる
- 顎の動きの検査:口の開閉の動き、音、筋肉の痛みなどを確認する
- 歯型の採取:歯型の模型を作り、噛み合わせの状態を確認する
さまざまな角度から得られた検査結果を分析し、治療計画を立てることができます。不安なく治療に進むためにも、これらのステップは重要です。
まとめ
長引く頭痛や肩こり、原因不明の体調不良は、噛み合わせの乱れが関係している可能性があります。わずかなズレでも、顎だけでなく、全身のバランスや心の健康にまで影響を及ぼすことがあるのです。
大切なのは、自己判断で放置しないことです。「もしかして噛み合わせかも?」と感じたら、一人で悩まずに歯科医院へ相談してみましょう。原因を専門家と一緒に確認することで、体のつらさを改善するきっかけになります。
参考文献
- Sanchla AD, Shrivastav S, Bharti L, Kamble R. Comparative Evaluation and Correlation of Pain Pattern in Neck Musculature Observed in Mild, Moderate, and Severe Temporomandibular Joint Disorder Cases as Compared to Non-temporomandibular Joint Disorder Cases. Cureus,2022,14,10,e30099.