「妊娠すると歯周病になりやすいって本当?」「お腹の赤ちゃんに影響はないの?」と不安に感じていませんか?
実は、妊娠中の歯周病はお腹の赤ちゃんにも影響を与える可能性があることが、近年の研究でわかっています。(※1)歯周病による炎症が全身に広がると、子宮を収縮させる物質(サイトカイン)が増え、早産や低体重児出産のリスクが高まるといわれています。
この記事では、歯周病が早産リスクを高める理由や、妊娠中でも安全に行える治療・予防法を詳しく解説します。正しい知識とケアを身につければ、妊娠中でも安心して口腔内の健康を守り、笑顔で出産を迎えられる未来につながります。
歯周病と早産の関係
妊娠中は体のホルモンバランスや生活リズムが大きく変化します。この変化が口の中にも影響を与え、歯周病のリスクを高める要因の一つです。
大切な赤ちゃんを守るため、なぜ妊娠中に歯周病のリスクが高まるのか、以下の3つの理由を解説します。
①ホルモンバランスの変化
②つわりの影響
③口腔内の細菌が増殖しやすい
①ホルモンバランスの変化
妊娠すると、女性の体内では赤ちゃんを育むためにホルモンバランスが変化します。特に「エストロゲン」と「プロゲステロン」という女性ホルモンが増加して、口腔内に影響を与えます。
女性ホルモンの特徴と歯ぐきへの影響は、以下のとおりです。
| ホルモン名 | 働き・影響 | 歯周環境への影響 |
| エストロゲン(卵胞ホルモン) | 歯周病菌を増殖される因子となり、菌の増殖を促進 | 妊娠中に悪玉菌が活発化しやすく、歯周病リスクが高まる |
| プロゲステロン(黄体ホルモン) | 歯ぐきの血管を拡張し、炎症物質プロスタグランジンの産生を促す | わずかな刺激で歯ぐきが腫れたり出血しやすくなる |
②つわりの影響
つわりも、歯周病のリスクを高める原因です。体調だけでなく口の中の衛生環境にも影響を及ぼします。吐き気や食生活の変化により、口内が細菌の繁殖しやすい状態になりやすくなります。
つわりが歯周病リスクを高める主な要因は以下のとおりです。
- 歯磨きが十分にできない:歯ブラシを口に入れると吐き気を感じやすく、磨き残しが増えて歯垢が溜まりやすくなる
- 食生活の乱れ:一度に食べられず食事回数が増えるほか、甘い・酸っぱいものを好むようになり、口内が酸性に傾く
- 嘔吐による胃酸の逆流:胃酸が口の中に上がることで歯の表面を溶かし、虫歯や歯周病のリスクを高める
このように、つわりは口内環境を悪化させやすい時期です。体調の良い時間帯にうがいや歯磨きを取り入れるなど、無理のない範囲でケアを続けることが大切です。
③口腔内の細菌が増殖しやすい
妊娠期には唾液の分泌量が減少し、粘度も変化します。唾液には、口の中の汚れを洗い流す自浄作用や、細菌の増殖を抑える抗菌作用の働きがあります。唾液の働きが弱まることも、細菌が繁殖する要因の一つです。
妊娠中に歯周病のリスクが高まる主な原因として、以下の5つが挙げられます。
| 原因 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ホルモンの影響 | 特定の歯周病菌が、増殖因子となる女性ホルモンの増加によって活発に増殖します。 |
| 歯ぐきの変化 | ホルモンの作用で歯ぐきの血管が広がり、わずかな刺激で炎症や出血が起きやすくなります。 |
| ケア不足 | つわりによる吐き気で歯磨きが不十分になり、細菌の温床となるプラークが溜まりやすくなります。 |
| 食生活の変化 | 食事回数の増加や嗜好の変化で、口の中が酸性に傾き、細菌が活動しやすい時間が長くなります。 |
| 唾液の変化 | 唾液の量や質が変化し、汚れを洗い流したり細菌の増殖を抑えたりする自浄作用が低下します。 |
歯周病が早産リスクを高める理由
歯周病が早産リスクを高める理由として、以下の5つを解説します。
①歯周病が子宮収縮を促すメカニズム
②「早産リスク7倍」の根拠
③歯周病菌による炎症性物質(サイトカイン)の影響
④免疫バランスの変化による胎盤への負担
⑤低出生体重児出産のリスクも
①歯周病が子宮収縮を促すメカニズム
歯周病が早産のリスクを高めるのは、炎症によって作られる「プロスタグランジン」という物質が関係しています。プロスタグランジンは本来、出産が近づいた時に子宮で作られ、子宮の収縮を促すことで陣痛を起こす物質です。
歯周病によって歯ぐきに炎症が起こると、体を守ろうとする反応でプロスタグランジンが過剰に作られてしまいます。血液中から全身を巡って子宮に届くため、本来の出産時期よりも早く子宮を刺激してしまい、結果として陣痛や破水を促してしまう可能性が指摘されています。
つまり、歯ぐきの炎症が「出産のスイッチ」を誤って入れてしまう状態になるのです。これが、歯周病が早産につながるといわれるメカニズムです。
②「早産リスク7倍」の根拠
「歯周病があると早産のリスクが7倍になる」と言われる根拠は、1996年にアメリカで行われた研究に基づいています。(※2)この研究では、進行した歯周病のある妊婦は、健康な歯ぐきの妊婦に比べて早産や低体重児の出産リスクが約7.5倍高いと報告されました。
ただし、この結果は特定の条件下での研究データであり、すべての妊婦にそのまま当てはまるわけではありません。
歯周病によって体の中で慢性的な炎症が起きやすくなり、妊娠中の体に余分な負担をかける可能性があることは確かです。口の健康を守ることは、母体の健康を保ち、赤ちゃんを安全に育むための大切なステップです。
③歯周病菌による炎症性物質(サイトカイン)の影響
歯周病が早産リスクを高める要因の一つに、炎症性物質「サイトカイン」の作用があります。サイトカインは、体内で炎症や感染が起きた際に免疫細胞から放出される物質で、炎症反応を全身に伝える役割を担っています。
歯周病が進行すると、歯ぐきの中で歯周病菌と免疫細胞が反応し、サイトカインが大量に産生されます。これらが血流を通じて全身に広がると、遠く離れた臓器にも炎症の影響が及ぶことがあります。
炎症が子宮の収縮を引き起こすまでの流れは、以下のとおりです。
- 歯周病菌が歯ぐきで炎症を起こす
- 免疫反応により炎症性サイトカインが大量に放出される
- サイトカインが血液に乗って全身へ運ばれる
- 子宮でプロスタグランジンの生成が促される
- 子宮が刺激され、収縮が早まる
このように口の中で起きた小さな炎症でも、体全体に波及し、出産のタイミングに関わる可能性があります。妊娠中は歯ぐきの腫れや出血を放置せず、定期的な歯科検診や適切な口腔ケアを心がけることが大切です。
④免疫バランスの変化による胎盤への負担
妊娠中は、お腹の赤ちゃんをお母さんの体が「異物」と認識して攻撃しないように、免疫機能が自然と調整されます。一方で、細菌に対する抵抗力が一時的に弱まる側面もあるのが特徴です。
その結果、妊娠中は普段よりも歯周病菌が増殖しやすく、歯肉炎や歯周病が悪化しやすい状態になります。炎症によって生じたサイトカインが血流に乗り、赤ちゃんに栄養を送る「胎盤」にまで届くこともあります。
胎盤に炎症が生じると、その働きが低下し、赤ちゃんに十分な酸素や栄養が行き渡らなくなる場合もあります。胎児の発育が妨げられたり、早産の引き金となったりすることがあるため、妊娠中は口腔ケアを意識的に続けましょう。
⑤低出生体重児出産のリスクも
歯周病の影響は、早産のリスクだけではありません。お腹の赤ちゃんが十分に成長できず、出生時の体重が2,500g未満となる「低出生体重児」のリスクを高めることも指摘されています。(※3)
早産で生まれれば当然体重は軽くなりますが、正期産(妊娠37〜41週6日)でも低体重となる可能性があります。歯周病による慢性的な炎症が胎盤の血流に悪影響を及ぼし、赤ちゃんへの栄養供給が滞ってしまうことが一因と考えられています。
大切な赤ちゃんを守るためにも、妊娠中の歯周病の予防と管理が重要です。
妊娠中によく見られる歯周病
妊娠中は、ホルモンバランスの変化などにより、体にさまざまな変化が現れます。ここでは、妊娠中に見られる歯周病について、以下の3つを解説します。
①妊娠性歯肉炎
②妊娠性エプーリス
③歯周炎
①妊娠性歯肉炎
歯磨きの時に血がにじんだり、歯ぐきが赤く腫れたりしている症状は、「妊娠性歯肉炎」の可能性があります。
妊娠によって女性ホルモンが急激に増えることで引き起こされる、妊娠期に特有の歯ぐきの炎症であり、以下の原因が考えられます。
| 要因 | 内容 | 歯周環境への影響 |
|---|---|---|
| 女性ホルモンの影響 | 妊娠中に急増するエストロゲンやプロゲステロンが、特定の歯周病菌の増殖因子となります。 | 悪玉菌が活発に増殖しやすくなり、歯周病のリスクが高まります。 |
| 歯ぐきの血管への作用 | 女性ホルモンが歯ぐきの血管を広げ、炎症や出血を引き起こしやすくします。 | 歯垢の刺激に過敏に反応し、腫れや出血が起こりやすくなります。 |
| 免疫機能の変化 | 妊娠中は免疫システムが調整され、細菌への抵抗力が一時的に低下します。 | 歯ぐきの炎症が悪化しやすくなります。 |
上記の症状は、ホルモン量がピークに達する妊娠中期~後期にかけて現れやすくなります。多くの場合、出産を終えてホルモンバランスが正常に戻ると、症状は自然と落ち着いていきます。
「一時的なもの」と油断すると、歯を支える骨が溶けるほどの歯周病へと進行する可能性があります。妊娠性歯肉炎は、注意信号と捉えることが大切です。
②妊娠性エプーリス
妊娠性エプーリスとは、妊娠中に歯ぐきにできる良性のコブ(腫瘤)のことで、がんのような悪性のものではありません。
歯と歯の間の歯ぐきが赤く腫れ、米粒ほどから指先ほどの大きさまで膨らむことがあります。歯ぐきの一部が女性ホルモンに過剰に反応し、細胞が局所的に増えることで起こると考えられています。合わない詰め物や歯石などによる刺激が原因となる場合もあります。
痛みはほとんどありませんが、歯ブラシや食べ物が当たると出血しやすいのが特徴です。多くの場合、出産後にホルモンバランスが整うと自然に小さくなったり消えたりします。
コブが大きくなって食事や会話の妨げになる、または頻繁に出血する場合は、歯科医院での診察や処置が必要です。
③歯周炎
歯周炎は、10〜30代の比較的若い世代の発症が多い歯周病です。(※4)一般的な歯周病よりも進行が速く、短期間で歯を支える骨が大きく失われるのが特徴です。
口の中がきれいに見え、歯垢や歯石が少なくても特定の歯の周囲だけが急激に悪化することがあります。歯周炎の特徴を以下の表にまとめています。
| 特徴 | 説明 |
|---|---|
| 急速な進行 | 自覚症状がほとんどないまま、短期間で重症化することがあります。 |
| 特定の細菌の関与 | A.a.菌(アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス)という高い病原性を持つ細菌が原因となることが多いです(※5)。 |
| 遺伝的な要因 | 家族内で発症しやすい傾向があります。 |
| 局所的な発症 | 前歯や第一大臼歯など特定の歯に限定して症状が現れる傾向があります。 |
妊娠が直接の原因ではありませんが、もともと歯周炎の素因がある人は、ホルモンや免疫の変化によって症状が急に悪化することがあります。
妊娠中でも受けられる歯周病の検査と治療
現在の歯科医療では、お母さんと赤ちゃんの身体に配慮した、安全な検査や治療を行うことができます。妊娠中の歯科治療に関して、以下の4つを解説します。
- 妊娠中に安全とされる治療時期とは
- 妊婦向けに配慮された歯科治療
- スケーリング・ルートプレーニング
- 治療を受ける際の注意点
妊娠中に安全とされる治療時期とは
歯科治療を受けるのに適しているのは、妊娠中期(16~27週頃)です。この時期はつわりが落ち着き、体調が安定してくるため、リラックスして治療を受けやすいタイミングです。
妊娠初期(〜15週頃)はつわり症状がある方が多く、体調への影響を考慮して応急処置にとどめます。妊娠後期(28週以降)はお腹が大きくなり、早産リスクの懸念から、緊急性の低い治療は出産後に延期することが一般的です。
時期ごとの治療の目安は以下のとおりです。
- つわりが強く、体調的に処置は困難な時期です。
- 痛みを取り除くなど、ストレスを緩和するための応急処置が中心となります。
- 安定期に入り、ほとんどの一般歯科治療が行えます。
- 歯周病治療や虫歯治療など、必要な処置はこの時期に計画的に済ませましょう。
- お腹の張りや体調に配慮し、再び応急処置が中心となります。
- 仰向けの姿勢が苦しくなるため、長時間の治療は避けることが望ましいです。
体調が優れない時や痛みが強い場合は、時期を問わず無理せず受診し、産婦人科医と連携して治療を進めましょう。
妊婦向けに配慮された歯科治療
妊婦さんが安心して歯科治療を受けられるよう、歯科医院では母体と赤ちゃんの安全に配慮した対応を行っています。
レントゲンや麻酔、薬の使用についても、必要に応じてリスクを最小限に抑えた方法が取られます。以下の表に、妊婦さんへの主な配慮内容をまとめました。
- お腹が大きくなると仰向け姿勢がつらくなるため、クッション等で体の角度を調整しながら治療を行います。
- こまめに休憩を取り、体への負担を軽減するよう配慮しています。
- 歯科用レントゲンは放射線量が極めて少なく、撮影範囲も口の周辺のみに限られます。
- 撮影時には防護用の鉛エプロンを必ず着用し、赤ちゃんへの影響を徹底して防ぎます。
- 必要な場合は局所麻酔を使用し、痛みやストレスによる母体への負担を避けることを優先します。
- 歯科で使用する麻酔は作用範囲が限定されており、安全性が高いとされています。
- 痛み止めや抗生物質が必要な場合には、妊娠中でも安全性の高い薬剤を慎重に選択します。
- かかりつけの産婦人科医とも連携し、母子ともに安心できる処方を行います。
妊娠中でも安全に治療が受けられるよう、歯科医院ではさまざまな工夫と配慮がなされています。
スケーリング・ルートプレーニング
妊娠中の歯周病治療の基本となるのが、「スケーリング」と「ルートプレーニング」という専門的なクリーニングです。処置の内容と効果は以下のとおりです。
スケーリング
歯の表面や歯周ポケットに付着した歯垢や歯石を、超音波スケーラーなどの専用器具を用いて徹底的に除去します。
細菌の巣(プラーク・歯石)を取り除くことで、歯ぐきの炎症を改善し、出血や腫れを抑えます。
ルートプレーニング
スケーリングでは取りきれない、歯周ポケット深部にある歯石や、細菌に汚染された歯根の表面を滑らかにする処置です。
歯の根面をツルツルにすることで汚れの再付着を防ぎます。歯ぐきが引き締まり、再び健康な状態で歯に密着するようになります。
これらの処置を通じて、歯周病の進行を防ぎ、妊娠中でも安心して口腔の健康を保つことができます。
治療を受ける際の注意点
安心して歯科治療を進めるためには、歯科医師にご自身の状態を正確に伝えることが大切です。受診時には、母子健康手帳を持参し、産婦人科の主治医の連絡先を伝えておくとスムーズです。
体調の変化や気になる症状がある場合は遠慮せずに伝え、服用中の薬がある場合も申告しましょう。こうした情報を歯科医師と共有することで、安全に配慮した治療計画を立てることができます。
妊娠中の歯周病予防と対策
歯周病のリスクを減らすために、日々の生活で意識するポイントとして、以下の4つを解説します。
- 妊婦健診とあわせて歯科検診を受ける
- 正しいブラッシングとフロスで口内を清潔に保つ
- つわりの時期は無理せずできるケアを続ける
- 歯ぐきの腫れ・出血など異変があれば早めに歯科を受診する
妊婦健診とあわせて歯科検診を受ける
妊娠中の歯科検診は、産婦人科での妊婦健診と同じくらい大切です。「もう一つの大切な妊婦健診」と捉え、受診を検討してください。
多くの自治体では、妊婦さんを対象とした無料または一部助成の歯科検診制度を設けています。お住まいの市区町村の窓口やWebサイトで確認してみましょう。
歯科検診に適した時期は、体調が安定しやすい妊娠中期(安定期)です。この時期に一度チェックを受けることで、気づきにくい口の中のトラブルを早期に発見できます。妊婦歯科検診の主な内容は以下のとおりです。
- 問診
- 歯と歯ぐきのチェック
- 専門的なクリーニング
- ブラッシング指導
妊娠中の口腔トラブルは、早めの対処が母子の健康につながります。
正しいブラッシングとフロスで口内を清潔に保つ
歯周病予防の基本は、毎日の丁寧なセルフケアです。歯周病の原因となる歯垢(プラーク)は「細菌の塊」であり、この細菌の塊を取り除くことが重要です。
歯ブラシだけで落とせる汚れは、口全体の60%といわれています。(※6)磨き残しを防ぐために、歯ブラシに加えてデンタルフロスや歯間ブラシを毎日使う習慣をつけましょう。
妊娠中は以下のようなセルフケアを意識してみてください。
ヘッドが小さく、毛先が柔らかいものを選びましょう。奥歯まで届きやすく、デリケートな歯ぐきを傷つけません。
歯と歯ぐきの境目に45度の角度で歯ブラシを当て、小刻みに動かして1本ずつ丁寧に磨きましょう。
就寝前など時間のある時に使用し、歯ブラシでは届かない「歯と歯の間」の歯垢(プラーク)を除去します。
歯周病だけでなく、妊娠中にリスクが高まる虫歯の予防にも効果が期待できます。高濃度のものがおすすめです。
毎日のセルフケアは、ご自身とお腹の赤ちゃんを守るための大切な習慣です。体調の良い時に、リラックスしながら行いましょう。
つわりの時期は無理せずできるケアを続ける
妊娠初期は、つわりで歯磨きがつらいと感じる方がいます。口のケアを完全にやめてしまうと歯周病が進行しやすくなるため、できる範囲で行いましょう。
つわりがひどい時期は、以下のようなオーラルケアを取り入れてみてください。
- タイミングを変える:「食後すぐ」にこだわらず、テレビ視聴中など体調が落ち着いている時間帯に歯磨きを行う
- 歯磨き粉を工夫する:香料や発泡剤の少ないジェルタイプを使用したり、味のないものや水だけで磨いたりする
- 姿勢を工夫する:下を向くと吐き気が出やすいため、少し顔を上げて磨くと楽になることがある
- 歯磨きが難しい時の代替ケア:フッ素配合の洗口液でうがいするだけでも細菌を減らす効果が期待できる
歯ぐきの腫れ・出血など異変があれば早めに歯科を受診する
妊娠中はホルモンの影響で歯ぐきが腫れたり出血しやすくなるため、毎日ケアをしていてもトラブルが起こることがあります。歯磨きの際に血が出る、歯ぐきが赤く腫れる、口の中がネバつく、口臭が強くなるなどの症状は、歯周病のサインといえます。
放置すると悪化しやすいため、自己判断せず早めに歯科医院を受診しましょう。受診時には母子健康手帳を持参し、妊娠中であることと妊娠週数を伝えてください。早期に専門的なケアを受けることでトラブルが悪化する可能性を防げます。
まとめ
妊娠中はホルモンバランスの変化やつわりなど、口のトラブルが起きやすい特別な時期です。歯周病は防げる病気であり、適切なケアで赤ちゃんへのリスクを減らすことも期待できます。
お母さんと赤ちゃんの健康を守るためには、産婦人科と歯科が連携してサポートする「医科歯科連携」が重要です。産婦人科医は母体と胎児の健康を、歯科医師は口の状態を専門的に診ることで、より安全で質の高いケアが可能になります。
安定期に歯科検診を受け、無理のない範囲で日々のセルフケアを続けることが大切です。お母さんの口の健康を守ることは、お腹の赤ちゃんの健やかな成長を守る第一歩です。気になる症状や不安がある時は、早めに歯科医院へ相談しましょう。
参考文献
- Butera A, Maiorani C, Morandini A, Trombini J, Simonini M, Ogliari C, Scribante A. Periodontitis in Pregnant Women: A Possible Link to Adverse Pregnancy Outcomes. Healthcare (Basel), 2023, 11(10), 1372
- Offenbacher S, Katz V, Fertik G, Collins J, Boyd D, Maynor G, McKaig R, Beck J. Periodontal Infection as a Possible Risk Factor for Preterm Low Birth Weight. Journal of Periodontology, 1996, 67(Suppl 10S), 1103-1113.
- Chen X, Li X, Yang K, Fang J. Maternal periodontitis may cause lower birth weight in children: genetic evidence from a comprehensive Mendelian randomization study on periodontitis and pregnancy. Clin Oral Investig, 2024, 28(3), 194
- 日本歯周病学会:「歯周治療のガイドライン2022」
- 阿部亜美, 佐伯渉, 長谷部晃, 原博志, 八若保孝, 柴田健一郎. Aggregatibacter actinomycetemcomitansによるインフラマソームの活性化. 北海道歯学雑誌, 2015, 35(2), 123‑132
- 公益社団法人 日本歯科医師会:「歯の学校」vol74
