2週間以上咳が続いていても、「ただの風邪だ」と軽く考えていませんか。
夜も咳で眠れず体力を消耗するようなつらい症状は、百日咳かもしれません。
この記事では、百日咳の症状や正しい治療法、大切な家族を守るための予防策などを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な対処法を知りましょう。
百日咳とは?
百日咳は、けいれん性で激しい咳が起こることを特徴とする急性の呼吸器感染症です。子どもの病気というイメージが強いですが、大人でもかかることがあります。
ここでは、百日咳に関する次の3つを詳しく解説します。
- ①原因
- ②症状
- ③感染経路
①原因
百日咳は、ウイルス感染で生じる多くの風邪(上気道炎)とは異なり、「百日咳菌」という細菌に感染することが原因で引き起こされます。
一度百日咳に感染したり、予防接種を受けたりすると免疫がつきますが、効果は一生続くわけではありません。ワクチンの効果は接種後、10年ほどで少しずつ弱まっていくと考えられています。(※1)
子どもの頃にきちんと予防接種を済ませていても、大人になってから再び感染する場合もある点に注意が必要です。
②症状
百日咳の症状は、感染してからの期間によって異なります。それぞれの期間での主な症状を、以下の表にまとめました。
| 時期 | 期間の目安 | 主な症状 |
|---|---|---|
| カタル期(初期) | 約2週間 |
・風邪とよく似た症状(鼻水、くしゃみ、微熱、軽い咳) ・だんだんと咳の回数が増え、激しさも増してくる |
| 痙咳期(中期) | 約2~3週間 |
・百日咳に特徴的な咳発作が出る ・短い咳が連続し、顔が真っ赤になる ・息つぎの瞬間に「ヒューッ」と笛のような音がする「吸気性笛声」または「whooping(フーピング)」と呼ばれる。 ・咳き込みすぎて吐いてしまうこともある |
| 回復期 | 約2~3週間以上 |
・激しい咳発作は減ってくる ・ときどき発作的な咳が出ることがある ・症状はゆっくりと時間をかけて回復に向かう |
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生後6か月未満の乳幼児は咳が出ず、突然呼吸を止めてしまう無呼吸発作を起こすことがあります。顔色が悪くなったり(チアノーゼ)、けいれんを起こしたりすることもあるため、注意が必要です。
大人の場合は特徴的な咳発作は少なく、単なるしつこい咳や長引く咳として現れることがほとんどです。
③感染経路
百日咳の主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。飛沫感染では、感染した人の咳やくしゃみによって飛び散るしぶき(飛沫)を吸い込むことで感染します。接触感染は、菌が付着した手で自分の口や鼻に触れることで、ほかの人にうつる経路です。
百日咳菌は感染力が強く、免疫のない人が菌にさらされると、高い確率で感染するといわれています。
百日咳の潜伏期間は約7〜10日で、症状がなくても、体の中では静かに菌が増殖しています。(※2)風邪と見分けがつきにくい初期(カタル期)に、本人が気づかないうちに感染を広げてしまう危険性があります。
受診の目安
百日咳は、長引く咳が特徴です。次のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
- 咳だけが2週間以上続いている
- 短い咳が連続して激しく出る
- 息を吸うときに「ヒューッ」と音がする
- 咳き込みがひどくて吐いてしまう
- 咳で夜眠れない、息苦しさを感じる
- 咳き込むと顔が真っ赤になる
高齢の方や妊婦の方にとって長期にわたる咳の症状は、体に大きな負担がかかります。肺炎などの合併症を防ぐためにも、気になる症状があれば早めに受診しましょう。
百日咳の診断と検査
百日咳が強く疑われた場合、原因である百日咳菌の存在を確認するために検査を行います。百日咳の主な検査方法は、以下のとおりです。
| 検査の種類 | 検査内容 | 検査が適している時期 |
|---|---|---|
| 遺伝子検査(PCR、LAMP法) | 鼻や喉の奥を綿棒でぬぐい、菌の遺伝子を検出する | 咳が出始めてから早い時期(発症〜2週間程度) |
| 菌培養検査 | 遺伝子検査と同じ検体から、菌を育てて確認する | 咳が出始めてから早い時期(発症〜2週間程度) |
| 血液検査(抗体検査) | 採血をして、百日咳菌に対する抗体ができているか調べる | 咳が出始めてから2週間以上経過している場合。2回の採血が必要。 |
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検査で百日咳菌が見つからなくても、特徴的な症状や周囲の流行状況から総合的に診断されることもあります。
百日咳の治療法
百日咳の治療法は、原因である百日咳菌を退治する「抗菌薬治療」とつらい咳を和らげる「対症療法」の2つです。
百日咳の抗菌薬治療には、主にマクロライド系と呼ばれる種類の薬が選択されます。処方された薬を医師の指示通り服用することで、体内の百日咳菌を減らし、感染力を抑えられます。(※3)症状が良くなったと感じても自己判断で服用をやめず、飲み切ることが大切です。近年ではマクロライド系抗生剤への耐性が強く、ST合剤などを処方される場合があります。
対症療法としては、咳を鎮める薬や痰を出しやすくする薬などが使われます。
自宅で適切な療養をすることも回復を早めるポイントです。こまめな水分補給や部屋の加湿を意識しましょう。処方された薬を正しく服用し、少しでも早く回復するようしっかり休養してください。
百日咳の予防方法
百日咳は感染力が強く、一度かかると長くつらい咳に悩まされる病気です。
ここでは、百日咳の適切な予防方法として、「①予防接種を受ける」「②感染予防の対策をとる」を詳しく解説します。
①予防接種を受ける(こども)
ワクチン接種は、百日咳菌に対する抵抗力(免疫)を体につけるために有効な手段です。
日本では、子どもに対し百日咳を含むワクチンが「定期接種」に定められており、対象年齢内であれば公費で受けられます。2024年4月からは、主に5種混合ワクチン(百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオ、ヒブ)が使われています。(※4)
子どもの接種スケジュールは以下のとおりです。
| 接種回数 | 標準的な接種時期 |
|---|---|
| 初回1回目 | 生後2か月に達したときから接種する |
| 初回2回目 | 1回目の接種から20日以上の間隔をおいて接種する |
| 初回3回目 | 2回目の接種から20日以上の間隔をおいて接種する |
| 追加接種 | 3回目の接種から6か月以上(標準的には12〜18か月)の間隔をおいて接種する |
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百日咳に対する十分な免疫をつけるためには、スケジュール通りに予防接種を受けることが重要です。
しかし、子どもの頃に受けたワクチンの効果は一生続くわけではありません。研究によれば、ワクチンの効果は接種後10年ほどで徐々に弱まっていくと考えられています。(※1)
大人の場合、症状が軽いことも多いです。百日咳と気づかないまま周囲へ感染させる危険性があるため、特に医療従事者や妊婦、乳幼児と接触する機会が多い方には推奨されています。
②感染予防の対策をとる
ワクチン接種とあわせて、日常生活のなかで基本的な感染対策をとることも重要です。百日咳は、飛沫感染や接触感染によってうつるため、咳エチケットやマスクの着用を徹底してください。
外出後や食事前は、石けんと流水で丁寧に手を洗い、手についた菌を洗い流しましょう。室内にウイルスや細菌がとどまらないよう、定期的に窓を開けて換気することも大切です。
家族に百日咳が疑われる方がいる場合は、可能な範囲で部屋を分けたり、タオルの共用を避けたりし、対策をとってください。
百日咳でよくある質問
ここでは、百日咳でよくある以下の質問について、一つひとつ丁寧にお答えしていきます。
- ①予防接種は大人でもできる?
- ②登園、登校、出勤の基準は?
- ③一度感染しても再感染する?
- ④妊娠中に感染した場合の影響は?
①予防接種は大人でもできる?
大人の方でも百日咳の予防接種を受けることは可能です。
ただし、子どもの定期接種とは異なり、任意接種なので費用は自己負担になります。費用は3種混合ワクチンであれば5000~10000円程度かかりますが、ご自身や周りの大切な人のためにも受けておくことがおすすめです。なお、接種後に接種部位の腫れや痛み、軽い発熱などの副反応がみられることがあります
妊娠中に接種すると、お母さんの体内で作られた百日咳への抵抗力(抗体)が、胎盤を通じてお腹の赤ちゃんに届けられます。(※3)そのため、赤ちゃんが生まれてすぐの無防備な状態でも、百日咳菌から守れます。
②登園、登校、出勤の基準は?
百日咳は感染力が非常に強いため、学校保健安全法という法律で、出席停止の期間が明確に定められています。(※5)以下の2つの条件のうち、どちらかを満たすまでは出席停止です。
- 百日咳特有の激しい咳発作がなくなるまで
- 5日間の適切な抗菌薬(抗生物質)による治療が終了するまで
学校保健安全法は、幼稚園や保育園、学校に通う子どもが対象ですが、社会人の方も同様の基準で休むことが望ましいです。
抗菌薬を飲み始めると、体から排出される菌の量が大きく減り、周囲の人へうつす力がほとんどなくなります。(※3)医師の指示通りに5日間しっかりと薬を飲み終えれば、少し咳が残っていても、登園や登校、出勤が可能と判断されることが一般的です。
③一度感染しても再感染する?
百日咳は一度かかったとしても、再び感染する可能性があります。百日咳の免疫の効果が低下し始めるのは、最後のワクチン接種や感染から10年後と考えられています。(※1)
大人が再感染した場合、子どもの頃のような特徴的な咳が出ないことも多く、「ただの長引く咳」として見過ごされがちです。
2週間以上咳が続くような場合は、過去の感染歴やワクチン接種歴にかかわらず、早めに医療機関を受診しましょう。
④妊娠中に感染した場合の影響は?
妊娠中に百日咳に感染した場合、強い咳き込みはお腹の張りにつながる可能性もあり、身体的な負担が心配されます。一番懸念されるのは、出産後にお母さんから赤ちゃんへ感染させてしまう「母子感染」です。
生後6か月未満の赤ちゃんは、まだ自分自身で病気と戦うための免疫がほとんどありません。赤ちゃんが免疫がない状態で百日咳に感染すると、重い肺炎や脳症、無呼吸発作などを引き起こし、命に関わる危険性もあります。
生まれてくる赤ちゃんを守るためにも、妊娠中にお母さんが百日咳ワクチンを接種することをおすすめします。
まとめ
百日咳は大人がかかっても典型的な症状が出にくいため、風邪を引いただけと軽視されがちな病気です。しかし、ご自身が気づかないうちに感染源となり、免疫のない赤ちゃんにうつしてしまう可能性があるため注意が必要です。
2週間以上咳が続く、咳き込みが激しいなど、心当たりがある方は自己判断せず、早めに呼吸器内科などの医療機関を受診しましょう。ご自身と大切な家族を守るため、正しい知識で適切な対処を心がけてください。
参考文献
- See KC.Pertussis Vaccination for Adults: An Updated Guide for Clinicians.Vaccines (Basel),2025,13(1),60.
- 国立健康危機管理研究機構:「百日咳」.
- 日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会:「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022百日咳に関する追補版」.
- 厚生労働省:「5種混合ワクチン」.
- 学校保健安全法施行規則第:「出席停止の期間の基準」.
