脚の付け根に違和感や痛みがある、歩き始めや立ち上がった時に股関節が痛む、しゃがむのがつらくなってきた——。そんな症状に心当たりはないでしょうか。これらは変形性股関節症のサインかもしれません。
変形性股関節症は、国内での推定患者数が500万人以上(※)とも言われる、中高年に多い病気です。加齢や関節の構造的な問題、生活習慣などが原因で股関節の軟骨がすり減り、骨同士がぶつかることで痛みや機能障害が起こります。進行すると日常生活に大きな支障をきたしますが、適切な治療とケアで症状をコントロールすることは十分可能です。
この記事では、変形性股関節症の基礎知識から原因、症状の進み方、診断・治療法、リハビリテーション、日常生活での注意点まで、幅広く解説します。「股関節に違和感がある」「変形性股関節症と診断された」「手術のタイミングが気になる」という方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
※『変形性股関節症診療ガイドライン2024』(日本整形外科学会)、『変形性膝関節症診療ガイドライン2023』(日本整形外科学会)
この記事でわかること
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変形性股関節症の基本:症状の進行と治療・予防策
■症状と進行段階:歩き始めの違和感から始まり、「前期→初期→進行期→末期」の4段階で進行します。前期・初期は保存療法で対応可能ですが、末期では手術が主な選択肢となります。
■治療法と自宅でできるリハビリ:保存療法として理学療法(運動療法・物理療法)、薬物療法などがあります。一方、骨切り術・人工股関節置換術といった手術療法まで、進行度に応じた選択肢があります。自宅でできるストレッチや筋力トレーニングも紹介します。
症状を進行させないための注意点:適切な体重管理・股関節に負担をかける動作の見直し・生活環境の洋式化が、症状の進行を緩やかにするうえで重要です。
目次
変形性股関節症とは
変形性股関節症は、股関節の軟骨が徐々にすり減り、骨が変形していく進行性の病気です。脚の付け根の痛みや動きにくさが主な症状で、進行とともに歩行や日常動作が困難になります。ここでは病気の定義・概要と、発症のメカニズムについて説明します。
病気の定義と概要
変形性股関節症(Osteoarthritis of the hip)は、股関節の関節軟骨が変性・摩耗し、骨の変形を引き起こす疾患です。股関節は骨盤と太ももの骨(大腿骨)をつなぐ関節で、お椀状のくぼみ(寛骨臼)に大腿骨の先端(大腿骨頭)がはまり込む構造をしています。この接触面は関節軟骨で覆われており、クッションの役割を果たしながら、スムーズな動きを可能にしています。
しかし軟骨が年月とともにすり減ると、骨同士が直接ぶつかり合うようになり、炎症や痛み、骨の変形が起こります。これが変形性股関節症です(イラスト参照)。

※イラスト出典元:「新・股関節がよくわかる本Web版」 出版 公益財団法人 日本股関節研究振興財団
主な症状は以下の通りです。
- 脚の付け根(股関節周辺)の痛み・違和感
- 歩き始めや立ち上がり時の痛み
- 長時間の歩行後の疲労感・痛み
- 股関節の可動域の低下(しゃがめない、足を広げられないなど)
- 進行すると安静時・夜間にも痛みが生じる
治療は大きく「保存療法(手術を行わない治療)」と「手術療法」に分けられます。病気の進行段階や患者の年齢・生活環境などに応じて、適した治療法を選ぶことが大切です。なお、残念ながら変形性股関節症の進行を止める薬は現時点では存在しません。そのため、早期発見・早期治療が非常に重要になります。
発症のメカニズム
変形性股関節症がどのように発症するのかを理解するには、股関節の働きと、それに加わる負荷について知ることが助けになります。
股関節は常時、上半身の重みを受け止めています。両足で立っているだけでも、左右それぞれの股関節に体重の0.6〜1倍の重みがかかっています。片足立ちでは体重の3〜4倍、歩くときは3〜4.5倍、走ると4〜5倍、階段の上り下りでは実に体重の6〜8倍の負荷がかかるとされています。
この負荷が長年にわたって関節軟骨に蓄積されることで、軟骨は少しずつすり減っていきます。軟骨がすり減ると、骨同士がこすれ合い、骨の縁にトゲのような突起(骨棘)が形成されるなど、骨の変形が進行します。同時に関節周辺で炎症が起こり、痛みや腫れとして症状が現れます。
発症に関わる主な要因は以下の通りです。
| 要因 | 詳細・メカニズム |
|---|---|
| 加齢 | 年齢とともに軟骨の修復能力が低下し、すり減りが進む |
| 関節の構造異常 | 骨盤側のお椀状のくぼみ(寛骨臼)が浅い「寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)」があると、股関節に負荷がかかりやすくなる |
| 遺伝的要因 | 寛骨臼形成不全は遺伝する場合がある |
| 肥満 | 体重が重いほど股関節への負荷が大きくなる |
| 関節への過負荷 | 長時間の立ち仕事、激しいスポーツ、重い荷物の運搬 |
| 外傷・骨折の既往 | 過去の股関節周辺のケガが変形性変化を促進する場合がある |
変形性股関節症の原因
変形性股関節症の原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っています。大きく分けると「一次性(原発性)」と「二次性(続発性)」の2種類があり、また遺伝的要因と環境要因の両面から考えることが重要です。
一次性と二次性の違い
【一次性変形性股関節症】
特定の原因疾患がなく、加齢に伴う軟骨の変性が主な原因とされる場合です。欧米では変形性股関節症の多くが一次性とされており、加齢・肥満・遺伝的素因が主な要因とされています。比較的高齢者に多く、両側の股関節に起こることもあります。治療は保存療法が中心で、症状が進行すれば人工股関節置換術が選択されることになります。
【二次性変形性股関節症】
明らかな原因疾患や構造異常がベースにある場合を指します。日本人の変形性股関節症のうち80〜90%は二次性であり、その最大の原因が「寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)」です(※『変形性股関節症診療ガイドライン2024』(日本整形外科学会))。
寛骨臼形成不全とは、股関節の骨盤側のお椀状のくぼみ(寛骨臼)が浅く、大腿骨頭(ボール部分)が十分にはまり込んでいない状態のことです。この構造異常があると、関節面の接触面積が狭くなり、特定の部分に体重の荷重が集中するため、軟骨が早くすり減ってしまいます。
二次性のその他の原因:
- 発育性股関節脱臼(乳幼児期の股関節の脱臼)
- 大腿骨頭壊死(股関節の骨への血流が途絶えて骨が壊死する病気)
- 関節リウマチ
- 股関節周辺の外傷(骨折・脱臼)
遺伝的要因と環境要因
変形性股関節症の発症には、遺伝的要因と環境要因の両方が関与しています。
- 【遺伝的要因】
寛骨臼形成不全をはじめとする関節の構造的な特徴が親から子へ受け継がれることがあります。また、関節軟骨の質や修復能力の個人差にも遺伝的な背景があると考えられています。
- 【環境要因】
| 要因 | 詳細・メカニズム |
|---|---|
| 肥満・過体重 | 体重が増えると股関節への負荷が増大し、軟骨のすり減りが加速します |
| 職業・生活習慣 | 長時間の立ち仕事、重い物を運ぶ職業、しゃがむ・正座をするなどの和式生活動作が多い場合は股関節に繰り返しの負荷がかかります |
| スポーツ歴 | 関節に大きな負荷がかかるスポーツを長年続けた場合、発症リスクが上がることがあります |
| 性別 | 女性は骨盤の構造上、寛骨臼形成不全を持ちやすく、また閉経後のホルモン変化によって骨や軟骨が脆くなりやすいため、男性より発症しやすい傾向があります |
変形性股関節症の症状
変形性股関節症は、最初は脚の付け根のわずかな違和感から始まり、徐々に症状が強まっていく進行性の病気です。「少しくらい大丈夫」と放置していると、気づいたときには日常生活に大きな支障が出てしまうことも少なくありません。ここでは症状の特徴と、日常生活への影響について詳しく見ていきます。
初期症状と進行症状
変形性股関節症の病期は「前股関節症→初期股関節症→進行期股関節症→末期股関節症」に分類されます。
症状の進行度と特徴

| 前股関節症 |
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|---|

| 初期股関節症 |
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|---|

| 進行期股関節症 |
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|---|

| 末期股関節症 |
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|---|
症状の進行速度は個人差がありますが、違和感を感じた段階で整形外科を受診することが大切です。
※前股関節症~末期股関節症のイラスト出典元:「新・股関節がよくわかる本Web版」 出版 公益財団法人 日本股関節研究振興財団
日常生活への影響
変形性股関節症が進行すると、日常生活のさまざまな場面で支障が出てきます。
【影響を受けやすい活動】
- 長距離の歩行、買い物
- 階段の上り下り
- 自転車に乗ること
- 入浴(浴槽への出入り、洗体の姿勢)
- 和式トイレの使用
- 床・畳での生活(正座、あぐら、布団の上げ下ろし)
- 靴下・靴の脱ぎ履き、足の爪切り
- 農作業や庭仕事(しゃがむ動作)
【進行に伴う二次的な影響】
動作が困難になるだけでなく、心身に以下のような連鎖的な影響が及ぶことも少なくありません。
- 生活の質(QOL)の低下: 足を引きずる歩き方(跛行)が目立つようになることで外出意欲が低下し、「旅行に行けなくなった」「趣味のスポーツができなくなった」といった喪失感を抱える患者さんもいらっしゃいます。
- ヒップ・スパインシンドローム(他部位への負担): 痛む股関節をかばう歩き方が続くと、バランスが崩れ、腰痛・膝痛・足首の痛みなど、別の部位に新たな痛みが引き起こされる場合があります。
変形性股関節症の診断方法
股関節の違和感や痛みを感じたら、整形外科を受診しましょう。診断は問診・身体所見(身体検査)・画像診断を組み合わせて行われます。
問診と身体所見
【問診】
医師が以下のような内容を確認します。
- いつ頃から、どのような状況で痛みや違和感が出るか
- 痛みの部位(脚の付け根、お尻、太もも、膝など)
- 痛みの程度・性質(鋭い痛み、鈍い痛み、だるさなど)
- 痛みが出やすい動作(歩き始め、階段、しゃがみなど)
- 過去に股関節や骨盤に関するけがや病気をしたことがあるか
- 家族に股関節の病気を持つ人がいるか
- 職業や日常生活・スポーツ歴
【身体所見】
医師が実際に股関節を動かしたり触れたりして、現在の状態を確認します。
| 検査項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 歩き方の観察 | 跛行(はこう:足を引きずる歩き方)の有無、歩幅の左右差など |
| 可動域の確認 | 股関節を様々な方向(屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋)に動かし、動きの制限や痛みがないかを確認 |
| 圧痛の確認 | 股関節周辺を押して痛み(圧痛)があるかどうかを調べる |
| 脚長差の確認 | 左右の脚の長さに差が生じていないかを測定 |
| 筋力テスト | 股関節周辺の筋肉の力を評価する |
画像診断の役割
変形性股関節症の診断において、画像検査は非常に重要な役割を果たします。
| 検査方法 | 役割と特徴 |
|---|---|
| X線検査(レントゲン) | 【骨の評価・進行度の判定】 診断における基本的な検査です。関節の隙間(関節裂隙)の狭さ、骨のトゲ(骨棘)の形成、軟骨下骨の硬化、骨盤のくぼみ(寛骨臼)の形などを確認します。骨の状態を評価するのに優れており、病気の進行度(ステージ)の分類にも活用されます。 |
| MRI(磁気共鳴画像法) | 【軟骨の評価・他の病気との鑑別】 X線では見えない軟骨や周辺の柔らかい組織(軟部組織)の状態を詳細に評価できます。特に、初期の段階で軟骨のダメージを確認する際や、大腿骨頭壊死・骨折など他の疾患との見極め(鑑別)に役立ちます。 |
変形性股関節症の治療法
変形性股関節症の治療は、病気の進行度・年齢・生活環境・患者さんの希望などを総合的に考慮して選ばれます。大きく「保存療法」と「手術療法」の2つに分類されます。
保存療法
手術を行わずに症状を管理する治療法の総称です。痛みを和らげ、関節への負担を軽減し、病気の進行をできる限り抑えることを目標とします。主に以下の3つのアプローチを組み合わせて行います。
1. 運動療法
股関節周囲の筋力を強化し、関節の安定性を高めることが主な目的です。
- 特徴: 整形外科医の指導のもとで、患者さん個人の状態に合わせたプログラムが組まれます。
- 注意点: やり方を誤るとかえって悪化する場合もあるため、自己判断でハードな運動を始めることは避け、必ず整形外科医に相談してから始めましょう。
2. 薬物療法
主に痛みのコントロールを目的として、以下のような薬が使用されます。
| 種類 | 具体的な薬の例 |
|---|---|
| 内服薬(飲み薬) | NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、アセトアミノフェンなど |
| 外用薬(貼り薬・塗り薬) | 湿布薬、塗り薬など |
| 関節内注射 | ステロイド注射、ヒアルロン酸注射 |
【重要】
薬物療法はあくまでも「症状緩和」が目的であり、変形性股関節症の進行を止める薬は現時点では存在しません。
3. 生活習慣の見直し
日常生活の中での股関節への負担を減らすため、以下のような工夫を取り入れます。
| 見直しのポイント | 目的・効果 |
|---|---|
| 体重管理 | 体重が増えると歩行時の股関節への負荷が増すため、適正体重を心がけます。 |
| 動作の工夫 | しゃがむ・正座・あぐらなど、股関節に負担のかかる姿勢を避けます。 |
| 生活環境の洋式化 | 椅子・ベッド生活に切り替えることで、和式特有の負担を減らせます。 |
| 杖の活用 | 歩行時に杖を使うことで、股関節への荷重を軽減できます。 |
手術療法
保存療法を行っても症状の改善が見られない、または日常生活に著しい支障が出ている場合は、手術が検討されます。
手術を考えるタイミングの目安
次のいずれかに当てはまる場合は、股関節を専門とする整形外科専門医に手術について相談することが勧められます。
- 歩行に支障が出始めた、または夜間・安静時にも痛みがある
- 保存的療法を続けても痛みや動きにくさが改善しない
- 病期が「末期」と診断された(この段階では保存療法での対処は難しい)
症状の重さ・年齢・股関節の状態・生活スタイルを踏まえて整形外科医と一緒に判断します。症状が進行しすぎると術後の回復に影響することがあるため、「まだ我慢できる」という段階でも一度股関節を専門とする医師に相談しておくことをお勧めします。
手術の種類:関節温存手術(骨切り術など)と人工股関節置換術
変形性股関節症の手術には主に2種類あります。年齢を青年期(15〜25歳)、壮年期(26〜44歳)、中年期(45〜64歳)に分けた場合、関節温存手術は青・壮年期の前・初期股関節症の症状緩和・病気進行の予防に効果があり、まず考慮されるべき手術療法です。ただし、どの手術が適しているかは、年齢より、関節や軟骨の残存と適合性で判断します。
| 比較項目 | 関節温存手術(骨切り術など) | 人工股関節置換術(THA) |
|---|---|---|
| 対象年齢の目安 | 概ね20〜40代前半(教科書的には理想年齢は20〜30代、実際の適応ピークは30〜40代前半) | 主に50代以降 |
| 病期の目安 | 前・初期 | 進行期・末期 |
| 手術の内容 | 自分の股関節を残し、骨の位置の矯正などによって関節の負担を軽減する | 損傷した関節を人工関節に置き換える |
| 入院・回復期間 | 比較的長い | 比較的短い(術翌日から離床) |
| 主なメリット | 自分の関節・軟骨を残せる | 除痛効果が高く、歩行能力の回復が期待できる |
| 注意点 | 実施できる施設・医師が限られる | 術後のまれな合併症として脱臼があるため、注意が必要 |
関節温存手術(骨切り術)
関節温存手術はは、人工物を使わずに「自分の骨のまま」股関節を治す手術です。日本では骨切り術が多く行われています。骨切り術は、骨を切って股関節の角度を変え、軟骨への荷重を適切に分散させることで、関節の噛み合わせを改善します。寛骨臼形成不全を背景に持つ比較的若い患者を対象に、関節温存を目的として行われます。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 適応となる主な条件 |
|
| メリット |
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| 注意点 |
|
| 術後のリハビリの流れ | 代表的な「寛骨臼回転骨切り術」の場合、術後1〜2日はベッド上で安静にし、その後段階的に股関節を動かすプログラムを開始します。術後1週間目ごろから松葉杖歩行を始め、徐々に強度を上げながら社会復帰を目指します。 |
人工股関節置換術(THA)
損傷した股関節を人工股関節に置き換える手術です。変形性股関節症の手術の中で最も多く行われており、特に進行期〜末期で保存療法の効果が得られない場合に選択されます。除痛効果が高く、歩行能力の回復が期待できます。
最近のTHAの件数は年間約8万人超になります(「THAレジストリー2023年度症例統計」日本人工股関節学会 日本人工関節登録制度事務局)。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| アプローチの方法 |
手術時にどの方向から股関節にアプローチするかで、主に2種類あります。 ・後方アプローチ お尻側からメスを入れる方法。国内外で広く普及しており、多くの施設で対応しています。手術の際に筋肉や腱を切る必要があり、術後の脱臼リスクが高まる傾向があるとの指摘もあります。 ・前方アプローチ 太もも前側から、筋肉と筋肉の隙間を通じて股関節に到達する方法。筋肉や腱を温存したまま手術できるため、術後の回復が早く脱臼リスクが低い傾向があります。ただし習熟した医師・施設が必要です。また、両側同時にTHAを受けることができます。 |
| リスクについて | 人工股関節置換術の後は脱臼への注意が必要です。しかし近年は前方アプローチの普及、デュアルモビリティ型(二重の可動面を持つ構造)人工股関節の採用、ロボット支援手術の登場などにより、脱臼リスクを抑える手段が増えています。また、まれに感染症への注意も必要です。 |
| 人工股関節の耐久性 | 1990年代末に開発された「架橋ポリエチレン」の採用により耐摩耗性が大幅に向上しました。術後20年での生存率(再手術なしの割合)が90%以上に達するとする研究報告があります(※)。「人工股関節は最終手段」という考え方は、現在では主流ではなくなっています。 ※ https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(25)02305-0/abstract |
| 術後のリハビリの流れ | 術翌日から離床し、1〜2週間での退院を目標とする施設が多いです。退院後は歩行器→杖→自力歩行と段階的に進み、外来リハビリで筋力強化・日常生活動作の練習を継続します。 |
治療や手術にかかる費用
変形性股関節症の治療は、保存療法(外来通院)か手術療法(入院)かによって、費用の規模が大きく異なります。
- 保存療法(外来)の費用目安
診察・検査・薬・リハビリを含めた自己負担額は、月数千円〜数万円程度が目安です。
- 手術療法の費用目安
最も多く行われる人工股関節置換術(片側・初回・入院2〜3週間)の場合の目安は以下の通りです(※)。
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 手術・入院費(総額) | 約200〜250万円 |
| 3割負担の場合 | 約60〜75万円 |
| 高額療養費制度適用後 (年収370〜770万円の場合) |
約9万8,000円 |
※費用の目安:https://www.hiroba-j.jp/wadai/027/
高額療養費制度について
高額療養費制度とは、1か月の医療費(保険診療分)が一定の上限額を超えた場合に、超過分が払い戻される公的制度です。人工股関節置換術のような高額な手術でも、この制度を活用することで実質的な自己負担を大幅に抑えられます。
上限額は年齢・所得によって異なりますが、多くの方で実質負担は10万円前後に収まるケースが多いです。
詳しくは厚生労働省の資料をご参照ください:https://www.mhlw.go.jp/content/000333280.pdf
保険適用外の費用に注意
手術・入院費のほかに、以下は保険適用外となるため別途費用がかかります。
- 差額ベッド代(個室・少人数部屋を希望する場合)
- 食事代
- テレビ・Wi-Fi使用料 など
実際の総支払額は施設によって異なります。受診予定の医療機関や加入している健康保険組合に事前に確認しておくことをお勧めします。
変形性股関節症のリハビリテーション
手術の有無にかかわらず、リハビリは変形性股関節症の治療において欠かせない柱の一つです。適切なリハビリを継続することで、痛みを軽減し、関節の機能を保ち、生活の質を向上させることができます。
リハビリの目的と重要性
痛みの軽減:股関節周囲の筋肉を鍛えることで関節の安定性が増し、関節面への荷重が分散されます
関節の可動域を改善する:ストレッチや適切な運動によって筋肉の柔軟性を維持・改善することで、動きやすさを保つことができます
日常生活の質(QOL)を向上させる:痛みや動きにくさが改善することで、歩行・階段・入浴・家事などの日常動作が楽になります。長期的な筋力維持は転倒・骨折予防にもつながります
自宅でできるリハビリ方法(筋力トレーニング)
【必ずお読みください:実施にあたっての注意】
これらのリハビリは、医師や理学療法士の指導のもとで行うことが前提です。痛みがある場合は決して無理をせず、実施前に必ず担当医にご相談ください。



※イラスト出典元
「人工股関節の手術を受ける人が読んでおきたい本」
編集 公益財団法人 日本股関節研究振興財団
監修 別府諸兄(聖マリアンナ医科大学名誉教授 公財財団法人日本股関節研究振興財団理事長)
出版元 メディカルフィットネス研究所
股関節に関係する筋肉(中殿筋、大殿筋、腹筋)を鍛え、関節をしっかり支えられるようにするための運動です。
| 種目 | やり方・回数の目安 |
|---|---|
| 中殿筋を鍛える運動 ※イラストA |
横向きに寝て、かかとを上に向けてゆっくりと上げ下げします。 (10〜15回 × 3セット) |
| 大殿筋を鍛える運動 ※イラストB |
うつ伏せに寝て、膝を伸ばしたままかかとを上に向けてゆっくりと上げ下げします。 (10〜15回 × 3セット) |
| 腹筋を鍛える運動 ※イラストC |
仰向けに寝て膝を立てます。へその裏に手を入れ、その手を押しつぶすようにお腹に力を入れます。 |
3. 有酸素運動(ウォーキング・水中歩行)
- ウォーキング
適度なウォーキングは、股関節の血流促進・筋力維持に効果的です。 - 水中歩行(アクアウォーク)
水の浮力によって股関節への体重負荷が軽減されるため、痛みが強い方に向いています。
変形性股関節症の予防と生活習慣
変形性股関節症を完全に予防することは難しいですが、生活習慣を見直すことで発症を遅らせたり、症状の進行を緩やかにしたりすることは十分に可能です。
1. 体重管理と運動
関節への物理的な負担を減らし、支える力をつけるためのポイントです。
| ポイント | 具体的な内容・目安 |
|---|---|
| 適正体重の維持 | 体重が増えると歩行時の股関節への負荷が増します。バランスの良い食事と適度な運動で、適正体重(BMI 18.5〜24.9を目安)を維持しましょう。 |
| 推奨される運動 | ウォーキング、水中ウォーク、エアロバイク、バランスボールを用いた運動など、股関節に過度な負荷がかからない運動が適しています。 |
| 避けるべき運動 | 股関節に強い痛みがある時期は、ジョギング、登山(特に下り坂)、ジャンプを伴うスポーツは関節に負担がかかるため避けましょう。 |
2. 日常生活での注意点
日々の何気ない動作の中に、股関節に負担をかけてしまう要因が潜んでいます。
【股関節に負担をかける避けたい動作】
- しゃがむ・正座・あぐら
- 和式トイレの使用
- 床や畳での生活(床に座る・立ち上がる動作)
- 重い荷物を持つ・肩にかける
- 片足重心で立つ、足を組む
- 急に方向転換する、満員電車で踏ん張る
【ポイント:和式から洋式への切り替えを推奨】
椅子・ベッド・洋式トイレといった洋式の生活スタイルへの切り替えが強く推奨されます。これは予防の観点からも、すでに症状がある方にとっても非常に有効な対策です。
変形性股関節症に関するよくある質問
どういう人がなりやすいですか?
女性、中高年、肥満の方、寛骨臼形成不全がある方、親族に変形性股関節症がいる方、長時間の立ち仕事・重労働が多い方が特になりやすいとされています。
何科を受診すればいいですか?
整形外科を受診してください。変形性股関節症は整形外科が専門とする病気です。
「股関節に違和感がある」「足の付け根が痛む」「歩き始めに痛みが出る」といった症状があれば、まずは近くの整形外科を受診しましょう。初期の段階ではかかりつけの整形外科でも十分に対応できます。
ただし、以下のような場合は股関節の専門医・専門施設への受診や紹介を検討することが勧められます。
- 「骨切り術」の適応かどうか判断してほしい(40代以下の比較的若い方)
- 人工股関節手術を検討している
- 保存療法を続けているが症状が改善しない
- セカンドオピニオンを求めたい
どのタイミングで手術をした方がいいのでしょうか?
「保存療法を試みても十分な効果が得られない場合」が基本です。歩行が困難で日常生活に大きな支障が出ている、夜間痛や安静時痛がある、保存療法を継続しても痛みが改善しない、といった状況が手術を考える目安になります。
「人工股関節は60歳を過ぎてから」と聞いたことがありますが、今でもそうですか?
以前は人工股関節の耐用性が十分でなかったため、「60歳以降に」という考え方がありました。
しかし架橋ポリエチレンの開発(1990年代末)以降、術後20年でも90%以上の患者が再手術なしに生活できる研究報告が出ています。現在は「年齢だけを理由に手術を先延ばしにすることは推奨されない」という考えが主流です。担当医と十分に話し合いましょう。
手術は両方の脚ともやった方がいいのでしょうか?
通常は一度に両方の脚の手術は行われず、症状の重い側から行うのが一般的です。両側同時手術は出血量・合併症リスクが増大することが心配されます。
ただし、「入院期間を一度で済ませたい」「仕事や家庭の都合で入院期間をできる限り短くしたい」という要望が考慮されるケースもあります。股関節を専門とする整形外科医に相談することをお勧めします。
手術の後はスポーツができますか?
術後1年前後で多くの患者さんが軽〜中程度のスポーツに復帰しています。ウォーキング・水泳・ゴルフ・テニス(ダブルス)・社交ダンス・サイクリングなど比較的股関節への衝撃が少ないスポーツは楽しめる可能性が高いです。
ただし関節への強い衝撃が繰り返しかかるスポーツは、担当医と相談の上で判断することが必要です。
手術を検討している場合、病院選びのポイントは?
手術を検討される際、病院選びは今後の治療を左右する非常に重要なステップです。以下の5つのポイントを基準に検討されることをおすすめします。
- 股関節の専門医・専門施設であること:「人工股関節置換術」と「骨切り術」のどちらも対応できる施設が理想的です。
- 手術件数が多い施設を選ぶ:日本人工関節学会の認定施設などもひとつの参考になります。
- 「骨切り術」が可能かどうか:特に若い患者さんなどで適応になる可能性がある場合は、骨切り術を実施できる施設を選ぶことが重要です。
- 術後のリハビリ体制が充実しているか:手術と同じくらい、その後のリハビリが回復の鍵を握ります。
- セカンドオピニオンを活用する:一つの病院だけで決める必要はありません。他の専門医の意見も聞き、納得できる治療を選びましょう。
【病院を探す際のアドバイス】
股関節専門医を探す際は、「日本整形外科学会の専門医検索」や、「日本人工関節学会の認定施設一覧」のウェブサイトが大変参考になります。
特に「骨切り術」は実施できる施設が限られているため、受診前に「骨切り術対応施設かどうか」を必ず確認することをおすすめします。
変形性股関節症は若い人でもなりますか?
はい、なります。
変形性股関節症は中高年に多い病気ですが、若い人でも発症します。若い世代で発症する場合、その多くは「二次性変形性股関節症」です。「若いから大丈夫」と思わず、足の付け根に違和感や痛みを感じたら、早めに整形外科を受診しましょう。
特に、親族に変形性股関節症の方がいる、あるいは乳幼児期に股関節脱臼の指摘を受けたことがあるという方は、症状が軽いうちから定期的なチェックを受けることをお勧めします。
まとめ
変形性股関節症は、日本国内での推定患者数が500万人以上とも言われる、中高年に多い病気です。特に日本人女性に多く、大半が寛骨臼形成不全を背景に持っています。症状は「歩き始めの足の付け根の違和感・痛み」から始まり、進行すると歩行困難や日常動作の障害へとつながります。
治療は進行度に応じて、運動療法・薬物療法・生活習慣の見直しからなる保存療法と、骨切り術・人工股関節置換術からなる手術療法が選択されます。現在の人工股関節は技術的に大きく進歩しており、術後20年以上の使用に耐えるとする研究報告もあります。そのため、症状の進行度によっては、40代後半で人工股関節置換術を受ける人もいます。
自分でできることとして、日々の体重管理・股関節に優しい動作の習慣化・生活環境の洋式化が、症状の進行を緩やかにするうえで有効です。
そして何より大切なのは、「まだ我慢できる」という段階で一度整形外科を受診し、自分の股関節の状態を早めに把握しておくことです。違和感を感じたら、早めに専門医へ相談しましょう。
