「最近、歯が長く見える」「冷たい飲み物がしみる」という違和感を「年のせい」と見過ごしていませんか?
実は、歯茎が静かに下がり始めているサインかもしれません。歯茎下がりは放置すると進行し、見た目や健康に大きな影響を及ぼすこともあります。
この記事では、歯茎が下がる原因と主な治療法や予防法を解説します。正しい知識を身につけることで、これからの歯と歯茎を守る行動につながります。
歯茎が下がる主な原因
歯茎下がりは、歯周病や日々の生活習慣、遺伝的な体質など、複数の要因が複雑に絡み合って進行します。歯茎下がりにつながる主な原因は以下のとおりです。
- 歯周病による歯茎の炎症と破壊
- 強すぎるブラッシングや歯ぎしり・食いしばり
- 加齢・歯並び・喫煙・遺伝などの要因
歯周病による歯茎の炎症と破壊
歯周病は、歯と歯茎の間に溜まったプラーク(歯垢)に潜む細菌によって引き起こされる感染症です。
細菌が歯茎に炎症を起こすと、歯を支える土台である顎の骨(歯槽骨)が徐々に溶かされてしまいます。歯の土台である骨が失われると、その上を覆っている歯茎も一緒に下がってしまいます。
以下に歯周病の進行と歯茎の状態をまとめました。
| 進行段階 | 主な症状 |
|---|---|
| 歯肉炎 | 歯茎が赤く腫れ、歯磨きのときに出血しやすくなる |
| 軽度歯周炎 | 歯と歯茎の溝(歯周ポケット)が深くなり始める |
| 中度歯周炎 | 骨の破壊が進み、歯茎が下がってくる |
| 重度歯周炎 | 骨が半分以上失われ、歯がグラグラし始める |
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初期〜中期にかけては痛みなどの自覚症状がほとんどありません。喫煙は、ニコチンの血管収縮作用で歯茎の血流が悪くなり、歯周病による出血や腫れの発見が遅れることもあるため、注意が必要です。
強すぎるブラッシングや歯ぎしり・食いしばり
硬い歯ブラシで強い力をかけて磨くと、すり減るように下がる歯肉の損傷や歯茎・歯の根元まで削れてしまう等のリスクがあります。歯の汚れを落とすのに、強い力は必要ありません。歯ブラシの毛先が広がらない程度のやさしい力で磨くことが大切です。
睡眠中などに無意識に行っている歯ぎしりや食いしばりも、歯茎に大きなダメージを与える要因です。これらの癖があると、特定の歯に体重以上の力が継続的にかかり、歯を支える骨に伝わって歯茎が下がりやすくなります。
加齢・歯並び・喫煙・遺伝などの要因
歯茎が下がる原因は、歯周病や物理的な力だけでなく、以下のような要因が影響し合っています。
- 加齢
- 遺伝
- 歯並び
- 喫煙
- 不適合な被せ物
これらの要因が複数関わることで、歯茎下がりを進行させます。自身の生活習慣や体質を理解し、適切に対策することが重要です。
歯茎が下がっているかのセルフチェック方法
歯茎下がりは多くの場合、痛みなどの症状がないままゆっくりと進行します。ご自身で変化に気づいたときには、想像以上に状態が悪化していることも少なくありません。
ここでは、見た目や感覚から判断できるセルフチェックのポイントを解説します。
歯が長く見える・歯の根元が露出している
以前と比べて歯が長くなったように感じたり、特定の歯だけが長く見えたりする場合、歯茎が下がっている可能性があります。
歯は、普段見えている白い歯冠(しかん)と、歯茎の中に埋まっている歯根に分かれています。健康な状態では、歯根は歯茎にしっかりと覆われています。
歯周病や強すぎる歯磨きによって歯茎が下がると、通常は隠れている歯根が露出し、歯が長くなったように見えることがあります。次のようなサインがないか確認してみましょう。
- 全体的に、あるいは下の前歯だけが長く見える
- 歯と歯茎の境目に、歯の色とは少し違う黄色っぽい部分(歯根)が見える
- 犬歯(糸切り歯)の歯茎が、V字型にえぐれるように下がっている
- 笑ったときに見える歯茎のラインが、以前と変わったように感じる
このような見た目の変化は、歯茎下がりのサインです。露出した歯根は、歯冠のエナメル質よりも柔らかく、酸に弱いため虫歯になりやすい特徴があります。
冷たいものがしみる・知覚過敏がある
冷たい飲み物を飲んだときや、歯磨きで水が当たったときに歯が「キーン」としみる症状は、歯茎が下がっているサインの一つです。
歯の根っこの表面は象牙質という刺激を感じやすい組織でできており、神経につながる細い通り道があります。通常は歯茎に守られていますが、歯茎が下がると根の部分が露出し、冷たい刺激が神経に伝わりやすくなります。(※1)
冷たいものがしみる症状を軽く考えず、早めに歯科医院で原因を確認することが大切です。
歯と歯の間に隙間ができた
歯と歯の間に隙間が目立つようになった場合、歯茎が下がっている可能性があります。健康な歯茎は、歯と歯の間を歯間乳頭と呼ばれるピンク色の組織がしっかり埋めています。
歯周病などで歯を支える骨が減ったり、歯茎がやせたりすると、この盛り上がりが失われ、黒い三角形の隙間ができてしまいます。こうした隙間が生じることで、次のような問題が起こりやすくなります。
- 見た目の問題(老けた印象)
- 清掃性の悪化(食べ物のカスが挟まりやすくなる)
- 発音への影響
この隙間は、単なる見た目の問題ではなく、口の健康状態が悪化しているサインでもあります。気になる隙間を見つけたら、早めに歯科医師に相談しましょう。
歯茎下がりの治療法と費用の目安
歯茎下がりは、原因や進行度に応じて対処できる治療法があります。まずは原因を取り除き、必要に応じて見た目や機能の回復を目指します。
ここでは、代表的な治療法と費用の目安を解説します。
歯周病治療
歯茎下がりを引き起こす原因が歯周病である場合、優先されるのが歯周病自体の治療です。治療は、歯周病の原因菌のすみかである歯垢や、それが硬化した歯石を除去します。
歯周病治療の種類と内容を以下の表にまとめています。
| 治療の種類 | 内容 | 費用の目安(3割負担) |
|---|---|---|
| スケーリング | スケーラーを使い、歯の表面や歯周ポケットの浅い部分に付着した歯石を取り除く | 約2,000〜4,000円(検査や処置内容により異なる) |
| ルートプレーニング | 歯周ポケットの奥深く、歯根の表面に付着した歯石や汚染された層を除去し、表面を滑らかにする処置 | 1歯あたり数百円(処置歯数により1回数千円になることあり) |
※表は左右にスクロールして確認できます
これらの治療は保険適用で行われます。軽度の歯周病であれば、数回の治療で歯茎の炎症は改善に向かいますが、進行している場合は外科的な処置が必要になることもあります。
スケーリングやルートプレーニング後は、歯石に隠れていた歯の根本が露出し、知覚過敏になることがあります。一時的に歯茎から出血することもあるでしょう。
まずは歯周病を予防することが、歯茎を守るための第一歩です。
歯肉移植術
歯周病の進行が止まり、歯茎の状態が安定したあとに選択肢となるのが、見た目の改善や歯根の保護を目的とした歯肉移植術です。これは、ご自身の他の部位から健康な歯茎を採取し、歯茎が下がった部分に移植する外科手術です。
主な方法には、丈夫な歯茎を作る遊離歯肉移植術(FGG)と、見た目を自然に整えやすい結合組織移植術(CTG)があります。
遊離歯肉移植術は、上あごの硬い歯茎(角化歯肉)を採取し、歯茎が薄く弱くなった部分に移植します。歯磨きの刺激にも強い、しっかりとした歯茎をつくるのが目的です。ただし、移植組織と周囲の歯肉は色が異なり、境界が目立つことがある点に注意が必要です。
結合組織移植術は、上あごの歯茎の内部にある結合組織だけを採取し、露出した歯根を覆うように移植します。周囲の歯茎と色がなじみやすく、自然な見た目を回復しやすいのが特徴です。
いずれの手術でも、術後数日〜1週間程度は痛みや腫れが発生する可能性があります。血流障害や過度な負荷により移植組織が十分生着せず、歯肉が再生しないときもあります。
これらの治療は基本的に自費診療となり、費用は1歯あたり5~15万円程度が目安です。
歯周組織再生療法
歯周組織再生療法は、失われた歯茎だけでなく、歯を支える土台である顎の骨(歯槽骨)そのものを再生させる治療法です。歯茎を回復させるだけでなく、歯の根本的な支持組織を再構築することを目指します。
代表的な治療法は以下のとおりです。
| 治療法 | 内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| GTR法 | 骨を再生させたい部分に特殊な膜を設置し、歯茎の細胞が入り込むのを防ぎながら、骨が再生するスペースを確保する方法 | 約5〜15万円(自費診療) |
| エムドゲイン法 | 歯が生えるときに重要な役割を果たすタンパク質(エムドゲインゲル)を歯根の表面に塗り、歯周組織の再生を促す方法 | 約5〜15万円(自費診療) |
| リグロス法 | 歯周組織の細胞を増殖・成長させる因子が含まれるリグロスを歯根面に塗ることで再生を促す方法 | 約1〜2万円(保険診療) |
※表は左右にスクロールして確認できます
これらの再生療法は、骨の失われ方など適応できる条件が限られます。歯科医師による精密な診断が必要です。
歯周組織再生療法は外科的処置を伴うため、術後に腫れ、痛み、出血、感染などが生じる可能性があります。また喫煙などをしている患者さんは、歯周組織が再生しにくく、治療の成功率が下がる可能性もあります。
歯茎が下がるのを防ぐ予防法
一度下がってしまった歯茎は、自然に元の状態へ戻ることは難しく、外科的な処置が必要になる場合が多く、時間も費用もかかります。歯茎下がりは、治すことよりも「これ以上進行させない」という予防の視点が重要です。
ここでは、今日からすぐに実践できる歯茎下がりの予防法を解説します。
適切な力加減でやさしくブラッシングする
歯茎が下がるのを防ぐためには、適切な力加減でやさしくブラッシングすることが大切です。歯茎を傷つけずに歯垢を落とすためのポイントを確認しましょう。
ブラッシングをする際のポイントは以下の3つです。
- 歯ブラシの毛先が広がらない程度で磨く
- 歯ブラシを鉛筆を持つように軽く握る
- 歯ブラシの選び方を見直す(毛の硬さはふつうか、歯茎が弱い方はやわらかめ)
歯と歯茎の境目に45度の角度でブラシを当て、小刻みに優しく動かすことで、歯垢を除去しやすいでしょう。磨くのではなく、汚れを丁寧にかき出すイメージを持つことが大切です。
ナイトガードで歯ぎしり・食いしばりを防ぐ
歯茎が下がるのを防ぐには、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりへの対策が重要です。寝ている間は無意識に強い力がかかり、特定の歯や歯茎、骨に負担が集中しやすくなります。その負担を和らげる目的で使われるのがナイトガードです。
ナイトガードには次のような役割があります。
- 噛む力を分散させ特定の歯への集中を防げる可能性がある
- 歯のすり減りや欠けを防ぐことにつながる
- 歯茎や骨への負担を軽減することが期待できる
自覚がなくても、歯のすり減りから歯ぎしりが見つかることがあります。歯科医院では一人ひとりに合ったナイトガードを作ることができ、保険が使える場合もあるため、気になる方は相談してみてください。
歯間清掃と定期検診で歯周病を予防する
歯茎が下がるのを防ぐためには、歯周病を予防することが大切です。歯周病は、歯と歯茎の境目に溜まった汚れの中の細菌が原因で起こります。
毎日の歯磨きだけでは、歯と歯の間や歯茎の溝の汚れは落としきれないことが多く、知らないうちに炎症が進むことがあります。そのため、デンタルフロスや歯間ブラシを使った歯間清掃を習慣にすることがとても重要です。
あわせて歯科医院で定期検診を受けることで、自分では気づきにくい初期の歯周病や磨き残しを早く見つけられます。歯茎の健康を保つには、治療だけでなく、予防のためにも歯科医院へ通うことが大切です。
まとめ
歯茎下がりは、歯周病や日々の何気ない習慣など、さまざまな要因が絡み合って静かに進行します。一度下がってしまった歯茎は、自然に元の状態へ戻ることは難しく、これ以上悪化させないという予防の視点が大切になります。
「歯が長くなった気がする」「最近歯がしみる」などの変化は、歯周病のサインかもしれません。後悔する前に歯科医師に相談することが、ご自身の歯と歯茎を守るための第一歩です。一人で悩まず、ぜひお気軽に歯科医院へ足を運んでみてください。
参考文献
- 冨士谷盛興,千田彰:象牙質知覚過敏症. 医歯薬出版,東京,2011,3-5.
