「気分の落ち込みが続いて、うつ病かもしれない」と治療を続けているのに、なかなか良くならず、悩んでいませんか。その不調は、うつ病ではなく双極性障害(躁うつ病)かもしれません。
うつ病と双極性障害は専門家でも判別が難しく、うつ状態で受診した方の確定診断には平均で数年かかるという報告もあります。(※1)
この記事では、うつ病と双極性障害の共通点と違い、区別が難しい理由、診断・治療法などを解説します。うつ病と双極性障害の違いを理解し、それぞれに適した治療を受けられるようにしましょう。
この記事を読んでわかること
- うつ病と双極性障害(躁うつ病)の症状・原因・治療薬、3つの本質的な違い
- 専門家でも診断が難しい理由と、鑑別のカギとなる「過去の躁状態エピソード」の重要性
- 双極性障害をうつ病と誤診したまま治療を続けるリスク(躁転・生活上のトラブルなど)
- 心理社会的治療・TMS治療など、薬物療法と組み合わせる回復へのアプローチ
うつ病と双極性障害の違い
うつ病と双極性障害は、どちらも憂うつな気分になる「うつ状態(=抑うつ状態)」という共通点があり、見分けるのが難しいことで知られています。しかし、治療の方向性が大きく異なるため、両者の違いを正しく理解することが、回復へのアプローチとして重要です。
うつ病と双極性障害の違いを理解できるよう、以下の内容を解説します。
①共通点とそれぞれで特有の症状
②原因の違い
③使用する薬の違い
①共通点とそれぞれで特有の症状
うつ病と双極性障害は、うつ状態を経験する点で共通しています。しかし、症状の現れ方や、うつ状態以外の症状の有無に大きな違いがあります。両者の共通点とそれぞれで特有の症状を以下の表にまとめました。
| 項目 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 共通する症状 |
|
| うつ病特有の症状(※2) | うつ状態が2週間以上持続する傾向 |
| 双極性障害特有の症状(※3) |
|
うつ病が、うつ状態が持続することが特徴です。一方、双極性障害の特徴は、うつ状態に加えて気分が異常に高ぶる「躁(そう)状態」が現れる点です。躁状態にも程度があり、生活に大きな支障をきたす激しい状態と、「少し調子が良い」くらいにしかみえない軽い状態があります。
②原因の違い
うつ病と双極性障害は、発症に至る背景も異なると考えられています。どちらも原因は一つに特定されていませんが、関与する要因の重みが異なります。それぞれの発症要因は、以下のとおりです。
- うつ病
- 大切な人との別れなどのつらい出来事や、環境的ストレスが発症の引き金
- 双極性障害
- 遺伝的な要因が強く、家族に同じ病気がいる場合に発症しやすい(※5)
うつ病は、脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスが乱れることも、関係していると考えられている病気です。(※2)一方、双極性障害は、うつ病ほど環境要因に左右されるわけではなく、脳の機能的な問題が主な原因といわれています。
③使用する薬の違い
治療のゴールが異なるため、うつ病と双極性障害では使われる薬の中心も変わってきます。両者で行われる薬物治療を以下の表にまとめました。
| うつ病 | 双極性障害 | |
|---|---|---|
| 治療目標 | 落ち込んだ気分や意欲を元の健やかな状態に引き上げること | 気分の上がり下がりの波を小さくし、安定させること |
| 治療の中心となる薬 | セロトニンなど脳内の神経伝達物質の働きを整える作用を持つ「抗うつ薬」が治療の中心 | 躁状態とうつ状態をそれぞれ抑える働きを持つ「気分安定薬」と「非定型抗精神病薬」が治療の中心 |
うつ病と双極性障害では治療薬が異なるので、治療開始前の見立てと診断が重要です。双極性障害の方にうつ病と間違えて抗うつ薬だけを処方すると、かえって気分の波を激しくさせる可能性があります。間違った薬で症状を悪化させないよう、精神科医(精神科専門医や精神保健指定医)で正しく診断してもらいましょう。
うつ病と双極性障害の診断方法
うつ病と双極性障害は「うつ状態」という共通の症状を持つため、専門家でも見分けるのが難しい傾向です。しかし、治療法がまったく異なるため、最初の見立てと診断が回復への道を大きく左右します。
精神科医(精神科専門医や精神保健指定医)によるうつ病と双極性障害の診断が重要であることを理解できるよう、以下の内容を解説します。
- 区別が難しい理由
- 診断で行われる検査と鑑別のプロセス
- 放置によるリスク
区別が難しい理由
うつ病と双極性障害は、ほとんどの方が気分の落ち込んだ「うつ状態」のときに初めて病院を訪れることが多いため、見分けるのが困難です。どちらもうつ状態になることは共通しており、初診の時点の情報だけではうつ病と診断されがちです。
一方、双極性障害に特徴的な躁状態の時期は、ご本人にとっては調子が良い状態に感じられます。睡眠が不足していてもエネルギッシュに活動できるため、病気のサインだとはなかなか気づけません。
診察時に調子が良い状態だった時期を語られることは少なく、診断の重要な手がかりが見逃されてしまいます。ご家族から「あの頃、人が変わったようにハイテンションだった」と指摘されて、初めて躁状態に気づく方も珍しくありません。
診断で行われる検査と鑑別のプロセス
うつ病と双極性障害の正しい診断のため、診察では以下のようなプロセスを丁寧に進めていきます。
- 1.問診:現在の症状だけでなく、過去に気分の波がなかったか詳しく確認
- 2.検査:血液検査などで甲状腺の病気などが隠れていないかを確認
- 3.鑑別:国際的な診断基準(DSM−5−TR、ICD−11)にもとづく総合的な判断
問診や検査の結果をすべて集めたうえで、精神科医(精神科専門医や精神保健指定医)は見立てを経て診断を慎重に下します。最初の問診で、ご本人も忘れているような過去の躁状態エピソードを探ることが、鑑別の鍵です。
放置によるリスク
双極性障害が見過ごされ、うつ病として治療が続けられると、症状の悪化を招くことがあります。うつ病の治療で使う抗うつ薬は、双極性障害の方にとって気分を上げる効果が強すぎることがあるので注意が必要です。うつ状態から急激に躁状態へ移行する「躁転」を引き起こす可能性があります。
双極性障害の躁状態の時期には、本人に悪気はなくても、社会的な信用を損なう言動をすることもあります。高額な買い物をして多額の借金を背負ったり、攻撃的な態度で大切な人間関係を壊してしまったりすることも少なくありません。
気分の波が大きくなることで、ご本人が深く思い悩んでしまうこともあります。つらいと感じたときは決して一人で抱え込まず、早めに専門医にご相談ください。
うつ病と双極性障害の治療法
うつ病や双極性障害の治療は、単に薬を飲むだけで完結するものではありません。薬によって不安定な気分の波をコントロールする土台を築きながら、カウンセリングや新しい治療法を組み合わせていきます。
ここでは、うつ病や双極性障害の治療法として、「心理社会的治療」と「TMS治療」を解説します。
心理社会的治療
心理社会的治療は「心と生活のあり方」を見直していく方法です。薬物療法と車の両輪のような関係にあり、どちらが欠けてもうまく前に進めません。
心理社会的治療の具体的な内容は、以下の表のとおりです。
| 治療方法 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 心理教育 |
|
| 精神療法 |
|
| 生活習慣の改善 |
|
これらの治療を受けることで、うつ病や双極性障害のつらい症状が軽減される可能性があります。
TMS治療
TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)は、薬を使わない新しいアプローチとして注目されている治療法です。磁気の力を利用して、機能が低下している脳の特定の部分をやさしく刺激し、脳の血流を促すことで、うつ症状の改善を目指します。
TMS治療は、抗うつ薬で十分な効果が得られなかったり、副作用が強くて薬の継続が難しかったりする方への選択肢となります。
- 標準的な治療回数は20〜30回程度で、治療期間(週5日施術)は4〜6週間ほどです。
- 1回あたりの費用は、約5,000〜15,000円かかります。
治療は専用の椅子に座って頭部に器具をあてて行います。痛みの感じ方には個人差がありますが、麻酔は不要で、頭皮に軽い刺激を感じる程度の方が多いとされています。ただし、軽い頭痛やめまい、顔の痙攣・違和感などが現れる人がいる点に注意が必要です。
まとめ
うつ病と双極性障害はうつ状態が現れる点で共通していますが、気分が異常に高まる躁状態の有無が大きな違いです。治療法もまったく異なるため、正しい診断を受けることが回復への近道となる可能性があります。
「うつ病の治療を続けているのに改善しない」「過去に活動的な時期があったかもしれない」と感じる方は、精神科医(精神科専門医や精神保健指定医)に伝えてみましょう。ご自身では気づきにくい過去の出来事が、診断の重要な手がかりになるかもしれません。一人で抱え込まず、専門家と一緒にご自身の心と向き合うことが、穏やかな日常を取り戻すために重要です。
参考文献
- Andrew A Nierenberg, Bruno Agustini, Ole Köhler-Forsberg, Cristina Cusin, Douglas Katz, Louisa G Sylvia, Amy Peters, Michael Berk.Diagnosis and Treatment of Bipolar Disorder: A Review.JAMA,2023,330,14,p.1370-1380.
- 厚生労働省:「うつ病」
- 国立精神・神経医療研究センター:「双極性障害(躁うつ病)」
- Giselli Scaini, Samira S Valvassori, Alexandre P Diaz, Camila N Lima, Deborah Benevenuto, Gabriel R Fries, Joao Quevedo.Neurobiology of bipolar disorders: a review of genetic components, signaling pathways, biochemical changes, and neuroimaging findings.Braz J Psychiatry,2020,42,5,536-551.
