喘息は子どもの病気だと思っていませんか?
実は大人の患者のほうが多く、増加傾向なのです。喘息有症率は、小児喘息、成人喘息ともに1960年代までは1%程度だったのですが、2000年代初頭までに小児で10%以上、成人でも6~10%程度まで急速に増加したと報告され、その後も増加傾向です。小児喘息の患者さんの1/3は寛解し、1/3は成人喘息に移行、残りの1/3は一旦寛解後大人で再発するといわれています。また、小児喘息の既往がないのに大人になってから初めて症状 が出現する成人発症喘息は成人喘息の70~ 80%を占めることが報告されています。更に、40~60歳代の発症が 60%以上であることも報告されています。成人喘息は、小児喘息の既往がなくても大人になってから発症することが多い、つまり喘息は子供だけでなく大人でも重要な病気なのです。
こうした大人の喘息にはどんな特徴があるのでしょうか。
その症状や原因、最新の治療法などについて、呼吸器疾患の診断と治療を専門とする、池袋大谷クリニックの大谷義夫院長に教えていただきました。
喘息で命を落とす年間約1000人のうちほとんどが大人で、65才以上の高齢者の喘息死に占める割合は90%前後で推移しています。最近咳がとまらないと思ったら、ぜひ早めに専門医を受診してください。
目次
- 1 Q1 喘息は子どもの病気というイメージがありますが、大人になってから発症するケースはあるのでしょうか?
- 2 Q2 大人と子どもでは、子どものほうが症状は重いのでしょうか?
- 3 Q3 喘息の原因は何ですか?
- 4 Q4 どんな症状がありますか?
- 5 Q5 どのような病気が間違えやすいのでしょうか?
- 6 Q6 現在の喘息治療の特徴はどういうものですか?
- 7 Q7 成人の喘息患者は小児に比べ、比較的重症化するケースが多いとのことでしたが、現在ある薬で症状をコントロールすることは可能でしょうか?
- 8 Q8 難治性喘息には、治療がもうないのでしょうか?
- 9 Q9 気管支熱形成術(気管支サーモプラスティー)はどういう治療ですか?
- 10 Q10 先生の美学を教えてください
- 11 この記事を監修した医師
Q1 喘息は子どもの病気というイメージがありますが、大人になってから発症するケースはあるのでしょうか?
平成16~18年度に、厚生労働科学研究事業研究班が国際比較が可能な調査用紙を用いた全国調査を実施しました。それによると、20~44歳の成人での呼吸器症状の有症率は9・4%、喘息有病率は5・4%という結果でした。有症率は自覚症状を基に検討され、“過去12ヶ月以内に、ゼーゼー、ヒューヒューしたことがありますか?”という質問にYESと回答した人の割合です。一方で、有病率は医師によって喘息と診断された割合です。
成人の喘息の発症経緯は、大きく分けて3つのタイプがあります。まず、小児の時に喘息があり、そのまま成人になっても喘息があるタイプ。小児喘息は2~3歳までに60~70%が、6歳までに80%以上が発症し、思春期になる頃には症状が軽減します。ところが30%はそうではなく、成人喘息に移行するといわれています。
次に、思春期でいったん症状は消えたが、成人になってからまた症状が現れるタイプ。小児で寛解(症状が鎮静化すること)した人のうち30%が再発するといわれています。
そして、成人になって初めて発症する成人喘息です。成人発症喘息の70~80%がこのタイプで、特に40~60歳の発症が半数以上を占めます。
Q2 大人と子どもでは、子どものほうが症状は重いのでしょうか?
前項で紹介した調査では、成人は小児よりも慢性化しやすく、重症化しやすいとされています。吸入ステロイド薬ではコントロール出来ずに、経口副腎皮質ステロイド薬を頻繁に使用するまたは依存する難治性患者も5~10%存在します。
Q3 喘息の原因は何ですか?

喘息には、アトピー型喘息と非アトピー型喘息があります。アトピー型喘息とは、ハウスダスト、ダニ、動物の皮膚、花粉、カビ、ゴキブリなどのアレルゲンが関係して発症しているもので、非アトピー型喘息は、アレルゲンが関係していないものです。具体的には、ウイルス感染、喫煙、タバコの副流煙、大気汚染、薬剤、運動、天候、情動、アルコールなどが挙げられます。小児ではアトピー型喘息が多いのに対し、成人では非アトピー型喘息が多数を占めます。
但しアトピー型でも非アトピー型でも、カゼなどのウイルス感染、天候、ほこり、疲労、ストレス、花粉、アルコール、運動、睡眠不足、タバコ、ペット、植物、薬剤、月経・妊娠など様々な増悪因子が知られております。
Q4 どんな症状がありますか?
症状は小児、成人共に同じです。咳、息苦しさ、痰がでる、ゼーゼーヒューヒューという喘鳴がある。夜間から早朝にかけて症状が出やすい。
成人喘息での診断は、まず、発作性の呼吸困難や喘鳴があるか、咳を繰り返すか、などの問診が重要です。更に、医師による聴診所見はとても重要です。検査で、アセチルコリン、ヒスタミン、メサコリンに対する気道収縮反応の亢進が確認できると診断に有効ですが、リスクも伴うため、気道過敏性試験を施行する施設は限られております。呼吸機能の検査で肺年齢上昇、呼気検査をすると呼気中のNO(一酸化窒素)濃度が上昇している、血液検査で末梢血中の好酸球数の増加も参考になります。また、肺がん、肺結核、肺炎や心不全などほかの病気で咳や息苦しさが出ている場合もありますので、鑑別診断も行わなくてはなりません。
Q5 どのような病気が間違えやすいのでしょうか?
たとえば、肺が持続的に炎症を起こし、呼吸機能の低下が見られる慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息と症状が非常に似通っている咳喘息、肺線維症、過敏性肺炎といった気管支から肺にかけての病気があります。高血圧の薬であるACE阻害薬など、薬の影響で咳がひどくなっている場合もあります。うっ血性心不全、肺血栓塞栓症といった循環器の病気も、似たような症状を示すことがあります。肺がん、肺結核、肺炎などの生命に関わる疾患や人に感染させてしまうリスクのある疾患を除外するために、レントゲン検査は必要です。
喘息の診断だけでなく、適切な治療のためにも、喘息を疑った場合は、呼吸器を専門とする内科の受診をお勧めします。
Q6 現在の喘息治療の特徴はどういうものですか?

喘息の薬は目覚ましく進歩しています。かつては、気管支拡張薬で喘息で狭くなった気道を拡張させる治療が中心でした。
ところが1980年代後半から、吸入ステロイド薬などの長期管理薬と、短時間作用型β2刺激薬などの発作治療薬を用いるようになりました。長期管理薬は日頃から吸入して炎症を抑え発作を起こさないようにするのが目的で、発作治療薬は発作が起こった時に吸入するのが目的になります。喘息は症状がなくても気道で慢性的に炎症が起こっていることが明らかになったことから、喘息の発作が起こった時にだけ薬を使用するのではなく、日頃から長期管理薬で炎症を抑え、過敏性を増さないようにし、発作を回避するようになりました。
2009年にはまた、新たな一歩を踏み出しました。日本で初めての生物学的製剤が登場したのです。オマリズマブという薬で、アレルギー反応を引き起すIgE抗体の働きを抑える作用があります。従来薬が効かなかった患者にも効果が見られ、注目を集めました。
現在は、吸入ステロイド薬と長時間作用型β2刺激薬の配合剤が長期管理薬。生物学的製剤も保険適用で使えるものが5種類登場しており、薬の選択肢が増えています。
Q7 成人の喘息患者は小児に比べ、比較的重症化するケースが多いとのことでしたが、現在ある薬で症状をコントロールすることは可能でしょうか?
薬を正しく服用すれば、喘息の発作を起こさず、うまく付き合っていくことは可能です。
しかし、それでも喘息発作を繰り返す人はいます。この場合、まずチェックすべきは、「本当に正しく薬を服用できているのか?」ということです。内服薬は内服量と内服するタイミングを間違えなければ容易ですが、吸入ステロイド薬には適切な方法で吸入することが大切で、“吸入のこつ”がありますので、医師および薬剤師による吸入指導を受けて頂く必要があります。吸入する吸い込む力が弱すぎても強すぎてもいけませんし、吸入後、5秒間息止めをして、吸入ステロイド薬を気管支まで到着させる必要があります。口腔内に吸入ステロイド薬が残ると嗄声の原因になりますから、よくうがいして、洗い流す必要があります。吸入ステロイド薬は気管支だけに留めたいのです。
薬の服用量が少ない、薬の種類が合っていない、発作をしばらく起こさなかったからと自己判断で薬の服用を止めている方もいらっしゃいます。喘息治療では吸入ステロイド薬を使いますが、„ステロイド"への間違った認識から、「極力使いたくない」と勝手に止めてしまう人もいまだにいらっしゃいます。経口ステロイド薬の長期投与は、糖尿病、高血圧、免疫低下、骨粗しょう症など全身の副作用を生じる可能性がありますが、吸入ステロイド薬は1㎎未満のマイクロ単位の量を気管支に留めるだけで、血液中には吸収されませんので、全身の副作用を生じることはなく、妊婦にも安全に使用できます。長期管理薬として用いている量では重篤な副作用の心配はありません。この問題をクリアするには、医師と患者とのコミュニケーションを密にすることが不可欠でしょう。医師と患者で治療の結果の認識にかい離が見られることもしばしばあります。医師は「治療がうまくいっている」と認識し、患者は「喘息は苦しくても仕方がない」と認識しているなどです。
一方、喘息の治療薬を正しく使っているのに、5~10%ほどは喘息の増悪を繰り返します。高用量吸入ステロイド薬といくつかの喘息薬を使用しても喘息のコントロールが不良で、経口ステロイドを連日または頻繁に使用する必要がある場合に「難治性喘息」といいます。
Q8 難治性喘息には、治療がもうないのでしょうか?
難治性喘息では、生物学的製剤を検討します。
生物学的製剤は、従来薬とは違う作用機序を持っています。喘息発作につながる炎症物質に直接作用するのです。2025年3月現在、5種類の生物学的製剤を使用可能です。好酸球、IgE、呼気中一酸化窒素濃度(呼気NO)などから、5種類の生物学的製剤から適切な薬を選択します。難治性喘息以外にも、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、重症慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎にも適応を有する生物学的製剤もあるため、合併疾患の状況を加味して選択します。ただし、喘息は専門医以外が診ている場合も少なくなく、生物学的製剤の情報がうまく伝わっていない可能性もありますので、非専門医も専門医および専門施設との連携が必要になります。
Q9 気管支熱形成術(気管支サーモプラスティー)はどういう治療ですか?
これは、65℃の高周波電流で気管支平滑筋を加熱する治療法です。全身麻酔で、口から気管支鏡を挿入して治療を行います。
生物学的製剤の治療でもコントロールできない難治性喘息患者では、気管支熱形成術(気管支サーモプラスティー)を検討します。日本では、2015年4月に保険適応となり、2023年1月の段階で約900名が施行されました。専門施設の中でも限られた施設でのみ施行されておりました。製造元のボストンサイエンティフィックジャパン株式会社による製品の製造終了に伴い販売が終了しており、今後は在庫がなくなり次第終了となります。
Q10 先生の美学を教えてください
私は呼吸器内科医ということから、普段から呼吸や肺の健康を維持することに留意しています。秋~春の乾燥する時期には、加湿器をクリニックで3台、自宅でリビング、個室3部屋に1台ずつ、ランニングマシンの部屋に1台。空気清浄器はクリニックで2台、自宅で3台使っています。空気をきれいにする植物エコプラントも長く使っています。
さらに、肺機能を高める新鮮な果物、魚を積極的に食べ、ビタミンA、C、E、βカロチン、EPAやDHAなどの不飽和脂肪酸といった栄養分を意識して取っています。
肺機能を高め、呼吸力を鍛えれば、若返りますし、肺の様々な病気を防ぎます。ぜひみなさんも実践してください。