「そろそろ赤ちゃんが欲しい」と妊活しているにもかかわらず、なかなか妊娠に至らないと悩んでいませんか。不妊の原因は女性側にあると考えられがちですが、WHOの調査によると、男性のみ、あるいは男女両方に原因があるケースは全体の約半数あります。(※1)
本記事では、女性・男性の主な不妊原因や検査方法、不妊治療のステップを詳しく解説します。パートナーと一緒に正しい知識を得ることで、妊娠への大切な第一歩を踏み出しましょう。
不妊症とは?
不妊症とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性生活を送っているにもかかわらず、一定期間妊娠しない状態を指します。WHOの定義では、妊活を始めて1年以上妊娠しない状態が不妊症です。(※2)
世界保健機関(WHO)の調査によると、不妊の原因は女性側だけでなく男性側にもあります。(※1)
不妊の原因 | 割合 |
女性のみに原因がある場合 | 41% |
男性のみに原因がある場合 | 24% |
男女両方に原因がある場合 | 24% |
原因が特定できない場合 | 11% |
男性のみ、あるいは男女両方に原因があるケースを合わせると、男性側に何かしらの原因がある割合は約半数にのぼることがわかるでしょう。
不妊の主な原因と特徴
女性側、男性側、男女共通の主な不妊原因や特徴を解説します。
女性側の主な不妊原因
女性側の主な不妊原因は、以下のとおりです。(※3)
- 排卵障害
- 卵管の閉塞・狭窄・癒着
- 子宮筋腫や子宮内膜ポリープ
- 子宮奇形
- 子宮頸管炎
- 子宮頸管からの粘液分泌異常
- 抗精子抗体
排卵障害は、卵子がうまく育たなかったり、スムーズに排卵できなかったりする状態です。月経不順や無月経など症状をもとに気づくケースが多いでしょう。
卵子と精子が出会うための卵管や受精卵を育てる子宮に問題がある状態も、不妊につながります。そのほかにも、子宮の入り口(頸管)の粘液が少ない頸管因子や、女性の体内で精子を異物として攻撃してしまう抗体ができる免疫因子なども原因となり得ます。
男性側の主な不妊原因
男性不妊は自覚症状がないケースがほとんどで、検査をして初めてわかることが大半です。男性側の主な不妊原因は以下があげられます。(※3)
原因 | 特徴 |
造精機能障害 | 精子を造る能力が低下しており、精子の数が少なかったり、運動率が低かったり、正常な形の精子が少なかったりする状態 |
精路通過障害 | 精子は正常に造られているものの、体外への通り道が塞がっているために体外へ出られない状態 |
性機能障害 | 勃起がうまくいかなかったり、射精ができなかったりなど性交に問題がある状態 |
厚生労働省の調査研究事業によると、男性不妊の原因の約8割は造精機能障害です。性機能障害は13.5%、精路通過障害は3.9%と報告されています。(※4)
男女共通の原因
不妊の原因は、どちらか一方だけではなく、二人に共通する場合や複数の要因が絡み合っていることも珍しくありません。
まずあげられるのが加齢です。女性は35歳を過ぎると卵巣機能の低下などにより妊娠率が下がることが知られています(※5)。男性でも年齢とともに精子の運動率やDNAの状態など“質”が低下するとの報告があります(※6)。
次に生活習慣も、男女共通の不妊原因です。喫煙や過度な飲酒、肥満や痩せすぎ、強いストレスはホルモンバランスや精子・卵子の質に影響し、不妊の一因となります(※7)。
性感染症も不妊の主要リスク要因です。クラミジアは自覚症状が乏しく進行しやすく、女性では卵管の癒着・狭窄、男性では精巣上体炎を介した通過障害が生じ、妊娠成立を阻害します。
そのほかにも、明らかな不妊の原因がわからないケースも存在します。
不妊原因を調べるための検査
不妊の原因を調べるためには、検査を受けることが必要です。初診から不妊検査開始までの流れや男性側・女性側の検査内容を紹介します。
初診から不妊検査開始までの流れ
初診から不妊検査までの一般的な流れは、以下のとおりです。
- 問診
- 検査計画の立案
- 基本的な不妊検査の実施
クリニックではまず、問診を受けます。問診の際に聞かれる内容は、月経周期や基礎体温、妊娠を希望してからの期間、既往歴・手術歴などです。
問診で得られた情報をもとに、患者さんに合わせた検査スケジュールを医師が計画します。立案した計画に問題がなければ、検査が進められます。
女性に行う主な検査
女性の身体は、月経周期内でホルモン状態が変化するため、適切な時期に検査を行うことが重要です。女性に行う主な検査は、以下のとおりです。
検査 | 内容 |
超音波検査 | 膣から細いプローブを挿入し、子宮や子宮内膜、卵巣の状態を確認する |
ホルモン検査 | ・月経期や黄体期などの特定の時期に採血し、ホルモンの値を調べる・卵巣の機能や排卵が正常に行われているかを評価 |
卵管造影検査 | ・子宮の入り口に造影剤を注入しながらレントゲン撮影を行う・卵管の詰まりや狭さ、癒着の有無などを確認 |
子宮鏡検査 | ・子宮内に細いカメラを入れる検査・受精卵が着床する子宮内腔の状態や子宮内膜ポリープ・粘膜下子宮筋腫などの有無を確認 |
その他の検査 | 性感染症の有無や腸内・子宮内の細菌バランス(膣内細菌叢)を確認 |
男性に行う主な検査
男性の検査は、女性に比べて身体的な負担が少なく、精液を採取して行われます。クリニック内もしくは自宅で採取した精液を顕微鏡で観察し、精子の状態を評価します。
精液検査の主なチェック項目とWHOが定める健常な男性の基準値は、以下の表のとおりです。(※8)
検査項目 | 基準値 |
精液量 | 1.4mL以上 |
精子濃度 | 1mLあたり1600万個以上 |
総精子数 | 3900万個以上 |
運動率 | 42%以上 |
正常形態率 | 4%以上 |
精液検査の結果に問題があった場合は、ホルモン検査や超音波検査、染色体・遺伝子検査などの追加検査が行われます。追加検査を受けることで、不妊の原因が特定できる可能性が高まります。
不妊治療の主な選択肢とステップ
不妊治療は、身体への負担が少ない方法から段階的に進めていく方式が基本です。代表的な4つの治療ステップは、以下のとおりです。
STEP①タイミング法
STEP②人工授精
STEP③体外受精
STEP④顕微授精
STEP①タイミング法
タイミング法では、超音波検査やホルモン検査で排卵日を正確に予測し、妊娠の可能性が高い時期に性交渉を持つように医師がアドバイスします。不妊検査で大きな問題が見つからなかった場合が対象の方法です。
具体的な治療の流れは、以下のとおりです。
- 超音波検査で卵胞の大きさを測定する
- 卵胞の大きさやホルモン値などから排卵日を予測する
- 排卵日に合わせて性交渉のタイミング指導を受ける
必要に応じて、排卵を促すための注射(hCG注射など)で排卵誘発をすることを受けることもあります。タイミング法は身体への負担が少なく、費用も比較的抑えられる治療法です。
STEP②人工授精
人工授精は、タイミング法を一定期間続けても妊娠に至らない場合などに検討される治療法です。採取した精液から運動性の高い精子だけを選び出して濃縮し、カテーテルを使って精子を直接子宮内に注入します。
人工授精の流れは、以下のとおりです。
- タイミング法と同様に排卵のタイミングを予測する
- 治療当日に自宅やクリニックで精液を採取する
- クリニックで精液を特殊な培養液で洗浄・濃縮する
- 動きの良い元気な精子だけを集める
- 医師が細いカテーテルを使って処理した精子を子宮内に注入する
自宅で精液を採取する場合は、専用の容器に入れてクリニックに持参する必要があります。精子の運動率を保てるよう、精液は適切な温度で保管し、なるべく早くクリニックに届けなければなりません。
STEP③体外受精
体外受精は、卵巣から直接卵子を取り出し、体外で精子と出会わせて受精させる方法です。体外で育った受精卵(胚)を子宮内に戻す治療法であり、高度生殖医療(ART)とも呼ばれます。タイミング法や人工授精を繰り返し行なっても妊娠に至らない方は、体外受精が選択肢になります。
体外受精の具体的な治療の流れは、以下のとおりです。
- 卵巣刺激
- 採卵
- 授精と培養
- 胚移植
- 妊娠判定
体外受精では、一度に複数の質の良い卵子が育つよう、排卵誘発剤の注射や飲み薬を使って卵巣を刺激します。育った卵子は、麻酔下で子宮内に挿入した細い針で吸引・採取され、専用の培養器で精子とともに育てられます。
培養器内で卵子と精子が受精し、胚移植を終えると、次は妊娠判定を待つ段階に入ります。妊娠判定は、胚移植から約2週間後に行われます。
STEP④顕微授精
顕微授精は、重度の男性不妊や体外受精でも受精しなかった場合などに選択されます。顕微鏡で観察しながら、細いガラスの針で一つの精子を捕まえ、一つの卵子に直接注入して受精を助ける方法です。
卵巣刺激から採卵、胚移植までの基本的な流れは、体外受精とほとんど同じです。体外受精と顕微授精で異なる点は、受精させる方法です。
顕微授精では、培養士がモニターで確認しながら、形の良い元気な精子を1つだけ選びます。選んだ精子を専用の針で卵細胞に直接注入することにより、受精の可能性を高めます。
不妊症のよくあるQ&A
クリニックで患者さんからよくある以下の質問に医師の視点から回答するので、自身の状況と照らし合わせながら、不妊治療への理解を深めてください。
・不妊治療は保険適用されますか?
・どのような人が不妊症になりやすいですか?
・不妊症になると症状が現れますか?
不妊治療は保険適用されますか?
多くの不妊治療は、2022年4月〜保険適用となりました。(※9)保険適用される主な治療は、以下のとおりです。
- タイミング法や人工授精などの一般不妊治療
- 体外受精や顕微授精などの生殖補助医療
ただし、すべての治療が対象ではなく、回数や治療を開始する時点での女性の年齢に制限があります。体外受精や顕微授精などの生殖補助医療に保険が適用されるための条件は、以下の表のとおりです。
治療開始時の女性の年齢 | 保険適用で移植可能な回数 |
40歳未満 | 子ども一人につき通算6回 |
40歳以上43歳未満 | 子ども一人につき通算3回 |
43歳以上で治療を開始したり、保険適用の回数制限を超えたりした場合は、自費診療となります。自費診療であっても、高額療養費制度を利用することで自己負担額が減る可能性もあるため、活用を検討してください。
どのような人が不妊症になりやすいですか?
一般的に、以下のような特徴や病気の既往がある場合、妊娠する力が低下する可能性があると考えられています。
男女 | リスク因子 |
女性側 | ・年齢が35歳以上 ・子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科系の病気・月経不順・性感染症の既往・過去の開腹手術歴 |
男性側 | ・長時間のサウナや膝上でのノートパソコン作業 ・精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう) ・おたふくかぜの既往 |
その他、喫煙や過度な飲酒の習慣があったり、肥満体型であったりする方も不妊症になりやすいでしょう。
ただし、これらの要因に当てはまるからといって、必ずしも不妊症になるわけではありません。気になる点があれば、ためらわずに専門医へ相談することが大切です。
不妊症になると症状が現れますか?
不妊症そのものには、痛みやかゆみなど特有の自覚症状はほとんどありません。ただし、不妊の原因となっている病気や体の不調が、何らかのサインとして体に現れている場合があります。
男女それぞれで以下のような症状がある場合は、不妊の原因が隠れているサインかもしれません。
男女 | 症状 |
女性側 | ・月経周期が24日以内と短い ・月経周期が39日以上と長い ・月経が3か月以上こない(稀発無月経) ・月経痛が年々ひどくなっている ・経血の量が多かったりレバー状の塊が頻繁に出たりする ・月経期以外に出血がある(不正性器出血) |
男性側 | ・勃起や射精がうまくいかない ・精巣(睾丸)の大きさに明らかな左右差がある ・睾丸にしこりや痛みがある ・射精時に痛みを感じる ・精液に血が混じる |
これらの症状は、不妊とは関係なく、早期に治療が必要な病気のサインである可能性もあります。症状がない場合でも、妊娠を希望して一定期間が経過したら、一度パートナーと一緒に専門のクリニックを受診し、検査を受けることが大切です。
まとめ
不妊は特別なことではなく、女性側・男性側のどちらにも原因があるかもしれません。不妊治療で大切な点は、自身の体の状態を正しく知り、夫婦で一緒に向き合うことです。2022年以降は保険適用も拡大しており、治療の選択肢も増えています。
「不妊症かもしれない」と感じたら、一人で抱え込まず、まずはパートナーと専門のクリニックへ早めに相談しましょう。
参考文献
- こども家庭庁:「妊娠・不妊の基礎知識」
- World Health Organization:「Infertility」
- 一般社団法人日本生殖医学会:「Q4.不妊症の原因にはどういうものがありますか?」
- 厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業「我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究」P37
- HENRY L.Some data on natural fertility.Eugen Q,1961,8,2,81-91.
- 一般社団法人日本生殖医学会:「Q25.男性の加齢は不妊症・流産にどんな影響を与えるのですか?」
- Emokpae MA,Brown SI.Effects of lifestyle factors on fertility: practical recommendations for modification.Review Reprod Fertil,2021,2,1,R13-R26.
- World Health Organization:「WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen Sixth Edition」P213.
- 厚生労働省:「不妊治療保険適用リーフレット」