突然、お腹の左側が締め付けられるような痛みに襲われ、しばらくすると便に血が混じっている——そんな経験に、強い不安を感じている方は少なくありません。「いったい何が起きているのだろう?」「すぐに受診した方がいいのかな?」と戸惑うのも、当然のことだと思います。
実はこうした症状、虚血性大腸炎と呼ばれる病気で起こることがあります。
名前は難しそうに聞こえますが、大腸への血の流れが一時的に低下することで生じる炎症で、適切な対処をとれば多くの場合に回復が見込まれる疾患です。この記事では、その原因・症状・診断・治療まで、順を追ってわかりやすくお伝えします。
【この記事でわかること】
- 虚血性大腸炎とは:
- 大腸の血流障害(血の巡りが一時的に低下すること)によって粘膜に炎症や潰瘍が生じる病気
- 代表的な症状:
- 突然の腹痛(とくに左側)と、その後に続く下痢・血便の3点セットが典型的
- 主な治療法:
- 絶食・安静・点滴を中心とした保存的治療が基本。多くの場合、数日から1週間程度で腹痛が和らぎ、血便も落ち着いてくることが一般的
- 診断に用いる検査:
- 血液検査で炎症状態を把握し、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で確定診断を行う
- 注意が必要な場合:
- 症状が重い・繰り返す・量の多い血便が続くといった場合には、消化器科・内科を受診することが大切
虚血性大腸炎の主な症状とは?
虚血性大腸炎は、症状の出方にある程度の「パターン」があります。突然始まることが多いため、最初は「食べ過ぎたかな?」「ストレスのせい?」と見過ごしてしまう方もいるほどです。ここでは代表的な症状を整理しておきましょう。
突然の激しい左側の腹痛
虚血性大腸炎の最初のサインとして多いのが、突然の腹痛です。痛む部位は左側のお腹(左下腹部〜左側腹部)であることが典型的で、痛みはけいれんするような、締め付けられるような性質として現れます。
「突然」という点が重要です。何か特別な食事をしたわけでも、激しい運動をしたわけでもないのに、急激に痛みが始まるのが特徴のひとつ。腸に血液が届きにくくなることで粘膜が傷み、その炎症が痛みとして感じられます。
痛みの強さには個人差があり、立っていられないほど強いケースもあれば、比較的耐えられる程度のケースもあります。痛みがある程度落ち着いたからといって、受診を後回しにするのではなく、気になる方はなるべく早めに医療機関へ相談することをおすすめします。
腹痛に続く下痢や血便
腹痛が始まってから数時間以内に、下痢や血便を伴うことが多いのも虚血性大腸炎の特徴のひとつです。血便は鮮やかな赤色から暗赤色のものまでさまざまで、便全体に血液が混ざっていたり、便の表面に少量の血液が付着していたりします。
「急に始まった腹痛+左側の痛み+血便」の組み合わせが見られたときは、虚血性大腸炎の可能性を念頭に置いて受診することが大切です。下痢は水様性に近い場合もあり、腹痛・下痢・血便が三拍子そろって現れることで気づくケースが多くなっています。
なぜ起こる?虚血性大腸炎の原因と発症しやすい人の特徴
「虚血」とは、文字どおり「血の巡りが不足した状態」を指します。なぜ大腸の血流が低下するのか、またどのような人に多いのかを整理していきます。
大腸の血流が低下するメカニズム
大腸には、腸間膜と呼ばれる薄い膜を通じて血管から血液が供給されています。特に左側の大腸(下行結腸〜S状結腸)は、他の部位に比べて血管の走行が単純で、血流が滞りやすい解剖学的な特性があります。
原因となる血管・血流の問題としては、以下のようなことが考えられています。
- 動脈硬化による血管の狭窄・血流の低下
- 低血圧や脱水による循環血液量の減少
- 便秘による腸内圧の上昇(腸壁への血流が物理的に妨げられる)
- 過敏性腸症候群の治療薬など、一部の薬剤の影響
ただし、明確な原因が特定できないケースも少なくなく、複数の因子が絡み合って発症することも多いとされています。「なぜ私が?」と感じる方もいますが、特定の生活習慣との直接的な因果関係が常に明確になるわけではありません。
高齢者や便秘がちな人に多い理由
虚血性大腸炎は、高齢者に多い傾向があります。加齢とともに血管が硬くなり、血流の調整力が低下することが背景にあると考えられています。また、日本では女性に多い傾向も報告されていますが、男性でも珍しい病気ではありません。
便秘との関係も注目されています。便秘の状態では腸内に内容物が長時間とどまり、腸管の内圧が高まります。この圧力が腸壁の毛細血管を圧迫し、血流の低下を引き起こすと考えられています。慢性的な便秘がある方は、こうしたメカニズムを意識しておく価値があるでしょう。
そのほか、高血圧・糖尿病・脂質異常症など、血管に影響を与える生活習慣病を持つ方は、血管への負担が蓄積しやすく、発症リスクとの関連が指摘されています。
虚血性大腸炎の診断に必要な検査
「もしかして虚血性大腸炎かもしれない…」と感じたとき、医療機関ではどのような検査が行われるのでしょうか。診断の流れを整理します。
問診と血液検査による炎症状態の確認
最初に重要なのが問診です。「いつから症状が始まったか」「痛みの部位や性質」「血便の性状・量」「普段の排便習慣」「服用中の薬」などを医師に詳しく伝えることが、正確な診断への大きな助けになります。「こんなことまで伝えていいの?」と思うようなことも、遠慮せずに話してみてください。
あわせて行われる血液検査では、炎症の指標となるCRP(C反応性タンパク)や白血球数の上昇を確認します。虚血性大腸炎では炎症反応が認められることが多く、他の疾患との鑑別にも役立ちます。脱水状態のチェックや腎機能・肝機能の確認も同時に行われることが一般的です。
大腸内視鏡検査による確定診断と他疾患との鑑別

虚血性大腸炎の確定診断に欠かせないのが、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)です。内視鏡を用いることで、大腸の粘膜の状態(発赤・浮腫・潰瘍など)を直接観察することができます。
虚血性大腸炎の特徴的な所見として、病変が左側の大腸に限局していること、縦方向に走る潰瘍やびらんが見られることなどが挙げられます。内視鏡検査の際には組織の一部を採取(生検)して、顕微鏡で細胞レベルの変化を確認する場合もあります。
内視鏡検査が重要なもうひとつの理由が、他の疾患との鑑別(見分け)です。血便を起こす病気は虚血性大腸炎だけではありません。潰瘍性大腸炎・クローン病・感染性腸炎・大腸がんなど、さまざまな疾患が血便の原因になり得ます。内視鏡での直接観察と生検の組み合わせによって、こうした疾患を区別し、適切な治療方針を決定することが可能になります。
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虚血性大腸炎の治療法と回復までの経過
虚血性大腸炎と診断されると、「手術が必要になるのでは…」と心配される方もいますが、多くのケースでは身体への負担の少ない方法が中心となります。
腸を休ませるための安静・絶食治療
虚血性大腸炎の基本となる治療は、絶食と安静です。大腸の粘膜を刺激しないよう食事を控え、腸を休ませることで炎症を起こした粘膜の回復を促します。この「腸を休ませる」アプローチを保存的治療と呼びます。
絶食期間中は点滴で水分・電解質・必要な栄養を補給しながら経過を観察します。多くの場合、数日から1週間程度で腹痛が和らぎ、血便も保存的治療のみで経過する方が大多数です 。その後、流動食→軟らかい食事→通常食と、段階的に食事を再開していきます。
回復後も、腸に刺激を与える食べ物(脂っこいもの・香辛料・アルコールなど)は一定期間控えることが望まれます。また、便秘の改善や日常の生活リズムを整えることも、再発予防の観点から意識しておくとよいでしょう。
症状が強い場合や入院が必要になるケース
軽症であれば外来での対応が検討される場合もありますが、入院のうえで治療を進めることも少なくありません。特に以下のような状況では、入院による点滴治療と経過観察が必要と判断されやすくなります。
- 腹痛が強く、口から水分・食事を摂ることが難しい場合
- 血便の量が多く、貧血の懸念がある場合
- 発熱など全身症状を伴う場合
- 高齢の方や基礎疾患を持つ方で、全身状態の管理が必要な場合
ごく稀なケースではありますが、腸管の壊死(腸の血流が完全に途絶えた状態)や穿孔(腸に穴が開くこと)が生じた場合は、外科的な手術が必要になることがあります。ただし、これは例外的な状況であり、多くの虚血性大腸炎では保存的治療によって腹痛や血便が次第に落ち着いていく方が多くなっています 。
回復後は医師の指示に従って定期的に受診し、再発の有無や腸の状態を確認しながら経過を見ていくことが大切です。
まとめ
虚血性大腸炎は、突然の腹痛・血便・下痢という症状が特徴的な疾患です。大腸の血流障害によって粘膜に炎症が生じ、高齢者や便秘がちな方、生活習慣病のある方に多い傾向があります。
診断には血液検査と大腸内視鏡検査が用いられ、類似した症状を引き起こす他の腸疾患との鑑別も丁寧に行われます。治療は絶食・安静・点滴を中心とした保存的治療が基本であり、多くのケースで適切な対処によって回復が期待できます。
「あの症状、もしかして…」と思い当たる節がある方は、ひとりで抱え込まずに消化器科や内科へ相談することをおすすめします。症状の変化や繰り返しの有無、普段の生活習慣を医師に伝えることで、より的確な診断と対応につながります。
参考文献
※本記事は上記ガイドラインおよび公的医療情報を参考に作成しています。 記載内容は一般的な医学的知見に基づくものであり、個別の診断や治療方針については必ず担当医にご相談ください。
