医療機関で検査しても「異常なし」と言われるのにずっと続く体調不良は、自律神経のバランスが崩れているサインかもしれません。
自律神経は心と身体をバランスの良い状態に保つシステムです。内臓や血管などの働きを自律的に調整し、身体を良好なコンディションに保つ役割を持ちます。自律神経が乱れると、全身の倦怠感やめまい、頭痛、動悸などの不調が起きやすいことが特徴です。(※1)
この記事では、自律神経が乱れる原因から、自宅で実践できる具体的な整え方、医療機関での治療法までを公的機関の資料や医学論文などの信頼できる根拠に基づいて解説します。ご自身の不調の正体を知り、心身のバランスの取れた毎日を過ごすことができる第一歩を踏み出しましょう。
自律神経とは?
自律神経とは、呼吸・心拍・体温・消化など、私たちの意思とは関係なく生命活動を自動で調整している神経のことです。交感神経と副交感神経の2つで構成され、心身のコンディションを整える役割を担っています。(※1)
ここでは、自律神経を構成する「交感神経と副交感神経」や、自律神経が乱れることで生じる「自律神経失調症と呼ばれる症状」を解説します。
交感神経と副交感神経
自律神経は、正反対の働きを持つ「交感神経」と「副交感神経」の2つの神経で成り立っています。(※2)
交感神経はスポーツなどで何かに集中しているときや緊張・ストレスを感じる場面で活発になり、副交感神経は就寝時や食後などのリラックスしているときに優位になる神経です。両者のバランスを取ることで、私たちの心と身体は常にバランスの取れた状態に保たれています。
交感神経と副交感神経がそれぞれ優位になるときの状態を、以下の表にまとめました。
| 交感神経が優位なとき | 副交感神経が優位なとき | |
|---|---|---|
| 働く場面 | 昼間、活動中、緊張、ストレス | 夜、休息、リラックス |
| 心臓 | ドキドキと拍動が速くなる | ゆっくりと穏やかになる |
| 呼吸 | 速く、浅くなる | 深く、ゆっくりになる |
| 血管 | 収縮して血圧が上がる | ゆるんで血圧が下がる |
| 胃腸 | 消化活動が抑えられる | 消化活動が活発になる |
自律神経失調症と主な症状
自律神経失調症とは、特定の病気の名前ではありません。生活習慣の乱れなどで、交感神経と副交感神経のバランス調整がうまくいかなくなり、心や身体にさまざまな不調が現れている状態を指します。
自律神経失調症の主な症状は、以下のとおりです。
| 症状の区分 | 詳細な症状 |
|---|---|
| 身体的な症状 |
|
| 精神的な症状 |
|
ただし、自律神経失調症の症状は、人によって千差万別です。複数の不調が同時に現れたり、日や時間帯、天候などによって症状が変わったりすることも珍しくないでしょう。
自律神経が乱れる原因
自律神経の乱れは、一つの原因で起こるわけではありません。日々の生活のなかに隠れているいくつかの要因が組み合わさることで、心や身体の不調として現れることがほとんどです。
自律神経が乱れる主な原因は以下の3つです。
①精神的・身体的ストレス
②不規則な生活習慣
③ホルモンバランスの乱れ
①精神的・身体的ストレス
自律神経失調症の原因の一つが精神的・身体的ストレスです。
私たちの体は、ストレスを感じると交感神経を活発にし、副交感神経を抑えることで心身を興奮させます。交感神経が優位になることで、血管が収縮し、心拍数が高まります。
交感神経が優位な状態(過緊張)が続くと、心身が消耗し、頭痛や動悸、便秘などの不調が起きる可能性があります。仕事のプレッシャーや過労、職場の人間関係などで慢性的にストレスがかかる環境にいる方は、自律神経のバランスをさらに崩す可能性があるので注意が必要です。
②不規則な生活習慣
不規則な生活習慣も、自律神経を乱す原因の一つです。
私たちの身体には、約24時間周期で心身のリズムを刻む体内時計が備わっています。自律神経は体内時計のリズムに合わせ、日中は交感神経が優位になって活動的に、夜は副交感神経が優位になって身体を休めるよう切り替えています。
しかし、夜更かしや休日の寝だめ、不規則な食事時間などの生活習慣を続けると、体内時計のリズムを狂わせがちです。結果として、自律神経の働きが低下し、「夜になっても眠れない」「朝、身体が重くて起き上がれない」などの不調につながります。
自律神経を乱さないよう、毎朝決まった時間にカーテンを開けて光を取り込む、夜寝るときは暗くするなど、体内時計のリズムを乱さない生活習慣を心がけましょう。
③ホルモンバランスの乱れ
自律神経とホルモン分泌は、どちらも脳によってコントロールされています。両者は密接に関係し合っているため、ホルモンのバランスが崩れると、自律神経の働きも乱れやすくなりがちです。
特に女性は、月経や妊娠・出産、更年期などのライフステージによって、女性ホルモンの分泌量が大きく揺らぎます。更年期にみられる急なほてりやのぼせ、動悸、イライラなどの症状は、女性ホルモンの減少に伴って自律神経が乱れることで生じるもので、更年期障害といわれる状態です。
ホルモンバランスの乱れは、女性だけの問題ではありません。男性も加齢にともなってホルモンバランスは変化します。(※4)性別に関わらず、ホルモンバランスの乱れは誰にでも自律神経の不調を引き起こす可能性があります。
自律神経の整え方
自律神経のバランスは、薬だけに頼って整えるものではありません。毎日の生活のなかに、バランスを整えていくためのヒントが隠されています。
主な自律神経の整え方は、以下のとおりです。
- 生活リズムを整える
- 食生活を改善する
- 適度な運動習慣をつける
- 意識的に休息時間をつくる
生活リズムを整える
自律神経の乱れを改善する方法の一つが、生活リズムを整えることです。
自律神経は、体内時計のリズムに沿って働いています。自律神経が乱れている場合は、体内時計のリズムが狂っている可能性があるので、まずは規則正しい生活リズムに整えましょう。
毎朝の起床時間は、休日と平日で変えないことが理想です。朝決まった時間に起きて太陽の光を浴びることで、乱れた体内時計のリセットが期待できます。太陽光の刺激は、心の安定に関わるセロトニンの分泌を促し、夜の自然な眠りにつなげられる可能性があります。
就寝前の1〜2時間は、スマートフォンやパソコンの画面を見ないようにしましょう。画面から出るブルーライトは、睡眠を促すメラトニンの分泌を抑制し入眠を妨げるといわれています。(※5)照明を少し落とし、穏やかな音楽を聴くなど、脳がリラックスできる環境づくりが大切です。
食生活を改善する
毎日の食事が、自律神経の安定に直接つながっています。規則正しい食事のリズムは、内臓の働きを整え、自律神経のバランスを支えられる可能性があります。
自律神経失調症の方は、以下のような食生活を心がけましょう。
| 改善すべき食生活のポイント | 詳細な内容 |
|---|---|
| 1日3食、時間を決めて食べる | 朝食を抜いたり、夜間に食事を摂ったりする習慣を避け、バナナ1本やヨーグルトだけでも口にする |
| 腸内環境を整える食品を食べる | 善玉菌を増やす発酵食品(ヨーグルト、味噌など)や、そのエサとなる食物繊維(野菜、きのこ類)を積極的に摂る |
| 摂取する栄養素を意識する | 神経の働きを助けるビタミンB群(豚肉、玄米など)、セロトニンの材料となるトリプトファン(バナナ、乳製品、大豆製品など)を摂る |
適度な運動習慣をつける
適度な運動は気分転換になるだけでなく、乱れた自律神経のバランスを整えることが期待できます。血行が良くなることで身体の緊張がほぐれ、運動による適度な疲れは質の高い睡眠へと導いてくれます。
まずは1日20〜30分のウォーキングから、少し汗ばむくらいのペースで景色を楽しみながら歩いてみましょう。通勤時に一駅手前で降りて歩くだけでも、立派な運動習慣です。
寝る前のストレッチやヨガで心身の緊張をゆるめることもおすすめです。ゆっくりとした動きで筋肉を伸ばし、深い呼吸を意識することは副交感神経を優位にします。
ただし、激しい運動は交感神経を過剰に刺激し、かえって体調を悪化させる可能性があるため、無理せず適度な運動を継続することが大切です。
意識的に休息時間をつくる
現代を生きる私たちは、意識しないと常に心と身体が緊張し、交感神経が優位になりがちです。そのため、何もしない時間を意図的につくることが重要になります。
副交感神経が働けるよう、38〜40℃のぬるめのお湯に半身浴をしてみましょう。ただし、熱すぎるお湯は逆に交感神経を刺激してしまうため注意が必要です。
不安や緊張を感じたら、その場でできる腹式呼吸を試してみることがおすすめです。鼻からゆっくり息を吸い、お腹をへこませながら、倍くらいの時間をかけて口から細く長く吐き出すのがコツです。
好きな音楽に耳を傾ける、アロマオイルの香りを嗅ぐ、肌触りの良いブランケットにくるまるなどで休息を取るのも良いでしょう。自分だけのくつろぎ方を見つけることが、上手な休息への近道です。
医療機関での自律神経失調症の治療法
セルフケアを試してみても、なかなか良くならないときは、一人で抱え込まず医療機関に相談してください。ここでは、受診の目安や医療機関で行われる「薬物療法」「精神療法」を紹介します。
セルフチェックリストと受診の目安
自律神経が乱れているか確認するためのセルフチェックリストは、以下のとおりです。
3項目以上が当てはまったり、症状が2週間以上続いていたりしている場合は、一度専門家へ相談することをおすすめします。日常生活に支障が出るほど症状がつらい方は、かかりつけ医から心療内科や精神科を紹介してもらうのも良いでしょう。
薬物療法
自律神経の不調に対する薬物療法は、つらい症状を一時的に改善することが目的です。自律神経そのもののバランスを直接治療する特効薬はなく、あくまで個々の症状を和らげる対症療法が中心です。
薬物療法では、以下のような薬が使用されます。
- 不安や緊張が強い場合:抗不安薬
- 気分の落ち込みが続く場合:抗うつ薬
- 眠りの問題が深刻な場合:睡眠導入剤
- めまい、頭痛、胃腸の不調などが強い場合:それぞれの症状を抑える薬
これらの薬は、医師が患者さん一人ひとりの状態を丁寧に見極め、慎重に処方されます。体質改善を目的に、漢方薬が用いられることも少なくありません。
薬の効果を引き出し、望ましくない作用を抑えるためには、主治医との協力が不可欠です。ご自身の判断で薬の量を変えたり中断したりせず、気になることは心療内科や精神科の専門医に相談してください。
精神療法(心理社会的介入を含む)
薬によってつらい症状がやわらいだあと、再発の予防を目的に行われるのが、カウンセリングなどの精神療法(心理社会的介入を含む)です。薬が症状を抑えるアプローチであるのに対し、精神療法は不調の根本にあるストレスとの向き合い方を見直していきます。
代表的な精神療法が認知行動療法(CBT)です。認知行動療法は、ストレスを感じたときに無意識に陥りがちな考え方のクセや行動パターンに焦点を当て、改善を目指す治療法です。うつ病の研究では、認知行動療法が症状の改善に有効であることが示唆されています。(※3)
ただし、精神療法は、すぐに効果が出るものではありません。継続して取り組むことで、ストレスに振り回されない、しなやかな心と身体を育んでいける可能性があります。
まとめ
原因不明の不調の正体は、日々のストレスや生活習慣の乱れによって、自律神経のバランスが崩れているサインかもしれません。
まずは、朝決まった時間に太陽の光を浴びる、寝る前に深呼吸するなど、ご自身のペースでできることから試してみてください。完璧を目指さず、心地良いと感じる習慣を一つ見つけることが、回復への大切な一歩となります。
セルフケアを続けてもつらい症状が改善しないときは、一人で抱え込んではいけません。心療内科や精神科などの専門医へ相談することが、不調の原因を探り、回復へ近づけるための一歩です。
参考文献
- 厚生労働省 こころの耳:「自律神経失調症」
- 厚生労働省 医政局資料:「自律神経」
- Frank Euteneuer, Marie Neubert, Stefan Salzmann, Susanne Fischer, Ulrike Ehlert, Winfried Rief.Biomarkers as predictors of CBT responsiveness in major depressive disorder: The role of heart rate variability and inflammation.Journal of Psychosomatic Research,2024,186,p.111885.
- 一般社団法人 日本内分泌学会:「男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)」
- 厚生労働省:「健康づくりのための睡眠ガイド2023」P23
