健康のために受けたはずの脳ドックで、「思ったより費用が高かった」「異常が見つかって不安になった」と後悔する人は少なくありません。
脳の病気は自覚症状が出にくく、早期発見のために脳ドックは有効な手段です。(※1)しかし、内容や目的を正しく理解しないまま受けると、期待とのギャップから不安を感じてしまうことがあります。
この記事では、脳ドックで後悔する理由と、受けない方がいい人・受けた方がいい人の違いを医師の視点から解説します。検査の必要性を冷静に見極め、自分に合った判断ができるようになることで、安心して健康を守る選択ができるはずです。
目次
脳ドックでよくある3つの後悔とその理由
脳ドックでよくある後悔は以下の3つです。
- ①費用が高額
- ②検査時間が長い
- ③異常が見つかった
①費用が高額
脳ドックは、病気の治療ではなく予防医療と位置づけられています。そのため、健康保険が適用されず、費用は全額自己負担の「自由診療」となります。
費用は医療機関の設備や検査内容によって幅がありますが、一般的には30,000〜100,000円程度が目安です。内訳としては、検査費用や読影費用、結果説明費用などがあります。
自由診療のため高額ですが、オプションをつけなければお手頃な価格で受けられるケースもあります。詳しくは、脳ドックを提供している医院に問い合わせてみましょう。
②検査時間が長い
脳ドックは、一般的な健康診断と比べて検査に時間がかかる傾向です。受付から会計まで、基本的なプランでも3~4時間程度を見込んでおく必要があります。
検査の中心となる頭部MRIや頭部MRAは、それだけで30分〜1時間ほどかかります。検査の苦痛や受付、待ち時間が加わるため、想像以上に拘束時間が長くなることが多いです。
受診する際は、事前に医療機関へ所要時間を確認し、当日は余裕を持ったスケジュールを組むことをおすすめします。
③異常が見つかった際の精神的負担
脳ドックでの後悔の一つが、異常が見つかったときの精神的な不安です。検査の精度が高いため、治療を必要としない小さな異常でも指摘されることがあります。その結果、「病気ではないのか」「今後どうすればいいのか」と不安を抱く方が少なくありません。
代表的な例として次のような異常が挙げられます。
- 未破裂脳動脈瘤(脳の血管にできた小さなこぶ)
- 小さな脳梗塞の跡(隠れ脳梗塞)
- 加齢による脳白質病変
未破裂脳動脈瘤は、破裂すると命に関わるくも膜下出血を起こす可能性があります。(※2)しかし、多くは小さく破裂の危険が低いため、経過観察となるケースがほとんどです。
こうした所見は将来のリスクを示すサインでもあり、生活習慣を見直すきっかけになります。信頼できる医師と相談しながら、冷静に対応を考えることが心の負担を減らす鍵です。
脳ドックとは?検査でわかること
脳ドックとは、脳や血管の異常を症状が出る前に見つけるための検査です。脳梗塞やくも膜下出血などの重大な病気の危険性がないか、発症リスクを早期に発見し、予防につなげることを目的としています。
ここでは、脳ドックの主な検査内容やメリット・デメリット、健康診断との違いを解説します。
主な検査内容
脳ドックで中心となるのはMRIとMRAによる画像検査で、必要に応じて血管や認知機能を評価する検査を組み合わせます。以下に主な検査項目と、それぞれでわかることをまとめています。
| 検査項目 | わかること |
|---|---|
| 頭部MRI検査 | ・脳の形や構造を調べる ・脳梗塞、脳萎縮、脳腫瘍を発見できる ・放射線を使わない(被曝なし) |
| 頭部MRA検査 | ・脳の血管を立体的に描き出す ・未破裂脳動脈瘤、脳血管の狭窄や閉塞、血管の奇形を発見できる |
| 頸動脈エコー検査 | ・首の太い血管の詰まり具合を調べる ・動脈硬化の進行度を評価できる |
| 認知機能検査 | ・記憶力や判断力を客観的に評価する ・認知症の兆候を早期に発見できる |
脳ドックのメリット・デメリット
脳ドックには、脳の健康状態を詳しく把握できるメリットと、いくつかの注意点があります。受けることで得られる主なメリットは次のとおりです。
- 病気の早期発見と予防につながる
- 脳卒中など将来のリスクを評価できる
- 検査結果によって安心感を得られる
脳や血管の異常を早期に見つけることで、生活習慣の見直しや治療方針を立てやすくなります。以下のようなデメリットも理解しておくことが大切です。
- 費用が全額自己負担となる
- 小さな異常が見つかり不安を感じることがある
- MRI検査で体への負担や閉所の不快感を伴う場合がある
脳ドックは、体の状態を知る機会ですが、結果の受け止め方や費用面での心構えも必要です。メリットと注意点の両方を理解したうえで、自分に合ったタイミングで受けることが大切です。
健康診断との違い
健康診断と脳ドックは、どちらも病気の早期発見を目的としていますが、検査の範囲と目的が大きく異なります。
両者の違いを以下の表にまとめています。
| 項目 | 一般的な健康診断 | 脳ドック |
|---|---|---|
| 目的 | ・全身の健康状態を幅広くチェック ・高血圧や糖尿病などの生活習慣病を早期に発見する |
・脳と脳血管の状態に特化している ・脳卒中や脳腫瘍などの病気のリスクを早期に発見、予防する |
| 主な検査内容 | 問診、身体測定、血圧測定、血液検査、尿検査、胸部X線検査など | 頭部MRI検査、頭部MRA検査、頸動脈エコー検査など |
| わかること | 脳卒中の「間接的」なリスク因子を評価する | ・脳の血管の状態を画像で「直接的に」確認する ・脳卒中のリスクをより具体的に評価する |
| 費用 | 企業の福利厚生や自治体の補助、健康保険組合の負担がある場合が多い | 原則として全額自己負担(自由診療) |
健康診断は全身の状態を幅広く確認するのに対し、脳ドックは脳と脳血管に特化してリスクを詳しく調べる検査です。
後悔しないために確認しておくべきポイント
「受けなければよかった」と後悔する人の多くは、事前の情報収集や心の準備が不十分だったケースがほとんどです。
後悔しないために確認しておきたいポイントは以下の2つです。
- ①検査前に費用・時間・検査内容を把握する
- ②検査後の対応・心理的な準備をしておく
①検査前に費用・時間・検査内容を把握する
脳ドックの費用や時間、検査内容は医療機関によって大きく異なるため、予約前の確認が不可欠です。以下のチェックリストを参考に、納得できる医療機関を選びましょう。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 費用 | ・自由診療のため、費用は全額自己負担 ・総額の把握が必要 |
| 時間 | ・受付から会計まで、1〜2時間程度の所要時間が一般的 ・当日は余裕を持ったスケジュールを組む |
| 検査内容 | ・「頭部MRI」「頭部MRA」が含まれているか ・検査内容は自身の健康リスクに合わせて選択する |
自身の年齢や健康状態、知りたいことに合わせて、最適な検査内容を提供してくれる医療機関を選ぶことが、満足度を高めます。
②検査後の対応・心理的な準備をしておく
検査で異常が見つかる可能性を理解し、見つかった場合でも冷静に受け止める心構えも必要です。そのうえで、結果説明を専門医がわかりやすく行ってくれるか、質問に丁寧に答えてくれるかを事前に確認しておきましょう。
異常が見つかった際に精密検査や治療までスムーズに連携してもらえるか、検査後のサポート体制を確かめておくことも重要です。検査だけで終わらず、その後のフォローまで任せられる医療機関を選ぶことで、万が一の際も落ち着いて対応できます。
脳ドックを受けた方がいい人
脳ドックを受けた方がいい人は以下に該当する人です。
- 40歳以上
- 生活習慣病がある
- 脳卒中の家族歴がある
- 原因不明の頭痛、めまい、しびれがある
- 喫煙、多量飲酒の習慣がある
これらに1つでも当てはまる方は、脳ドックの受診を検討してみてください。
40歳以上
40歳を過ぎたら、脳ドックを検討することが重要です。脳卒中の発症リスクは40歳頃から上昇し始め、50代以降で急激に高まる傾向があります(※3)
これは、長年の生活習慣によって血管に負担がかかり、少しずつ動脈硬化が進行するためです。若い頃の血管は柔軟ですが、年齢とともに弾力を失い、詰まりやすくなります。
40〜50代は、家庭や仕事で責任を担う年代でもあり、脳卒中を発症すると、家族や職場にも大きな影響を及ぼします。次のような変化を感じる方は、脳ドックを受けておくと安心です。
- 健康診断で血圧やコレステロールの数値が高くなってきた
- 以前より疲れやすくなった、あるいは回復しにくくなったと感じる
- 家族や親族に脳の病気を経験した人がいる
- 自身の脳の健康状態を客観的に知りたい
症状がないうちに自身の脳の状態を確認しておくことは、未来への投資です。もし異常が見つかっても、生活を見直すきっかけにできます。
生活習慣病がある
高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある人は、脳ドックを受けて脳の血管状態を確認することが重要です。これらの病気はいずれも血管に負担をかけ、脳卒中の発症リスクを高めます。
それぞれの病気が血管に及ぼす影響は次のとおりです。
- 高血圧:血管に強い圧力がかかり続け、硬くもろくなる
- 糖尿病:高血糖によって血管が傷つき、詰まりやすくなる
- 脂質異常症:血液中の脂が血管壁に溜まり、血流を妨げる
こうした変化は自覚症状がないまま進行するため、気づかないうちに血管が損傷していることもあります。たとえ薬で数値をコントロールしていても、長年の負担によるダメージは残ります。
脳ドックで血管の状態を可視化することで、将来の脳卒中リスクを早期に把握し、生活習慣や治療の見直しにつなげることができます。
脳卒中の家族歴がある
血縁の近い家族に脳卒中を発症した人がいる場合、自身の発症リスクも一般の方より高くなる可能性があります。これには、主に2つの理由が考えられます。
1つは遺伝的な体質で、血圧が上がりやすい、血管が弱いといった特徴が家族内で受け継がれることがあります。くも膜下出血の主な原因となる「脳動脈瘤」は、家族内で発症しやすいことが複数の研究で指摘されています。(※4)
もう1つの理由は、生活習慣が似ている点です。同じ家庭で暮らすことで、食事や運動の習慣、喫煙や飲酒の傾向が似てくるため、家族全体でリスクが高まりやすくなります。
必ずしも発症するわけではありませんが、リスクを意識し、早めに脳ドックなどで現状を確認しておくことが将来の安心につながるでしょう。
原因不明の頭痛・めまい・しびれがある
原因不明の頭痛やめまい、しびれがある場合は、脳ドックの受診を検討しましょう。これらの症状は多くの人が経験しますが、なかには脳の異常が関係しているケースもあります。慢性的に続く、またはこれまでにない症状を感じるときは、早めの受診が大切です。
次のような症状が現れた場合は、脳卒中などの危険な兆候の可能性があり、脳ドックを待たずにすぐ救急車を呼んでください。
- バットで殴られたような突然の激しい頭痛
- 片方の手足や顔に力が入らない、感覚が鈍い、しびれる
- ろれつが回らず、言葉がうまく出てこない
- 片方の目が見えにくい、物が二重に見えたり視野が狭くなったりする
- 立っていられないほどの激しいめまい
これらの症状は脳の病気が隠れている場合があり危険です。(※5)ためらわず、すぐに救急要請を行うことが命を守る行動です。
喫煙・多量飲酒の習慣がある
喫煙と多量の飲酒は、脳の血管にダメージを与え、脳卒中のリスクを高めることが明らかになっています。(※6)これらの生活習慣がある人は、たとえ自覚症状がなくても、一度は脳ドックで自身の血管の状態を確認することが推奨されます。
喫煙と多量飲酒の影響を以下の表にまとめています。
| 項目 | 影響 |
|---|---|
| 喫煙 | ・ニコチンは血管を強く収縮させて血圧を上昇させる ・一酸化炭素は血液の酸素運搬能力を低下させ、脳を酸欠状態にする ・多くの有害物質が血管を傷つけ、動脈硬化を強力に進行させる |
| 多量飲酒 | ・長期間の多量飲酒は、高血圧や不整脈の原因となる ・「心房細動」という不整脈になる可能性がある |
喫煙は、脳卒中を引き起こすための悪条件をすべて満たしています。心房細動が起こると、心臓の中に血の塊ができやすくなります。これが脳の太い血管を詰まらせてしまうと、重い後遺症を残すタイプの脳梗塞につながります。
脳ドックを避けた方がいい人
脳ドックを避けた方がいい人は、以下のような人です。
- 過度に心配しやすい人
- 狭い空間が苦手な人(閉所恐怖症)
- 検査を受けられない医療上の制限がある人
過度に心配しやすい人
心配しやすい性格の人は、脳ドックを受ける前に慎重に検討することが大切です。脳ドックは検査の精度が高いため、実際には問題のないほどの小さな異常が見つかることがあります。
その結果、「病気なのでは」と不安を抱き、強いストレスを感じてしまうケースも少なくありません。見つかることが多いのは、次のような変化です。
- 加齢に伴う軽度な脳の変化
- 生まれつきの血管の形の違い(正常範囲内)
- 自覚症状のない小さな脳梗塞の跡
年齢や体質による自然な変化であることがほとんどですが、結果に「所見あり」と書かれるだけで不安を感じる方もいます。結果に疑問や不安を感じたときは、信頼できる医師に相談し、冷静に判断しましょう。
狭い空間が苦手な人(閉所恐怖症)
脳ドックで行うMRI検査は、筒状の装置の中に入って行うため、狭い空間が苦手な人には負担が大きい場合があります。
検査中は大きな機械音が続き、長時間じっとしている必要があるため、閉所恐怖症の人は、強い不安やパニックを感じることがあります。不安がある場合は、予約時に医療機関へ伝えましょう。
施設によっては、前面や側面が開放された「オープン型MRI」や、軽い鎮静剤を用いて不安を和らげる方法を選べる場合があります。オープン型MRIは圧迫感が少なくリラックスしやすい反面、画像の鮮明さがやや劣ることがあります。
鎮静剤を使用する場合は、検査後に眠気が残るため車の運転はできません。対応可能かどうかは医療機関で異なるため、安心して受けられる環境を整えるためにも、事前に相談することが大切です。
検査を受けられない医療上の制限がある人
MRI検査は強い磁力を使うため、体内に金属や電子機器がある場合は安全上の制限があります。
以下に当てはまる場合は、MRI検査を受けられない、または特別な対応が必要になることがあります。予約前に医療機関へ相談し、安全に検査を受けられるか確認してください。
| 確認項目 | 詳細・注意点 |
|---|---|
| 体内埋め込み型電子機器がある | ・心臓ペースメーカー、植込み型除細動器(ICD)、人工内耳、神経刺激装置など ・「ペースメーカー手帳」で自身の機器がMRI対応可能か確認する |
| 体内に古い金属製医療器具がある | ・古いタイプの脳動脈瘤クリップや人工心臓弁など ・磁気に反応する金属が使われている場合がある |
| その他のMRI注意対象 | ・刺青やアートメイクはやけどのリスクがある ・湿布薬には一部の製品に金属成分が含まれている ・カラーコンタクトレンズは製品によっては酸化鉄が含まれている |
これらの条件に心当たりがある方は、「大丈夫だろう」と自己判断せず、事前に医療機関へ相談してください。
まとめ
脳ドックは、自覚症状のない段階で脳の異常を確認できる検査です。しかし、費用や時間、検査後の精神的な負担などの側面も理解しておくことが大切です。
40歳以上の方や生活習慣病があるなど、リスクに心当たりのある方は、自身の脳の状態を知ることが将来の安心につながります。過度に心配性な方や検査に制限がある方は、受診が負担になる場合もあります。
大切なのは、自身の状況と向き合い、納得して検査に臨むことです。迷うことがあれば、まずはかかりつけ医などの専門家に相談してみてください。
参考文献
- Kondo H, Ikawa F, Hara T, Kuwabara M, Ishii D, Tomimoto H, Horie N. Questionnaire Survey on the Current Use of Brain Docks and Their Compliance with Guidelines in Japan. Neurol Med Chir (Tokyo),2025,65,4,p.203-210.
- Yoshiura T, Takeuchi S, Toyooka T, Tomiyama A, Wada K, Nakao Y, Yamamoto T, Mori K. Effectiveness of Keyhole Clipping of Unruptured Intracranial Aneurysms Detected by “Brain Dock” in Healthy Japanese Adults. Neurol Med Chir (Tokyo),2024,64,1,p.28-35.
- 厚生労働省:「脳卒中に関する留意事項」
- Maegawa T., Akagawa H., Onda H., Kasuya H. Whole-exome sequencing in a Japanese multiplex family identifies new susceptibility genes for intracranial aneurysms PLoS One, 2022, 17(3), p.e0265359
- 公益社団法人日本脳卒中協会:「脳卒中の主な症状」
- 公益社団法人日本脳卒中協会:「脳卒中予防十か条2025」
