最終医学的確認日:2026年6月
「手が震えて字をうまく書けない」「コップの水をこぼしてしまう」「お箸を持てない」といった悩みを抱えながらも、何の手も打てないまま過ごしていませんか。手が震える原因として最も多いのは、「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」という病気です。10人に1人ともいわれ、薬や外科治療によって症状の軽減が期待できます。本記事では、中部国際医療センター機能神経外科部長の中坪大輔医師の監修のもと、本態性振戦の原因・症状・治療法から、受診すべき診療科まで詳しく解説します。
この記事でわかること👇
- 手の震えは「年のせい」ではなく、病気が原因のものがあること
- 10人に1人以上が経験するとされる本態性振戦の特徴とパーキンソン病との見分け方
- 薬物療法と近年導入された外科治療「MRガイド下集束超音波治療(FUS)」の選択肢
- 受診すべき診療科
- 外科治療を考えるべきタイミング
目次
手が震えるとは? 動作時振戦・安静時振戦、生理的振戦の違い
手の震えは、医学的には「振戦」と呼びます。何らかの病気や状態が原因で起こる震えを「病的振戦」と呼びます。病的振戦は、震えるタイミングによっていくつかに分類され、中でも主なものが「動作時振戦」と「安静時振戦」です。これに対し、寒さや緊張など、だれにでも起こる一時的な震えを「生理的振戦」といい、病気ではありません。まず自分の震えがどのタイプに近いかを把握しておくと、受診時に医師へ伝えやすくなります。
以下の表で自分がどのタイプに近いかの参考にしてみてください。ただし、確定診断は必ず専門医にご相談ください。
| 震えのタイプ | 震える場面 | 代表的な原因 | 受診の目安 |
|---|---|---|---|
| 動作時振戦 | 字を書く・コップを持つなど動作中に震える | 本態性振戦(最多) | 字が書きづらいなどの支障が出たら受診 |
| 安静時振戦 | じっとしているときなどに震える | パーキンソン病 | 緊急性はないものの、正しい診断が必要なので専門医を受診 |
| 生理的振戦 | 緊張・疲労・カフェイン摂取・寒さで一時的に震える | 生理的反応(病気ではない) | 繰り返す場合は念のため受診 |
安静時振戦の代表的な原因については、次のセクションの比較表をご覧ください。
- 動作時振戦:字を書く・コップを持つと震える
動作時振戦は、何か動作をするときに手が震えるタイプです。「字を書こうとすると手が震える」「コップを持つと手が震えて中身がこぼれる」「お箸が上手に使えない」といった症状が特徴です。このタイプで最も多い原因が、後述する本態性振戦です。安静にしていれば震えない点が大きな特徴です。
- 安静時振戦:じっとしているときに手が震える
安静時振戦は、椅子に座って手を膝の上に置いているときなど、何もしていないときに手が震えるタイプです。手足が小刻みに震え、動こうとすると震えが止まることも特徴です。安静時振戦が見られる場合は、後述する神経疾患の可能性もあるため、専門医への相談をお勧めします。
- 生理的振戦(だれにでも起こる振戦):緊張・カフェイン・寒さによる一時的な震え
生理的振戦は、病気によるものではなく、だれにでも起こりうる一時的な震えです。強い緊張を感じたとき、カフェインを多く摂取したとき、寒い場所にいるときなどに現れます。交感神経の働きが活性化することで起こる正常な体の反応で、体質や性格などによる個人差も大きいです。繰り返し震えが起こる場合は、本態性振戦などの病気が潜んでいる可能性があるため、受診を検討してください。
手が震える主な原因・考えられる病気
手が震える原因はさまざまありますが、最も多いのが本態性振戦です。次いで多いのが、安静時振戦が特徴のパーキンソン病による震えです。それ以外に、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)や薬の副作用などが原因となることもあります。
本態性振戦:10人に1人が発症する最多の「震えの原因」
本態性振戦は、手が震える原因として最も頻度の高い病気です。発症の割合は統計によってばらつきがあるものの、一般に人口の2.5~10%、40歳以上では約4%、65歳以上では5~14%ともいわれており、軽い症状の方も含め、10人に1人程度とされています(※1)。一方、「震えの原因」として2番目に多いパーキンソン病の有病率は0.1〜0.18%(※2)とされています。
「本態性」とは「他の疾患によるものではない」という意味で、所見や画像により鑑別診断することが必要です。脳内で手足の動きをコントロールする神経回路、とくに小脳とその周辺のネットワークに異常があることが関与していると考えられています。家族に本態性振戦の方がいる場合は発症しやすい傾向があります。
※1 Bhatia et al. Tremor and Other Hyperkinetic Movements (2021) / Benito-León et al. Movement Disorders (2003) / 厚生労働科学研究費補助金 神経変性疾患領域 基盤的調査研究班(2018) / 日本神経治療学会 標準的神経治療:本態性振戦
※2 パーキンソン病(指定難病6)難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/169
パーキンソン病との見分け方(比較表)
本態性振戦と間違われやすいのが、パーキンソン病です。ただし、震えの出方やほかの症状の有無が本態性振戦と異なるものがあります。特にふるえ以外の症状(歩きにくさ・筋肉のこわばり等)がある場合は、専門医への早めの相談をお勧めします。以下の比較表をご参照ください。
| 比較項目 | 本態性振戦 | パーキンソン病 |
|---|---|---|
| 震えるタイミング | 動作時(字を書く・コップを持つ等) | 安静時(じっとしているとき) |
| 震えの出方 | 最初は片手であっても、反対側や頭が震えるようになる | 片側の手や足から始まり、顎も震えることがある |
| 姿勢・ほかの症状 | 震えのみ | 筋肉のこわばり・動作緩慢・歩きにくさ |
| 進行 | ゆっくり進行 | 進行性・継続的な治療が必要 |
| 有病率 | 10人に1人(65歳以上の5~14%) | 1,000人に1~2人 |
ただし、パーキンソン病の中には「振戦優位型」といってふるえ以外の症状が乏しいタイプもあり、鑑別が難しいケースがあります。症状がなかなか改善しない場合は、より専門的な施設へのセカンドオピニオンも選択肢の一つです。
甲状腺機能亢進症・薬の副作用など他の原因
本態性振戦以外にも、手が震える原因はいくつかあります。甲状腺機能亢進症は女性に比較的多く見られる病気で、甲状腺ホルモンの過剰分泌によって手の震えが起こることがあります。また、一部の薬(抗精神病薬・気管支拡張薬・抗うつ薬など)の副作用として震えが現れる「薬剤性振戦」のほか、脳卒中の後遺症、アルコール依存症が原因となるケースも知られています。
本態性振戦の症状と日常生活への影響

本態性振戦は、進行するにつれて日常生活のさまざまな場面に影響を及ぼします。震えが軽度のうちはわずかに手が揺れる程度ですが、次第に生活の質(QOL)が著しく低下することもあります。
字が書けない・コップが持ちにくい、日常の困りごと
本態性振戦の困りごとは、文字を書く・食事をするといった手先を使う場面に幅広く現れます。洋服のボタンを留められない、印鑑をうまく押せないなど、細かな手作業がしづらくなる方も少なくありません。症状が進行すると、麺類を箸でつまめなくなる、スプーンを使ってもこぼしてしまうなど、食事をとること自体が困難になる方もいます。
影響は社会生活にも及びます。 会議での署名、職場でのPC操作、外食の場での食事など、人前で震えを意識するたびに心理的な負担が増し、外出を避けるようになるケースもあります。
高齢者に多い?年齢と発症率
本態性振戦は若い世代にも発症しますが、実際に受診される方の多くは高齢者です。65歳以上では有病率が5~14%とも報告されており、加齢とともに症状の進行が早くなり、重症化しやすいという報告もあります。「年のせいだから仕方ない」と考えてしまう方もいますが、本態性振戦は、治療によって震えそのものを和らげていける病気です。 「年のせい」と決めつける前に、一度専門医を受診されることをお勧めします。
一方、若い世代では精神科を先に受診するなど、診断が遅れるケースもあります。緊張により、ふるえが悪化することから心因性と誤解されやすいですが、本態性振戦は心の病気ではありません。
放置するとどうなる?進行のリスクと早期受診の重要性
本態性振戦はゆっくりと進行する病気です。命に直接関わるものではありませんが、時間の経過とともに震えの幅が大きくなり、最初は片手だけだったものが両手へと広がり、頭部や下肢にも震えが現れる方もいます。精神的なストレス、疲労、カフェインの過剰摂取、感情の高ぶりなどは、震えを強める要因になります。
1人で悩みを抱えていると、そのストレスから症状の悪化につながりかねません。本態性振戦に詳しい医師では、薬をはじめとした治療に加え、日常生活で生じる困りごとに対する工夫を具体的にアドバイスしてくれるケースもあります。仕事も趣味もできなくなってから来院するのではなく、支障が出始めた段階で相談することがお勧めです。
本態性振戦の治療法|薬物療法から「頭蓋骨に穴を開けない手術FUS」 まで
本態性振戦の治療は、まず薬物療法から始め、効果が不十分な場合に外科治療を検討します。近年は、頭蓋骨(ずがいこつ)に穴を開けない「MRガイド下集束超音波治療(FUS)」が2019年に保険適用となり、治療の選択肢が広がっています。
まず試みる薬物療法(β遮断薬・抗てんかん薬)
まず試みる薬物療法では、β遮断薬が最もよく使われます。高血圧や狭心症の治療にも用いられる薬で、交感神経の高ぶりを抑え、手の筋肉への過剰な刺激を和らげることで手の震えを和らげる効果があります。心臓や呼吸器に持病がある方には使えない場合もあります。β遮断薬で十分な効果が得られない場合は、抗てんかん薬や抗不安薬が処方されることもあります。ただし、効果には個人差があります。薬物療法のみでは効果に限界があるケースもあり、症状の程度に応じて外科治療も視野に入れる必要があります。
| 薬剤 | 分類 | 保険適用 | 主な副作用 |
|---|---|---|---|
| アロチノロール | β遮断薬 | あり | 徐脈・血圧低下・喘息悪化 |
| プロプラノロール | β遮断薬 | なし | 徐脈・血圧低下・倦怠感 |
| プリミドン | 抗てんかん薬 | なし | 眠気・ふらつき・嘔気 |
| クロナゼパム | 抗てんかん薬 | なし | 眠気・倦怠感・依存性 |
薬で十分に抑えられない場合の外科治療(RF・DBS)
薬物療法で日常・社会生活の維持が困難な場合は、外科治療を検討します。保険適用で20年以上実施されている外科治療として、高周波凝固術(RF:Radiofrequency Ablation)と脳深部刺激療法(DBS:Deep Brain Stimulation)があります。
RFは局所麻酔のもと頭蓋骨に小さな穴を開け、脳の深部(視床の一部)に凝固針を挿入し、熱凝固させ、震えの回路を遮断する治療法です。DBSは脳の深部に電極を埋め込み、前胸部に植え込んだ刺激装置から微弱な電気を流して神経活動をコントロールする方法で、刺激の強さを後から外来で調整できる点が特徴です。
FUSのメリット・デメリット
2019年に保険適用となったFUSは、皮膚を切らずに治療できる方法です。MRI画像で位置を確認しながら、頭蓋骨の外から超音波を集中照射し、視床の特定部位を熱で凝固させます。
【FUSのメリット】
- 頭蓋骨に穴を開けないため、出血や感染のリスクを抑えられる
- 入院期間は短く、治療後のMRI検査や運動の制限もない
- 全身状態に不安のある高齢の方でも検討しやすい
- 治療中から効果や副作用を確認することができる(効果の現れ方には個人差がある)
【FUSのデメリット・注意点】
- 頭蓋骨の骨の厚さや密度によって超音波の通りやすさに差があり、CT検査の結果によっては治療を受けられない場合がある
- 治療前に頭髪を全て剃る必要がある
- 合併症として、舌のしびれや、呂律の回りにくさ、下肢の脱力が出ることがある(多くは数週間以内に治まる)
- 日本では現時点で「片側の治療のみ」が保険適用
- 「FUS→RF・DBS」の順序は可能だが、「RF・DBS後にFUS」は行えない
現在、FUSを実施できる施設は全国に限られており、RF・DBS・FUSすべてに対応している施設はさらに少数です。
RF(高周波凝固術) |
DBS(脳深部刺激療法) |
FUS(集束超音波治療) |
|
|---|---|---|---|
| 方法 | 頭に小さな穴を開け、電極を挿入して視床を熱凝固 |
脳に電極、胸部に刺激装置を埋め込み電気刺激 |
頭蓋骨の外から超音波を集中照射して視床を熱凝固 |
| 切開・機器の植え込み | 頭蓋骨に穴を開ける・機器の植え込みなし |
頭蓋骨に穴を開ける・機器の植え込みあり |
頭蓋骨に穴を開けない・機器の植え込みなし |
| 対応側 | 片側ずつ(時間を空けて両側可能な場合あり) |
両側対応可 |
片側ずつ(時間を空けて両側可能な場合あり) |
| 入院期間 | 数日~1週間程度 |
1~2週間程度 |
数日程度 |
| 保険適用 | あり(回数など制限なし) |
あり |
あり(1回のみ保険適用) |
| 主なメリット | 実績が長い・効果が安定 |
両側治療可・後から刺激強度を調整できる |
出血・感染リスクがない・身体への負担が少ない |
| 留意点 |
出血や感染のリスクあり・後からFUSは不可
|
メンテナンスが必要・出血や感染のリスクあり
|
骨の条件によっては不適応・頭髪を剃ることが必要
|
| こんな方に | FUSが不適応の方 |
両側の震えを治したい方・パーキンソン病で震え以外の症状もある方 |
手術リスクが心配な方・全身状態がよくない高齢者 |
手が震えるときは何科を受診すべきか
手が震える場合は、まず脳神経内科(神経内科)または脳神経外科を受診してください。
基本は脳神経内科・脳神経外科
手の震えの診療科は脳神経内科(神経内科)または脳神経外科です。まずは脳神経内科で診断・薬物療法を受け、外科治療が必要と判断された場合は治療ができる施設へ紹介されるのが一般的な流れです。外科治療(RF・DBS・FUS)は脳神経外科医が専門となります。
「ふるえセンター」のある病院を選ぶメリット
震えに特化した専門チームを持つ「ふるえセンター」がある医療機関では、脳神経内科と脳神経外科が連携して、薬物療法から外科治療まで一貫した相談ができます。かかりつけのクリニック(脳神経内科)での診断・投薬から始め、外科治療が必要となった段階でふるえセンターに紹介してもらうことも可能です。まずは近くの脳神経内科クリニックへの相談から始めてみましょう。
受診前に準備しておくこと
より正確な診断につなげるため、受診前に以下を準備しておくと役立ちます。
- いつから震えが始まったか、どんな場面で震えるかをメモしておく
- 震えている状態をスマートフォンで動画撮影して持参する
- 現在服用中の薬がある場合は、薬の名前・量がわかるものを持参する
- 家族に本態性振戦など手の震えに関連する病気を持つ方がいる場合は医師に伝える
→【関連記事】震えが気になる方は自律神経の乱れもチェックしてみましょう(自律神経とは?乱れる原因・症状と整え方を医師監修で解説 )
よくある質問(FAQ)
- Q. 本態性振戦とはどんな病気ですか?
- A. 手が震える原因の中で最も患者数が多い疾患で、10人に1人ともいわれます。字を書く・コップを持つ・箸を持つなど動作中に震えが起こるのが特徴で、安静時は震えないことが多いです。薬物療法や外科治療(FUSなど)によって、震えを抑える治療が可能です。
- Q. 本態性振戦の震えはどのように特定しますか?
- A. 動作時(字を書く・コップを持つ等)に震えが出て、安静時は落ち着くのが本態性振戦の大きな特徴です。震えのタイプや他の症状の有無によって原因が異なりますので、詳細は本文の比較表をご覧いただき、確定診断は必ず専門医にご相談ください。
- Q. 震えは放置してもいいですか?
- A. 本態性振戦は命に関わる病気ではありませんが、時間の経過とともに症状が進行するケースがほとんどです。「日常生活に支障が出てきた」「仕事や趣味に影響が出ている」と感じたら、早めに受診することをお勧めします。
- Q. FUSはどんな方に向いていますか?
-
A. 薬物療法で症状がコントロールできない方、出血リスクが心配な方、全身状態があまり良くない方でも検討できる治療法です。
ただし骨の条件によっては適応外となる場合があり、治療できるのは片側のみとなります。効果には個人差があります。
- Q. 何科を受診すればいいですか?
- A. まずは脳神経内科(神経内科)または脳神経外科を受診してください。「ふるえセンター」など震えの診療に特化した部門を持つ病院であれば、薬物療法から外科治療まで幅広い選択肢の中から最適な治療を提案してもらえます。
- Q. どういったタイミングで手術を検討すればいいでしょうか?
-
A. たとえば、次のようなケースに該当する場合、手術を検討することをお勧めします。
- 症状はあるが、薬が全然変わらない
- 薬の効きが悪くなってきた
- 仕事や家事に支障が出てきた
- 「これ以上薬を増やせない」と主治医に言われた
まとめ:手が震えたら「本態性振戦」を疑い早めに受診を
手が震える原因として最も多いのは、10人に1人が発症するとされる本態性振戦です。「年のせい」と諦めず、適切な診断と治療につながることが大切です。薬物療法から、頭蓋骨に穴を開けないFUSなどの外科治療まで、症状の程度や体の状態に応じた選択肢があります。「仕事や日常生活に支障が出てきた」と感じたら、脳神経内科・脳神経外科、または専門の「ふるえセンター」への相談をご検討ください。
参考文献