「自分でもコントロールできないほど激しい気分の波がある」「やる気に満ちていた時期が嘘のように、何もできなくなる時期が繰り返す」。こうした感情の揺れは、単なる性格の問題ではなく「双極性障害」という脳の病気が原因かもしれません。
双極性障害は、気分の波によって人間関係や仕事、生活リズムに大きな影響を与えることがあるため、早めの対処が大切な病気です。しかし、うつ病と誤解されやすく、気づかないうちに対処が遅れてしまうことも少なくありません。
この記事では、自分が双極性障害かを客観視できるセルフチェックリストや放置のリスク、日常を取り戻すための治療法を詳しく解説します。
この記事を読んでわかること
- 双極性障害の躁状態・うつ状態それぞれのセルフチェック項目
- 放置した場合に起こりうる4つのリスク(人間関係・仕事・経済・併発疾患)
- 「薬物療法」と「心理・社会的療法」、2つの治療アプローチの違い
- 医療機関を受診すべき具体的なタイミングの目安
双極性障害セルフチェックリスト
自分のこころの状態を客観的に見つめ直すためのチェックリストは以下のものがあります。もちろん、これだけで双極性障害の診断が確定するわけではありません。
あくまで、医師へ相談するべきかを見極める「気づきのきっかけ」としてご活用ください。
双極性障害とは
躁状態とうつ状態が繰り返し現れる脳の病気です。単なる気分のムラとは異なり、本人の意志ではコントロールできない点が特徴です。
躁状態のサイン
双極性障害の躁状態は、気分が異常に高ぶり、エネルギーに満ちあふれる状態です。周りからは「絶好調」に見えることもありますが、本人の判断力は低下しやすくなります。そのため、後になって悔やむような行動をとることも少なくありません。
双極性障害の躁状態のサインは以下のとおりです。
- 睡眠時間がいつもより2時間以上短くても平気で、元気に活動できる
- 「自分は特別な人間だ」という根拠のない自信がわいてくる
- 普段よりおしゃべりになり、人の話を遮って話し続ける
- 次から次へと考えが浮かび、頭の中が渋滞して考えがまとまらなくなる
- 仕事や趣味に次々と手を出すが、どれも集中できず中途半端に終わる
- じっとしていられず、過剰なほど動き回ったり、激しい運動をしたりする
双極性障害にはタイプがあり、躁状態が比較的軽い「軽躁状態」にとどまるケースもあります。「軽躁状態」では、本人も周囲も「少し活動的すぎるだけ」と見過ごしがちです。しかし、判断力の低下から思わぬ問題に発展する可能性があるため注意が必要です。
うつ状態のサイン
双極性障害のうつ状態は一般的に知られる「うつ病」と似た症状が現れます。単なる気分の落ち込みとは異なり、これまで好きだったことさえ楽しめなくなります。日常生活に大きな支障をきたすほど、つらい状態が続くのが特徴です。
双極性障害のうつ状態のサインは以下のとおりです。
- ほとんど一日中、気分が重く沈み込んでいる
- 何を見ても聞いても楽しいと感じられず、興味や喜びが消えてしまう
- 食欲がまったくなくなる、あるいは過食してしまう。
- 夜、寝つけない、何度も目が覚める
- ささいなことでイライラして落ち着かなくなる
- 常に体が鉛のように重く、なにもしていないのにひどく疲れる
- 「自分はダメな人間だ」と強く感じ、何かにつけて自分を責めてしまう
- 体を動かすことさえ億劫になり、気力がまったくわかない
これらの症状によって、仕事や家事、身の回りのことさえ手につかなくなり、日常生活を送ることが困難になります。
躁状態とうつ状態、両方のチェック項目に心当たりがある場合は、特に双極性障害の可能性を念頭に置いて、早めに医療機関へ相談することをおすすめします。
双極性障害を放置するリスク
双極性障害を治療せずに放置すると、制御できない気分の波が人生に深刻な影響を及ぼします。双極性障害を放置する主なリスクは以下の4つです。
①人間関係が悪化する
②仕事や学業で信用を失う
③経済的に困窮する
④他の疾患を併発する
①人間関係が悪化する
双極性障害による激しい気分の波は、家族や友人などの身近な人々との関係に深い亀裂を生じさせます。躁状態では高圧的で攻撃的な言動が増えやすく、親しい人ほど戸惑い、傷ついてしまいます。
一方、うつ状態になると人と会う気力がなくなり、連絡を絶ったり約束を断ったりすることも増えるのが一般的です。こうした態度の変化が「無責任だ」という誤解を生み、人間関係の孤立を招く原因となります。
②仕事や学業で信用を失う
社会生活に不可欠な「信用」も、双極性障害によって大きく損なわれる可能性があります。躁状態ではエネルギッシュに見えますが、注意散漫で計画をやり遂げられないことが多く、周囲を振り回してしまいがちです。
うつ状態に転じると、集中力や思考力の著しい低下を招きます。遅刻や欠勤、簡単なミスの繰り返しは、職場や学校での評価を下げる一因です。その結果、長年築き上げてきた信用を失うことになりかねません。
③経済的に困窮する
双極性障害の躁状態に伴う万能感は、金銭感覚を麻痺させ、深刻な経済問題を引き起こす要因となります。本来であれば考えにくいような、無謀な支出をしてしまうケースも少なくありません。
具体的には以下のような無謀なお金の使い方をしてしまうことがあります。
- 返済能力を考えずに、クレジットカードで高額な商品を次々と買う
- 「利益が出る」と信じ込み、ギャンブルやリスクの高い投資に大金をつぎ込む
- 気前がよくなり、知人にお金を貸したり、簡単におごったりしてしまう
こうした衝動的な行動の結果、多額の借金を背負うなど、深刻な経済的困難につながる可能性があります。自分の資産だけでなく、家族の生活基盤をも脅かす極めて深刻な問題です。
④他の疾患を併発する
双極性障害は、不安障害やパニック障害、アルコール依存症などの他の精神疾患を併発する傾向がみられます。激しい気分の波は、睡眠や食事などの生活リズムを著しく乱す要因になりがちです。
双極性障害による生活リズムの乱れは、糖尿病や心臓病といった身体的な疾患のリスクを高めると指摘されています。(※1)生活習慣の改善が症状の安定や再発予防に繋がるとの報告もあり、個々の状況に合わせた適切な治療が欠かせません。(※2)
双極性障害の治療法
双極性障害の治療は、自分の意思だけでなく、専門的なアプローチを組み合わせることが重要です。主な治療法として「薬物療法」と「心理・社会的療法」の2つが挙げられます。
薬物療法
双極性障害の治療において、中心的な役割を担うのが薬物療法です。脳内で起きている神経の機能の乱れを調整し、気分の波そのものを起こしにくくすることを目的とします。
双極性障害の薬物療法で主に用いられるのは「気分安定薬」や「非定型抗精神病薬」です。これらが、高ぶりすぎた気分を鎮めたり、落ち込みを底上げしたりする手助けをします。
一般的なうつ病の治療薬(抗うつ薬)を使うと、急激に躁状態になる「躁転」のリスクがあるため注意が必要です。自己判断での服用は避け、医師の指示通りに継続してください。
心理・社会的療法
心理・社会的療法は双極性障害の症状を薬で安定させながら、再発しにくい状態を目指すアプローチです。自分の病気について正しく学ぶ「心理教育」が心理・社会的療法の中心となります。単に悩みを聞くだけのカウンセリングとは異なり、日々の生活を自分で管理していく方法を習得します。
具体的な心理・社会的療法のテーマと内容・目的は以下のとおりです。
| テーマ | 内容・目的 |
|---|---|
| 病気の「トリセツ」作り | 再発のサインを把握し、客観的に記録する |
| 生活リズムの安定化 | 睡眠時間を一定に保ち、脳を休める環境を整える |
| ストレスとの付き合い方 | 自分の考え方のくせを整理し、対処法を見つける |
近年の研究では、運動などの身体活動が精神的な健康を支え、双極性障害からの回復を後押しする可能性も示されています。(※3)運動の取り入れ方については、必ず主治医に相談のうえ、無理のない範囲で検討してください。
双極性障害が疑われるときの受診の目安
双極性障害の適切な受診のタイミングを知ることは、早期回復への第一歩です。受診の目安として「セルフチェックで症状が複数当てはまる場合」と「日常生活に支障が出ている場合」を見ていきましょう。
セルフチェックで症状が複数当てはまる場合
セルフチェックで複数の項目に該当しても、直ちに双極性障害の診断が確定するわけではありません。しかし、その結果は自分の状態を客観視するための大切なサインです。
双極性障害の診察のときには、いつ、どのようなことで困っていたかを具体的に伝えると貴重な情報源となります。一人で結論を出して思い詰める必要はありません。まずは医師と一緒に、つらさの原因を整理することから始めましょう。
日常生活に支障が出ている場合
双極性障害で生活に支障が出始めたら、心からのSOSと捉えてください。以下のような困りごとが一つでもあれば、早めに医師への相談を検討しましょう。
- 気分が高ぶって散財してしまい、経済的に苦しくなった
- ささいなことで激怒してしまい、家族や友人との関係がギクシャクしている
- 気分が落ち込み、会社や学校を休みがちになっている
- 家事がまったく手につかず、身の回りのことがおろそかになっている
活動量の極端な変化にも注意しましょう。過剰に動く時期と、起き上がれない時期が交互に訪れることがあります。このような場合は、双極性障害が影響している可能性があります。
「しんどい」と感じたら、一人で抱え込まず、こころの耳などの相談窓口を活用しましょう。(※4)
まとめ
気分の波は性格や努力不足のせいではなく、脳の機能が一時的にバランスを崩している双極性障害の症状かもしれません。セルフチェックで当てはまる項目が多い、あるいは生活に支障が出ているのなら、医師の助けを借りることを検討して下さい。
適切な治療を続けることで、気分の波が穏やかになり、自分らしい生活に近づいていける可能性が十分にあります。一人で抱え込まず、医療機関へ相談されて下さい。
参考文献
- Chaudhari M, Mendez L, Olvera RL, Seshadri S, Teixeira AL. Cardiovascular disease and bipolar disorder: A review of pathophysiology and treatment implications. Int J Psychiatry Med. Published online January 23, 2025.
- Frank E, Kupfer DJ, Thase ME, et al. Two-year outcomes for interpersonal and social rhythm therapy in individuals with bipolar I disorder. Arch Gen Psychiatry. 2005;62(9):996-1004.
- Fumito Hamada, Hikaru Hori, Hitoshi Iida, Hiroyuki Yokoyama, Hiroko Sugawara, Akito Hatanaka, Leo Gotoh, Muneaki Ogata, Hiroki Kumagai, Rika Yano, Yuko Tomiyama, Tetsuya Yoshida, Yoshimi Yamaguchi, Ryo Asada, Masato Masuda, Yuta Okamoto, Hiroaki Kawasaki.Effects of Exercise on Functional Recovery in Patients with Bipolar Depression: A Study Protocol for a Randomized Controlled Trial.Metabolites,2023,13,9,981.
- 厚生労働省 こころの耳「相談窓口案内」
