最終医学的確認日:2026年7月
妊娠中に麻疹の流行を耳にし、お腹の赤ちゃんへの影響を不安に感じていませんか。麻疹は非常に感染力が強く、妊婦さんと赤ちゃんにとってリスクのある病気です。(※1)
この記事では、妊娠中の麻疹感染が母体と胎児に及ぼす具体的な影響を解説します。妊娠前と妊娠中の時期に応じた予防法、抗体検査の重要性、感染者と接触してしまった際の対応策まで詳しく紹介します。
正しい知識で、あなたと大切な赤ちゃんを守るための適切な備えをしましょう。
この記事でわかること
妊娠中の麻疹のリスク・風疹との見分け方・抗体検査・予防法まとめ
妊娠中に麻疹にかかると母体は肺炎や脳炎などで重症化しやすく、流産・早産のリスクもあります。妊娠中は麻疹ワクチンを接種できないため、妊娠前の抗体検査と接種、同居家族の免疫確保が予防の中心になります。
母体への影響 妊娠中は免疫の働きが変化するため、肺炎や脳炎などで重症化しやすくなります。
胎児への影響 流産や早産のリスクが高まります。
風疹との見分け方 初期症状はよく似ていますが、コプリック斑の有無、発疹の広がり方、リンパ節の腫れ方で区別します。
抗体検査の見方 EIA法(IgG)16.0以上、PA法256倍以上、HI法128倍以上が免疫が十分とされる目安です。
予防の中心 妊娠中はワクチンを接種できないため、妊娠前の接種と同居家族の免疫確保、人混みを避けることが柱になります。
妊娠中に麻疹(はしか)にかかるリスク
妊娠中に麻疹へ感染すると、妊婦の肺炎重症化や、胎児の流産・早産のリスクが大幅にたかまります。麻疹ウィルスの感染力はきわめて強く、免疫がない状態で感染者と接触した場合、極めて高い確率で発症するといわれています。(※1)
現在、日本はWHO(世界保健機関)から麻疹の排除状態にあると認定されていますが、海外からの持ち込みによる小規模な流行は後を絶ちません。(※2)過去の病気ではなく、誰もが感染するリスクを抱えています。
ここでは、妊娠中の麻疹感染による「母体への影響」と「胎児への影響」を解説します。
母体への影響|肺炎・脳炎などの重症化
妊娠中に麻疹にかかると、肺炎や脳炎などの合併症を引き起こすリスクが高まります。これは、妊娠によって体の免疫機能が通常とは異なる働きをするためです。普段は自分の力で抑え込めるはずのウイルスも、妊娠中は勢いを増し、重症化しやすくなる可能性があります。
特に妊婦さんがかかりやすい合併症として知られているのは、麻疹による肺炎です。海外の報告では、妊娠中の麻疹感染が妊婦さん自身の肺炎リスクや死亡率を高めることが示されています。(※3)
さらに、2026年現在、麻疹にはインフルエンザのような特効薬(抗ウイルス薬)が存在しません。治療は症状緩和に向けた対症療法が中心となるため、感染しないことが重要です。
胎児への影響|流産・早産のリスク
妊娠中にお母さんが麻疹にかかると、お腹の赤ちゃんが流産や早産に至るリスクが高まることがわかっています。(※4)これは、お母さんの高熱や体力の消耗が、子宮の収縮を促してしまうことなどが原因として考えられています。
一方、よく比較される風疹とは異なり、麻疹ウイルスが直接の原因となって赤ちゃんに先天異常を引き起こす可能性は高くありません。(※5)
ただし、麻疹にかかった場合、お腹の赤ちゃんにとって危険な状態であることに変わりはありません。赤ちゃんの健やかな未来を守るためにも、妊娠を考えたときから麻疹への備えを始めることが重要です。
麻疹の主な症状と風疹との違い
麻疹は高熱と口内の白い斑点が特徴で重症化しやすく、風疹は微熱と耳の後ろのリンパ節の腫れが特徴です。
麻疹は感染力が強く、肺炎や脳炎などの重い合併症を引き起こしやすいのが特徴です。一方、風疹は比較的症状が軽いことが多いものの、妊娠初期の女性が感染するとお腹の赤ちゃんに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
ここでは、麻疹に関して「初期症状と特徴的な症状」「風疹の症状との見分け方」を解説します。
初期症状と特徴的な症状
麻疹の症状は、ウイルスに感染して約10〜12日の潜伏期間後、時間とともに変化する経過をたどるのが特徴です。
症状の詳しい経過は以下のとおりです。
| 経過 | 具体的な症状 |
|---|---|
| カタル期(最初の2〜4日間) | ・38℃前後の発熱、咳、鼻水、くしゃみなどの、ありふれた風邪の症状で始まる ・目の充血や目やになどの結膜炎の症状も強く現れる ・カタル期後半に、口の中の頬の内側に「コプリック斑」と呼ばれる、少し盛り上がった1mm程度の白い斑点が現れる |
| 発疹期(カタル期のあと) | ・コプリック斑が現れて1〜2日すると、一度少し下がった熱が再び39℃以上の高熱となる ・高熱と同時に、赤く少し盛り上がった発疹が耳の後ろや首、顔から出始め、24時間以内に体や手足へと広がっていく ・発疹は次第に大きくなり、互いにくっついて、まだら模様のように見える |
ウイルスを排出して周りの人に感染させる可能性があるのは、症状が出る1日前から、発疹が消えるまで(発疹出現後4〜5日程度)とされています。
風疹の症状との見分け方
発熱の高さや発疹の様子、特徴的なサインの有無から麻疹と風疹をある程度区別できます。
麻疹と風疹の症状の主な違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | 麻疹 | 風疹 |
|---|---|---|
| 発熱 | 39℃以上の高熱が続く | 微熱〜38℃程度(熱が出ないことも) |
| 風邪のような症状 | 咳・鼻水・目の充血がひどい | 比較的軽いか、ないことも |
| コプリック斑 | 口の中に出現する | 出現しない |
| 発疹 | 赤く大きく、融合して広がる | ピンク色の小さな発疹で、融合しない |
| リンパ節の腫れ | あまり目立たない | 耳の後ろや首のリンパ節が腫れる |
症状には違いがありますが、初期症状はよく似ています。
妊娠中に発熱や発疹が出た場合は、「ただの風邪だろう」などと自己判断で様子を見ることは避けてください。まずは、かかりつけの産婦人科へ事前に電話で連絡し、その後の対応指示を仰ぎましょう。
受診の際は、ほかの妊婦さんや赤ちゃんへの感染を防ぐためにも、公共交通機関の利用を避け、医療機関の指示に従って行動することが大切です。
麻疹と風疹の見分け方に関連する記事はこちら⇒【医師監修】麻疹と風疹の違いとは?主な症状の特徴やワクチン接種の重要性を解説
麻疹かどうかを調べるための抗体検査
ご自身が麻疹への抵抗力(免疫)を持っているかは、簡単な血液検査(抗体検査)でわかります。妊娠を考えている方や、妊娠初期の妊婦さんにとって、ご自身の免疫状態を正確に知っておくことは、あなたと赤ちゃんを守るための第一歩です。
「過去に麻疹にかかった」「ワクチンを2回打った」という記憶が曖昧な場合でも、抗体検査を受ければ免疫の有無を確認できます。
ここでは、麻疹の「検査方法」と「検査結果の見方」を解説します。
検査方法
麻疹の抗体検査は、腕などから少量の血液を採り、血液中に麻疹ウイルスの抗体がどれくらい存在するかを測定します。抗体検査で主に調べるのは、過去の感染やワクチン接種によって作られるIgG抗体です。
抗体検査の方法にはいくつか種類があり、現在は、多くの医療機関で「EIA法(酵素免疫測定法)」という感度の高い方法が採用されています。ほとんどの場合、妊娠初期に行う妊婦健診の採血で、ほかの項目とあわせて検査できます。
検査結果の見方
麻疹の抗体検査の結果は「抗体価」という数値で報告され、数値が高いほど麻疹ウイルスに対する防御力が高いことを示します。ただし、検査方法によって基準値が異なるため、ご自身の結果と基準値を照らし合わせて解釈することが重要です。
日本産婦人科医会の「産婦人科診療ガイドライン」等に基づいた、代表的な検査方法と結果の目安は以下のとおりです。(※6)
| 検査方法 | 免疫が十分にある(感染予防に十分な抗体量) | 免疫が不十分な可能性(判定保留) | 免疫がない |
|---|---|---|---|
| EIA法(IgG) | 16.0以上 | 2.0~15.9 | 2.0未満 |
| PA法 | 256倍以上 | 16~128倍 | 16倍未満 |
| HI法 | 128倍以上 | 8~64倍 | 8倍未満 |
「判定保留」は、免疫が不十分で感染のリスクが否定できない状態を指します。医師と相談し、出産後のワクチン接種などを検討することになります。
検査結果の最終的な判断を行うのは医師です。ご自身の数値の詳細を知りたい場合は、健診の際に遠慮なくご質問ください。
麻疹にかかったときの対応策
妊娠中に麻疹の患者さんと接触した、あるいは麻疹が疑われる症状が出た場合、自己判断で医療機関へ向かうことは避けてください。まず、かかりつけの産婦人科へ電話で連絡し、対応方法の指示を仰ぐことが重要です。
事前の電話連絡により、医療機関側はほかの妊婦さんや赤ちゃんへの感染を防ぐための隔離室を準備するなど、受け入れ体制を整えることが可能です。麻疹は空気感染するほど感染力が強いため、この初動対応があなた自身と周りの人々を守る鍵となります。
ここでは、「抗体を十分に持っている場合」と「過去の罹患歴や予防接種歴がわからない場合」の対応策を解説します。
抗体を十分に持っている場合
妊娠前の抗体検査で、麻疹に対する十分な抗体を持っていることがわかれば、感染や重症化のリスクは低いため、過度に心配する必要はありません。一般的に「十分な抗体がある」とされるのは、抗体検査のEIA法で16.0以上の数値が確認された場合です。
ただし、免疫があっても100%感染を防げるわけではなく、ごくまれに軽症で発症する可能性はあります。流行している時期は、基本的な感染対策として手洗いを続け、人混みを避けるように心がけましょう。
発熱や発疹など、麻疹を疑うような症状が現れた場合は、「抗体があるから大丈夫」と安心せず、かかりつけの産婦人科に電話で相談してください。
過去の罹患歴や予防接種歴がわからない場合
母子手帳が見つからない、子どもの頃の記憶が曖昧など、麻疹の罹患歴や予防接種歴がはっきりしない場合は、感染リスクが不明な状態です。
このような場合、状況に応じて以下のステップで判断・対応します。
1. 麻疹患者との接触がない場合:
- 妊娠前:医療機関で抗体検査を受け、必要に応じてMRワクチンを接種する(接種後2か月は避妊が必要)。
- 妊娠中:抗体検査を受け、抗体価が低い場合は人混みを避けるなどの感染予防を徹底し、出産後にワクチンを接種する。
2. 麻疹患者と接触してしまった場合(妊娠中):
- すぐにかかりつけの産婦人科へ電話で連絡し、指示を仰ぐ。
- 医師の判断により、接触後6日以内に「ガンマグロブリン(免疫グロブリン)」の注射を検討する。
医師の判断によっては、発症を予防したり症状を軽くしたりする目的で、接触後6日以内に「ガンマグロブリン(免疫グロブリン)」という注射を行うことがあります。これは、麻疹の抗体を含む血液製剤を投与することで、一時的に体の防御力を高める治療法です。(※4、※7)
妊娠・出産が無事に終わったあとは、ご自身と未来の赤ちゃんを守るため、MR(麻疹風疹混合)ワクチンの接種を検討しましょう。MRワクチンを接種することで、95%程度の人が麻疹・風疹ウイルスに対する免疫を獲得できるといわれています。(※8)
麻疹の予防法
麻疹の予防法は、妊娠しているかどうかで取るべき対策が異なります。妊娠前は「ワクチン接種」が第一候補となり、すでに妊娠している場合はウイルスとの接触を徹底的に避けることが重要です。
ここでは、「妊娠前」「妊娠中」の麻疹の予防法を解説します。
妊娠前|ワクチンを接種する
妊娠を考えている方の麻疹の予防法はワクチン接種です。まずは産婦人科や内科で抗体検査を受け、ご自身の免疫状態を確認しましょう。検査で免疫が不十分だとわかった場合は、麻疹と風疹を同時に防げる「MRワクチン」の接種を検討してください。(※8)
ただし、MRワクチンは毒性を弱めたウイルスから作られる「生ワクチン」です。胎児へのリスクをゼロにできないため、接種後2か月間は妊娠を避ける必要があります。
また、ご自身だけでなく、パートナーや同居のご家族も一緒に免疫状態を確認することも大事です。必要に応じてワクチンを接種することは、家庭内にウイルスを持ち込まないための重要な対策です。
妊娠中|できる限り人混みを避ける
妊娠中は麻疹ワクチンを接種できないため、日常生活でウイルスとの接触を避けることが、予防策です。
麻疹ワクチンは生ワクチンですが、妊娠中に誤って接種してしまったケースで、ワクチンが原因で赤ちゃんに問題が起きたという明確な報告はありません。(※9)しかし、確実に安全とはいい切れないため、妊娠中の接種は行わないことが原則です。
麻疹ウイルスは同じ空間にいるだけでうつるほど感染力が強いため、妊娠中は特に以下の対策を心がけてください。
- 流行している地域への不要不急の外出を控えるようにします。
- 人が密集する場所(ショッピングモール、イベント会場、満員電車など)を避けることが大切です。
- 外出時はマスクを着用し、帰宅後は手洗いやうがいを徹底しましょう。
妊婦さん自身がワクチンを接種できないからこそ、周りのご家族が免疫を得ることが重要です。パートナーやお子さんなど、同居家族の予防接種歴を確認し、免疫が不確かな場合はワクチン接種を検討してもらいましょう。
妊娠前に受けるMRワクチンの接種スケジュールに関連する記事はこちら⇒【医師監修】MR(麻疹風疹混合)ワクチンとは?予防接種対象者とスケジュール
妊娠中の麻疹に関するよくある質問
妊娠中の麻疹について、妊婦さんやご家族から多く寄せられる以下の3つの質問にお答えします。
妊娠中にワクチン接種は可能?
妊娠中の麻疹ワクチン接種は、原則としてできません。麻疹ワクチンは生ワクチンであり、生きたウイルスを体に入れるため、お腹の赤ちゃんへの影響をゼロにできないと考えられているためです。
妊娠中の麻疹感染予防につなげるためには、妊娠前に準備を済ませておくことが重要です。これから妊娠を希望される方は、まず抗体検査でご自身の免疫状態を確認し、必要であればワクチン接種を済ませておきましょう。
麻疹にかかったことがあれば抗体検査は不要?
過去に麻疹にかかったことが確実な場合でも、抗体検査を検討する価値は十分にあります。「子どもの頃にかかったはず」という記憶が、風疹など症状の似た別の病気だった可能性が否定できないからです。
また、正しく麻疹と診断されていても、ごくまれに年齢とともに免疫が弱まるケースもあります。妊娠時期の感染リスクを低くして過ごすためには、「抗体がある」と客観的な数値で確認できることが大事です。
特に母子健康手帳などで過去の記録がはっきりしない場合や、少しでも不安を感じる方は、一度かかりつけの産婦人科医に相談してみましょう。
同居家族もワクチン接種が必要?
妊婦さんとお腹の赤ちゃんを守るために、同居するご家族のワクチン接種は重要です。
妊婦さんご本人は、妊娠中に麻疹ワクチンを接種できません。つまり、麻疹に対して無防備な状態です。もしご家族に免疫がなければ、外で感染したウイルスを意図せず家庭内に持ち込んでしまう可能性があります。
麻疹は空気感染するほど感染力が強いため、ひとたび家庭内で感染者が出ると、妊婦さんへの感染を防ぐのは困難です。そのため、パートナーやお子さん、同居のご両親などが十分な抗体を持ち、ウイルスが妊婦さんに届くのを防ぐことが予防につながる可能性があります。
ご家族の予防接種歴や罹患歴がはっきりしない場合は、まず抗体検査を受け、免疫が不十分であればすみやかにワクチン接種を検討してください。
まとめ
妊娠中に麻疹へかかると、お母さんは肺炎などで重症化しやすく、お腹の赤ちゃんは流産や早産のリスクが高まります。妊娠中はワクチンを接種できないため、妊娠前の準備と妊娠中の感染予防策が大切です。
ご自身だけでなく、パートナーやご家族も一緒に免疫状態を確認し、家庭内にウイルスを持ち込まないことが、赤ちゃんを守ることにつながるでしょう。感染が疑われる場合や患者さんと接触した際は、自己判断で受診せず、まずかかりつけ医へ電話で相談してください。
麻疹の潜伏期間と感染経路に関連する記事はこちら⇒【医師監修】麻疹の潜伏期間はどれくらい?主な感染経路と予防のための対策を解説
