ご自身やご家族の「もの忘れ」が増え、「もしかして認知症では?」と不安を感じていませんか。
厚生労働省の将来推計(※厚生労働省:「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」)によると、認知症の高齢者は今後も増加し、2030年には約523万人(65歳以上の約14.2%)に達すると予測されています。軽度認知障害(MCI)を含めると、およそ3人に1人が認知機能に関わる何らかの症状を抱える身近な病気です。
しかし、加齢による変化と病気のサインのどちらかを判断することは簡単ではありません。
この記事では、認知症の主な症状から、代表的な種類、診断、対処法まで網羅的に紹介します。正しい知識を得ることで、漠然とした不安を解消するためのヒントが見つかるでしょう。
目次
認知症とは?
認知症とは、脳の病気や障害によって記憶力や判断力などの認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態です。(※2)単なる加齢によるもの忘れとは異なり、ゆっくりと進行していくのが特徴です。
日本の65歳以上の高齢者に注目すると、約12%が認知症、その手前の段階である軽度認知障害(MCI)の方が約16%と推計されています。(※1)つまり、3人に1人近くが認知機能に関わる何らかの症状を抱えており、認知症が身近な問題であることがわかります。
ここでは、認知症の基本を理解するために、以下の内容を解説します。
- 中核症状
- 周辺症状
- もの忘れとの違い
認知症の中核症状とはどのような症状ですか?
中核症状とは、脳の神経細胞が壊れることで直接引き起こされる記憶障害や判断力低下などの症状です。認知症を発症した方であれば、程度の差はありますが誰にでも現れる根本的な症状群を指します。
代表的な中核症状は以下のとおりです。
- 記憶障害(もの忘れ)
- 見当識障害
- 理解力・判断力の低下
- 実行機能障害
記憶障害は、「さっき食事をした」という体験そのものを忘れてしまうなど、比較的最近の出来事が記憶から抜け落ちる症状です。見当識障害は、現在の「時間」「場所」「人物」を正しく認識できなくなる状態です。
認知症で理解力・判断力が低下すると、考えるスピードが落ち、一度に複数の事柄を処理しにくくなります。予期せぬ出来事が起こった場合、パニックに陥りやすくなることもあります。物事を計画立てて実行できず、料理の手順などが途中でわからなくなるケースもあります。
行動・心理症状(BPSD)
「行動・心理症状(BPSD)」は、中核症状を土台として、ご本人の性格や心身の状態、周囲の環境や人間関係などが複雑に絡み合って現れる症状で、その現れ方には個人差があります。
主なBPSDは、「心理的な症状」「行動に現れる症状」です。心理的な症状としては、抑うつや無気力などが挙げられます。理由もなく不安や焦りを感じたり、気分が落ち込んでやる気が出なかったりします。
行動に現れる代表的な症状は、幻視や一人歩き、介護抵抗などです。「財布が盗まれた」などと人を疑ったり、怒りっぽくなって暴力を振るったりすることもあります。夜中に何度も起きる、昼夜のリズムが逆転するなどの睡眠の問題もよく見られるでしょう。
もの忘れ外来を受診されるご家族のお話を伺うと、多くの場合、最初に違和感を覚えるのは「料理の味が変わった」「冷蔵庫に同じ食材がいくつもある」「怒りっぽくなった」といった、日常の些細な変化や感情のコントロールの低下です。こうした日常の小さなサインこそが、早期発見の重要な手がかりとなります。
もの忘れとの違い
加齢に伴う自然な「もの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」は、以下のように異なります。
| 特徴 | 認知症によるもの忘れ | 加齢によるもの忘れ |
|---|---|---|
| 忘れる内容 | 朝食を食べたことなど、体験したこと自体を忘れる | 朝食メニューのような体験の一部を忘れる |
| 自覚の有無 | 自覚がないことが多い | 自覚がある |
| 探し物 | 探している自覚がなく、盗まれたと思い込むことがある | 自分で置いた場所を思い出そうと努力する |
| 進行 | 症状が徐々に進行する | 進行しないことがある |
| 日常生活 | 日常生活に支障が出やすい | 日常生活への支障はあまりみられない |
ただし、あくまで一般的な傾向であり、ご自身で判断するのは困難です。少しでも気になる点があれば、一人で抱え込まず、かかりつけ医(可能であれば、もの忘れ外来などの専門医療機関)やお住まいの学区にある地域包括支援センターなど「認知症」に関連する相談窓口などにご相談ください。
認知症の主な種類
認知症は、原因となる病気によっていくつかの種類に分けられ、症状の現れ方や進行の仕方もさまざまです。原因は一つとは限らず、複数のタイプが合併することもあります。
ここでは、代表的な以下の4つのタイプについて解説します。
①アルツハイマー型認知症
②血管性認知症
③レビー小体型認知症
④前頭側頭型認知症
①アルツハイマー型認知症とは?
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβなどの異常なたんぱく質が脳に蓄積し、脳が萎縮することで発症する認知症です。認知症全体のなかで発症割合が最も高く、約67.6%を占めています(※国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター:「認知症」)。
アルツハイマー型認知症になると、記憶を司る海馬が比較的早期から障害されやすい傾向があります。初期症状として記憶障害が目立ち、以下のような症状が見られます。
- ついさっきの会話の内容を忘れて、同じことを何度も尋ねる
- 大切な約束や予定をすっぽかしてしまう
- 物を置く場所がわからなくなり、探し物が増える
病気の進行は緩やかで、数年単位で少しずつ症状が進むため、ご本人もご家族も加齢が原因と思い込みがちです。
②血管性認知症
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などのエピソードといわれる脳血管障害によって、神経細胞の一部が壊れてしまうことで発症する認知症です。発症割合は全体の約19.5%であり、アルツハイマー型の次に頻度が高くなっています。(※※国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター:「認知症」))
脳は障害を受けた領域の機能が低下する一方、ダメージのない領域の機能は保たれます。血管性認知症は、脳の部分的に障害を受けており、できることとできないことの差がはっきり現れることが特徴です。機能障害に偏りがあることから「まだら認知症」とも呼ばれます。
代表的な特徴の一つが、段階的に症状が悪化することです。脳梗塞などを再発するたびに、症状が急に悪化することがあります。障害された部位によっては、手足の麻痺やしびれ、歩行障害、ろれつが回らないなどの症状を伴います。
身体的障害だけでなく、感情のコントロールが低下することも代表的な症状です。些細なことで急に泣き出したり、怒り出したりと、感情の起伏が激しくなる様子が見られます。
③レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、「レビー小体」という異常なたんぱく質が脳の神経細胞内に蓄積されることで発症します。同じくレビー小体が原因となるパーキンソン病と似た運動症状が現れることも特徴で、診断が難しいケースも少なくありません。
レビー小体型認知症になると、「知らない人が部屋の隅に座っている」など、具体的で生々しい幻が見えます。ご本人にとっては現実的に感じる幻視なので、頭ごなしに否定しない対応が重要です。日や時間帯によって、認知機能に差が顕著に現れることも特徴です。
眠りが浅いレム睡眠中に、夢の内容に合わせて大声で叫んだり、手足を激しく動かしたりといった異常な行動(レム睡眠期行動異常症)も見られます。
④前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、理性や社会性を司る前頭葉と、言葉の理解などを担う側頭葉が神経細胞の変性によって萎縮してしまうタイプです。65歳未満の若年者で発症することも多く、初期症状として記憶障害はあまり目立ちません。(※3)
前頭側頭型認知症の主な症状は以下のとおりです。
| 症状 | 症状の詳細 |
|---|---|
| 社会性の低下・脱抑制 | 感情の抑制がきかなくなり、他人の気持ちを考えない自己中心的な言動や万引き、信号無視などが現れる |
| 同じ行動の繰り返し(常同行動) | 毎日決まった時間に同じ道を散歩したり、同じものばかり食べ続けたりと、行動がパターン化する |
| 言語障害 | 物の名前が出てこなくなったり、言葉の意味が理解できなくなったりする |
前頭側頭型認知症の方は、ご本人に「病気である」という自覚(病識)がないことが多くあります。周囲が変化に気づいても、対応方法がわからず困惑してしまうケースが少なくありません。
認知症が疑われるサインのセルフチェックリスト
※本チェックリストはあくまで日常的な変化の目安であり、医学的な診断に代わるものではありません。気になる症状がある場合は自己判断せず、早めに医療機関をご受診ください。
認知症のサインは、代表的なもの忘れだけでなく、判断力や人柄の変化など日常生活のさまざまな場面に現れます。以下のような変化が最近なかったか、振り返ってみましょう。
- ついさっき話した内容を忘れ、同じことを何度も尋ねる
- 物の置き場所を頻繁に忘れ、「誰かに盗られた」と人を疑ってしまう
- 大切な約束の日時や場所を忘れてしまう
- 料理や買い物、片付けといった家事の段取りが悪くなった
- 新しい家電の使い方がなかなか覚えられず、操作をあきらめてしまう
- 会話中に話のつじつまが合わなくなることがある
- 今日が何月何日か、何曜日かが、とっさにわからなくなる
- 慣れているはずの場所で道に迷い、家に帰れなくなることがある
- 以前より怒りっぽくなる、頑固になるなど、性格が変わったように感じる
- これまで熱心だった趣味や好きだったテレビ番組に関心を示さなくなった
- 身だしなみを気にしなくなり、お風呂に入るのを嫌がる
もし複数の項目に当てはまる、あるいは少しでも気になる変化がある場合は、「歳のせい」と決めつけてはいけません。かかりつけ医やお近くの地域包括支援センターなどへ早めに相談しましょう。
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認知症の相談先と診断方法
ご自身やご家族に認知症が疑われるサインが見られたら、一人で抱え込まずにもの忘れ外来などの専門医療機関へ相談することが重要です。早めに正しい情報を得ることで、ご本人やご家族の不安を軽くできる可能性があります。
ここでは、認知症が疑われるサインがあったときの相談先や受診すべき診療科、診断で行われる検査内容を解説します。
主な相談先
認知症に関する相談は、身近な窓口から専門機関まで、さまざまな場所で受け付けています。主な相談先は、以下のとおりです。
| 相談先 | 相談先の詳細 |
|---|---|
| 地域包括支援センター | 保健師・社会福祉士・ケアマネージャーなどの専門家が、医療や介護に関する相談に無料で対応し、必要なサービスや専門機関へ橋渡しをしてくれる窓口 |
| かかりつけ医 | 必要に応じて、「もの忘れ外来」など専門の医療機関へ紹介状を含めてつないでくれる |
| 認知症疾患医療センター | ・都道府県や指定都市が指定する、認知症の専門医療機関 ・詳しい検査や診断、治療方針の決定、合併症への対応など、より専門的な医療相談ができる |
| 認知症の人と家族の会 | ・同じ悩みを持つ人やその家族が集まり、情報交換や相談ができる会 ・介護経験者からの具体的なアドバイスや、医療者には話しにくい悩みを共有する |
どこに相談すれば良いか迷ったときは、まずはお住まいの地域の行政(市役所や区役所、保健所・保健福祉センターなど)を頼ってみましょう。
受診すべき診療科
認知症の診断は、症状に合わせてさまざまな診療科が対応します。
記憶障害が見られる場合は、もの忘れ外来や認知症専門外来に相談しましょう。これらの診療科は、認知症の診断と治療に特化した専門医が在籍しており、初診の選択肢として適しています。
手足の麻痺や歩行障害などの運動障害を伴う方は、神経内科・脳神経内科を受診してください。脳梗塞やパーキンソン病などの認知症の原因となりうる病気がないかを診察できます。
気分の落ち込みや不安、幻覚、妄想などの心の症状が強い場合には、精神科や老年科(老年内科)が適しています。精神科・老年科(老年内科)では、高齢者特有の複数の問題を含めて総合的に認知症の治療を進めます。
どの科を受診すれば良いか迷う場合は、まずはかかりつけ医に相談し、適切な専門医を紹介してもらうのがスムーズです。
診断で行われる検査内容
認知症の診断は、一つの検査だけで決まるものではありません。問診や認知機能検査、画像検査などを組み合わせて総合的に判断されます。医療機関での検査は、原因となっている病気を特定し、治療可能なほかの病気を見逃さないために重要なプロセスです。
問診では、ご本人とご家族から、いつからどのような症状があるか、普段の生活の様子などを詳しく伺い、診断の手がかりを探します。問診後は、簡単な質問や計算、図形を描くなどして、記憶力や判断力などの脳の働きを客観的に評価する認知機能検査が行われます。
CT・MRIなどの画像検査は、脳の萎縮の程度や、脳梗塞・脳出血の跡がないかなどを確認し、認知症の種類を推定する方法です。甲状腺機能の異常やビタミン不足など、認知症と似た症状を引き起こす病気がないかは、血液検査で確認されます。
家族が認知症と診断されたときの対処法
ご家族が認知症と診断された場合の対処法は、以下のとおりです。
- 本人への告知と今後の生活での接し方
- 中核症状への薬物療法
- 行動・心理症状(BPSD)への非薬物療法
- 介護サービスの検討
本人への告知と今後の生活での接し方
ご家族が認知症と診断されたら、まずは本人へ告知し、その人らしさを尊重する考え方で接することが基本です。
診断を受けて大きな不安と混乱のなかにいるのは、ご本人自身です。告知のタイミングや方法は、ご本人の性格や状況を十分に考慮し、医師と相談しながら慎重に進めましょう。まずはご本人の気持ちに寄り添い、安心できる環境を整えることが大事です。
ご本人と接する際は、頭ごなしに否定せず、叱って自尊心を傷つける行動を避けましょう。ご本人の生きがいを生み出せるよう、簡単な家事などをお願いすることも大切です。一度に多くの情報を伝えると混乱を招くので、ゆっくりと穏やかな口調で話しかけてください。
中核症状への薬物療法
記憶障害や判断力の低下など、認知症の中核症状に対しては、薬物療法を行うことで症状を和らげられる可能性があります。
2026年現在、認知症を根本的に治療する薬はないものの、早期から治療を始めることで、症状の進行を遅らせることが期待されています。アルツハイマー型認知症では、コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬など、脳内の神経伝達物質に働きかける薬が用いられます。
どのような治療法を選択するかは、ご本人の状態やご家族の意向を丁寧に確認しながら、医師と一緒に決めていくことが大切です。
行動・心理症状(BPSD)への非薬物療法
行動・心理症状(BPSD)への対応は、まず薬に頼らない方法で行うのが基本です。
BPSDは、ご本人が感じている不安や混乱、痛みなどの不快感が、行動や心理状態として現れたサインと捉えられます。そのため、まず行動の背景にある気持ちや原因を探り、取り除くための関わり方や環境調整を行うことが第一選択です。
具体的には、安心できる環境づくりや生活リズムの安定化を行いましょう。昼間は部屋を明るく保つ、夜間は暗くする、使い慣れたものをそばに置くなど、ご本人が混乱しない環境を整えてください。毎日決まった時間に起床させ、食事や散歩をさせることで、心身の状態が安定しやすくなります。
昔の思い出を語り合う「回想法」や、好きな音楽を聴く「音楽療法」も、心を落ち着かせる効果が期待できます。
介護サービスの検討
ご本人とご家族が安心して生活を続けるために、介護サービスは不可欠なパートナーです。
介護は長期戦になることが多く、ご家族だけで抱え込むと心身ともに疲弊してしまいます。一人で頑張りすぎず、早い段階で専門家の力を借りましょう。
まずはお住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談し、「要介護認定」の申請から始めます。認定を受けると、専門家であるケアマネジャーが、ご本人やご家族の状況や希望に合わせた介護サービス計画を一緒に作成してくれます。
利用できる介護サービスの代表例は、以下のとおりです。
- デイケア(通所リハビリテーション)とデイサービス(通所介護):日帰りで施設に通い、食事や入浴、リハビリなどを受けられる
- 訪問介護:ヘルパーが自宅を訪問し、食事・入浴・排泄などの身体介助や、掃除・調理などの生活援助を行う
- ショートステイ:短期間施設に宿泊し、食事や入浴、機能訓練などの介護サービスを受けられる
ご家族が認知症になり、介護疲れがあると感じている方は、介護サービスを検討しましょう。
認知症に関するよくある質問(FAQ)
- Q. 認知症は遺伝しますか?
- A. 認知症の大部分(アルツハイマー型や血管性など)は、遺伝よりも加齢や生活習慣の影響が大きいとされています。ただし、若年性アルツハイマー型認知症など、一部のケースでは遺伝的な要因が強く関係することがあります。
- Q. 認知症の進行を遅らせることはできますか?
- A. はい、早期発見と適切な治療、生活習慣の改善によって進行を緩やかにすることが期待できます。現在、症状を完全に治す薬はありませんが、お薬で症状をコントロールしたり、リハビリやデイサービスを活用して脳に刺激を与えたりすることが効果的です。
まとめ
認知症は、脳の病気などによって誰もがなりうる状態です。しかし、早期に気づき、正しく理解して対応すれば、その人らしい穏やかな生活を長く続けることが期待できます。
ご本人に現れるさまざまなサインは、単なる「もの忘れ」ではなく、不安や混乱からくるSOSかもしれません。薬による治療だけでなく、ご本人の気持ちに寄り添う関わり方や、介護サービスの活用も大切な支えになります。
認知症が疑われる変化があれば、一人で抱え込まず、かかりつけ医や地域包括支援センターなどの専門機関へ相談してください。
