最近、人の名前が思い出せなかったり、集中力が続かなかったりすることはありませんか。スマートフォンの使いすぎによる「スマホ認知症」と呼ばれる脳の疲労状態を自覚される方が、スマートフォンの普及により近年増えています。
この記事では、スマホ認知症とは何か、原因や代表的な症状を解説します。ご自身の状態を確認できるセルフチェックリストや具体的な対策も紹介するため、現状の把握にお役立て下さい。
スマホ認知症とは?
スマホ認知症とは、スマートフォンの使いすぎで、物忘れが増えたり集中力が続かなくなったりする状態を指す俗語です。医学的に定められた正式な病名ではなく、スマートフォンの長時間使用により脳疲労が起こり、認知能力、特に記憶に悪影響を及ぼす可能性があるという概念を表す一般的な用語です。
病気としての認知症は、脳の細胞が障害を受けて記憶や判断力などの機能が低下し、日常生活に支障が出る状態です。(※1)スマホ認知症との間には、下表のような違いがあります。
| スマホ認知症 | 病気としての認知症 | |
| 原因 | スマホの使いすぎによる脳の情報処理能力の一時的な低下 | さまざまな病気によって脳の神経細胞が壊れ、機能が失われる |
| 脳の状態 | 脳の細胞そのものが壊れているわけではないと考えられている | 脳の細胞が障害を受け、徐々に機能が低下していく |
| 症状の経過 | スマホの使用を控えることで改善が期待できる | 症状が持続し、時間とともに進行することが多い |
ただし、「どうせスマホのせいだろう」と自己判断することは避けましょう。物忘れだけでなく、意欲の低下や注意力散漫などの症状は、認知症の初期症状として現れることもあります。(※1)
(※1:政府広報オンライン:「知っておきたい認知症の基本」)
スマホ認知症の主な原因
スマホ認知症の主な原因は、情報過多による前頭前野の機能低下、検索依存、ブルーライトによる睡眠不足の3つです。スマートフォンの使いすぎが脳に影響を及ぼす具体的な仕組みを解説します。
①情報過多による前頭前野の機能低下
スマートフォンから流れ込む大量の情報は、思考や判断を司る脳の前頭前野を疲弊させ、その働きを鈍らせます。前頭前野は、物事を考えたり、集中したり、感情をコントロールしたりと、知性や理性、社会性を制御する重要な部位です。
しかし、SNSの通知やニュース速報、動画など、スマートフォンを使っている間、私たちの脳は常に情報を処理し続けています。これは脳が過剰に働き続ける「脳過労」という状態で、前頭前野のエネルギーを消耗させます。その結果、思考や判断に関する能力が低下し、集中力散漫や意欲低下などの症状が現れやすくなります。
②検索依存による記憶習慣の減少
わからないことがあるとすぐに検索する習慣は、自分で記憶をたどる機会を奪い、結果として脳の記憶機能を弱らせる一因となります。スマートフォンの普及に伴い、現代人は人の名前やお店までの道順など、少し考えれば思い出せそうなことでもすぐに調べがちです。
スマートフォンによる検索依存が常態化すると、脳は情報を覚えることよりも「どこで探せるか」を記憶するようになります。記憶を思い出す機会が失われることで、脳の記憶機能は衰えるため、いざというときに情報が引き出しにくくなるというわけです。
一方、デジタル機器をまったく使わない環境が、逆に認知機能低下のリスクを高めるという研究報告もあります。デジタル機器やサービスから切り離された状態は、認知症の発症リスクを約1.78倍高める可能性が示唆されています。(※2)
問題なのは検索行為そのものではなく、自ら考えるプロセスを放棄して検索に頼りすぎることです。デジタルツールと適度な距離感を保ち、上手に付き合っていくことが大切です。
(※2:Jia Yu, Jundan Huang, Shuhan Zhou, Xiao Wan, Qi Xie, Yinan Zhao, Juan Yang, Hui Feng.The Associations Between Digital Exclusion and Physical or Cognitive Function in Middle-Aged and Older Adults: Systematic Review and Meta-Analysis.JMIR Aging,2026,9,e75920.)
③ブルーライトによる睡眠の質の低下
スマートフォンの画面が発するブルーライトは、睡眠の質を下げ、脳が回復するための重要な時間を妨げます。睡眠の質が低下することで脳の疲労が回復しにくくなり、スマホ認知症につながりかねません。
私たちの体は、夜になると自然に「メラトニン」という睡眠を促すホルモンを分泌します。(※3)しかし、就寝前にスマートフォンの強い光を浴びると、脳は「まだ昼間だ」と錯覚し、メラトニンの分泌を抑制すると考えられています。
メラトニンの分泌が滞ると、寝つきが悪くなる、眠りが浅くなる、夜中に目が覚めてしまうなどの問題につながりがちです。
睡眠は、日中に酷使した脳を休ませるだけでなく、得た情報を整理し、記憶として定着させるための不可欠な時間です。質の良い睡眠が取れないと、脳の疲れが十分に回復しないまま翌日を迎えることになり、集中力や記憶力の低下を招く恐れがあります。
(※3:健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会:「健康づくりのための睡眠ガイド2023」P23)
スマホ認知症の代表的な症状
スマートフォンの使いすぎによる脳疲労は、記憶力や集中力の低下など、脳が休息を求めているサインとして現れます。起こり得る症状として、以下のような症状が考えられます。
①記憶力の低下
②注意力・集中力の散漫
③計画・実行能力の低下
④言語能力の低下
⑤感情コントロールの不安定化
①記憶力の低下
考えられる症状の一つが、記憶力の低下です。人や物の名前がとっさに出てこない、直前の行動を忘れてしまうなど、記憶に関する脳の働きが一時的に低下します。
記憶力が低下すると、日常生活で以下のような経験が増える傾向があります。
- 会話の中で「あれ」や「それ」などの代名詞を使う回数が増える。
- 顔は思い浮かぶのに、芸能人や知人の名前がすぐに出てこない。
- 何かを取りに別の部屋へ移動した際、その目的を忘れてしまう。
- 数日前に体験した出来事の詳細を、スムーズに思い出せない。
物忘れが続くと、ご自身でも「何かおかしい」と不安を感じることが少なくありません。加齢や脳疲労による物忘れは体験の一部を忘れることが多いのに対し、実際の認知症では体験そのものを忘れてしまうことがあります。(※4:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター:「もの忘れと認知症の違いはどのようなものでしょうか?」)
②注意力・集中力の散漫
スマートフォンからひっきりなしに届く通知や情報に慣れると、一つの物事にじっくりと意識を向け続けるのが難しくなります。以下のように注意力・集中力が散漫な状態の方は、脳疲労の可能性があります。
- 仕事や勉強中に、SNSの通知が気になって作業が中断してしまう
- 会議や人との会話の内容が頭に入ってこない
- 本や新聞を読んでも、同じ場所を何度も読み返してしまう
- 料理や運転中など、少しの不注意によるミスが増えた
以前より明らかに集中できないと感じるなら、脳が情報過多で疲れているサインかもしれません。
③計画・実行能力の低下
脳疲労により脳の前頭前野が情報処理で疲弊すると、物事の段取りを考え、効率良く進める能力が低下します。
計画・実行能力の低下は、仕事の優先順位をつけられない、料理の手順が悪く時間がかかるようになったなどの症状を引き起こしがちです。複数の作業を同時に進めようとすると、混乱してしまうこともあります。
物事を段取りよく進められないという変化は、認知症でも見られる症状の一つです。これまでスムーズにできていた作業に手間取るようになったら、注意が必要です。
④言語能力の低下
短い文章や動画に慣れることで言葉を深く処理する機会が減り、話したい言葉がスムーズに出てこなくなることがあります。会話中に「えーっと」「あのー」などの言葉が増えた、物の名前が出てこないなどの症状が見られたら注意が必要です。
簡単な漢字なのに、思い出せずに書けないこともあるでしょう。メールや少し長い文章を読むのが億劫に感じることもあります。
言葉に関する能力の低下は、認知症の原因によっては初期から見られる症状でもあります。(※5国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター:「もの忘れと認知症」)人との会話や読み書きに不便を感じる場面が増えたら、注意が必要です。
⑤感情コントロールの不安定化
脳疲労や睡眠不足は、感情のコントロールにも影響を及ぼし、ささいなことでイライラしたり、気分が落ち込んだりしやすくなります。以下のような症状が現れたら、脳疲労のサインかもしれません。
- 車の運転中や店員の対応などでカッとなった
- 特に理由もなく、急に不安になったり悲しくなったりする
- 気分の浮き沈みが激しく、自分でも疲れてしまう
- ニュースやSNSの投稿を見て、過度に気持ちが落ち込む
ご自身の変化に戸惑い、不安になることで、さらに気持ちが不安定になるケースも少なくありません。感情の起伏が激しく、日常生活に支障が出ているなら、それは心が休息を求めているサインです。
認知症のセルフチェックリスト
スマホ認知症だと思っていたけれど、実際は本当の認知症だったという可能性もあります。国立長寿医療研究センターのウェブサイトでは、ご自身の状態を確認できる「認知症のセルフチェックリスト」が公開されています。(※5:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター:「もの忘れと認知症」)
公開されている質問項目のなかでも、特に以下の5項目は認知症の有無と関係が深いとされています。
- 同じことを言ったり聞いたりする
- 薬の管理ができなくなった
- 以前はあった関心や興味が失われた
- 時間や場所の感覚が不確かになった
- 幻覚を見る
当てはまる項目がある場合は、認知症の可能性を疑い、早めに医療機関への受診・相談することが望ましいです。
スマホ認知症への対策
スマートフォンとの付き合い方を見直し、脳を意識的に休ませることが、スマホ認知症の対策の基本です。無理にスマートフォンを完全にやめるのではなく、賢く使う視点を生活習慣に取り入れましょう。
スマホ認知症への主な対策は、以下のとおりです。
- スクリーンタイムを確認する
- スマートフォンの使用ルールをつくる
- 情報収集にスマートフォンを使わない
- デジタルデトックスを実施する
- 代替活動を導入する
スクリーンタイムを確認する
スマホ認知症の対策の一つが、スマートフォンのスクリーンタイムを確認することです。スクリーンタイムを見ることで、自分が1日にどれくらいスマートフォンを使っているかを客観的に把握できます。
多くの場合、ご自身が想像している以上に長時間スマートフォンを使用している傾向です。まずは現実の利用時間を数字で見ることで、具体的な目標が立てやすくなります。
iPhoneの場合は、「設定」アプリから「スクリーンタイム」を選択しましょう。Androidであれば、「設定」アプリから「Digital Wellbeingと保護者による使用制限」などを選択してください。ただし、Androidは機種によって表記が異なるため注意が必要です。
スクリーンタイムの画面では、1日の合計使用時間や使用時間の長いアプリ、1日のロック解除回数などをチェックしましょう。これらの情報を知ることで、ご自身の生活に合わせた具体的な行動計画を立てられます。
スマートフォンの使用ルールをつくる
ご自身のスマートフォンの使い方を把握できたら、日常生活のなかに無理なく取り入れられるルールをつくりましょう。いきなり厳しいルールを課すと長続きしないため、「これならできそう」と思えるものから始めるのが成功のコツです。
ルールの具体例を以下の表にまとめました。
| ルールの区分 | 具体例 |
| 時間で区切る | ・寝る1時間前と、朝起きてすぐは触らない ・仕事や勉強中は、休憩時間だけ使うと決める |
| 場所で区切る | ・食事中や家族との会話中は、テーブルの上に置かない ・寝室やトイレにはスマートフォンを持ち込まない |
| 機能で制限する | ・緊急性の低いアプリの通知はオフにする ・画面を白黒表示にして、視覚的な刺激を減らす |
こうした小さな工夫を積み重ねることが、脳を休ませる時間をつくることにつながります。
情報収集にスマートフォンを使わない
スマホ認知症の疑いがある場合は、わからないことをすぐに検索する習慣を見直しましょう。意識的にスマートフォン以外の方法で情報を得たり、考える時間をつくったりすることが大切です。
スマートフォンの検索機能は便利であるものの、頼りすぎると脳の記憶・思考の機会が失われてしまいます。あえて少し手間をかけることで、脳の機能を活性化させられる可能性があります。
例えば、外出時に地図アプリに頼り切らず、駅の案内板や周囲の建物を頼りに目的地まで歩いてみましょう。知らない言葉は、辞書や書籍で調べてみることも一つの選択肢です。情報収集を新聞やテレビからも得るようにすることもおすすめです。
コミュニケーションの一環として、わからないことは、まず家族や友人に質問してみるのも良いでしょう。特に、人と直接会話して情報を得ることは、認知症予防に重要とされる「人との交流」にもつながり、脳にとって良い刺激となります。(※6:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター:「認知症の予防」)
デジタルデトックスを実施する
定期的にスマートフォンから意識的に離れる「デジタルデトックス」の時間を設け、情報過多で疲れた脳を休ませましょう。常に大量の情報にさらされている私たちの脳をリフレッシュさせるには、何もしない時間やぼんやりする時間が重要です。
デジタルデトックスを始める際は、まずは「帰宅後30分間はスマホを触らない」など、短い時間から試してください。「週末の午前中はスマホの電源を切る」など、曜日でルールを決めることも1つの手段です。
勉強中や入浴中は、スマートフォンを別の部屋に置いておくのも良いでしょう。SNSやニュースアプリの通知を切り、自分が見たいときだけ情報を取りにいくなどがおすすめの方法です。
代替活動を導入する
スマートフォンをつい触ってしまう時間を、脳や身体にとってプラスになる代替活動に置き換えましょう。スマホを見たい気持ちを我慢するのではなく、代わりとなる別の楽しい活動を見つけることが、依存状態から抜け出すための鍵となります。
おすすめの代替活動は、以下のとおりです。
| 主な項目 | 具体例 |
| 身体を動かす活動 | ・近所を散歩する ・軽いストレッチやヨガをする ・部屋の掃除や片付けをする |
| 頭を使う活動 | ・本や雑誌を読む ・日記や手紙を書く ・料理や楽器の練習をする |
| リラックスする活動 | ・音楽を聴く、湯船にゆっくり浸かる ・家族やペットと触れ合う |
スマートフォンから離れて身体を動かしたり、人と交流したりする時間は、心身の健康にとって良いと考えられています。
スマホ認知症に関するよくある質問(FAQ)
Q.スマホ認知症は本当の認知症になりますか?
A.スマホ認知症が直接的に病気の認知症に進行するわけではありません。スマホ認知症は脳の疲労による一時的な機能低下であり、スマートフォンの使用を控えることで改善が期待できます。
Q.スマホ認知症を治すには何日スマホを休めばいいですか?
A.脳の疲労回復には、まずは週末の1〜2日を利用したデジタルデトックスから始めるのが効果的です。完全に手放さなくても、就寝前1時間は使用しないなどのルールを数週間継続することで症状の改善が見込めます。
まとめ
スマホ認知症は、スマートフォンの使いすぎによる脳疲労が原因で起こる状態であり、生活習慣の見直しで改善が期待できます。
情報過多やブルーライトは脳の働きを鈍らせ、記憶力や集中力の低下を招くことがあります。まずはご自身の使い方を把握し、意識的に距離を置く時間をつくることが、脳を休ませる第一歩です。
ただし、セルフケアを試しても症状が改善しない、日常生活に支障が出ている場合は、単なるスマホ疲れではない可能性も考えられます。気になる症状が続くようなら、かかりつけ医などの医療機関に相談してみましょう。
