最終医学的確認日:2026年8月
劇症型溶連菌感染症は、発症から短時間で全身状態が急激に悪化する、進行の速い重篤な感染症です。2024年には国内で過去最多の患者数が報告され、その後も注意が必要な状況が続いています。「人食いバクテリア」の俗称で知られるこの病気について、正しい知識を身につけ、万が一のサインを早期に察知することが、あなた自身と大切な人を守ることにつながります。
本記事では劇症型溶連菌感染症(STSS)について、初期症状の見分け方から感染経路、緊急時の対応手順まで専門的知見に基づき解説します。
この記事でわかること
- 劇症型溶連菌(STSS)の基礎知識と致死率・原因菌
- 初期症状から重症化までの5つの警戒サイン(手足の激痛・高熱・壊死等)
- 主な3つの感染経路(傷口・飛沫・接触)
- 疑わしい場合の緊急対処法と医療機関での治療内容
- 日常で実践できる4つの予防策
劇症型溶連菌とは溶血性レンサ球菌による重症感染症
劇症型溶連菌感染症(STSS)は、通常は喉の痛みなどを引き起こす「溶血性レンサ球菌(溶連菌)」が、本来は細菌が存在しない血液や深部組織へ侵入することで発症する重篤な感染症です。
「溶連菌」と聞くと、子どもの喉の痛みを起こす「溶連菌咽頭炎」を思い浮かべる方が多いかもしれません。劇症型溶連菌感染症は、溶連菌咽頭炎とは異なる病態です。原因となる菌にはA群、B群、G群などがあり、これらが体内で急激に増殖して強い毒素を放出することで、ショック状態や多臓器障害を引き起こします。
この毒素によって筋肉や皮膚の組織が急激に壊死していく様子から、「人食いバクテリア」という恐ろしい俗称で呼ばれるようになりました。
発症からの進行は速く、数十時間のうちに血圧低下するショック状態や多臓器不全に陥ります。国立健康危機管理研究機構によると、発症後の致死率は約30〜40%と非常に高く、きわめて迅速な初期対応が求められる感染症です(※1)。
近年、世界的に患者数が増加しており、日本でも2024年に過去最多の患者数が報告されました。背景には、従来の菌より毒素を産生する力が強い「M1UK系統」などの変異型が、世界的に広がっていることがあると考えられています(※1、※2)。
なお、STSSは全年齢で発症する可能性があります。全体としては高齢者に多い傾向がありますが、A群溶連菌による症例では比較的若い年代でも発症することがあるため、年齢を問わず注意が必要です。
劇症型溶連菌感染症は時間との勝負です。初期症状を見逃さず、一刻も早く治療を始めることが救命率の向上や早期回復につながります。
通常ののどの痛みで始まる溶連菌感染症の症状や治療、家庭での対策については、関連記事「溶連菌とは?」もあわせてご覧ください。
劇症型溶連菌の主な症状
劇症型溶連菌は、初期には風邪や筋肉痛に似た症状から始まり、数十時間単位でショック状態や組織壊死へ進行するのが特徴です。
①手足の激しい痛み・急激な腫れ(ケガの程度に見合わない異常な激痛)
②突然の高熱・悪寒(38℃以上の発熱と激しい体の震え)
③急激な血圧低下(めまい・意識障害を伴うショック状態)
④皮膚・筋肉組織の壊死(紫斑・水ぶくれを伴う壊死性筋膜炎)
⑤多臓器不全(腎不全・肝不全・呼吸不全への進行)
①手足の激しい痛み・急激な腫れ(ケガの程度に見合わない異常な激痛)
ケガをした覚えがない、または小さな傷しかないのに、打撲や筋肉痛とは比べものにならない激しい痛みが手足に生じます。 劇症型溶連菌感染症の警戒すべきサインです。
痛みは、細菌が侵入した部位で急激に増殖し、毒素を産生するために起こります。(※4)
最初は虫刺されのような小さな赤みでも、数時間のうちに腕や足全体が腫れ上がることが少なくありません。見た目の変化以上に、耐えがたい激痛を伴うのが特徴です。
異常な痛みや腫れに気づいたら、様子を見ずに医療機関を受診しましょう。
②突然の高熱・悪寒(38℃以上の発熱と激しい体の震え)
突然の高熱や、体が震えるほどの悪寒も、劇症型溶連菌感染症の初期に現れるサインです。
全身のだるさや筋肉痛を伴うため、インフルエンザとよく似ています。手足の激しい痛みが同時にある場合は、劇症型溶連菌感染症の可能性を疑いましょう。
複数の症状が重なっていないか、注意深く観察することが大切です。「ただの風邪だろう」と自己判断で様子を見ず、早期に医療機関へ相談しましょう。
③急激な血圧低下(めまい・意識障害を伴うショック状態)
細菌が産生する毒素が全身に回ると、血圧が急激に低下し、生命に危険が及ぶ「ショック状態」に陥ることがあります。
毒素の作用で血管が広がり、血圧を保てなくなるため、脳や臓器に十分な血液が届かなくなります。
ショック状態のサインは以下のとおりです。
- めまい、ふらつき
- 意識がぼんやりする
- 脈が速く弱くなる
- 皮膚が青白く冷たくなる
これらのサインは敗血症などほかの重い感染症と見分けにくく、診断が遅れやすいことが指摘されています(※3)。急速に悪化する危険な兆候のため、ためらわず救急車(119番)を呼びましょう。
④皮膚・筋肉組織の壊死(紫斑・水ぶくれを伴う壊死性筋膜炎)
劇症型溶連菌感染症が「人食いバクテリア」と呼ばれるのは、組織の壊死が理由です。
細菌が侵入した皮膚や筋肉、その下の脂肪組織は、強い毒素によって急激に壊死します。壊死が筋肉を包む膜まで及んだ状態を「壊死性筋膜炎」と呼びます。
皮膚は紫色や黒色に変色し、強い痛みを伴う水ぶくれができることもあります。
壊死まで進行すると、抗菌薬だけでは細菌の増殖を止められません。毒素を生み出し続ける壊死組織を、緊急手術で取り除く必要があります。
⑤多臓器不全(腎不全・肝不全・呼吸不全への進行)
血圧低下が続くと、全身の強い炎症反応により、生命維持を担う複数の臓器が次々と機能しなくなる「多臓器不全」に陥ります。
多臓器不全で起こる主な臓器障害は以下のとおりです。
| 臓器障害 | 体に起こる変化 |
|---|---|
| 腎不全 | 尿が出にくくなり、体内に老廃物が溜まる |
| 肝不全 | 意識障害や出血傾向が現れる |
| 呼吸不全 | 肺に水が溜まり、呼吸が苦しくなる |
多臓器不全は命に関わる最終段階です。回復には早期の診断と、集中治療室(ICU)での治療が欠かせません。
劇症型溶連菌の主な感染経路
劇症型溶連菌の原因となるA群溶血性レンサ球菌は、健康な人の喉や皮膚にもいる、珍しくない細菌です。体の抵抗力が落ちたときや傷ができたときに深い組織へ侵入すると、爆発的に増殖して劇症化することがあります。主な感染経路は以下の3つです。
①傷口からの感染
②飛沫感染
③接触感染
①傷口からの感染
傷口からの感染は、皮膚のバリア機能が破れた部分から細菌が直接入り込むため、警戒したい感染経路です。細菌が血流や筋肉などの深い組織に到達しやすく、症状が急速に進みます。
感染の入り口になりやすい主な皮膚の傷や疾患は以下のとおりです。
- 日常生活で生じた切り傷や擦り傷から細菌が深部に侵入します。
- 靴擦れによって皮膚のバリア機能が壊れた部分から感染します。
- 虫刺されを掻き壊した痕の小さな傷口から菌が入り込みます。
- 水虫によってジュクジュクしたり亀裂が入ったりした皮膚から侵入します。
- とびひ(伝染性膿痂疹)の病変部から感染が広がるケースがあります。
- 手術後の傷口の衛生管理が不十分な場合に感染リスクが高まります。
「このくらいの傷なら」と軽く考えず、傷ができたらすぐに流水で洗い、清潔に保ちます。
| 傷の種類・状態 | 観察すべき危険なサイン |
|---|---|
| 靴擦れ・虫刺されの掻き壊し | 傷の小ささに見合わない強い痛み、急速な赤み |
| 切り傷・擦り傷・火傷 | 傷の周りの強い熱感、数時間単位での腫れの広がり |
| 水虫(白癬菌)による皮膚の亀裂 | 足全体の激しい痛み、水ぶくれ(水疱)の出現 |
| 目立つ傷がない場合 | 理由のない手足の激痛、押したときの著しい痛み |
傷の周りが赤く腫れる、見た目以上に激しく痛む、熱を持つなどの異変があれば、直ちに医療機関を受診しましょう。
②飛沫感染
飛沫感染は、感染している人の咳やくしゃみに含まれる細菌を、周囲の人が吸い込むことで起こります。
通常は喉の痛み(咽頭炎)で済みますが、まれに菌が血流に入り込み、劇症型溶連菌感染症へ移行することがあります。
毒性の強いタイプの菌に感染した場合は、劇症化しやすい傾向があります。人が集まる場所でのマスク着用や咳エチケットで、自分と周りの人を守りましょう。
③接触感染
接触感染は、細菌が付着した手で口や鼻、目などの粘膜に触れ、体内に菌を取り込むことで起こります。
感染者が咳やくしゃみを手で押さえた後、その手で触れたドアノブやつり革、スイッチなどには、目に見えない細菌が付着している可能性があります。ほかの人が触れると手に菌が移り、無意識に顔を触ることで感染が成立します。
接触感染を防ぐ有効な手段は手洗いです。外出後や食事前、トイレの後など、こまめに石けんと流水で丁寧に手を洗いましょう。
劇症型溶連菌が疑われるときの対処法と治療方法
劇症型溶連菌感染症は、発症から数十時間で命を脅かす状態に陥ります。疑わしいサインに気づいたら自己判断で様子を見ず、直ちに医療機関を受診しましょう。受診後に行われる治療も含め、主な対処法と治療方法は以下の3つです。
①直ちに救急車を呼ぶ・救急外来を受診する
②抗菌薬による治療
③外科的処置(壊死組織の除去)
①直ちに救急車を呼ぶ・救急外来を受診する
劇症型溶連菌感染症が疑われる場合、数時間の遅れが命取りになります。以下のサインがある場合、特に手足の激しい痛みと高熱など複数のサインが重なる場合は、夜間・休日を問わず直ちに救急車(119番)を呼ぶか救急外来を受診してください。
| 症状の分類 | 観察される具体的な危険サイン | 受診優先度 |
|---|---|---|
| 局所症状 | ケガの程度に見合わない手足の激痛、急速に広がる赤み・腫れ | 即時救急要請(119番) |
| 全身症状 | 突然の38℃以上の高熱、体が激しく震える悪寒 | 手足の激痛を伴う場合は即時救急受診 |
| 神経症状 | 意識がぼんやりする、呼びかけへの反応が鈍い、せん妄(興奮や混乱) | 即時救急要請(119番) |
| 循環・呼吸 | 呼吸困難、脈拍の異常な増加、血圧低下によるめまい | 即時救急要請(119番) |
※判断に迷う場合は、救急安心センター事業(#7119)へ直ちに電話相談してください。
②抗菌薬による治療
治療の基本は、溶血性レンサ球菌に有効な抗菌薬を、一刻も早く点滴で投与することです。ショック状態では消化管の動きが悪く飲み薬が十分に吸収されないため、点滴で確実に薬剤を全身へ届けます。
治療の柱となる抗菌薬は以下のとおりです。
| 種類 | 代表的な薬剤 | 目的 |
|---|---|---|
| 殺菌をねらう抗菌薬 | ペニシリン系 | 細菌そのものを死滅させる |
| 毒素の産生を抑える抗菌薬 | クリンダマイシン | 毒素を作る働きを抑える |
血圧低下や多臓器不全を引き起こすのは、細菌が産生する毒素です。そのため、早期に診断し、クリンダマイシンなどの併用につなげることが求められます。(※3)抗菌薬治療と並行して、血圧を維持する輸液などの集中治療が、集中治療室(ICU)で行われます。
③外科的処置(壊死組織の除去)
抗菌薬だけでは進行を止められない場合や、すでに組織の壊死が進んでいる場合は、緊急手術で壊死組織を取り除く「デブリードマン」が必要です。
壊死した組織は血流が途絶えているため、点滴で投与した抗菌薬が届きません。壊死組織は細菌の増殖と毒素産生の供給源となり、全身状態をさらに悪化させます。
悪循環を断ち切るため、デブリードマンはできるだけ早く行われます。感染の範囲によっては、手足の切断という重い決断が必要になることもありますが、さらなる感染拡大を防ぎ、命を救うために欠かせない治療です。
溶連菌の感染に気づかず放置した場合に起こりうる合併症や、受診を急ぐべきサインは、関連記事「溶連菌を放置するとどうなる?」もあわせてご覧ください。
劇症型溶連菌を予防する方法
劇症型溶連菌感染症には有効なワクチンがないため、日々の基本的な感染対策が身を守る手段になります。主な予防方法は以下の4つです。
①手洗いを徹底する
②咳エチケットを守る
③傷口を清潔に保つ
④手指や身の回りを適切に消毒する
①手洗いを徹底する
手洗いは、手指に付着した細菌を洗い流し、接触感染を防ぐ基本です。
私たちは無意識のうちに、細菌が付着した物から手へ、手から口や鼻へと菌を運んでいます。石けんと流水による正しい手洗いを習慣にしましょう。
手洗いを徹底したいタイミングは以下のとおりです。
- 外出先から帰宅したとき
- 料理や食事の前後
- トイレの後
- 鼻をかんだ後、咳やくしゃみを手で押さえた後
- 傷口の手当てをする前後
洗い残しが多い指先や爪の間、親指の周り、手首も意識して、30秒ほどかけて丁寧に洗います。
②咳エチケットを守る
咳エチケットは、自分が持つ菌を周囲に広げないための配慮で、飛沫感染を防ぐうえで欠かせません。
溶連菌は健康な人の喉にも存在することがあり、咳やくしゃみで飛び散った飛沫を周りの人が吸い込むことで感染が広がります。毒性の強いタイプの菌が広がっている現状では、感染を広げない配慮が一層求められます。
咳やくしゃみが出るときの対応は以下の手順です。
- 不織布マスクを着用する
- マスクがなければ、ティッシュやハンカチで口と鼻を覆う
- とっさのときは、手のひらではなく袖や上着の内側で覆う
自分が気づかないうちに感染している可能性も考え、周りに感染を広げない行動を意識しましょう。
③傷口を清潔に保つ
皮膚の傷口は細菌が深部組織へ侵入する主要なルートです。小さな切り傷、靴擦れ、虫刺されの掻き壊しでも放置せず、すぐに手当をすることが重要です。
傷口の感染予防ステップ
- 流水洗浄:水道水などの清潔な水で傷口の汚れや雑菌をしっかり洗い流す
- 創部保護:清潔な絆創膏やガーゼで傷口を覆い、乾燥や汚れを防ぐ
- 状態観察:赤み・腫れ・痛みが急に強くなったら、すぐに医療機関を受診する
水虫や皮膚炎は皮膚のバリア機能を弱めるため、放置せず皮膚科で治療しておきましょう。
④手指や身の回りを適切に消毒する
石けんによる手洗いが基本ですが、水道がすぐに使えない場面では、アルコール手指消毒剤が接触感染のリスク低減に役立ちます。
アルコール手指消毒剤は、指先や指の間まで、乾くまで擦り込みます。
ドアノブやスイッチ、スマートフォンなど、手が頻繁に触れる場所を除菌シートで定期的に拭き取ることも、感染対策の強化につながります。
ご家族に体調不良の方がいる場合や感染症の流行期には、こうした対策を組み合わせて備えましょう。
まとめ
劇症型溶連菌感染症は、発症から短時間で命を脅かす、進行の速い病気です。
手足の激しい痛みや高熱などの初期症状から、数十時間でショック状態や多臓器不全に陥る可能性があります。有効なワクチンがないため、日頃からの手洗いや、傷口を清潔に保つ習慣が身を守る支えになります。
「経験したことのないような痛み」や急な腫れなど、少しでも疑わしい症状があれば、様子を見ずに速やかに医療機関を受診しましょう。
傷口から細菌が皮膚の深い部分に入り込む感染症に関連する記事はこちら⇒蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは?
劇症型溶連菌(STSS)に関するよくある質問(FAQ)
劇症型溶連菌の初期症状にはどのようなものがありますか?
初期には、特別なケガがないにもかかわらず手足に生じる激しい痛みや腫れ、突然の高熱や悪寒が現れます。風邪やインフルエンザに似ていますが、数十時間で急激に悪化するのが特徴です。
劇症型溶連菌は人から人へ感染しますか?
はい、感染者の咳やくしゃみによる飛沫感染や、菌が付着した手や物を介した接触感染で人から人へうつります。ただし、うつっても多くは咽頭炎などで済み、劇症化するのはまれです。傷口から深部へ侵入すると重症化しやすいため、手洗いと傷口を清潔に保つことが予防の基本です。
劇症型溶連菌が疑われる場合は何科を受診すべきですか?
手足の異常な痛みや高熱がある場合は、救急科または最寄りの救急外来を直ちに受診してください。夜間・休日であっても様子を見ず、救急車(119番)の利用も検討しましょう。




