最終医学的確認日:2026年10月
ご家族の「夕食を食べたこと自体を丸ごと忘れてしまう」といった不自然な物忘れに、「もしかして認知症では…」と不安を感じていませんか?アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も多く、その変化は症状が現れる10年以上も前から静かに始まると考えられています。
病気の全体像を正しく知ることは、漠然とした不安を和らげる第一歩です。ご本人とご家族がこれからどう向き合い、穏やかな日々を送るか、その具体的なヒントが見つかります。
この記事でわかること
- アルツハイマー型認知症の定義と「ただの物忘れ」との違い
- 【段階別】軽度〜重度までの症状の進行とサイン
- 発症のメカニズムと予防につながる生活習慣
- 新薬(レカネマブ等)を含む治療法と費用の目安
- 診断後のケア方法(BPSD対策)と介護者の負担軽減のコツ
- 経済的負担を減らす介護保険・公的支援制度の活用法
アルツハイマー型認知症とは?加齢による物忘れとの違い
アルツハイマー型認知症は、認知症を引き起こす原因の中で最も多い疾患で、脳の神経細胞が少しずつ壊れていくことで認知機能が低下する病気です。
年を重ねれば誰にでも起こりうる「物忘れ」とは異なり、病気のサインとしての物忘れは、体験した出来事そのものを丸ごと忘れてしまうなど、日常生活に支障をきたす点が大きな違いといえます。
症状はゆっくりと進行するため、ご本人も周囲も変化に気づきにくいことがあります。早い段階で適切な対応を始めることが、その後の生活の質を保つうえで大切だと考えられています。

「ただの物忘れ」と「病気のサイン」を見分けるポイント
加齢による自然な物忘れと、アルツハイマー型認知症の初期症状として現れる物忘れには、いくつかの特徴的な違いがあります。ご自身やご家族の様子を振り返る際の目安として、以下の点を参考にしてみてください。
| 項目 | 加齢による物忘れ(生理的なもの) | アルツハイマー型認知症のサイン(病的なもの) |
|---|---|---|
| 忘れる内容 | ・体験の一部を忘れる (例:夕食のおかずは忘れたが、食べたことは覚えている) | ・体験の全体を忘れる (例:夕食を食べたこと自体を忘れてしまう) |
| 思い出すきっかけ | ・ヒントがあれば思い出せる | ・ヒントをもらっても思い出しにくい |
| 本人の自覚 | ・物忘れをしたという自覚がある | ・忘れたこと自体の自覚が乏しい、または全くない |
| 日常生活への影響 | ・ほとんど支障はない | ・約束を忘れる、探し物が増えるなど支障が出てくる |
| 進行 | ・年齢相応で、進行は緩やか | ・時間とともに症状が目立つようになる |
ただし、これはあくまで一般的な傾向です。物忘れの背景には、脳の神経細胞が病的に変化している可能性も考えられます。気になるサインがあれば、ご自身で判断せずに専門の医療機関へご相談ください。
他の認知症(レビー小体型・血管性)との特徴の違い
アルツハイマー型認知症は記憶障害が目立ちやすいですが、他の主な認知症である「レビー小体型認知症」や「血管性認知症」とは、原因や現れる症状が異なります。代表的な3つの認知症の主な違いを、下表に整理します。
| 項目 | アルツハイマー型認知症 | レビー小体型認知症 | 血管性認知症 |
|---|---|---|---|
| 主な原因 | 脳内にアミロイドβとタウという2つの異常タンパク質が蓄積すること | 脳内に特定のタンパク質が異常蓄積してできる「レビー小体」 | 脳梗塞や脳出血などの脳血管エピソード |
| 初期の主な症状 | ・物忘れ(記憶障害) | ・リアルな幻視(「部屋に人がいる」など) ・パーキンソン症状(動作が遅くなる、手が震えるなど) | ・意欲の低下 ・感情のコントロールが難しい |
| 特徴的な症状 | ・緩やかに進行する ・見当識障害(時間や場所がわからなくなる) | ・症状が良い時と悪い時を繰り返す(認知機能の変動) ・睡眠中に大声を出したり暴れたりする(レム睡眠行動異常症) | ・脳卒中などをきっかけに段階的に悪化する ・できることとできないことがはっきりしている(まだら認知症) |
このように、認知症は種類によって特徴が大きく異なるため、専門医による正確な診断が欠かせません。
生活習慣を含め、さまざまな角度から状態を評価し、適切な治療やケアの方針を立てることが重要です。
認知症の種類ごとの特徴や全体像を確認したい場合は、関連記事「認知症とは?」もあわせてご覧ください。
【段階別】軽度から重度までの症状の進行
アルツハイマー型認知症の症状は、ある日突然現れるのではなく、多くの場合10年以上の長い年月をかけてゆっくりと進んでいきます。
ただし、症状の現れ方や進行のスピードは一人ひとり異なり、ここで紹介する段階はあくまで一般的な目安です。病状の経過は大きく「軽度」「中等度」「重度」の3つの段階に分けられ、それぞれの段階でご本人やご家族に求められる対応も変わってきます。

軽度の症状 – こんなサインに気づいたら要注意
軽度の段階では、主に物忘れ(記憶障害)から始まりますが、ごく身近な人でも「年のせいかな?」と見過ごしてしまいがちな変化が多いのが特徴です。加齢による自然な物忘れと異なり、体験したこと自体を忘れてしまう点が病気のサインといえます。以下のような変化に気づいたら、注意が必要です。
- 最近の出来事を忘れる:数時間前や前日の出来事、交わした約束などを、体験したこと自体すっぽりと忘れてしまう
- 同じことを何度も話す・聞く:食事を終えたばかりなのに「ご飯はまだ?」と尋ねる
- 置き忘れやしまい忘れが増える:財布や鍵などを置いた場所を忘れ、いつも探し物をしている
- 時間や場所がわからなくなる(見当識障害):今日が何月何日か、今がどの季節かわからなくなる
- 意欲の低下:これまで熱心だった趣味や日課に関心を示さなくなる
初期のサインをチェックリストで確かめたい場合は、関連記事「認知症の初期症状とチェックリスト」もあわせてご覧ください。
中等度の症状 – 生活に支障が出始める変化
中等度になると記憶障害がさらに進み、日常生活のさまざまな場面でご家族など周囲のサポートが必要になってきます。
- 日常生活での介助が必要になる:実行機能が低下し、服を季節に合わせて選ぶ、手順通りに着替えることが難しくなる(着衣失行)
- 金銭や薬の管理ができない:買い物の計算を間違えたり、薬を飲み忘れたり飲み過ぎたりする
- 道に迷う:よく知っているはずの場所でも帰り道がわからなくなり、一人での外出が難しくなる
- 行動・心理症状(BPSD):目的もなく歩き回る(徘徊)、物盗られ妄想、急に怒りっぽくなるといった言動が見られる
*ただし、BPSDは認知症が軽度の段階でも認めることがあります。
この時期はご本人の安全を守るとともに、高血圧をはじめとした生活習慣病の管理を続けることも、症状の進行を緩やかにするために大切です。全身の状態を良好に保つことが脳の健康維持にもつながるといえます。
重度の症状 – 全面的な介護が必要になる状態
重度になると、認知機能の低下が身体機能にも影響を及ぼし、日常生活における多くの場面で介護が必要な状態となります。
- コミュニケーションが困難になる:言葉を発することが極端に少なくなる。ただし感情や感覚は残っていると考えられている
- 身体機能が低下する:筋力低下や関節の拘縮が進行することにより、最終的には、寝たきりの状態になってしまう
- 食事や排泄に介助が必要になる:食べ物を認識できなくなったり、うまく飲み込めなくなったりする(嚥下障害)
この段階では、病気の進行を止めることよりも、ご本人が身体的な苦痛なく、穏やかに過ごせるようなケア(認知症ケア)が中心となります。
言葉での意思疎通は難しくなりますが、ご本人の表情や声のトーン、仕草などから気持ちをくみ取り、安心できる環境を整えることが大切です。特に、嚥下障害は食べ物や唾液が誤って気管に入り肺炎を起こす「誤嚥性肺炎」のリスクを高めるため、食事の形態を工夫するなど専門的なケアやリハビリテーションが重要になります。
アルツハイマー型認知症の原因と予防の可能性
アルツハイマー型認知症の主な原因は異常タンパク質の蓄積であり、生活習慣病の管理等で発症リスクの低減が可能です。完全な予防法は未確立ですが、日々の運動や食事、血圧管理などの見直しが脳の健康維持に役立つことが複数の研究で示されています。
病気のメカニズムと遺伝との関連性
アルツハイマー型認知症の脳の中では、「アミロイドβ」と「タウ」という2種類の異常なタンパク質が、症状が現れる15〜20年も前から静かに蓄積し始めると考えられています。
- アミロイドβ(Aβ):本来は脳から排出されるはずの老廃物の一種。うまく排出されずに脳に溜まると「老人斑」と呼ばれる塊を作り、神経細胞にダメージを与える
- タウ:神経細胞の骨格を支えるタンパク質。異常な形に変化すると神経細胞を内側から破壊し、情報の伝達を妨げる
これらの変化が長年にわたって続くことで、神経細胞が失われ、脳が少しずつ萎縮して認知機能の低下につながると考えられています。
また、特定の遺伝子(APOE4:アポリポ蛋白E4型など)を持つ方は、持たない方と比べて発症のリスクが高まることが知られています。これは「発症しやすさ」に関わるものであり、この遺伝子があれば必ず発症するというわけではありません。遺伝が直接の原因となる若年性の「家族性アルツハイマー病」は、全体の1%未満とごくわずかです。
今日から始められる予防につながる生活習慣
発症を完全に食い止める方法はまだ確立されていませんが、リスクを減らすために今日から取り組める生活習慣が、世界中の研究で明らかになってきています。これらは、アルツハイマー型認知症だけでなく、さまざまな生活習慣病の予防にもつながる健康的な習慣です。
- 生活習慣病をしっかり管理する:脳の健康は全身の健康と密接に関係している。糖尿病や脂質異常症、肥満などがある場合は、医師の指導のもとで適切に治療や予防をおこなう
- 知的好奇心と人との交流を大切にする:新しいことを学ぶ、趣味に没頭する、友人や家族と会話を楽しむことは脳の良い刺激になる
- 夜は暗くして、睡眠休養感を高める:就寝1〜2時間前からはスマートフォンの使用を控え、寝室の明かりを消して心身をリラックスさせる
- 運動:ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行う
- 食事:野菜や果物、魚などをバランス良く摂る
- 禁煙・節度ある飲酒:喫煙はリスクを高めるため禁煙を、飲酒は適量を心がける
- 聴力の維持:難聴は認知機能低下と関連があるため、必要に応じて補聴器を使用する
特に、治療を受けていない高血圧は、血圧が正常な方と比べてアルツハイマー型認知症を発症するリスクが約36%高まるという報告があります。(※1)血圧の管理は脳を守ることにもつながると考えられます。
また、生涯にわたって二つ以上の言語を使いこなす人は、そうでない人と比べて認知症の症状が現れるのが平均で3.45年ほど遅れる可能性があるという研究結果があります。(※3)これは、脳を積極的に使うことで「認知予備能(脳の予備能力)」が高まるためと考えられています。
質の良い睡眠は、脳の老廃物を洗い流すための大切な時間です。最近の研究では、夜間に強い人工照明を浴び続ける生活が、軽度認知障害から認知症への進行リスクを高める可能性が指摘されています。(※2)
これらの生活習慣は、あくまで発症リスクをできるだけ下げるための取り組みです。効果を保証するものではありません。ご自身の健康状態で気になることがあれば、まずはかかりつけ医や専門の医療機関に相談することが大切です。
年代ごとに取り組みたい予防の工夫は、関連記事「認知症を予防する7つの生活習慣」もあわせてご覧ください。
診断から治療までの流れと費用
アルツハイマー型認知症の診断は問診や画像検査等で行い、薬物療法とケアへ進みます。基本的な検査は3割負担で数千円〜1万円程度ですが、バイオマーカー検査は別途数万円かかることがあります。ご自身やご家族に気になる変化がある場合は、まずはかかりつけ医やもの忘れ外来を受診し、適切な検査と治療方針の決定につなげることが重要です。

何科を受診すべき?専門の診療科と受診のタイミング
「もの忘れ」が気になり始めたら、まずは身近なかかりつけ医に相談するか、認知症を専門とする医療機関(もの忘れ外来など)を受診することが第一歩です。どの科を受診すればよいか迷う場合は、まず普段から通院しているかかりつけ医に相談し、適切な専門医を紹介してもらうのがスムーズな方法といえます。
- 脳神経内科:MRIなどの画像検査を用いて、脳神経内科的なアプローチをおこなう
- 精神科:気分の落ち込みや不安、幻覚といった心の症状や行動の変化が強い場合に対応する
- もの忘れ外来:認知症を総合的に診るための専門窓口
大切なのは、「ただの物忘れかな?」と自己判断せず、できるだけ早い段階で専門家につながることです。早期に相談することで、治療によって改善が期待できる他の病気(正常圧水頭症や甲状腺機能低下症など)との見極めも可能になります。
日頃から継続的な医療との関わりを持ち、心身の健康を支える意味でも、気になる変化があれば、まずは通い慣れたかかりつけ医に相談してみることが大切だといえるでしょう。
診断に必要な検査内容(画像・血液検査など)と費用の目安
アルツハイマー型認知症の診断は、一つの検査だけで決まるものではなく、問診、認知機能検査、画像検査などを組み合わせて総合的に判断されます。近年では、より正確な診断のために、病気の原因物質の蓄積を調べる「バイオマーカー検査」の重要性が指摘されています。(※4)
診断のために行われる主な検査と、その目的や費用の目安は以下のとおりです。
| 検査の種類 | 検査の目的と内容 | 費用の目安(3割負担) |
|---|---|---|
| 問診・認知機能検査 | 生活上の困りごとや記憶力・判断力の状態を客観的に評価する ・普段の様子を聞き取り、簡単な質問や課題で評価する | 数千円程度 |
| 血液検査 | 認知症と似た症状を起こす他の病気がないか調べる ・甲状腺機能の異常やビタミン不足などを確認する | 数千円程度 |
| 頭部CT/MRI検査 | 脳の器質性疾患の有無を画像で確認する ・脳の萎縮の程度や、脳梗塞、脳腫瘍などがないかを見る | 5,000円〜10,000円程度 |
| 脳脊髄液検査 | 原因物質の蓄積を調べる(バイオマーカー検査) ・腰から細い針を刺し、脳脊髄液中のアミロイドβやタウの量を測定する | アミロイドβ42/40比(髄液)は1,282点。検査料のみでは12,820円で、3割負担の場合は約3,850円。別途、診察・処置等の費用がかかる場合があります(※7) |
| アミロイドPET検査 | 脳への原因物質の蓄積を画像で確認する(バイオマーカー検査) ・アミロイドβに結合する特殊な薬を注射し、脳への蓄積を画像化する | 3割負担で約4万〜7.5万円程度(薬剤料を含む。施設により異なる)(※8) |
※費用はあくまで目安であり、医療機関や検査の詳しい内容によって異なります。
※アミロイドPET検査は、誰もが受ける標準的な検査ではありません。診断が難しいケースや若くして発症した場合など、専門医が必要と判断した際に検討されることがあります。(※4)
薬物療法と非薬物療法の種類と効果
アルツハイマー型認知症の治療は、病気の進行を緩やかにする「薬物療法」と、心身の機能を維持し生活の質(QOL)を高める「非薬物療法」を組み合わせて進めます。
現在使われている主な治療薬は、症状の進行を遅らせることを目的とした対症療法です。病気を根本的に治すものではありませんが、ご本人が自分らしく過ごせる時間を少しでも長く保つことを目指します。
| 薬剤の種類 | 主な薬剤名 | 期待される効果と使われる段階 |
|---|---|---|
| コリンエステラーゼ阻害薬 | ・ドネペジル ・ガランタミン ・リバスチグミン | 脳内の情報伝達を助け、記憶障害など認知機能の低下の進行を緩やかにすることが期待される(軽度〜高度) |
| NMDA受容体拮抗薬 | ・メマンチン | 神経細胞が過剰に興奮するのを抑え、興奮や攻撃性といった症状を和らげたり、認知機能の低下の進行を緩やかにしたりすることが期待される(中等度〜高度) |
薬を使わないアプローチも、穏やかな生活を送るうえで重要です。
- リハビリテーション:運動療法や作業療法、言語療法などを通して、身体機能や日常生活を送るための能力の維持・向上を目指す
- 認知刺激療法:回想法、音楽療法、園芸療法など、五感を使い脳を心地よく活性化させることで、精神的な安定や意欲の向上を図る
- 環境調整:生活空間をシンプルにしたり危険なものを片付けたりして、安全で落ち着いて過ごせる環境を整える
新薬「レカネマブ」「ドナネマブ」の対象者、効果、費用まとめ
2023年以降に国内承認された新薬「レカネマブ」「ドナネマブ」は、アルツハイマー病の原因物質の一つと考えられている「アミロイドβ」に直接働きかける「疾患修飾薬」です。脳内に蓄積したアミロイドβを除去することで、アルツハイマー病による認知機能低下の進行を遅らせる効果が期待されています。
投与には厳格な条件があり、概要は以下の通りです。
- 対象者:アルツハイマー型認知症による「軽度認知障害(MCI)」または「軽度の認知症」と診断された方(※中等度以上は対象外)
- 主な効果:病気の進行を緩やかにすることが期待される(※失われた認知機能を回復させるものではない)
- 投与方法:定期的な点滴投与(レカネマブは2週間に1回、ドナネマブは4週間に1回など)
- 注意すべき副作用:アミロイド関連画像異常(ARIA)と呼ばれる脳のむくみやごく小さな出血が起こる可能性がある。治療中は定期的なMRI検査による経過観察が必要とされる
費用の目安:レケンビの薬剤費は、体重50kgの場合で年間約250万円。レケンビは公的医療保険の対象で、高額療養費制度も利用できます。そのため、実際の自己負担額は薬剤費そのものより低くなります。例えば70歳未満・年収約370万〜770万円の場合、2026年8月以降の1か月の自己負担上限は85,800円+一定額です。実際の負担額は、年齢や所得などによって異なります。(※9)(※10)
この治療は、副作用に対応できる専門的な体制が整った医療機関でのみ受けられます。ご自身が対象になるかどうかは、まずは主治医とよく相談することが大切です。
新薬の対象条件や投与の流れをさらに詳しく知りたい場合は、関連記事「認知症の新薬」もあわせてご覧ください。
ご本人・ご家族が知っておきたい介護と生活の知恵
アルツハイマー型認知症の介護は、ご本人とご家族がひとつのチームとなり、長い道のりを共に歩むプロセスです。
ご本人の尊厳を守りながら、ご家族が無理なくサポートを続けるためには、病気を正しく理解し、日々の生活の中に「認知症ケアの工夫」を取り入れることが大切になります。ご家族だけで抱え込まず、利用できる社会の仕組みを上手に活用していきましょう。
診断後の告知 – 本人にどう伝えるべきか
診断をご本人に伝えるかどうかは、今後の人生をご本人がどう生きたいかという「自己決定権」を尊重するうえで、繊細で重要なテーマです。
告知は、ご本人がこれからの治療や生活設計に主体的に関わるための「スタートライン」になる側面があります。一方で、大きな精神的ショックを与えてしまう可能性も否定できません。そのため、画一的な正解はなく、ご本人の状態や性格に応じて慎重に判断する必要があります。
| 告知のメリット(プラスの側面) | 告知のデメリット(マイナスの側面) |
|---|---|
| ・今後の治療方針を自分で決められる ・財産管理や公的サービスの手続きなどを、自らの意思で進められる ・病気への理解が深まり、治療に前向きに取り組める可能性がある | ・大きな精神的ショックや絶望感につながる恐れがある ・「認知症」というレッテルにより、孤立感や不安を強めてしまう可能性がある |
「認知症」という言葉を使わず、「物忘れの症状を進みにくくするお薬を始めましょう」など、ご本人が受け入れやすい表現を選ぶのも一つの方法です。大切なのは、ご本人の性格やこれまでの生き方を一番よく知るご家族が、主治医という専門家と共に「その人にとって最善の道」を考え、ご本人の意志決定を支援していくことです。
BPSD(行動・心理症状)への具体的な対処法
BPSD(行動・心理症状)は、脳の機能低下によって生じる不安や混乱からくる「ご本人なりのSOSサイン」と捉え、行動そのものではなく、その背景にある感情に寄り添うことが対応の基本です。
記憶が曖昧になり、時間や場所がわからなくなることで、ご本人は常に心細さや不安の中にいます。その感情が、時に妄想や興奮、一人歩きといった形で現れると考えられています。頭ごなしに否定せず、まずはその行動の裏にある気持ちを想像してみましょう。
| 症状の例 | 背景にある気持ち(SOSのサイン) | 対応のヒント |
|---|---|---|
| 物盗られ妄想 「財布を盗られた!」 | 大切なものを失った不安と孤独感、誰かに気づいてほしい気持ち | ・まずは共感する:「それは大変ですね、心配ですよね」 ・行動を促す:「一緒に探しましょうか」 ・環境を調整する:見つけやすい定位置を作る |
| 一人歩き(徘徊) 目的もなく歩き回る | 「家に帰らなければ」という過去の役割意識、あるいは退屈や身体の不快感 | ・まずは安全を確保する ・目的を否定しない:「お仕事お疲れ様です。少しお茶でも飲んで休みませんか?」 ・気分転換をはかる:一緒に散歩に出るなど関心を別の方向へ向ける |
| 暴言・暴力 | 混乱や恐怖、プライドが傷ついたと感じた時、または痛みや便秘といった身体的な苦痛 | ・安全を確保する:まずは介護者がその場を離れ、距離を置く ・冷静になる:双方が落ち着く時間をとる ・原因を探る:落ち着いてから、身体の不調がなかったかを考える |
ご本人が安心して過ごせる活動や環境を整えることも、心の安定につながります。昔馴染みの家事や趣味など、ご自身が「できること」「得意なこと」に取り組む時間は、自尊心を保ち不安を和らげる効果が期待されます。
無理に新しいことを強いるのではなく、本人の生活歴や好みに寄り添い、家庭や地域の中で役割を感じられる機会を作ることが、BPSDの予防や軽減に役立ちます。
介護者の心身の負担を軽くするヒント
介護は終わりが見えない長期戦だからこそ、介護者ご自身の心と体の健康を守ることが、結果としてご本人にとっても安定したケアにつながります。「自分を犠牲にする」のではなく「自分も大切にする」介護を目指すために、以下のヒントを参考にしてください。
- 意識的に「介護休み」をとる:デイサービスやショートステイは、介護者が休息をとるための大切な「レスパイト(休息)ケア」でもある
- 一人で悩みを抱え込まない:地域包括支援センターやケアマネジャーは、介護に関するあらゆる相談ができる窓口となります
- 「完璧」を目指さない:「今日はここまでできれば十分」と、自分自身に優しくなることも介護を長く続けるための秘訣
介護者ご自身が、ご自身の健康管理や休息を後回しにしないことも忘れないでください。介護者が心身の不調を抱えてしまうと、 結果として適切なケアの継続が難しくなります。ご自身の定期健診やかかりつけ医への受診を欠かさないようにし、趣味や休息のための時間を確保するなど、介護から一時的に離れる時間を意識的に設けることが大切です。
経済的な負担を軽減する公的制度の活用法
アルツハイマー型認知症の治療や介護が長期にわたる中で、経済的な不安はご本人・ご家族にとって大きな重圧です。しかし、日本には以下のように自己負担を大幅に減らすための公的な仕組みが整っています。
【アルツハイマー型認知症で利用できる主な公的制度一覧】
- 介護保険制度:訪問介護やデイサービスなどを1〜3割負担で利用(40歳以上から対象)
- 高額療養費制度:医療費の自己負担が上限を超えた分、払い戻しを適用
- 自立支援医療(精神通院医療):精神科などの継続的な通院医療費が原則1割負担に軽減
- 精神障害者保健福祉手帳:税金の控除や公共料金・交通機関の割引を適用
- 障害年金:病気によって生活や仕事に支障が出た場合、年金を支給
- 成年後見制度:判断能力が低下したご本人の財産管理や契約行為を法的に保護
利用できる制度は個々の状況で異なるため、まずは「地域包括支援センター」や市区町村の担当窓口へ相談し、必要な手続きを進めましょう。
介護保険制度の申請方法と利用できるサービス
介護保険制度は、介護が必要になった方を社会全体で支えるための仕組みです。お住まいの市区町村に申請して「要介護(要支援)認定」を受けることで、さまざまな介護サービスを原則1〜3割の自己負担で利用できるようになります。申請からサービス利用開始までの大まかな流れは、以下のとおりです。
- 相談・申請:市区町村の介護保険担当窓口や地域包括支援センターに相談し、要介護認定の申請を行う。ご本人やご家族が申請できない場合は代行も可能
- 認定調査・主治医意見書:認定調査員が自宅などを訪問して心身の状態を聞き取り、並行して主治医が意見書を作成する
- 審査・認定:調査結果と主治医意見書をもとに、介護の必要度が「要支援1・2」または「要介護1〜5」の7段階で判定される
- ケアプラン作成・サービス利用開始:ケアマネジャーが面談し、希望を尊重しながらケアプランを作成する
認定区分に応じて利用できるサービスは多岐にわたりますが、代表的なものとして以下が挙げられます。
| サービスの種類 | 具体的な内容例 |
|---|---|
| 自宅で受ける (在宅サービス) | ・訪問介護(ホームヘルプ):食事や入浴、排泄などの介助 ・訪問看護:看護師による健康状態のチェックや医療的ケア ・訪問リハビリテーション:自宅でのリハビリ |
| 施設に通う (通所サービス) | ・デイサービス(通所介護):食事や入浴、レクリエーションなどを日帰りで提供 ・デイケア(通所リハビリ):医療機関などで専門的なリハビリを日帰りで提供 |
| 短期的に宿泊する | ・ショートステイ(短期入所):介護者の休息などの目的で短期間施設に宿泊 |
| 環境を整える | ・福祉用具のレンタル・購入:車いすや介護ベッドのレンタル、入浴用品などの購入費助成 ・住宅改修:手すりの設置や段差の解消など、自宅の改修費用の助成 |
なお、65歳未満の方でも、若年性アルツハイマー型認知症は介護保険の対象となる「特定疾病」に指定されているため、40歳以上であればこの制度を利用できます。
デイサービスなどを通じて社会とのつながりを保ち、専門家の支援を受け続けることは、ご本人の心身機能の維持や閉じこもり防止に大きく役立ちます。また、定期的に外部の介護スタッフが介入することで、体調や症状のわずかな変化にも早期に気づきやすくなるというメリットがあります。
医療費減免と権利擁護の制度(障害者手帳・自立支援医療・障害年金・成年後見制度)
介護保険以外にも、ご本人の生活の安定を図るための重要な福祉・権利擁護制度があります。特に、医療費負担を大幅に減らせる「自立支援医療」や、現金が支給される「障害年金」は見落とされがちなので必ず確認しましょう。
【各福祉制度の概要と主なメリット】
- 自立支援医療(精神通院医療):精神科への継続的な通院による医療費の自己負担を、原則3割から1割に軽減
- 精神障害者保健福祉手帳:税金の控除、公共料金や公共交通機関の割引を適用
- 障害年金:認知症によって生活や仕事が制限された場合、程度に応じた年金を支給
【判断能力の低下に備える成年後見制度】
預貯金の管理や介護サービスの契約など、ご自身での法律行為が難しくなった際に財産や権利を守る制度です。備えるタイミングにより以下の2種類に分かれます。
| 制度の種類 | 備えるタイミング | 特徴と内容 |
|---|---|---|
| 任意後見制度 | 判断能力が十分なうち(将来への備え) | 自らの意思で、将来後見人になってほしい人と任せる内容を公正証書で契約 |
| 法定後見制度 | すでに判断能力が不十分(現状のサポート) | ご本人や家族の申し立てにより、家庭裁判所が適切な後見人を選任 |
各制度の申請窓口や適用条件は異なります。どの制度が利用できるかについては、かかりつけ医や地域包括支援センター、市区町村の担当窓口へ早めに相談することが大切です。
まとめ:アルツハイマー型認知症と向き合うために
アルツハイマー型認知症は進行性の病気ですが、早期発見と適切な対応により、ご本人らしい穏やかな生活を長く保つことが期待できます。
【この記事の重要ポイントのおさらい】
- 初期サイン:加齢とは異なり「体験そのものを忘れる」のが特徴
- 治療の進歩:進行を遅らせる新薬(レカネマブ等)の選択肢も登場
- ケアの基本:BPSD(行動・心理症状)は否定せず、感情のSOSに寄り添う
- 経済的備え:介護保険や自立支援医療などの公的制度で負担軽減が可能
漠然とした不安を抱え込まず、具体的な備えを始めることが大切です。
【次にとるべき行動・相談窓口】 ご本人やご家族に気になる変化を感じたら、一人で悩まず、まずは以下の窓口へご相談ください。
- かかりつけ医(または脳神経内科・もの忘れ外来)
- お住まいの地域の「地域包括支援センター」
早めに専門家とつながることが、ご本人とご家族の未来を支える最大の安心につながります。
終わりの見えない介護による家族の心身の疲れに関連する記事はこちら⇒家族に疲れた症候群とは?




